――霧島研究所 ミーティングルーム 夕刻、エクシードブレイブスのメンバーは秋子の号令の下 緊急集合をかけられた。 事情を知るものは少し表情に緊張が入り、知らないものは何事かと 疑問を浮かべている。 四角いテーブルの周りの席は徐々に埋まっていき、中央の席には モニターを背後に秋子や真那などの幹部クラスのメンバーがついている。 二人は冷静だった。 いや冷静にならねばならない状況だった。 「すいません遅れました」 最後に到着した信哉がドアを閉める。 そして空いていた真理奈の隣の席に着くと、それまで会話を交わしていたものたちも 自然と口を閉じ室内は静寂に包まれた。 その様子を確認し、秋子が口を開く。 「それではまず状況について説明します。事は2日ほど前のことになります」 モニターに映し出されたのは赤い星。 周りにいくつものコロニーを衛星のように浮かべているその姿は火星だった。 光点のように光の玉が発生するところを見ると交戦中の火星の衛星映像のようだ。 「バフラム・リベンジャーが宣戦布告の元、火星政府中枢に攻撃を開始しました。 今までは多少の小競り合いこそあったものの、大々的に火星に攻撃を始めたのは 今回が初めてのことになります。おそらくなんらかの切り札を得たのでしょう」 映像が切り替わる。火星軍のOFとバフラムのラプターとの戦闘映像だ。 性能的な面や、統率などは決して引けを取っていない。だが数が圧倒的だった。 モニター右上にはこの戦闘における両軍の戦力を数値化したものが棒グラフで表示されている。 その差は明らかだ。バフラムの戦力値が単純に600に対し火星軍は200…。 分析結果だけで3倍の差が開いている。これは今回のような正面切っての 戦闘においては絶望的な数字だ。 「本題はここからになります。心して聞いてください」 エクシードブレイブス 第21話 そして子供たちは宇宙へ 「これに対し火星は地球に援軍を要請しました。火星が落とされれば すでに地球にちょっかいを出しているバフラムのこと、地球をターゲットにするのは 目に見えています。ですがここで連邦上層部の出した決断はこうです。 …援軍を出すかわりにバフラム制圧後は、治安維持のために火星を当分 地球の管轄化に置く」 バン! と机を叩いて立ち上がったのは雪見だった。 その音に皆の視線が雪見に集中する。 もっとも半分寝かけていた名雪はその音で起きたようだったが。 「冗談じゃありません! 火星の人たちが今の状況を作るのにどれだけ 苦労したと思ってるんです!? それでまたゴタゴタにかこつけて… それじゃやってることは侵略戦争と変わりません!」 「落ち着いてください雪見さん。無論私もそう思いますし 火星もそのような条件を呑めるはずがありません。 ですが、火星だけではすでに相手に出来ないほどバフラムは増長しているのです。 現にこの報告の数時間後、地球付近のコロニーに滞在していたバフラム駐留軍は 火星方面に向けて引き上げました。おそらく総力を上げてまずは火星を 掌握する気なのでしょう」 「つまり連邦以外で火星に戦力を送らなければならない…と?」 雪見はそこまで言って席に着いた。 秋子は黙ってうなずく。そして真剣な目つきで皆を眺めた。 言葉を発するのを少しためらっているようにも見える。 だが秋子は口を開いた。 「そこで私と月詠さん、そして珠瀬長官の結論は… アンリミテッドのみで火星に向かってもらう…ということです」 「ええっ!?」 誰が上げた声かはわからなかった。 誰もが驚愕の表情で秋子を見ている。 「アンリミテッドは元々御剣財閥の管理下の元に指揮された独立自営団です。 つまり連邦の息はかかっていない…。アンリミテッドが火星を助けても 見返りを要求するのは御剣財閥ということになります。そこに連邦が口を はさむ余地はありません」 「当然、アンリミテッドは自営団。人助けに見返りなど要求いたしません。 つまりは無料奉仕ということになります」 そこへ月詠が付け加える。 「ですが、限られた戦力で戦うのはアンリミテッドに属する人たちの仕事です。 ましてや激戦区に万全ではない状態でいくのですから強制はしません。 降りたい方は申し出てください。誰にも異論は挟ませません」 皆はしばし黙って考えた。 確かに危険は伴う、ましてや無事に帰れる保障などありはしない。 未知の領域 友との別れ 死と隣り合わせの世界 だが、誰もそこで降りることを望んだものはいなかった。 恐怖でもなく、義務でもなく。 自らの意思で戦場に挑もうとするまなざしを秘めた者達がそこにはいた。 秋子もその表情を肯定の意思と取り 「…本当にいいのですね?」 「はいっ!」 その場にいた全員は元気よく返事を返した。 秋子は嬉しい反面、このような世界を少しばかり憎かった。 何故子供たちを戦場に送り出さねばならない。 何故、自らの保身しか考えないものが組織の上にいるのか。 そしてそれを正す力が何故自分にないのか。 彼女は苦悩した。だがそれは今、すべきことではない。 出来ることは先人として、子供たちを守ることだ。 知識で、戦略で、そして心の支えとして。 迷い苦しむだろう子供たちを少しでも支えるために 秋子もまた戦う決意を胸に秘めた。 ――1時間後 「問題は編成ですね…」 舞台宇宙がメインになる。アンリミテッドという部隊枠の中なので 「白銀さん、御剣さん、鑑さん、珠瀬さんは宇宙行きですね。 残りのメンバーとは出発前に合流する予定になっています」 秋子がそう言うと不思議そうに冥夜は 「そういえば彩峰や榊が戻ってきておらぬな。月詠?」 「現在、お二方の戦術機のオーバーホールが済んでおりません。 もう間もなく完了するとの事でしたので…」 「そうか、ならば出発は倉田研究所に寄ってからということになるのだな」 月詠は肯定の意を込めてうなずいた。 「それじゃあ佐祐理と舞も宇宙に上がりましょう。OFは宇宙戦に向いてますから〜」 「…はちみつくまさん」 二人がそう言ったので真理奈も 「それじゃあ私も宇宙に行きます」 誰も異論を挟まなかったのでメンバーは決定した。 だがその後が問題だった。 何しろ地上にもそれなり、いやかなりの戦力を残しておかなければならない。 偏りを出すわけには行かないので相談は難航していた。 「そうね…私と八重が宇宙に行こうかしら。どう八重?」 「そうですね、ある程度MSもいたほうがいいでしょうから」 つばさとひかりがそう進言した。 「でもMSなら俺達も…」 浩平が口を挟んだが 「私のトーラスは宇宙向きだからね。折原みたいな万能型は 地上にいたほうがいいっしょ」 そこへよせばいいのに舞人が茶々を入れる。 生来のからかい癖が出たようだ、困ったものである。 「本人は二面性なのにな」 「や、さくっちみたいに馬鹿正直よりはいいでしょ」 「ほう言うではないか。この厚化粧少女」 「そのココロは?」 「化粧前と化粧後で顔が二つあります」 「あはははは、面白い。で? 何か言うことは?」 「すいませんでした」 何故舞人が謝ったかと言えば簡単な話だ。 つばさの手が素早く舞人の首に食い込んだからだ。 うかつな発言を残せば本当に逝ってしまっただろう。 「そうね…バランスを考えるならこれで決定かしら」 秋子はファイルに詳細をまとめそして二人の少年に目を留めた。 「祐一さん、信哉さん。貴方達はどうしますか?」 「「え?」」 二人は同時に声を上げた。 てっきり自分達も声がかかると思っていただけにその発言が意外だった。 「貴方達はアザゼルからの逃亡中にアンリミテッドに所属しただけです。 ですから…」 「ちょっと待った秋子さん。その先は無しだ」 「ええ全くですよ」 祐一は秋子の発言をさえぎった。 全く何を言うかと思えば、といった表情だ。 「降りるつもりならさっき秋子さんが聞いたときにそう言ってます。 それに…今更そんな他人行儀な言い方はないでしょう? 俺達はもう最後まで付き合う覚悟を決めてますから」 信哉もそれに続く。 「それにアザゼルとの決着もここにいればつきそうな気がしますし… 遠慮無しです。とことんまでやりましょう」 そういって二人で顔を見合わせてにいっと笑った。 そんな二人の顔を見て自分の心配が杞憂であったことを悟った秋子。 むしろいらぬ気を使わせてしまったことのほうが心苦しかった。 「わかりました。それでは祐一さんが地上、信哉さんには宇宙に上がってもらいます」 「「了解」」 ――通信室 「そういうわけでアンリミテッドを宇宙に上げることにします」 「そうか…実はこの件に関してきな臭い噂を聞いた」 秋子は珠瀬長官の発言に眉をしかめる。 「…フォースチルドレンプロジェクトですね?」 「そうだ。連邦上層部の中にも狂信的に信じているものがいるかもしれん。 先の相沢君たちの発言と絡めると…アザゼルが一枚買っている恐れがある」 「長官は内部の動きに気を配ってください。前線は私と月詠さんがいますから」 「わかった…くれぐれも用心してくれ。敵はどうやら外だけではないらしい」 「全てはメビウスの輪のようにつながっている…というわけですね」 くっくっくと苦笑いを浮かべる長官。 その表情からは何か織り交ざった複雑な表情が浮かんでいる。 「全く…腐った輪はやはり一旦断ち切らねば正常にならないのだろうか? こんな未来を…誰が望んだというのだろう?」 「私達には未来は作れませんよ。未来を紡ぐのはいつだって子供たちです。 私達はそれをただ手伝うことのみ…大丈夫です。あの子達は 大人の汚い欲望に負けはしません。権力があの子達を抑えようとするのなら それを止めるのが私達の仕事でしょう? まっすぐに、ただひたすらに 信じる未来のために走るあの子達の邪魔は決してさせません」 「そうだな…いかんな年を取ると悲観的になる」 「あらあら…いけませんよ? まだ壬姫の花嫁姿だって見ていないのに」 「うむ、孫をこの手に抱くまでは死ぬわけにはいかんからな!」 娘の話で途端に元気になる長官。 親馬鹿パワー発動だ。秋子もつい悪ノリする。 「私も三人の娘がいますからね…誰が一番速く母親になるのかしら…。 案外真琴かもしれませんね。名雪はのんびりやさんだし、あゆちゃんは 少し奥手ですからねえ…」 いつの間にか堅苦しい談義は、自分達の子供の未来展望談義へと変わっている。 というか、軍用の通信(無論、盗聴対策は万全だが)で そのような世間話をしててもいいのだろうか? 悲しむべきはここに突っ込みを入れるものが誰一人としていなかったことである。 続く
祐一 「よいよ宇宙出発か…」 局長 「ちなみにBGMは第2次αがメインになってます」 栞 「雰囲気に合わせた曲をセレクトしてお読みいただけると臨場感が出ますよ」 祐一 「会話がかみ合ってないぞ…」 SSのTOPに戻る