――霧島研究所
 
 「ようやく完成か…」

 聖は暗い収納庫の中に淡く光をたたえる黄色の戦闘機を見つめてつぶやいた。

 恐ろしく切れる刃を想像させるフォルム、輝く金色のような黄色。

 「お姉ちゃん〜。もう出来たの?」

  「ぴこぴこ?」

 そこへ、ショートカットの少女が毛玉のような生物を抱えて入ってきた。

 「ああ、佳乃。完成したよ、お前の機体だ」

 「わ、やったね〜ポテト」

 どうやらこの生物の名はポテトというらしい。そして嬉しそうな顔をする佳乃に対し

 聖のほうは複雑な表情を浮かべている。

 「佳乃、考え直さないか? これに乗ればもう後戻りは出来ないのだぞ」

 「むう、お姉ちゃんくどい。しおりんと約束したし、私だけ戦わない

  わけにはいかないよ」

 妹の考えは変わらず。聖もそこまで言い切られてはもう反対することは出来ない。

 「仕方ない、ならば私は絶対無敵の機体でお前を守るとしよう」

 「そうそう、大丈夫だよぉ。お姉ちゃんの作ったロボットなら
 
  絶対負けないって。ね、ポテト」

 「ぴこ」

 (佳乃…この世に絶対はないんだよ…。そう私にも不可能はあるんだ。

  この世界のどこにも『絶対』安全な場所は確かにない。

  だが…進んで戦場にいくよりはここの方が安全なのは確かなんだが…)

 だがそれを聖は口に出すことはなかった。

 信じないより、信じていることのほうが強いこともある。

 少なくとも今の佳乃には、理の現実よりも

 姉の機体に敵はないと信じることのほうがきっと強さになる。
 
 「後は、機動実験だな。ポテト、美坂さんを呼んできてくれ」

 「ぴこぴこ」

 返事(?)をしてポテトは佳乃の腕からするりと抜け出て走っていった。

 「さてと、それでは皆にお披露目と行くか」
 
 ふっふっふと嬉しそうに聖は笑みを浮かべた。








 エクシードブレイブス 第20話

 破壊者の聖剣











 ――霧島研究所 滑走路

 滑走路のほうでは、戦艦などの大幅な移動が行われていた。

 変わりに取り付けられているのは無人機の模擬戦用の簡易戦闘機だ。
 
 昼ごろからにわかに慌しくなった研究所内でここだけ妙に浮いていたので

 エクシードブレイブスのメンバーの中にも何事かと、滑走路の見える道路に

 集まっていた。

 「一体何が始まるんでしょうねえ?」

 「…わからない」

 佐祐理と舞もそのうちだった。
 
 意外に野次馬根性のあるお嬢様である。

 と、そこへ

 「ぴこぴこ〜」

 奇妙な泣き声(?)が廊下に響いた。

 「はぇ? 何でしょうかあれは?」

 「…犬?」

 動物好きの舞でもさすがにポテトを区別するのは難しかったようだ。

 とことこと歩くとやがて栞の前で足を止めた。

 「ぴこぴこ」

 「あれ? ポテトじゃないですか。佳乃さんはどうしたんですか?」

 「ぴこぴこ〜」

 「え? アレが完成したんですか? それじゃ実験を始めるんですね?」

 「ぴっこり」

 「わかりましたすぐに行きましょう」

 ポテトに先導される形で栞は後をついていった。

 その場にいた誰もが

 (一体どうやってコミュニケーションを取っているんだろう…)

 と思った。

 「…うらやましい」

 舞にとってはどうやらポテトと意思疎通が出来るのは羨ましいようだ。








 ――研究所 収納庫

 すでに準備万端だったデストロイヤーに乗り込む栞。

 「それじゃ美坂さん、打ち合わせどおりにやってくれ」

 「はい、わかりました」

 栞はデストロイヤーを発進させる。

 開いたハッチに向かって少しずつ上昇を始める。

 そして少しまぶしいと思った次の瞬間には

 広い滑走路の景色がモニターに広がっていた。

 「しおりん〜行くよ〜」

 「はい、佳乃さん準備は大丈夫ですよ」

 栞は一応上空に目を向ける。
 
 以前見せてもらった黄色の戦闘機が太陽の光を受け

 まぶしく輝いている。

 「それでは二人とも始めてくれ」
 
 聖の声を合図に栞と佳乃はそれぞれの機体の特殊ボタンを押す。








 「うーん一体何が始まるんだろう?」

 希望は首をかしげて滑走路でのやり取りを眺めている。

 「霧島聖作の合体機のお披露目よ」

 野次馬達にそう告げたのは夕呼だった。

 「合体機?」

 「デストロイヤーはグルンガストをベースに作り上げたものだけど

  美坂の能力が今ひとつなのもあって格闘系にやや難があるのよ。

  そしてあの黄色い戦闘機に乗っている佳乃も格闘のセンスは

  抜群だけど、射撃がいまいち。そこで互いの苦手を補うのに聖が

  考えたのがあの戦闘機「エクスカリバー」なのよ」

 「でも、それってお互いに乗っている機体を取り替えれば

  済む様な気がするんですけど…?」

 小町の意見はもっともだった。

 「美坂は回避運動が下手だからリアル系に向いていないのよ。

  佳乃は防御行動が苦手だからスーパー系に向かない。

  本当あの二人は困った才能の持ち主よねえ」

 心底呆れたように夕呼はつぶやいた。

 「ま、それを返って長所に出来るようにしたんだから
 
  結果オーライってことなんじゃない?
 
  それよりそろそろ始まるわ。見ものだから見ときなさい」

 夕呼の言葉に、またみんなは滑走路の二人に釘付けになる。












 「我、求む! 金色の聖剣を!」

 栞が叫び、デストロイヤーが空へと飛ぶ。

 「我っ、答えるぅ! 破壊者の望む剣を!」

 佳乃が答え、エクスカリバーがデストロイヤーに向かっていく。

 エクスカリバーの機体が変形する。

 短めの両翼がさらに広がり剣の鍔のようになる。

 その中心にあったコックピットは分離し、デストロイヤーの

 コックピットに組み込まれる。

 エクスカリバーは機体保護用のジャケットをパージし、

 触っただけで切れそうな刀身をむき出しにした。

 そして後部のバーニアが格納され、変わりにグリップが精製される。

 そこをすかさず右腕で掴み取るデストロイヤー。

 「ソード・コネクト!」

  ガシン!!
 
 しっかりとデストロイヤーの右手に納まるエクスカリバー。

 「コックピット収納! シンクロ率100%、各計器類異常なし!!」

 そして二人は吼える。

 「汝は洗練されし金色(こんじき)!!」

 「華美なる光、闇を断つ剣なり」

  「「その名は――『エクスカリバー』」」

 そしてデストロイヤーは天に向かってその取り出した剣をつきたてる。

 今ここに金色の聖剣は破壊者の手に握られた。










 「……」

 その場にいた全員が唖然としていた。

 デストロイヤーの脅威の合体にではない。

 …その恥ずかしいまでに熱い台詞にだ。

 むしろあの二人じゃなきゃ絶対に言えないだろう。
 
 「どう? あれが聖の傑作デストロイヤー・マスタリングよ」

 「香月先生…どう? って言われても…」

 純夏は困ったように返事をした。

 むしろなんとコメントしたものか。

 趣味は悪くない。形状もかっこいい、それは間違いない。

 だが、あの台詞の一体何を理解しろと?

 「ちなみにあの台詞を言わないと合体できないようになっているわ」

 (何故!?)

 再び全員の心の中が一致する。

 正常な人間なら誰もが思うだろう。

 「合体時に台詞を言うのはお約束よ。音声認識で合体機構が動くようになっているから

  オートで合体、失敗も無し。至れりつくせりでしょ?」
 
 「合体のたびにあの台詞を言うのはちょっと…」

 さすがの雪見も困った表情を浮かべた。

 ましてや、あれに乗っているのは年端も行かない少女だ。

 「まあまあ。あの二人ノリノリみたいだからいいじゃない」

 むしろあの二人以外ノリノリでなど出来ないと、再び皆は思った。









 「ふむ、計算どおりに行ったか。それじゃ武装テストに移る。

  追加された武装は二つ。射撃系は美坂さん、格闘系は佳乃が担当できるようになっている」

 「了解だよぉ、お姉ちゃん」

 「えーとこれですね」

 栞は追加武装の概要を軽く流し読む。

 そして、

 「それじゃ、まずは私から行きますよ!」

 「おっけーだよぉしおりん〜」

 デストロイヤーが急速発進し、その勢いにのせるように

 エクスカリバーを水平に構える。

 「狙いは外しません! 聖剣一刀!! ゴールドウェイバー!」

 キュオオオ…

 エクスカリバーの刀身にエネルギーが集まり淡く光を帯びる。

 そして、そのまま水平に剣をなぎ払う!!

 ゴウッ!!

 ズガアアアン!!

 高スピードのエネルギー光波は、模擬戦用の無人機を真っ二つに切り裂いた。

 無論、無人機も入力された命令により回避運動を取ったが

 栞の攻撃は、それを無駄にするほど早かった。

 「ぴこぴこ〜」
 
 コックピットの中で拍手するかのように動くポテト。
 
 「照れますよ〜ポテト」

 栞はポテトの言語を理解したらしく、顔を少し赤くして照れている。

 「それじゃあ次は私だね」

 操作系が佳乃に移り、地面に向かって降下する。

 狙いは当然地を這う無人機だ。

 「逃げ場はないよ! 聖剣、いっとう〜! ライトニング・スマッシャー!!」
 
 今度はエクスカリバーはバチバチと音を立て始めたかと思うと

 発電を行い、放電現象が起こりだした。

 エクスカリバーにはエネルギーの変換機構もついているので
 
 その気になれば発火現象、冷凍効果も起こせるだろう。

 ただ効率の面では、地上と宇宙、両方に効果的なのは電撃と判断したので

 聖がそれ以外の変換法則は取り入れていないだけである。

 急降下と奇襲。

 そして電撃。

 重力加速度にしたがって一気に振り下ろされる雷光の一撃。

 破壊者がもたらす破滅の剣。

 雷光が剣の威力をさらに引き上げそして

 ズガアアアアン!

 哀れな無人機は木っ端微塵に炸裂した。

 あたりにばらばらと焼け焦げた破片が降り注ぎ、先ほどの爆発による

 煙がもうもう立ち込める。

 その中に立ち尽くすデストロイヤー。

 どうやら命中時に蓄積した電撃を開放するシステムもあるらしい。

 こうなると、無人機にとっては計器類に異常をきたす例も出てくるだろう。

 その様子をしっかりとモニターしていた聖は

 「ふふふ…これで何者も佳乃の命を脅かすことは出来まい。

  だが念には念を入れなければな…まだまだ改良の余地はある。ふふふ…」

 霧島聖、妹が絡むと豹変する優秀な科学者。

 彼女の本業は医師だったはずだが、どうやら天才というのは何でもこなしてしまうらしい。

 ましてや、自身の大切なものが絡めばなおさら、である。












 夕食時のロビー。すでに話題は昼間公開された栞たちの機体で持ちきりだった。

 「それにしても…すごかったね。栞ちゃんたちの機体」

 こだまはまだ興奮冷めやらぬといった感じだ。

 「…私も負けられない」

 同じ剣を持つものとしてのライバル意識が舞にも芽生えたらしい。

 先ほども佐祐理と、自身の攻撃力を上げる方法について討論していたのだ。
 
 もっとも白熱した論争は、舞の一言

 「…おなかがすいた」
 
 で、あっさり片付いたのだが。

 和気藹々と食事に親しむ面々の中に、ロビーのドアが開く音が入る。

 少し険しい顔をした秋子が入ってきた。

 いち早く普段の顔でないことに気がついたのは名雪だった。

 「お母さん…どうしたの? 顔色少し悪いよ?」

 「あら…ごめんなさいね。表情に出てたのかしら…」

 普段秋子はよっぽどのことがない限り、つらさを表情に出すことはない。

 ましてや名雪が気がついたのだからよっぽどのことなのだと

 その場にいた誰もが思った。

 「水瀬艦長、何か困りごとがあるのなら申してくれ」

 「そうですよ。何かあったんでしょう? 艦長」

 冥夜と雪見が同時に声をかける。

 「御剣さん…深山さん。そうね、心配かけてごめんなさいね」

 ふうっと少しため息をついて、だがそれで落ち着いたのか

 いつもの表情に戻った秋子は、

 「かなり厄介なことになりました。エクシードブレイブスは

  二隊に別れ、火星攻略作戦を展開します」

 そのいきなりな発言に誰もが驚いた。

 昼間のことなどその言葉ですっかり吹き飛んでしまった。

 誰もが次の言葉を発せず、ただ呆然と秋子を見上げていたのだった。

                                 続く


聖     「ちなみに今回登場したエクスカリバーだが…」 佳乃    「局長が、のぼやさんにいただいたものなんだよぉ」 聖     「全く…頭が下がる思いだな…他にも色々参考にしたようだし」 佳乃    「のぼやさんありがとうございました〜」 SSのTOPに戻る