「…朝か…」

 信哉は部屋に備え付けられた時計を見てつぶやいた。

 少し体がだるいような感じを受ける。

 当然だった。突然の再会に二人して消灯時間ギリギリまで語り合ったのだから。

  二人は実に多くのことを語り合った。

 少しでも互いの空白を埋めるかのように。

 だから眠いのは当然だった。

 だるさを吹き飛ばすように勢いよく起き上がり身支度を整える。

 現在進行中の作戦はない。

 事実上、自主訓練と基地待機が当面の日程となる。

 だからこそ非常時に備えるのは兵隊の義務なのだが。

 「…そんな雰囲気が微塵もないよな…ここ」

 軍属とはいえ完全に独立した遊撃部隊なのと

 上官が理解ある人物ばかりのせいかアットホームとすらいえる。

 (ここって本当に軍か?)

 時々そう思うが、元々軍独特の上下関係などが

 研究所にいた頃を思い出して嫌いだし、むしろ居心地がいいのは

 信哉にしてみれば都合がいい。

 深く考えるのはやめ、朝食を取るために食堂に向かおうとドアを開けた。

 廊下が騒がしい。

 何事かとあたりを見回す。

 「ああ…」

 信哉は気にも留めず食堂に向かった、何故なら。

 騒ぎは祐一の部屋で起きていたからだ。

 (ずいぶん懐かれていた様だったからな)

 そう考えて信哉はその場を去った。








 エクシードブレイブス 第10話

 基地での一時











 ――アンリミテッド本部 食堂

 すでに食堂には何人かの同僚達が席についている。

 …ほとんどが女性だった。

 どうやらここの男性軍は朝が弱いらしい。

 「おはようございまーす」

 信哉が声をかけると、その場にいた人たちは皆返事をした。

 「おはよう、何か騒ぎがなかった?」

 信哉に声をかけたのはどこかアンニュイな雰囲気を漂わせた吊り目の女性、八重樫つばさ。

 低いときは徹底的に低く、高いときは徹底的に高いテンションの持ち主。

 加えてMSの操縦技術は天下一品というとんでもない女性だった。

 「ええ、何か祐一の部屋の前で騒ぎが」

 「ああ、相沢君ね。何か起こりそうな気、したんだよね彼」

 くすくすといたずらっ子のように笑う。

 どうやら観察力はあるらしい、と信哉は思った。

 「ある意味舞人とは対照的なキャラだな。見てて面白い」

 後ろから声をかけられ振り返る。

 そこには銀髪の少年、相良山彦が立っていた。
 
 桜井舞人の数少ない(失礼だが事実だ)友人の一人で

 主に機体の整備、カスタムの専門家だ。

 「ヤマ、さくっちはどしたの?」

 「まだ寝てた。森さんや雪村さんが起こしてたぞ」

 森青葉。

 この基地内、およびノア・シップのまかないさんでもある。

 妙齢ながらしっかりした子で、戦闘はできなくても自分の得意分野で

 みんなを助けたいとアンリミテッドの雑用を担当している少女だった。

 舞人とは顔なじみである。

 雪村小町。

 舞人の幼馴染で舞人を追いかけてきたが、舞人に別の思い人がいることを

 知り、身を引いた過去がある…がその事実を知るものは当人同士だけである。

 表面上は何も変わったことのない二人だが、以前より小町が

 舞人に接する機会は減った、否、彼女が減らしたのである。

 そのことでずいぶん無理を重ねたが、今はもう昔のままの二人である。

 そう…永遠に変わることのない『幼馴染』としての間柄。

 元々恋愛等に関しては一歩引いていた舞人だったが、

 こういったけじめだけはしっかりつけていた。

 無論そこには彼女を傷つけたままでいたくないというのもあったのだろうが。

 さて話を戻そう。

 そんな雑談を繰り返すうちにぞろぞろと面々が集まってくる。

 そんな中、何故か頬に赤いもみじの後がある祐一がいた。

 「心中お察しするよ祐一」

 「人の心を読むな」

 「…そんなもん読まなくてもわかるわ」

 こうして今日も基地内で一日が始まった。








 ――アンリミテッド基地内

 「くっ! ここまでか!!」

 武が悔しそうに吐いた。

 機体シュミレーターによる模擬戦を行っているのは男性陣。

 祐一、武、信哉、舞人、浩平、往人の6人。

 それぞれの愛機のデータをダウンロードし、シュミレーターによるバトルでのリーグ戦。

 もちろん食堂のモニターでは他の仲間たちが観戦している。

 そして気になる戦績は…

 武、2勝3敗 勝利したのは舞人、祐一。機動力で攻め、相手の高い攻撃力を受け付けなかったのが

 勝因と思われる。大して機動力で勝ち目のなかった二人には敗北した。

 特に往人は、機動力ではほぼ互角のため攻撃力で押し切られる形となった。

 祐一3勝2敗 勝利したのは信哉、舞人、往人。元々突撃戦法に特化した機体は攻めに回れば強かった。

 ただし浩平にはやはり機動力という強力な武器によって惨敗。

 信哉3勝2敗 勝利したのは舞人、武、往人。OFの機動力で相手の動きをかく乱、自分のペースに

 持ち込むことで勝利。祐一には手の内を読まれたのと、裏を駆けなかったことが敗因といえる。

 舞人0勝5敗 扱いなれない機体と、機動力という面でどうしてもここ一番の頑張りに欠けた。

 彼の名誉のために言えば彼は決して他の5人に引けは取っていない。

 往人2勝3敗 勝利したのは武、舞人。スーパー系独特の攻撃力の高さはあったものの

 機動力の面で押し切りきれなかったのが敗因か。

 浩平5勝0敗 現在無敗。かなり高い機動力に加え、攻撃にも回避にも活躍する

 エターナルシステムはかなり厄介らしい。さらにニュータイプとしての能力まで

 活用すれば現在のところ敵無しなのは当然といったところか。

 祐一、武相手にはかなりギリギリだったが勝敗を分けたのは連続のファンネルの使用にも耐えた

 強靭な精神力といったところか。

 そんなこんなで彼らの実力を測る名目で行われた模擬戦は終了した。

 ロビーに移り反省会へと移る。

 ここでも上官たちは口出ししなかった。

 仲間同士で問題を解決しあう場。

 いわゆる学校のような雰囲気を大人の都合で壊すことを秋子が嫌ったからである。

 本当に大事なことだけ大人が手助けすればいい。

 戦場で命を張るのはこの少年少女たちだからだ。

 蚊帳の外にいる人間が言うべきことではないのだと。

 すでに討論は持ち上がっている。

 槍玉に挙げられたのは舞人だった。

 「舞人…もう少し機体を上手く動かせないか?

  立ち止まっている時間が多いぞ」

 山彦の的確な注意が飛ぶ。

 舞人の機体は防御能力はトップなのだが、それでも攻撃を

 立て続けに喰らうような動きをしては撃墜するのもたやすい。

 「あーわかってるんだけどさ。こう…なんていうのかな

  時々、操作してる間隔ってのがすっぽり抜け落ちるって言うか…」

 舞人は困ったように返答する。

 自分でもわかっているのだが瞬間、どうしても意識が飛ぶように

 機体が動かせなくなるという。

 「それについてなんですけど…」

 おずおずと手を上げたのはこだまだった。

 「桜井君の機体…どうも原動力は桜井君自信の精神力みたいなんです。

  だからその問題を解決する方法は…」

 「…精神鍛錬」

 こだまが言う前に舞が言い切った。

 その場にいる舞人を知る人物達は、

 「無理だな」

 「ありえない」

 「や、さくっちには無理でしょ」

 「桜井には一生縁のない言葉だわ」

 「せんぱいにはちょっと荷が重いのでは…」
 
 「あ、あはは…」

 満場一致。

 「ばっ…ぷじゃけるなよ君達。何を言ってるんだい?

  こちとら命がかかっているんだよ?

  いいじゃねえか、座禅上等! 滝にでも打たれてチベットあたりに

  こもって悟りでも開いてやるか!?」

 言ってから舞人はしまったと思った。

 「ふふーん…言ったねぇ? さくっちー」

 希望が嬉しそうに、いや小悪魔的笑みを浮かべて

 がしっと舞人の腕を掴む。

 「いや…あの希望さん? そんな腕を組むように

  あああの? どちらへ?」

 「さ、畳の間で精神鍛錬〜♪ 大丈夫、

  倉田さんに渡されたメニューをクリアするまで

  私がついていてあげるから〜」

 このうえなく嬉しそうに希望は言い切った。

 「ゾンミ、悪いけどよろしくね」

 つばさは笑顔で

 「これも修行の一環だ。桜井、耐え抜くがよい」

 冥夜はうんうんとうなずいて見送った。

 「い、いやあああああああ〜〜〜!!」

 舞人が希望に引っ張られてロビーから姿を消す。
 
 その場にいた誰もがドナドナの歌を聴いたそうな。

 「さて、次の問題点に移るか…」

 残ったメンバーはまた議論を始めた。

 生まれも育ちも違うものたちが垣根を越えて協力し合う姿。

 その姿に大人たちは明日の地球の未来を見たという…。






 ――アンリミテッド基地内 屋上

 そんな騒がしい一日も日没と共に終わりを告げようとしている。

 「……」
 
 夕日の差す屋上に一人たたずむ少女。

 美坂栞。

 原因不明の難病。

 もう死を待つばかりだった自分は一年前突然救われた。

 理由は簡単だった。

 匿名希望で栞の治療費、手術費を全額払ったものがいたというだけだった。

 そしてその代わりに、

 姉の突然の失踪。

 最後に見舞いに来たときの思いつめたような表情が思い出される。

 そういえば姉は最後にこんなことを言っていた。

 「…地球に人がいる意味なんてない…ないのよ。

  でも栞。あんたは自分で選んで。

  あたしの答えにつき合わせるつもりはないから」

 …間もなく自分は退院することになる。

 栞はわかっていた。

 治療費は全て姉が用意したものだろう。

 だが、あの思いつめたような表情は今でも夢に見る。

 姉は何かを成そうとしている。

 最後に姉の部屋で見つけたのは契約書だった。

 何事も丁寧だった姉があのようなものを無用心に置いておくはずはない。

 姉は待っている。自分が姉の下にたどり着き

 そして出した答えを聞くのを。

 追って来い、その残された紙切れからはそう聞こえた。

 「だから会って…ちゃんと聞かなきゃいけないです

  そして言わなきゃいけないことがあるはずなんです…」

 栞は天を見上げる。

 もうすぐ暗闇に染まるであろう夕焼けの空。

 「夕焼け…綺麗?」

 後ろからかぼそい女性の声。

 栞はその声の主を知っている。

 「うーん、70点ってところです」

 「そうなんだ、じゃあ結構綺麗かな?」

 川名みさき。

 盲目でありながらそのハンデを思わせない性格。

 そしてその食欲は男性に勝るとも劣らない。

 見えない目の変わりに異常にも発達した感覚で

 デュランダルの雑用を担当している。

 「栞ちゃんもいつも屋上にいるんだね」

 「いつもではないですよ。たまにです」

 隣に並んだみさきがふふふ、と笑う。

 栞は彼女のうちに秘めた強さを尊敬している。

 盲目で、ハンデを背負いながらも戦う友人と共に

 見えない世界へと一歩を踏み出した女性。

 それはどれほどの勇気があればできるのか。

 栞には想像がつかなかった。

 「栞ちゃん」

 「何ですか?」

 「あまり思いつめちゃだめだよ」

 「…」

 「頑張って、今できることを精一杯やろう?

  きっとお姉さんにも会えるから、ね?」

 「…はい」

 どうしてこの人はここまで鋭いのか。

 どうしてこの人はこんなに優しいのか。

 栞は、また一つみさきに教えられた。

 戦うだけが強さじゃないことを。

 そんな強さをみさきが教えてくれたことを。

 そんな意味を知った少女はこの先に待つ過酷な運命をまだ知らない。

                                 続く
SSのTOPに戻る