――カノン・バンガード ロビー
 
 「うーん…」

 「うーん…」

 ロビーで祐一と信哉は資料を眺めながら二人で唸っていた。

 男二人がテーブルの上を延々と睨み続けている光景は

  はっきり言って異様だった。

 「どうしたんですか? 祐一さん」

 「何してるの? 信哉」

 そこへ栞と真理奈の二人が通りがかり二人に声をかけた。

 手ぶらなところを見ると二人も用事はないようだ。

 「栞?」

 「真理奈?」

 二人は同時に反応し、まさに救いの女神といわんばかりの表情で顔を上げた。

 そして二人は同時に席を立ち、祐一は栞の肩を掴んで、

 信哉も同じように真理奈の肩を掴む。

 シチュエーションだけで見ればまるで同時告白のようにすら見えた。

 それぐらい二人の顔は真剣だった。

 「あのさ…」

 ちなみにこの二人は女性を惹き付けるという点では似たもの同士でもあった。

 祐一はやや、女性顔ながらその微笑みは見るものを魅了し、

 信哉は対照的に落ち着いた姿勢とやはり美少年系のクールな眼差しで

 女性のハートを掴んでいた。

 ちなみに本人達に自覚はない。

 信哉は特に祐一をからかっているが、自身にもそのような傾向があることを

 知らない。

 祐一は信哉ほど周りに対して鋭くないからだ。
 
 さて、見つめ続けられている当の本人達はというと、

 (え、えっとこれは公衆での告白と取っていいんでしょうか?

  えー! そんな、そんなドラマみたいな…えぅ〜…)

 栞はすでに現実から離れトリップしていた。
 
 夢見がちな少女らしいといえばらしいが、

 ちなみに真理奈のほうは、

 (ど…どうしよう。信哉のほうからまさかそんな…
 
  そりゃ私達幼馴染だし、付き合いも長いけどそんないきなり)
 
 こちらのほうも大分いっぱいいっぱいのようだ。

 二人とも十分すぎるほど顔を赤くしてそれでも目を離せずにいる。

 周りではクルー達が興味の視線を向けている。

 「「ちょっと俺達の機体の改良案を出すのを手伝ってくれないか?」」

 「「え?」」

 一瞬の静寂。

 「まだまだ改良の余地はあるんだけど、俺の機体は結構癖があるからさ」

 祐一は資料を片手に言った。

 「OFは元々プログラムで武装強化は出来るけど、性能はどういじったもんかな

  と思ってさ」

 真理奈の肩から手を離し信哉も、腕を組みながら言った。

 「二人でああでもないこうでもないって相談してたから

  ちょうどいいやと思って…ってどうしたの? 何か震えてない?」
 
 信哉はこの時、自らスイッチを押した。
 
 「信哉のばかぁーーーー!」

 「祐一さんの鬼畜ーーーー!!」

 自爆のスイッチを。








 エクシードブレイブス 第17話

 初夏の訪れ











 「あー痛て。何で二人ともあんなに怒ったんだよ?」

 祐一は頬をさすりながら言った。綺麗にもみじの後が残っている。

 元、病弱少女も女の切り札は強力だったようだ。

 気づかない祐一も祐一だが。
 
 一方、気づいた信哉のほうは真理奈の機嫌取りに必死だ。

 「悪かったってば、真理奈…」

 「乙女の純情をもてあそんだ…」

 そう言うとまた信哉に背中を向けて拗ねる。
 
 機嫌を損ねると真理奈は、怒るでもなくヒステリーを起こすでもなく
 
 こうやって拗ねる癖がある。

 「あー…えーと…なあ真理奈? そろそろ機嫌直さないか?

  フルーツパフェおごるからさ」

 「……」
 
 ギギギギとでもいいそうな感じに首だけ信哉のほうを向く真理奈。

 「…あーんってしたら食べてくれる?」

 上目遣いで甘えるように聞いてくる真理奈。

 信哉は今、決断を迫られている。

 「………わかった」

 彼は今堕ちた。

 「じゃ許す〜♪」

 くるっと笑顔で回転して信哉のほうを向き直る真理奈。

 容姿は大分大人びたものの、童顔と甘え癖の残る性格のせいか

 信哉にはまだまだ真理奈は子供だと感じた。

 といっても一つしか違わないのだが。

 (俺が研究所で精神的に年取りすぎたのか?)

 その自問自答には誰も答えられなかった。

 やれやれと、信哉は真理奈を連れて席に戻ってくると

 「あれが祐一さんの手口なんですね。ああやって女性を食い物にしてるんですね」

 「いや…だから…」

 こっちはこっちで未だに栞をなだめている祐一の姿があった。

 どうやら紆余曲折を経て、祐一が結婚詐欺師のような話に発展したらしい。

 このときばかりは想像力(妄想?)豊かな栞に

 信哉はただ感心したという。

 「大体、栞を騙してどうする。取るようなものないだろう」

 「ひ、酷すぎます! そんなこという人嫌いです!

  …確かに何もありませんけど」

 埒が明かない。

 女性を勘違いさせることが多い割に扱いは一向に慣れない祐一。

 まあ、この年で女性を扱う術に長けていたらそれはそれでいやな少年だが。

 「まあ俺が原因なのはわかったから謝る! ごめんなさい!

  お詫びにハーガンダッツのアイスを俺がおごろう!」

 どうやらようやくとりなす方法を思いついたらしい。

 というか最終的に自分と同じ手段に陥った祐一を見て

 少し信哉は悲しくなった。

 「じゃあ許します。ただし祐一さんも一緒に食べてもらいますよ

  いいですよね?」

 少し語尾が強調されていた。

 「ああ、一緒に食べるくらいいいぞ」

 何も気づかない男、祐一ここにあり。

 信哉はこの先、栞のペースに乗せられる祐一の未来予想図が見えた気がした。

 こうして4人はようやく同じ席について相談を始めた。

 ちなみにクルー達の間では、この様子は完全に痴話喧嘩として取られたらしい。









 ――霧島研究所 ドック

 「ふむ、この案で改造をしてほしいと?」

 聖は、祐一と信哉から手渡された資料を見た。

 「相談したんだが、フラムベルクは原型になったアルトアイゼンより

  装甲面は弱体化してる。機動力もやっぱりMSにはかなわない」

 「ああ、とはいっても装甲に関してはオリジナルとはほぼ変わらないはずだ」

 聖の返答に信哉が口を挟む。

 「だが、今後の戦いでそのわずかが決定的になりかねない。

  特に前回のOF戦では祐一の機体ではあの触手の攻撃を回避することは出来なかった」

 「ああ、装甲ではあの攻撃に耐え切れず回避力では避けきれない」

 ふむ…と聖はうなずいた。

 「そこで考えたのが、防御面と出力の強化。ヒュッケバイン搭載の

  『グラビティ・テリトリー』の単体バリア型のシステムを搭載できないか?」

 祐一の提案に聖は顔をしかめる。

 「『グラビティ・テリトリー』か…。だが今の通常用エンジンの

  フラムベルクでは出力が足りない。陸戦化しても機動力が落ちるぞ」

 「それはわかっている。だがその点は、倉田研究所の新型のテスラドライブに

  積み替えることで改善できるはずなんだ」

 なるほどな、と聖はうなずいた。

 「エンジンの軽量化と出力強化を同時に行うのか。確かにそれならば

  広域バリア型でなければ十分可能だ。ただし念動操作にかなりの負担がかかる。
 
  君への負担がな」

 「それは覚悟の上だ。元々あのフラムベルクはサイコドライバー以外には動かせない。

  あのシステムを理解できる研究者はアザゼルを除けば、あなただけだ霧島先生」

 「わかった。早速部品の手配をしよう。それほど大掛かりなオペではない。
  
  二日もあれば完了するだろう」

 聖はパタンと資料をファイルに閉じた。

 続いて信哉の資料に目を通す。

 「…これはまたずいぶんと思い切った改造だな…。サブウェポン追加、
 
  ブレード部分のメタトロンの純度強化による攻撃力の増加。

  機体の性能よりも足りない武装を補う感じだな」

 「まあ、クラウ・ソラスのサブウェポンはいくつかアザゼルにプロテクトが

  かかっているんでそれを外せばいいはずです。ただ…ブレードの攻撃力不足は…」

 「わかった。こっちのほうは単純明快だからな。エネルギー系の強化も兼ねて

  やっておくよ」

 聖はふふふと笑って

 「久しぶりにいじりがいのある機体だ。最近は戦術機ばかりだったからな」

 白衣をばさっと羽織って颯爽と機体に向かっていく聖。

 途中で二人を振り返り

 「それにしても二人ともずいぶんと気に入られているようだな」

 「はあ?」

 祐一の間の抜けた返答に聖は押し殺した笑いを浮かべて

 「ロビーでのやりとりはもう話題のタネだぞ。

  痴話喧嘩は目立たないところでやるんだな」

 それだけ言うと聖は二人の反論を待たずに去っていった。
 
 罰の悪い沈黙が二人を包んだ。

 考え込んでも仕方がないので、二人はドックを出た。

 ドックでは整備班のメンバーが所狭しと機体の整備にあたっていた。




 ――研究所廊下

 「話は終わった?」

 ドックを出たところで二人を出迎えたのは真理奈と栞だった。

 先ほどの聖の言葉が脳裏によみがえりなんともいえない

 感情が二人に湧き上がる。

 だがよく見れば二人とも満面の笑顔で今か今かと待っているように見えた。

 それはさながらお預けを喰らった子犬のようで愛嬌があるようにも見えなくもない。

 気を取り直して

 「ああ」

 祐一は軽く返事をした。

 そこで栞に腕をとられる。
 
 「それじゃあ、ご褒美の時間ですね」

 「ああ…そうだな。でもこの町って田舎だろ?」

 ちっちっちと栞は指を振った。

 「この美少女栞ちゃんをなめてはいけません。
  
  アイスのことならたとえ火の中水の中。

  ちゃーんと下調べはしてありますよー」

 「火の中でも水の中でもアイスは溶けるだろ…」

 「も、物のたとえって奴です!」

 はははと祐一は笑って栞の頭を撫でた。

 「じゃそういうことにしておくか」

 「えぅ…そんなこという人嫌いです」

 でも栞は笑顔で祐一にされるがままになっていた。

 「真理奈は? ちゃんとフルーツパフェがありそうな
  
  店は見つけたのか?」

 「うん、あったよ」

 どうやら一緒に下調べをしていたらしい。

 「それじゃ行きますか。頭使ったから俺も腹減ったし」

 そういって4人は研究所の入り口から外へ出た。

 外はもう初夏の日差しだった。

 照らす太陽が夏の訪れを告げていた。

                                続く


祐一    「おお! 機体強化!?」 局長    「体感的にはそれほど変わらないが…運動性とバリアの追加だな」 信哉    「でもフラムベルクにはB・コートがついてなかったか?」 局長    「あれが外れることになる」 名雪    「本当に微妙な改造だお〜」 局長    「まあ、主人公機は二度三度パワーアップするのは常識」 あゆ    「うぐぅ」 SSのTOPに戻る