――霧島研究所
 
 宇宙への進撃準備も兼ねて、やおら忙しい霧島研究所

 物資、道具、人員…母艦に積むものは山ほどあり、それに伴い

 何かと雑用も増える。

 いつ戦闘になるかもわからないこの状況では出来ることはやっておくべきだと

  メンバーは個々に散り散りになり、作業を分担して進めている。

 だがこういった個人作業の場合、例外なく能力による差が出てくる。

 当然のことながら力仕事は男性が担当しているが、少ない人員を

 割いての作業であるので必ずしも適材適所とはいかない。

 そんな不幸に見舞われたのは月宮あゆだった。

 箱の中に入っているのはメンテナンス、作業班用のロボットの設計図。

 ところがこれが結構な量があり、箱は思いのほか重く

 階段が上がれなくて母艦まで運べずに頓挫していた。

 「うぐぅ…どうしよう」

 一向に持ち上がらない箱を前にあゆは困り果てていた。

 その姿はまるで中学生だ。

 クルーの中に危ない趣味に目覚めた一部の人間がいるのはおそらく彼女のせいであろう。
 
 と、その時上の階段から誰かが下りてくる。

 「ん? 月宮、何やってんだ?」

 荷物を片付けた舞人だった。

 手には軍手をはめている、彼も例に漏れず重労働担当だったらしい。

 「あ、桜井君これが重くてもちあがらないんだよ…」

 「なるほど、うぐぅには重すぎたわけだ」

 最近、祐一の影響を受けたのか(元の性格?)結構あゆをからかうことが多い舞人。

 「うぐぅ、ボクうぐぅじゃないもん」

 「はっはっはこのジェントル舞人の前で嘘をつくとは失礼なお嬢さんだ」

 「ジェントル?」

 舞人のジョークに本気で聞き返すあゆ。

 少し返答に困ったが、舞人は

 「紳士のことだ。紳士。礼節を重んじ、レディファーストを心がける

  ナイスガイのことだ」

 「そうなんだ。それじゃあじぇんとるの桜井君は困ってる女の子を見捨てたりしないんだね」

 「もちろんだとも。倒れていたら手を差し伸べてハンカチまで差し上げてしまうぞ」

 「じゃあボク困ってるから手伝って」

 「うぐぅ…」

 一本取られた、舞人はそう思った。

 見ればニコニコと自分を見上げている。

 勝利者の笑みだ。

 あゆにしてやられるような男もそうはいまい。

 「…わかったよ」

 敗北者の表情で舞人は箱を持ち上げた。

 背中にはこれでもかといわんばかりの哀愁が漂っている。
 
 「ありがとう桜井君」

 隣に付き添うようについてくるあゆはそう言った。

 まあ別に自分の仕事が詰まっているわけでもないので舞人は素直に運ぶことにした。

 「ん?」

 「どうかしたの?」

 その時舞人は背後からなにやらプレッシャーのようなものを感じた。

 後ろをちらっと見てみるが誰もいない。

 「いや…背後から視線を感じたんだが」

 「うぐ、ボクじゃないよ」

 「当たり前だ。お前の目は前についているだろう。

  どうやって隣にいる人間が後ろから視線を向けられるんだ」

 「もしかして…幽霊?」

 「そんなわけないだろう。気のせいだ」

 「う、うん」

 「何だ? 月宮ってもしかしてそういうの苦手なのか?」

 「そういうのって?」

 「幽霊とかの類だ」

 「うぐぅ! ダメだよそういうのは話し出すと寄って来るんだよ」

 「なるほど苦手なんだな」

 はっはっはと和気藹々に階段を上る二人。

 その後姿をジト目で嫉妬の視線をそそいでいる少女がいたことを

 舞人は知らない…。
 
 「さくっちの…馬鹿」








 エクシードブレイブス 第22話

 結ばれる思いと、消えゆく思い











 「なあ…」

 「ん?」

 いち早く異変に気がついたのは浩平だった。

 備品の積み込みをしていた山彦を捕まえてなにやら話し出す。

 「星崎のやつ…何かあったのか?」
 
 「あ?」

 山彦は希望に視線を向けた。

 なるほど、明らかに「私不機嫌です」という顔をして

 備品ごとに箱を整理している。

 「舞人の奴何かやったのか?」

 「まあここで星崎が不機嫌になる理由なんか一つしかないか」

 はあやれやれ、といった感じで顔をあわせる二人。

 「しかしこのままだと雰囲気が悪いな。一言忠告しておこうぜ」
 
 「そうだな、ったく舞人の奴少しは女心に気を使えっての」

 山彦は呆れたようにつぶやいた。

 しかしそんな思いも虚しく運命の神とは時に残酷な展開を用意する。






 「う〜! う〜!!」

 「今度は鑑か…。何やってんだよ」

 「あれ? 桜井君? うーんと食料の積み込みをしようと思ったんだけど

  …あはは。ちょっと量が多くて持ちきれなくて」

 「そうか、それじゃあ頑張ってな」

 「あ〜! ちょっと待ってちょっと待ってよ!」

 「荷物もちなら白銀に頼め。俺は知らん」

 「タケルちゃんにはもう頼んだの! それでも手が足りないんだよ!!」

 「…どうしてこうも自分のキャパシティを考えない奴が多いんだ…」

 「だ〜か〜ら〜手伝って〜」

 逃げ口上が思いつかない舞人。

 おそらく承知するまではずっとまとわりつくだろうことが容易に予想できた。

 「しゃあねえな。この箱一つだけ持ってくからな」

 「うんありがと♪」
 
 先ほどとは打って変わって笑顔。

 どうやらこの手の頼みごとにはなれているらしい。

 はめられたかなと思いつつ、舞人は箱を母艦に運ぶことになった。

 「どうもね桜井君〜。ってきゃあ!」

 「あぶね!」

 舞人は持ち上げようとした箱を素早く置き、けっつまつづいた

 純夏を軽く支えた。

 近場においてあった小さな箱を純夏は見落としたらしい。

 「あ、危なかった〜」

 「ったく気をつけろよ…」

 そしてさらにその後方…。

 廊下の曲がり角にたまたまいた希望は声こそ聞こえなかったものの

 一連のやり取りはしっかりと目撃してしまった。

 「…さくっちの馬鹿」







 ――霧島研究所ロビー 

 「で、だ」

 「ああ…」

 舞人は数人の隊員に詰め寄られていた。

 浩平、山彦、つばさ、冥夜の4人である。

 その少し後ろのほうではどす黒いオーラが見えそうなくらい不機嫌な希望。

 数時間の間にこれだけ表情が変われば嫌でも気づかれる。

 そういうわけで原因としか思えない舞人に詰め寄ったというわけである。

 「気づかないうちに何かしたんだろ?」

 「とにかく謝っておけって」

 とはいえ見に覚えがないのに謝るのもなんとなく腑に落ちない舞人。

 救いを求めてつばさに相談するが

 「や、どう考えてもさくっちが原因としか考えられないっしょ」

 ぐうの音も出なかった。
 
 「むやみに人を疑うものでもないが…しかし星崎があれほど感情を

  表に出すのは桜井、そなたとかかわったときだけだと記憶している。

  やはりそなたから一歩譲るべきではないか?」

 冥夜も完全に舞人に非があると思っている。
 
 まあ実際非といえば非なのだが。

 「う〜む…」

 舞人とて希望との付き合いは決して短くはない。

 確かにここまでへそを曲げてしまった以上自分から動くのが

 一番セオリーのような気がした。

 意を決して希望の座っている席に近づいていく。

 「あ、あのさ希望」

 「何でしょうか?」

 怖い、舞人は素直に思った。

 ジト目でこっちを見上げていやに丁寧な話し方をするときは

 希望の機嫌はかなり悪い。

 「えっと…」

 「用がないなら話しかけないでください。忙しいんです」

 ちっとも忙しそうに見えない、とのどまででかかった言葉を飲み込む。

 「今日の夕飯、時間合わせて一緒に食おうぜ」
 
 「え…」

 一瞬驚いた顔をしたが、次にはぱあっと顔を輝かせて

 「うん、いいよ19時でいいかな?」

 「ああ、お前に合わせる」

 「それじゃ約束だからね」

 そういって希望は先ほどの機嫌の悪さはどこへやら

 鼻歌交じりにロビーを出て行った。

 「単純な奴…」
 
 そういいながらも舞人の口元は微笑んでいた。







 ――霧島研究所 夕食時

 「えっへへーさくっちとごっはん〜♪」

 「飯くらいで…安い女だな」

 そういいながら二人は近場の席に着いた。

 と、そこへ

 「あれ? 桜井じゃん。あんたこの時間だったっけ?」

 「これはこれはひかり姐さん。いやちょっとした事情だよ。

  他人のプライバシーに口を出さんでもらいたいですなセニョール」

 ガシッ

 素早く首に腕が巻きつけられる。

 首の苦しみと頭にほのかに当たるやわらかい感触。

 まさしく天国と地獄だった。

 「ひ、ひかり…入ってるよ、首」

 こだまが遠慮がちに止めるがひかりは力を緩めようとしない。

 「ふん、全く少し調子に乗ってるみたいね…言葉の使い方から

  指導して欲しいの?」
 
 「ゆ、結城先輩、お、俺がまちがっ…ておりました。

  どうか…お許し…」

 ふっと首から腕が離される。

 「全く…食事前に無駄な仕事させんじゃないわよ」

 「あんたが勝手に…イエスイマセンデシタ」

 文句を言いかけた舞人の前で再び腕を振るひかりに

 舞人は言葉を訂正した。

 こだまとひかりは結局、雪見とみさきの待つ席に帰っていったが

 その間すっかり放っておかれた希望は再びご機嫌斜めになる。

 「あー…」

 「……」

 頼んだものが届く間、届いた後の食事。

 今の舞人に味がわかるはずもなく気がつくと
 
 食後のコーヒーとアイスティーが二人の前に置かれている。

 ズズズズー

 あえて音を立てて飲み物を飲む希望を前にすると

 ますます言葉が出ない舞人。

 非常に気まずい。別れ話を持ちかけるカップルの会話が聞こえてしまった

 時のような気まずさだった。

 「いや…あの人とのはさ一種のコミュニケーションだからさ」

 「ふーん、他の人と話すときもそう?」

 つっけどんに聞き返す希望に舞人もさすがに焦りだした。

 「あ、当たり前だろ」

 「だってずいぶんと楽しそうだったけど?」

 「あ、あのなあ…。もういい! 勝手にしろ…ったく」

 舞人もいいかげんどうしていいかわからず不機嫌さを表に出す。

 その口調にびくっと希望は反応した。

 「…ごめんなさい」

 かすれるような声で希望は言った。
 
 何に対してなのかわからない舞人はますますイラついた。

 「いけないってわかってるんだけど…どうしても」

 「何がだよ」

 バンっとテーブルを叩く希望。

 その音に何事かと集中する隊員たちの目。

 しかしそんなものを気にすることなく希望は大声を上げた。

 「だって! 頭にくるじゃない!!」

 「だから何が!」

 「私の気持ちも知らないで!」

 「知ってるわけないだろう! だったらお前は俺の気持ちを知ってるのか!!」

 「知るわけないでしょ! 知らないから頭にくるの!!」

 希望はタガが外れたように言葉を発した。

 それは感情に任せたでも素直な自分の気持ちでもあった。

 だが舞人にそれを解するほどの余裕はない。

 結果として言葉と言葉のぶつかりあいになる。

 「お、お前はそんなに自信がないのか!!」

 「自信なんてもてるわけないでしょ!! いろんな女の子と

  とっかえひっかえ仲良くしちゃって! 誰でもいいんだったら

  私なんか誘わないでよね!」

 「誰でもいいわけあるか! 俺はお前だから誘ったんだ!!」

 「だから! 何で私なのよ!!」
 
 「あほか!! そんなもの好きだからに決まってるだろ!!」

 「わ、私だって好きだもん!!」

 「だったらなあ! って…あれ?」

 そこまで言ってようやく我にかえる二人。

 ようやく自分達が何を言ったかを理解したようだ。
 
 だがそれより早く動いたのは

 「何だ、やっぱり両思いなんじゃない」

 後ろから声をかけたのは先ほどの騒乱の原因ひかり。

 「おめでとう! 桜井君!!」

 さらに後ろからこだまが心底嬉しそうに喜んでいる。

 「感動したよぉ、私、愛が生まれるとこ初めて見ちゃった!」

 「私は見えなかったけど、二人の気持ちには感動したよ〜」

 みさきも同じように嬉しそうにしている。

 「雪見、みさ、こだま! はい祝福!」

 「「「「わーーーー!」」」」

 気がつけば雪見とみさきも二人のテーブルを囲んで拍手をしている。

 「えっと…あの」

 何がなにやらわからないといった感じの希望。

 舞人も同じようにうろたえている。

 「ほら全員! 立って立って! 二人を送り出すアーチを作りなさい!」

 ひかりの号令で皆が二人のテーブルから入り口までのアーチを作る。

 仕方なく舞人は希望の手を取ってそのアーチをくぐりだした。

 「やったな舞人!」

 「おめでとう星崎さん!」

 やんややんやと拍手が上がる。

 やがて最後のアーチをくぐると二人はなんとなく外に出たくなって

 中庭に出た。

 夏の日差しは影を潜め、月明かりが差し込む涼しい感じが出ている。

 「ね」

 「あ?」

 あくまでぶっきらぼうに受け取る舞人。

 まだ照れくさいらしい。

 「さっきの…本当?」

 「俺があんなくそ面白くもない冗談を言うはずがないだろう」

 「えへへ…もっかい言って」
 
 「何!?」

 「言ってよー」

 「馬鹿言え」

 「言いなさい」

 「う…」
 
 「言わなきゃあれはうそっこ」

 「あー…えー…す、好きだ」

 「えへへー私も好きです」

 「…」

 「なんちゃって、やだーもう! 照れりこ、照れりこ」

 「っててて、こら俺を叩くな俺を」
 
 …どうやらバカップル正規軍が一組誕生したようだ。

 中庭で消灯時間が来るまで二人はずっと話を続けていた。

 いつ果てるともわからない話を…。







 「はあ〜いいなあ星崎さん〜」

 ほうっとうっとりした表情で純夏は言った。

 ぼちぼち人の減ったロビーでは先ほどの公衆面前告白についての
 
 話題で持ちきりだった。

 「桜井もやるときはやるね。私は少し見直したわ」

 「当然ですよ! なんたってあの先輩ですから」

 ひかりの言葉に反応した小町に、複雑そうな表情を浮かべる青葉。

 「でもよかったの、小町お姉ちゃん?」

 「ほほほ、小町おねえちゃんは諦めが良いですから。
 
  もう…終わった恋なんですよ。先輩から自分の幸せを探せって言われた

  あの日に…終わった…恋なんです」

 それでも、それでもこうして現実にその終わりを迎えたことは

 やはり小町を少しだけ悲しくさせた。

 そっとみさきは小町をその胸に抱いて

 「小町ちゃん、泣いてあげて? 悲しいときは泣かないとダメだよ。

  涙と一緒に悲しみを流してあげて。他の誰でもない小町ちゃんのために」

 「う…」
 
 「ね?」
 
 「みさ…き…さ…う、うわぁぁぁ…」

 小町は泣いた。
 
 もう終わったと、そう言い聞かせただけの自分のために。

 みさきは気づいた。彼女は見えない分、他には敏感だった。

 小町の中にある悲しみを隠そうとする心を。

 だから彼女は抱いた。誰にもある明日を閉ざさないために。

 思いは一つ。

 人が受け入れられる思いは一つしかない。

 そんな複雑な思いを小町を通して、その場にいた冥夜と純夏は

 いつかこうやって誰かにすがってなく自分を思い浮かべてお互いを見て…。

 そして…きっと泣くのはお互いの前だろう、そう思っていた。

 この日、一つの恋が成就して、一つの恋が本当に終わりを告げた。

                                  続く


後書き 純夏    「ううっ雪村さん可哀想」 壬姫    「このサイトは小町さんファンの方のほうが多いみたいなのに…」 武     「あえてこっちの組み合わせを…怖いもの知らずめ」 純夏    「そういえば二人のこの公衆の面前での告白って」 壬姫    「原作「それ散る」の事件をエクブレ風にアレンジしてるそうですよ〜」 武     「興味のある人は探してみろって事らしいな…」 SSのTOPに戻る