1月末

少女「きゃ!」 潤「うわっ!」

コンビニで晩飯その他もろもろを買い込んで出るときに、小柄な女の子にぶつかって品物をぶちまけてしまった。

少女「あ、済みません、拾います」

潤「謝ることないよ、オレも不注意だった」

そう言ってお互いに品物を拾い出すが……。

少女「……!」

少女は、とある雑誌を取ろうとして硬直していた。

本来なら未成年への販売は許されない類のものだ。

だが、今日レジに立ってた店員さんは妙に物分りがよく、黙認してくれたのだった。

慌てて回収する。

少女「あ、あははは……」

潤「まあ、その、なんだ。オレは健康な青少年であるからして、こういう本の1冊や2冊……」

少女「健康……ですか……」

陰りを見せた少女が纏っていたストールには見覚えがあった。

潤「……あ」

少女「……?」

潤「君、前に学校の中庭で相沢と会ってなかったか?」

少女「祐一さんを知ってるんですか?」

潤「ああ、クラスメイトだ。君が中庭にいるのをオレが見つけて、何となく気になって相沢に教えてみたんだ」

少女「祐一さん、元気でいますか?」

潤「おう、元気だよ。それにクラスの女子で相沢のいとこがいて、水瀬ってんだけど、最近は相沢といい感じだな」

少女「そう、ですか……」

いったん明るさが戻った少女の顔は再び陰りを見せる。

潤「ありゃ、もしかして、君は相沢のことが…?」

少女「あ! その、あの」

潤「図星……か」

栞「前に祐一さんをデートに誘ったんですけど、病気をきちんと治してからのほうがいいって言われて…」

言われてみれば、少女の顔はそんなに血色の良いものではなかった。

中庭に来てた時も、病気で学校休んでたのに無理してたんだろうな。

潤「そっか、オレの何気ない行動が取り持つ恋…なんてことになれば面白かったんだが、コレばっかりは縁だからな」

少女「……」

潤「でもまぁ、これから女磨いて惚れ直させるって手もあるだろ」

少女「これから……」

少女の表情は更に落ち込む。俺、なにか無神経なことを言ってしまったんだろうか?

潤「君と水瀬と相沢の三角関係を見てみたいな。面白そうだ」

などと無責任にたきつけてみる。

少女「……そう、ですね」

そう言って少女はクスクスと笑った。

潤「どうしたんだ?」

少女「私にお姉ちゃんだけじゃなくお兄ちゃんもいたら、こんな感じかなって思ったんです」

悪戯っぽい笑みを浮かべる。

潤「お兄ちゃん……か。だったら君のお姉さんを紹介してくれないか?」

少女「……え?」

潤「君のお姉さんとオレが結婚すれば、めでたくオレは君のお兄ちゃんだ」

少女「あ、あはは……悪くないですね」

少女「考えておきます。では」

少女は俺の冗談に笑みを浮かべて、去っていった。少しは元気出たのかな。

俺の些細な冗談がきっかけで病弱な少女は闘病の気力を取り戻す……なんてのはマンガの見すぎか。

でも、何気ない行動が誰かの運命を大きく変えるってことはあるかも知れないな。

子悪魔的な笑みが印象的な子だった。

あ、どうせならあの子の名前、聞いておけばよかったな。

………。

……。

…。

結局、あの子が恋の争奪戦に参加することもなく、水瀬と相沢がこういう仲になって今に至る。

今日は2学期の中旬。

例年より早く初雪が降ったが、根雪にはならずにすぐに融けるだろう。

そして、美坂チームのうち相沢とはとある事情で駅前で別れ、残った面子で下校してたのだが……。

地元人にもかかわらず無様に雪に足を取られる。

そして、倒れる先には水瀬がいた。

          中の人

        作者 OLSON         原作 Key

激痛と共に暗転していた視界が回復すると、あまりにも安直な事態が発生していた。

突如、目の前に出現した見覚えのある男。

俺のお袋はハーフで、その遺伝で俺は金髪だった。中学時代は生徒指導の教師とよくもめていたっけ。

アニメキャラの髪型のごとく、ほうっておいたらハリネズミになりそうな剛毛。

その中でも特に癖が強く、結局はセットを諦めざるを得ない部分。

毎朝、鏡を前にそれらと格闘していたため見飽きた顔。

男「……」 潤「……」

お互いに顔を見合わせる。

その後、自らの体をまさぐった。

全体的に細く柔らかい体。同様に細い腕、そして、髪全体を引っ張られる感覚。

心なしかスースーする下半身、スカートである。どう見ても女子の制服だ。

その結果ある結論に達する。

男「えっと……北川君、なのかな?」

水瀬も同じ結論に達したらしい。

潤「ああ、ってことは、お前、水瀬か?」

水瀬「……うん」

美坂が怪訝な顔で俺たちを見ている。

小声で話してたため、俺と水瀬の会話は聞かれてなかったようだが、さてどうしたものか?

水瀬「あ、猫さんがいるよ……」

そんな俺の心配をよそに、俺な水瀬はうっとりとした声をあげた。

水瀬の視線を追うと、こげ茶色でふてぶてしい顔をした猫が塀の上にいた。味のある顔ではあるが、可愛くはない。断じて。

そいつは人に慣れているのか、逃げることもなく俺な水瀬の接近を許した。

水瀬「可愛い……今なら……」

俺な水瀬に抱き上げられても猫は抵抗しなかった。

美坂「ちょっと……北川君?」

水瀬「ねこ〜ねこ〜」

文字通りの猫なで声で、猫を抱きしめてとろけている俺な水瀬を見て美坂は引いていた。

潤「い、今のは他言無用だ!」

まるでマタタビを嗅いだ猫のごとく、猫に頬擦りしてラリっている俺な水瀬の首根っこを引っ掴み、その場を離脱する。

体の持ち主は陸上部の部長だけあって体力があるのか、女の細腕にもかかわらずなんとか運べた。

しかし、さっきからくしゃみが止まらない。水瀬は風邪引いてたんだろうか?

さすがに異様な雰囲気で恐れをなしたのか、猫は逃げ出していた。

水瀬「うー」

潤「うー、じゃない。一体なに考えてるんだ」

水瀬「だって、わたし猫アレルギーだから猫さん触れなかったの。でも、今は北川君の体だから大丈夫だったのに

頭痛がしてきた。

周りにどう見られるかといった問題より猫が優先かよ。

とりあえず、俺も水瀬も水瀬家に帰ることにした。

俺は親元を離れてひとり暮らしだったので、こっちは問題なかろう。

だから問題は水瀬家なわけだが……。

秋子「了承」

水瀬のお袋さんは、『北川潤』をあっさりと歓迎してくれた。

設定は、アパートの鍵をなくしたため泊めて欲しい、というものだった。

娘と同年代の男を、一つ屋根の下で一緒にさせることをあっさりと了承するとは、一体何考えてるんだこの人は。

とりあえずお茶にする。

はたから見ると、あっさりと打ち解けたように見える水瀬のお袋さんと『北川潤』。

水瀬よ、ちったぁ自分が別人になってるって自覚はないのか。

そして、お袋さんも少しは疑問に思わないのだろうか。

そんな親子の光景に呆れながらも、お袋さん手作りのマフィンに舌鼓を打つ。

しばらくしてお袋さんが夕食の用意を始めた。

潤「お、お客さんは座ってて」

ごく自然な成り行きでお袋さんを手伝おうとした俺な水瀬を制止して、俺が台所に立つ。

学校の家庭科でやった程度の貧弱なスキルを必死に誤魔化しながら手伝ったにしては、上手くできたと思う。

インスタントやコンビニ弁当ばかりのわびしい食生活だったせいもあるが、そういう要素をさっぴいてもお袋さんの料理は絶品だった。

そして、食後にのんびり(している場合ではないのだが)していたら電話が鳴った。

秋子「はい……はい。姉さんによろしくね、祐一さん。進路の話がうまくまとまるといいんですけど」

相沢は学校が終わって速攻で空港に向かい、海外に住む両親の元に飛んでいた。

なんでも、1月末に水瀬のお袋さんが交通事故に遭ったのがきっかけで、相沢の両親は息子が傍にいないのが不安になってしまったらしい。

そのため、卒業したらこっちの大学に通え、と、しつこく言っているという。

そして電話越しでは埒が明かず、受験を間近に控えたこの時期に、両親の元に直接乗り込んで談判する羽目になったのだ。

秋子「名雪、代わる?」

水瀬「うんっ」

俺な水瀬が嬉々として立ち上がったので、慌てて静止する。

潤「えっと、その…電話代が馬鹿にならないからいいよ。帰ってからゆっくりお話しするよ」

秋子「……」

秋子「わかりました」

水瀬「うー」

やっぱり自覚なしかこいつは。相沢も苦労してるんだろうな……。

風呂は入らなかった。やはり相沢の彼女の裸体を鑑賞したり、色々まさぐるのは気まずい。

水瀬も、さすがに恥ずかしいのか同意してくれた。

水瀬「おやすみなさい」

そして俺な水瀬は客間に、

そして水瀬な俺が水瀬の部屋で寝ることになった。

部屋の中を廊下から覗く。

私服に着替える際に入っていたわけだが、改めて見てみると凄い。

…何なんだか、この目覚ましは。そんなに朝弱いのか。相沢も大変だな。

      「ちょっといいかしら?」

突然の声に振り向くと、水瀬のお袋さんがいた。

気配も足音もなかった。一体何者なんだこの人は。

秋子「急なお仕事が入ってしまって、今すぐ出ることになったんです」

秋子「でも、名雪ひとりならともかく、今は祐一さんのかわりに北川さんがいるから大丈夫ですよね」

潤「え? あ、そ、そうで…いや、そう……だね」

おいおい、確か水瀬に親父さんはいないんだよな?

つまり、同い年の男と女が一つ屋根の下でふたりきりになるわけで。

確かに強盗だのなんだのは大丈夫だろうが、お袋さんに別の心配はないのか?

まあ、信頼してくれるのは嬉しいけどさ。

俺の戸惑いをよそに、お袋さんは手早く身支度を整え出て行った。

水瀬「くー」

もう寝ていた俺な水瀬をたたき起こし、お袋さんが仕事に出た旨を伝えたが、不安がることもなくすぐに寝た。

とんでもない事態に、水瀬なりに疲れて寝ていたせいで深く考えてないのか、素でなんとも思ってないのか……。

俺、男として見られてないのか?

いや、今は俺が女なわけだが。

……俺のこと、信頼してくれてるんだよな。

相沢、水瀬(の体)は俺が守る。だから存分に両親と戦ってこい。一緒にいるために。

今は遠くの地にいる相沢に誓った。

寝る前にトイレに行こうと下に下りると、明りが目に入る。

リビングのライトを消し忘れていたようだ。

消そうと中に足を踏み込んだら、TVの脇にあるコルクボードが目に入った。

そこには何枚か写真が貼られている。

最近のものと思われるいくつかの写真。

それとは別に、10歳くらいの男の子と女の子…相沢と水瀬のようだ。

小さな頃から仲良く遊んでいたんだな。

雪だるまを作るふたり。

それだけでは飽き足らず家の中に小型の雪だるまを並べているふたり。

雪祭りの大雪像が並ぶ中、おそらく相沢の父親と思われる男の両腕に嬉々としてぶら下がるふたり。

ケーキを食べていて、頬にクリームをつけたままカメラ目線をとる水瀬と、その隙を突いて水瀬のケーキに乗ったイチゴを強奪する相沢。

にらみ合うふたり。

スカートがめくれ上がって、猫がプリントされたパンツが丸見えになるほどの勢いで相沢に掴みかかる水瀬。

ソファの上で肩を寄せ合って仲良く眠るふたり、そして毛布をかけてやる水瀬のお袋さん。

子供の頃からこうだったんだ。あのストールの子が入り込む余地なんてなかったのかな。

………。

……。

…。

潤「……」

潤「……眠れない」

トクッ

下腹部がジンジンする。この感覚って……もしかして。

トクン

意識するな。

トクン

意識するなっての。

潤「……」

ドクン

そぉ〜っと。

我に返り飛び起きる。

潤「い、いかん! 駄目だ駄目だ! これは水瀬の体だ。親友の彼女なんだ」

明かりをつけ、パンパンと顔を叩いて自分に渇を入れる。

潤「でも、今はオレの体なんだよな……?」

潤「どうなってんだろう?」

ドクン

そぉ〜っと。

潤「って、駄目だっつーの!」

潤「変なこと考えないで寝よ寝よ」

潤「……」

ドクンッ

潤「駄目だ、収まらない。眠れない」

ドクンッ

潤「う〜」

ドクンッ

潤「水瀬、相沢、許してくれ」

そぉ〜っと。

コンコン

潤「わっ!」

慌てて飛び起き、明かりをつけた。

水瀬「ごめんね、起こしちゃった?」

潤「い、いや、起きてた、というか、枕替わったせいか眠れなくて……」

水瀬「枕のせい、かな?」

潤「……え?」

ドクン

バレてる?

水瀬「あのね、こういうのって個人差もあるんだけど、わたしの場合、その……」

潤「その……?」

水瀬「お、女の子の、アノ日なんだけど……」

潤「せ、生理か!? オレ、どうしたらいいか、さっぱりわかんねーよ」

水瀬「あ、安心して。もう少し先だから。だけど……」

潤「だけど……?」

水瀬「たぶん一週間くらい先なんだけど、大抵はその頃になると、その……」

潤「じ、じれったいな。早く言えよ、大事なことなんだろ? お前の体の問題なんだから」

水瀬「う、うん。あのね…北川君、体、火照ってきてない?」

ドクン

うっ……ば、バレてる?

水瀬「わたし、実は、その頃になると……したくなっちゃうの。すっごく」

潤「したいって、な、何を?」

水瀬「う〜、女の子の口から言わせないでよ、そんなこと」

潤「そんなこと言われても」

水瀬「えっと……そ……そのままじゃ辛いから、しちゃってもいいよ。わたしのことは気にしなくていいから」

潤「え!? お、おいおい、お前の体なんだぞ?いいのかよ?」

水瀬「うん、仕方ないよ」

水瀬「そ、その、あの、お、お互い様だから」

潤「……え?」

あまり考えたくなくて、気にしないよう頑張っていたのだが、実を言うと俺な水瀬は、さっきからずっと前かがみになっていた。

水瀬「んっ……」

俺な水瀬は意を決してまっすぐに立ち、股間からと思われる刺激に妙な声を漏らす。

……こんなに大きかったんですか?

水瀬「あ、あのね、なんか窮屈な感じがして目が覚めたら、こうなってたの」

朝立ち……みたいなものか? まだ夜なのに。

水瀬「これ、気にしないように気にしないようにって頑張ってたんだけど、どうしてもあれこれ考えちゃって」

潤「……ブルータス、お前もか」

水瀬「こういうのがわたしの中に入ったんだな、とか考えたら、祐一としてたときのことを思い出しちゃって」

潤「……おい」

水瀬「わたしとしてるとき……祐一はどんな感じだったのかなとか色々考えちゃって、収まらなくなっちゃった」

潤「お、お前なぁ……」

水瀬「あ、大丈夫。このまえ祐一と見せっこしたから男の子のやり方は知ってるの」

潤「……お前ら」

水瀬「じゃあ、今後の参考になると思うから、ゆっくり楽しんでね」

俺な水瀬はそう言い、前かがみの情けない体勢でひょこひょこと出ていった。

今後の参考って……一体なに考えてるんだ水瀬は。

…さて、体の持ち主から了承を得てしまったわけだが、いいのかね? 本当に。

まあ、このままでは到底眠れそうにないし、夜更かしは美容の大敵だというから、このままでは体の持ち主である水瀬も困るだろう。

潤「……やってみるか」

パジャマの前をはだけ、ベッドに横たわる。

乳房が重力に引かれ両脇に広がるのを感じた。

ブラは窮屈に感じ、パジャマに着替えるとき色々と試行錯誤の末に外していた。

確かに、こんなんじゃ動くたびに揺れるから気になって仕方ないだろうな。

触ってみる。

潤「んふっ……」

心地よい柔らかさと重み。硬くしこった突起から痺れに似た刺激が走る。

巨乳というわけではないが、ほどほどの大きさだ。掌にすっぽりと収まるこの大きさがちょうどいいかもしれない。

色々といじってるうちに、下腹部の切なさが強まってくる。

ズボンと共に少しパンツを下ろす。すると、股間に布地が張り付く感触がした。

そこはしっとりと湿っている。すまん水瀬、下着を汚してしまった。

見てはいけない、という気がするため視線は天井を向いたまま、手探りを続ける。

さっきから心臓の脈動が凄い。未知の行為にすっかり興奮してしまっている。

股間に指を伸ばす。

滑った感覚の中に乳首のように硬くしこった突起を感じ、全身に甘い痺れが走った。

潤「んくっ……!」

体を前屈させ、強烈な刺激を堪える。

チンコの先端に似た感覚。おそらくアレだろう。

保健の教科書に載っていたが、男性器と女性器は、胎児の段階ではある程度パーツが共通しているらしい。

卵巣と精巣等が共通するそうだ。

ヴァギナに相当する部分が玉袋、そして、さっき触った敏感な突起が亀頭に相当するらしい。

感覚が似ていて当然だ。

ただ、慣れていないせいか女の体のほうが刺激は強烈で苦しいのでそこは避け、指をその下へ伸ばす。

割れ目を指でなぞった。

くすぐったく、むず痒いような快感。

潤「ん! はぁ……ふっ」

荒い息を吐く。体の奥が切なくなってきた。

潤「入れて欲しいのか? オレ」

『入れる』という行為を意識すると、下腹部から発せられる疼きが強まった。

もう、止まらない。

人差し指を立てる。女の手だから本来の俺の指より細く繊細な感じ。まずはコレ一本だ。

股間に伸ばす。男としてあるまじき行為に不安を感じ、硬く目を瞑る。

水瀬だけではなく 美坂や、 小悪魔的な笑みが印象的だったあの女の子も、こんな事するんだろうか。

粘液質のいやらしい音。指に押され体内の液体が少し漏れた。

勇気を出して指に力を入れる。

           つぷ

突き抜ける感触と共に強烈な刺激が走る。

潤「ぁん……っ」

声が勝手に漏れた、まるっきり女のあえぎ声だ。俺……本当に女なんだな。

恐怖や男としてのプライドを欲望が押し流し、指を更に奥へと伸ばす。

勝手に体の各部が収縮と弛緩を繰り返す。

後ずさりして逃げるように、勝手に足腰が動く。だが、逃げるべき刺激は他ならぬ自分で与えているのだった。

指の根元が過敏な肉芽に触れる。

潤「んくっ……! ふっ……はっ」

背筋が勝手に収縮して腰を虚空に突き上げると共に、またも声が勝手に漏れる。無意識のうちに快感をそうやって逃がしていた。

だが、逃げるわきから快感が芽生え、体中に蓄積してゆく。

眠りに落ちるような、逆に目覚めるような。体が浮かび上がるような、逆に落ちていくような感じがする。

俺という意識が拡散して消えてしまいそうだ。

そうして全く異質な何かに変わってしまいそうで怖い。

でも、欲しい。

更なる快楽を求め指が暴れる。だが、男としての恐怖がそれを押しとどめてしまい、絶頂と思われる一線がどうしても越えられない。

結果として、絶妙の加減でイク寸前の状態を維持し、自らをじらす状態となった。

潤「うぅ……くぅ、ふぅ……っ。だ、駄目だ……」

高まる快楽がそのまま苦痛となる。

でも、どうしても一線が越えられない。

   「やり方、それでいいと思うけど?」

潤「わっ!?」

目を開けると、そこには俺な水瀬が中腰で立っていた。

そして俺の姿は……。

左手で右の乳房をこね回し、右手は股間に伸ばし、その手の進入を拒むように、逆に逃がすまいと拘束するように太ももはぴたっと合わさっていた。

潤「わ! わわわ!」

羞恥心が爆発した。

行為を中断し、慌てて指を引き抜いて立ち上がり、下着とズボンを上げる。

水瀬「別にやめなくてもいいよ。途中で止めたら余計に辛いし」

潤「そんなこと言われても」

いくら了解を得ての行為とはいえ、見られながら継続する度胸など俺にはない。

だが……。

ぞくり

潤「う、うわ!? ちょっと待て!」

体をかき抱き、身をすくめる。

慌てて手を引き抜いたのがまずかった。そのときの刺激が止めとなり、蓄積した快感が膨れ上がる。

水瀬「ど、どうしたの北川君? 大丈夫?」

潤「くうっ! だ、駄目……」

決壊したダムのごとく、下腹部からの刺激が全身に広がる。

行為はもう止めたが、快感の奔流は止められない。

勝手に背筋が収縮し、全身が痙攣した。

潤「うっ……! くぅ……っ」

両手でシーツをがしっと掴み、刺激を堪える。

目を硬く瞑って真っ暗となった視界の中に火花が散った。

水瀬「わっ、わっ」

潤「うぁ……はぁぁっ」

熱い息を吐き、全身が弛緩する。頭の中は真っ白になり何も考えられない。

水瀬「えっと、イッちゃった……みたいだね」

潤「そう……なのかな」

頭の中に満ちた白いもやをかき分けて、どうにか返事する。

潤「うぅっ……イッた瞬間を見られた……」

水瀬「恥ずかしがることないよ。誰だってすることなんだから」

潤「そんなこと言われても」

水瀬「どうだった?」

潤「どうと言われても、その……」

水瀬「どうしたの?」

潤「火照りが収まらねーぞ! どうなってんだ、お前の体は」

快感の波は引いた。だが下腹部の疼きはそのままだった。それどころかますます強まった気がする。

水瀬「あ……やっぱり」

俺な水瀬はのんきな口ぶりだった。

潤「やっぱり……って、どういう事だよ?」

水瀬「あのね、実は…今日みたいな日は、祐一に思いっきり可愛がってもらってたの」

潤「え? それじゃあ……」

水瀬「祐一無しじゃダメな体になっちゃったみたいだね」

潤「ちょ、ちょっと待て! それじゃオレはずっとこのままか?」

水瀬「ううん、たぶん大丈夫、コレがあるから」

そう言って自らの股間を指差す。

……そんなに大きかったんですか?

潤「み、水瀬もイケなかったのか!?」

水瀬「ううん、男の子って気持ちいいのは一瞬だけど、出したらすっきり。これはこれでいいね」

水瀬「それに勢いよく飛んで面白いよ」

おいおい、ずいぶんと順応性が高いな。

水瀬「だけど北川君のHな声を聞いてたら、またこうなっちゃった」

潤「我慢してたつもりだったけど、声、けっこう漏れてたんだな」

水瀬「……北川君」

潤「……ん?」

水瀬「…ひとりよりふたりだと思うんだよ」

潤「何が?」

水瀬「…H、だよ」

潤「……み、見せっこか? この体、それで満足するのか?」

水瀬「ちがうよ、コレ…入れちゃったらどうかなって」

潤「お、おいおい、本番かよ? 浮気はまずいだろ」

とはいえ、見せっこも浮気の一環に入りそうな気がしないでもないのだが。

水瀬「浮気じゃないよ〜。わたしたちは別人だよ」

潤「……え?」

水瀬「ここにいるのは、北川潤って女の子と水瀬名雪って男の子。祐一の恋人や友達とは違うんだよ」

潤「いや、その理屈はおかしい」

水瀬「うー、そうだけど……でもっ、でもっ」

俺同様に水瀬も、未知なる異性の性欲に翻弄され、自分を見失いつつあるようだ。比較的冷静でいる俺がしっかりしなくては。

潤「だったら相沢と付き合う前はどうしてたんだよ?」

水瀬「そのころは、いま北川君がしてたみたいにして満足できたの。だけど……」

潤「…一旦オトコの味を覚えたら、もうソレ無しじゃ駄目になっちまったか」

水瀬「や、やだ、そんないやらしい言い方しないで」

潤「でも、そういう事なんだろ? 手でダメなら……その手の道具はないのか?」

水瀬「道具って?」

カマトトぶってるわけではなさそうだ。そっちは未経験らしい。

ではどうしたものか?

待てよ? 水瀬のお袋さんは、いま独身なんだよな……?

……。

潤「わー! なに失礼なこと考えてるんだオレは!」

水瀬「わ、どうしたの?」

潤「許してくれ」

水瀬「……?」

要するに、奥を刺激してイけばいいんだろうな。

潤「何か身近にあるもので……」

そこら辺を見回していたが……。

水瀬「わたしの体に変なの入れちゃダメだよ」

怒気をはらんだ声。

潤「心を読むな。だけど変なのって、お前の股間でいきり立ってるオレのは変じゃないのかよ?」

自分で自分のを変と言うのもどうかと思うが、って言うか元気だな息子よ。

考えるのもおぞましい選択肢。

だが一旦脳裏に浮かべてしまうと、俺という男の精神をあざ笑うかのように水瀬の体は昂りを増す。

水瀬「変じゃないよ。北川君の、元気いっぱいで可愛いよ」

……そんなこと言われても。

体の火照りは収まらない。

……相沢、許せ。

水瀬をこんなスケベな体にしておいて、これからも一緒にいるためとはいえ、

この日の対策を何も講じないで置いてけぼりにし、単身で海外に行ったお前が悪いんだ。

潤「わ、わかった……優しくしてくれよ?」

水瀬「うんっ」

そう言うなり押し倒された。

潤「わ! な……なんか、すっげー恥ずかしいんだけど」

水瀬「わたしの体なんだから気にしなくていいよ。こうして見ると、わたしのおっぱいっていい形だね。それにすっごく柔らかいよ〜」

潤「うわ! ちょっと」

乳房をふにふにと揉まれる。自分でするのとは違った心地よさを感じた。

潤「んふっ…ブラ、窮屈だから外したけど、寝るときはつけないんだよな?」

水瀬「うん、あした着替えるとき、つけ方教えてあげるね」

乳房への攻撃が続く。すると、ほったらかしの下半身がどうにも切なくなってきて身をよじった。

水瀬「そろそろだね。脱がすよ?」

パジャマのズボンに手がかかる。

潤「お、お前ら、こんなふうにしてたのか?」

水瀬「うん。自分で脱ぐより脱がしてもらうほうがドキドキするよね」

同意を求められても困る。

だが、悲しいことに体は素直に昂った。

水瀬「あれ? パンツ……」

潤「すまん、汚しちまった」

水瀬「仕方ないよ、そういうものなんだから。こっちも脱がすね」

股間に張り付いた布がかすかな抵抗の後にはがれ、空気に晒されるひんやりとした感覚が伝わってきた。

潤「ううっ……」

水瀬「あは、わたしの、こうなってるんだ。こうして見ると興奮するね」

潤「わっ! 変なとこつつくな!」

水瀬「うー、わたしの、変じゃないよー」

潤「いや、そういう意味じゃなくて」

水瀬「あ、そうだ。アレつけないと」

俺な水瀬は机の引き出しをまさぐり始めた。

手にしたものは小さな四角形の包み。

あ、アレか。まだ高校生の身分で、まして浮気で妊娠なんて洒落にならないもんな。

女性の側から積極的に避妊を申し出るのは良いことだ。うんうん。

などと関心(している場合だろうか)していたら、

俺な水瀬は、包みを破って取り出した中身を無造作に自分の口へ放り込んだ。

潤「……へ?」

なにやらモゴモゴと口を動かしている俺な水瀬に、嫌な予感を抱きながらも突っ込む。

潤「……なにをしている」

俺な水瀬は、口に物を含んだためくぐもった声で答える。

水瀬「なにって……こうやってつけるんでしょ?祐一に教わって、練習してたんだよ」

頭痛がしてきた。相沢、お前という奴は……。

水瀬「今度こそうまくいくと思うの。このあと、元気になったのを咥えて……」

潤「それ絶対違う」

水瀬「え? でもっ、でもっ」

潤「だいたい、咥えるってドコ咥えるんだ?」

水瀬「や、やだ、女の子の口から言わせないでよ、そんなこと」

これだけの事をしておいて、まだその単語を口にするのを恥かしがりやがりますかこのアマは。

と、そのとき俺な水瀬の口からアレが落ちた。

俺のナニに押し上げられテントを張ってるズボンに、アレがちょこんと乗ったのを見た水瀬は首を傾げる。

そして、咥えるべきモノがどこについてるかを、ようやく思い出した。

水瀬「あ、あはは」

気まずそうに笑った後、アレを摘み上げた水瀬は……。

俺に差し出した。

潤「……殴るぞ。オレにその技をやれと?」

頭痛がしてきた。しかも間接キスだ。嫌すぎるぞ、こんな間接キス。

水瀬「うー、でも、そしたらどうするの?」

潤「どうするのって、その技できなかったんなら、これまでどうしてたんだ?」

まさか、装着失敗したら生でしてたのか?

水瀬「痺れ切らした祐一が、自分の手でつけてたけど?」

潤「普通はそういうつけ方だ」

水瀬「そうだったんだ。祐一、また嘘教えたんだ」

また…相沢は、他にどんなことを吹き込んでいるのだろう?

ぎこちない手つきで装着する水瀬は、騙されたことをそんなに怒ってはいないようだ。

むしろ、そうされるのを楽しんでるようにも見える。これが惚れた弱みというやつなんだろうか?

リビングにあった微笑ましい乱闘の写真を思い出す。

お下げの水瀬の顔は、怒ってこそいたものの楽しそうでもあった。意地悪されるのも、惚れた相手なら嬉しいんだろうな。

水瀬「お待たせ、じゃあ……」

潤「うう……」

元気にいきり立った俺のナニを見て、思わず唾を飲み込んでしまう。

水瀬「……」 潤「……」

水瀬「やっぱり、抵抗あるね」

潤「……だろ?」

浮気で、同性の体で、トドメに自分自身。これで抵抗を感じないほうがどうかしている。

それで萎えてくれればいいのだが、あいにく体はお互いに昂ったままである。

水瀬「そうだ、北川君、背中向けて」

潤「……え?」

水瀬「顔が見えなければ、なんとかなると思うの」

潤「……意地でもヤる気なのね」

要望どおり背中を向けて四つんばいになり、尻を突き出す。

潤「うう……恥ずかしい」

水瀬「大丈夫だよ、今は、わたしたちふたりきりなんだから」

潤「そんなこと言われて……もっ!?」

異物感とともにむず痒いような心地よさが走る。

異物が小刻みに動く。この大きさと動きは…指か?

というか、ソレがわかるくらいに敏感なんだな、ここ。

水瀬「準備できてるね」

潤「じゅ、準備って……わっ!」

腰に手がかかり、さっきの場所に、今度は指ではない何か太く熱いものがあてがわれた。

恐怖に身をこわばらせる。

水瀬「安心して北川君。じゅうぶんに濡れてるし、もう初めてじゃないからちっとも痛くないよ」

潤「そ、そ、そういう問題じゃない!」

やっぱり怖い。まして浮気で、俺は男なのに女で、自分自身に貫かれるなんて。

水瀬「う〜。も、もう我慢できないよ。お尻見てたら、歯止めきかなくなっちゃった」

           ぬる

潤「う、うわ、入ってきた。入ってきた!」

熱い塊が俺の体内に侵入してくる。

水瀬の言うとおりで痛くはなく、体が満たされる感じがして、ただひたすらに気持ちいい。

水瀬「わ、暴れないで、大丈夫だから」

潤「そんなこと言われても〜!」

水瀬「あぁ……中、すっごく暖かいよ。先っぽ…祐一にお豆さんいじられてるみたい」

やっぱり水瀬も似たように感じるか。

潤「うぅ……しばらく、じっとしてて」

入っている刺激だけで、どうにかなってしまいそうなくらい気持ちいい。

まして激しく抜き差しされたら、俺がどうなるか想像もつかない。

水瀬「抜いて、とは言わないんだ?」

潤「……いじわる」

俺な水瀬の悪戯っぽい口調をした問いかけに、拗ねたように答える。

実際、あれだけの抵抗を感じたにもかかわらず、この快楽を捨てる気にはなれなかった。

なんか、本当に水瀬が男で俺が女みたいになってきた。

男と女では脳の構造も違うという。その影響を受けているのだろうか。

水瀬「だ、ダメ、先っぽが気持ちよくて、もっと刺激欲しくなってきちゃった。もう我慢できない。動かすよ? 頑張って!」

潤「わ! ちょっと待て!」

          ずん!

潤「うぁあ!」

奥に当たって重い衝撃が脳天に突き抜ける。

水瀬「ふぁ……凄いよ、男の子……凄い」

チンコの刺激に支配されたのか、水瀬はうわごとの様に呟き、激しく腰を打ち付けてきた。

俺は、荒波に翻弄されて板切れに掴まる漂流者のように、がっしとシーツを掴んで刺激の奔流に耐える。

水瀬「絡みついてくる……凄い。きゅっきゅって締まるよ。祐一もこんなふうに感じてたんだ……」

潤「お、お前の体が勝手にそう動いちまうんだ!このスケベ! 実況中継しないでくれ、恥ずかしい」

水瀬「だ、だって…わたしもそうだったし、凄く気持ちいいよ……止まらないよ」

潤「うぅ……頼む、せめてゆっくり動いて。水瀬だって、自分の意思を無視して乱暴にされたら嫌だろ?」

水瀬「……あ」

勝手に漏れるなまめかしい声を抑え、刺激を堪えながら俺がどうにか紡ぎ出した言葉に水瀬は我に返り、腰の動きが止まる。

潤「はぁ……ふはぁ……自分がされて嫌なことは、人にやっちゃダメだろ?」

水瀬「そう……だね」

しゅんとする。

助かった……。

水瀬「でもね、乱暴にされるのも、それはそれで興奮するから好きなの、わたし」

助からなかった……。

潤「ひいっ! それはお前の好みであってオレは違うんだっての! 初めてなんだから優し」

最後まで発言することも許されず、俺の体内に侵入した熱い塊が暴れだし、嬌声しか上げられなくなる。

自分には存在しないはずの器官が、激しい快楽を脳髄に打ち付けてきた。

快楽が頭を侵食してゆき、俺という精神が消滅しそうになる。

それが怖くて、女性の器官から意識をそらす。

潤「くっ……! ふぅ……」

水瀬「うんうん、そうやってイキそうなのを我慢してるともっと良くなるよ」

潤「そ、そんなんじゃない!」

もっと良くなったら俺はどうなってしまうんだ?でも素直にこの快楽に身を任せるのも怖くて堪えてしまう。

そのうち水瀬の言葉が理解できなくなった。

俺という男の精神はこれ以上の快楽を拒否する。しかし女の体は貪欲に快楽を求めだす。

勝手に尻を突き出し、腰の角度に変化をつけ体内の敏感な部分に俺の肉棒をこすりつけて、快感を貪る。

そして小刻みな収縮で精を搾り取ろうとする。

水瀬「あ……で、出ちゃう、凄いよ、搾り取られちゃう」

頭が快楽に占領され、自分が何を言っているのかも分からなくなる。

潤「ふあぁ……いい、もっと……もっと……」

体内に進入している熱い塊が激しく脈動したのを最後に、頭は真っ白になった。

潤「これじゃ野獣だよ……」

………。

……。

…。

「……わくん」

……。

「……北川君」

……?

「えい」

潤「うぁっ!?」

乳首にビリッと電流のような痺れが走り、飛び起きた。

水瀬「あ……ごめんね、乳首触っちゃった。今は敏感になりすぎて痛いんだよね、そこ」

ぐにぐにと硬い腕と胸板で体を包まれる。

俺はいつの間にか横倒しになっていて、背中から誰かに抱きしめられているらしい。

…あ、そうか。俺、水瀬と入れ替わったんだった。

つまり俺は俺自身……つまり男に抱きしめられていることになる。

なのにとても安らいだ気持ちになり、いつまでもこうして欲しくなった。

俺……本当に女になっちまったんだな。

水瀬「どうだった?」

潤「うぅ……激しすぎてなにがなんだか」

水瀬「ごめんね、興奮してきたら、歯止めがきかなくなっちゃった」

さっきの行為を思い起こす。俺も凄いことしてたな……。

改めて羞恥がこみ上げてきた。

水瀬「男の子ってすごいね。あんなのを我慢できるんだから」

潤「あのな、別に四六時中って訳じゃないし普通は興奮してもああはならない。第一、我慢できなくなったら犯罪者の仲間入りだ」

全男性の名誉にかけて言っておく。

まあ仕方ないか。成長と共に強まっていく性欲との折り合いのつけ方を、普通は時間をかけて培うものだ。

いきなり異性の旺盛なソレを突きつけられたら、ああなってしまうのかもしれない。

水瀬「あ、あはは…祐一が帰ってきたらさっきのしてあげよっと」

潤「おいおい」

水瀬「北川君も今のを参考にして、香里には優しくしてあげてね」

潤「…へ!? な、なんで美坂の名前が出てくるんだ!?」

水瀬「見てたらわかるよ、ふたりの気持ち」

潤「な! ななな……」

水瀬「でも、香里はなにか悩んでる。すっごく大きなものを背負ってるみたい」

潤「美坂が……」

水瀬「でも、わたしには話してくれないの。親友だと思ってるんだけど……それって、わたしだけなのかな?」

潤「そんなことないだろ、親友だから……だからこそ、心配させたくない、巻き込みたくないって思ってるんじゃないか?」

水瀬「……そう、かな? でも、力になってあげられないのは辛いよ」

潤「そうだな、オレも辛い。してやれること、何かないか考えてみるよ」

水瀬「ふぁいとっ、だよ」

潤「あのな…こっちでファイト出されても困るんだが」

俺の尻に、節操なく元気になったものが当たっていた。

………。

……。

…。

潤「……?」

何かの物音で目が覚めた。

潤「えっと……どこだ? ここ」

潤「あ、オレ、水瀬ん家に泊まったんだっけ」

潤「あれ? なんだか腰が軽い」

足踏みしたり屈伸してみる。

潤「ううっ。腰が満ち足りた感じがする……」

改めて、昨夜にふけった行為と自分の乱れようを思い出し、羞恥がこみ上げてきた。

それと共に尿意もこみ上げてきた。

潤「……トイレ」

一階に降りると、水瀬のお袋さんが玄関でコートを脱いでいた。

秋子「おはようございます。済みません、起こしてしまって」

潤「いえ、いいですよ。仕事で疲れてるんでしょうから」

秋子「ありがとうございます北川さん。よく眠れましたか?」

潤「たはは……慣れなくて、ちょっと」

秋子「大変ですね。すぐに朝食にしますから待っててください」

潤「寝なくて大丈夫なんですか?」

秋子「今日は代休になりましたから、あなたたちを学校に送り出してから横になります」

そう言って自室へと向かった。

偉い人だなぁ……って、トイレトイレ。

潤「さてと」

潤「よっと」

潤「……あれ? 無い」

潤「あ、オレ、水瀬と入れ替わったから女なんだっけ」

座って……と。

潤「……」

潤「……ふぅ」

潤「……あれ!?」

台所に駆け込む。

秋子「済みません。朝食はもう少し待ってもらえますか?」

潤「お、おば…いや、おかあ…いや、マ、マダム…あ、いや、あ、あ、あ、あきあきあき」

秋子「どの呼び方でも構いませんよ? 北川さん」

潤「ありゃ……バレてたんですね……」

秋子「母親ですから」

秋子「それに、誤魔化そうと一生懸命なあなたと、ちっともお構いなしの名雪を見てると楽しかったです」

秋子「あと、お手伝いありがとうございました」

潤「……ひどい人だ」

秋子「それはあなたのほうでしょう?」

潤「……え!?」

秋子「その体で、軽率なことをしたんじゃないですか?」

潤「ご、ごごごごご免なさい!」

土下座する。

秋子「あらあら……図星でしたか」

潤「うぅ……ひどい人だ」

はめられた。様々な意味で、水瀬親子にはめられた。

秋子「でも、毎月あの調子でしたから、仕方ありませんね」

夫婦生活は筒抜けか。一つ屋根の下だから仕方ないとはいえ、ちったあ考えろ。

潤「あ、あの…曲がりなりにも娘の浮気で、オレがその浮気相手なんですけど」

秋子「まあ、あまり感心しませんけど当事者同士の問題ですし、アノ日の大変さは身に染みてわかりますから」

親子でそういう体質? もしかして、水瀬の父親がいないのって……。

様々な可能性が考えられるが、深く踏み込むのは止そう。

秋子「でも、節度を持った生活を心がけて下さいね」

潤「そりゃあ、もちろんですけど。でも……この状況に少しは戸惑ったりしないんですか?」

秋子「まあ、焦っても仕方がないでしょう。そのうち元に戻りますよ」

秋子「それに……立場が変わればこれまで見えてなかったものも見えてくるでしょう。貴重な経験ですよ」

そうこうしてるうちに、美味そうなサラダ、目玉焼き、トーストという平和そのものの食卓が出現していた。

凄い人だなぁ……。

秋子「さてと、北川さんになってる名雪を起こしてきますか。お寝坊さんなのは体質ではなかったみたいですね」

………。

……。

…。

お互いどうにか誤魔化しながら学校を終えて帰宅する。

美坂は俺たちのぎこちないやり取りに怪訝な顔をしていた。

さてはて、これからどうしたものか。

そのとき、またも雪に足を取られ、バランスを崩す。

そして、接近しつつある俺な水瀬の顔。

うぅ……安直だ。

………。

……。

…。

激痛と共に暗転していた視界が元に戻ると、案の定だった。

倒れている俺を中腰で覗き込む女の子。

優しげで、少し眠そうな夢を見るような目。

水瀬の指南のもと、丹念にブラッシングした甲斐あってさらっとした長い髪。

女「……」

潤「……」

お互いに顔を見合わせる。

その後、自らの体をまさぐった。

懐かしく、しっくりとした感覚。全体的に硬く締まった体。そして、男子の制服。

その結果ある結論に達した。

女「えっと……北川君、なのかな?」

潤「ああ、ってことは、お前、水瀬か?」

水瀬「うんっ」

まさか、こんな安直な展開であっさりと元に戻るとは。

俺たちが遭遇した、なんとも奇妙な状況は終わった。

一体なんだったのだろう?

さてはて、どうしたものか。色々とやらねばならないこと、考えねばならないことがある。

そして今、最優先にすべきこと。それは……。

水瀬と目が合う。

水瀬「ふぁいとっ、だよ」

潤「ああ」

美坂「……?」

潤「なあ、美坂。話がある」

           完