――港町 その日、往人がこの町を歩いていたのは果たして偶然だったのか。 準備も整い間もなくこの町を離れることが決まったので、 その前にこの町の知人を訪ねようと往人は自由時間をもらっていた。 「代わり映えのしない町だ…」 言葉はぶっきらぼうだが、その顔には少し微笑がある。 よく世話になった駄菓子屋の前を通ったとき、自販機にあのジュースがあるのを確認して 少ない手持ちからコインを取り出し、投入口から入れる。 ガコンという音と共に取り出し口に「どろり濃厚ピーチ味」とかかれた 紙パックのジュースが出てきた。 往人はそれを手にすると、もう馴染みとなった道を歩いて 以前居候して世話になった神尾家に向かっていた。 ものの5分もしないうちにその家は見えてきた。 だが見えてくるにつれ往人の中に何か得体の知れない不安が浮かぶ。 違う。 あの家を取り巻いている空気が違う。 その不安に押されるように自然と足が速くなる。 門の前に来たとき異変は起きた。 ガシャーン! 派手に割れる窓ガラスの音。 その瞬間往人の不安は現実になる。 「観鈴! 晴子!」 手に持っていたジュースを放り出し引き戸を開けて往人は中へと飛び込んだ。 エクシードブレイブス 第23話 大空より我は来たり 慌てて飛び込んだ居間には、ぐったりとした観鈴を担いだ男が二人。 そして倒れた晴子。 出血はしていないようだが、気を失っているのか彼女は動かない。 そして壁には何故か髪の長い少女、往人もよく知る少女が寄りかかるようにして 倒れていた。 「遠野か!?」 その声に遠野こと遠野美凪は振り返る。 少し意識が混濁しているのか目に宿る力は弱かったがそれでも 往人の姿を見るとわずかに微笑んだ。 「…お久しぶりです」 こんな状況下の中のんきに挨拶を出来る彼女はやはり大物だった。 往人はさすがにこの状況には昔のように突っ込めず冷静に美凪に話しかける。 「どうした? 何があった…こいつらは…?」 美凪は彼女には珍しく敵意を持って男達を睨みつける。 「…嫌がる神尾さんを連れて行こうとしてて…止めたのですけど…」 「わかったそれだけわかればいい」 彼女はそれだけ言うと安心したように意識を失った。 そっと畳の上に美凪を寝かせる往人。 そして次に男達を振り返った。 よく見れば男の一人は見覚えがある。 「…あんたは…橘さん?」 そう観鈴の実の父親、橘敬介その人だった。 彼とは観鈴を巡って何度か争ったが、結果的には観鈴を救ったのが 晴子と往人だったため、彼らから事情を聞きいれ 遠い自分の町に帰ったはずだったのだが。 「まさか力ずくで観鈴を取り返そうってのか?」 「いや、違う。観鈴を…『彼女』をあるべき場所に返そうというだけだ」 言葉を発するのも、その状態も極めて冷静だ。 往人はその状態に違和感を持った。違う、まるで何かに取りつかれ 狂気の向こう側の冷静さ…、そう異常すぎるというのが今の橘を形容するのにふさわしい。 「君は知らないだろう…。君たちを悩ませ、観鈴を苦しめた『翼人』のルーツを。 僕は調べたんだ…この手に人を超える力を持つ『翼人』の力を手中に収めるために」 「…! あんたは…私欲のために娘を利用しようって言うのか!!」 「…誰もが一度は夢見るだろう? 何もかもが自らの思うとおりになる世界… それに匹敵する力を目の前にしたとき人は平静を保てるのか? 僕には無理だった…ただそれだけだ」 往人はじりじりと間合いを詰める。 見た感じ、武器は持っていないこの距離ならば二人を倒して 観鈴を取り戻すことは訳はない。 「ふ…焦ることはない。戸山! 観鈴を連れていけ!」 「はっ!」 観鈴を担いだほうの男が素早く居間の軒先から庭に飛び出す。 「ちっ! 逃がすか!!」 往人は素早く戸山と呼ばれた男を追おうとしたが、 橘の素早い蹴りによって阻まれる。 かろうじて避けるものの、動きの止まった往人にそのまま走り出した 橘を追うことは出来なかった。 去り際に往人を振り返った橘は、 「思い込みは時に判断を鈍らせる…僕を甘く見たな、国崎君」 「くっ…」 そして次にはもう橘の姿はなかった。 往人は素早く携帯を取り出しコールする。 「聖さんか! すまん観鈴の家でけが人だ! すぐ人をよこしてくれ! 後、手の空いている奴に…」 橘の捜索を頼もうと思ったその時 町の上空を見覚えのない機体が覆っていた。 その数20数機はあるだろうか。 中には白い戦闘機型の機体が混ざっている。 往人は苦々しげに空を見つめた。 「手際のいいことで…空を汚してただで済むと思うなよ! 橘!!」 往人はポケットに入れてある大事な相棒を取り出す。 古ぼけた人形。 往人の前の持ち主、そのさらに前と延々と受け継がれてきた 『空の思い』の形。 これに込められし願いを果たすまで往人の旅は終わらない。 そう彼に受け継がれた願いが果たされるまでは。 「いくぞ! ダイブ・トゥ・ブルゥーーーーー!!」 人形の頭上に手をかざし、そして空に吼える様に往人は叫んだ。 彼から込められた念が人形中の何かを開放し、そして 空に舞う剣神はその姿を現した。 ――カノン・バンガード ブリッジ 「敵影ですって!? しかも突然街中に!?」 この未曾有の事態にさすがの秋子も同様は隠せなかった。 「は、はい! その数20! 分析の結果敵はパーソナルトルーパー軍です! PTをメインに部隊を編成しているのは…R・Gか…もしくは」 オペレーターの報告はそれ以上は続かなかった。 秋子が先に結論を出したからだ。 「アザゼル…とも考えられますね。敵機のタイプは?」 「可変型PTの初期作…ビルトラプターの同型機です。 武装、性能面に過去のデータと一致します。 リバイバル機だと思われます」 「わかりました。手の空いているものから出撃を! すぐに国崎さんの援護に回るよう指示しなさい!」 「了解!」 「国崎さん、数分後すぐに援軍が向かいます。あまり無茶はしないよう お願いしますね」 「了解、水瀬艦長、敵機の情報はわかったが全機そのビルトラプター なんだな?」 「ええ、全く同じ性能のが20機ほど」 「…木の葉を隠すなら森の中、か。それともこの中にはいないのか… 観鈴のことを考えるとうかつに落す訳にもいかない…ちっ!」 とはいえ、家の前にすぐに移動できるような手段はなかった。 だとすればあの機体のどれか一つに観鈴を乗せた橘機があるのは間違いない。 だがどうやって判別する? 今の所おかしい動きを見せている機体はない。 こちらの様子を伺いつつ周囲を取り囲みけん制しようとするのがほとんどだ。 おそらく戦闘にまぎれて離脱するつもりだろうが、味方が到着した乱戦になった場合 めまぐるしく変化する状況に自分ひとりでその変化を見極める自信が往人にはなかった。 「水瀬艦長、実は知人がこの中の機体のどれか一つに乗っています」 「…拉致されたのですね」 察しのいい秋子は往人の望む返答をくれる。 無言でうなずく往人。 「パイロット達に出来るだけコックピットを狙わないよう 戦場をかき回してくれと伝えてください。 そして…」 「その混乱のさなかに離脱しようとする機体を見極めるのが私の役目というわけですね」 「お願いできますか?」 「了承」 往人はそれだけ聞くと吹っ切れたように、目の前の敵に視線を向ける。 この中にいるであろう観鈴を連れた橘を探すために。 神奈式は背中から巨大な日本刀型のブレードを構える。 「スピード重視のFAか…生憎その程度で神奈式の剣速から逃げられると思うなよ!!」 脚部ブーストを利かせて、往人は目の前のビルドラプターの間合いをあっという間に詰める。 そのビルドラプターのパイロットは慌てて旋回し、神奈式をやり過ごそうとするが 時すでに遅い。 「逃がすか!! 必殺! 残鉄・十文字!!」 巻き割りのような正確な縦一文字と、そこから回転でもするかのような 華麗な横一文字が交差する。 上手い具合にコックピットを外して、機体に打撃を与える。 それでも向かってくるところを見るとどうやら橘機ではないらしい。 だがそう見せかけて、という手段もある。 往人はそのビルドラプターの動きをずっと見張っていたが やはり緊急離脱のような動きもなくどうやらはずれのようである。 「ちっ…こんなんじゃどうにも不利だ」 ズドオン! ズドン! 背後から強い衝撃を受けて神奈式は少しバランスを崩した。 どうやらビルドラプターの対空ミサイルを喰らったらしい。 慌てて背後に振り向くが、4発のミサイルが眼前に迫っている。 往人は慌てて左方向への回避運動を試みたが、距離が近すぎる。 切り払いも間に合わない、往人は衝撃に備えた。 が、一向にその衝撃はこなかった。 ズドン! ズドン! ズドン! ズドン!! 「ふう…練習の成果はあったみたいね」 ミサイルを撃ち落したのは雪見だった。 彼女の機体、ディープスノーの持つフォトン・ライフルからは硝煙がわずかに上がっている。 「深山…今のはお前が?」 「ええ、実弾兵器を撃ち落す早撃ちの練習をしてたんだけど… まさかすぐに役立つとはね」 くすくすと笑う雪見。 しかし外れたらどうする気だったのだろうか…。一抹の不安が往人の中に 巡ったが、今はそれどころではない。 「くそっ…この中にいるのは間違いないんだが…」 「まあまあ水瀬艦長に任せましょう。それよりも 今は「その人」が動くような状況にしないとね」 そう言って雪見のディープスノーは上空に上がる。 見れば海上にはすでにカノン・バンガードが発進しており そこから空戦可能な機体が次々に出撃しているのが往人の目に映った。 「逃がしはしないぞ…橘」 往人は体勢を整え、再び敵の舞う空へと飛び立った。 続く
後書き 往人 「今回は俺の独壇場か…」 美凪 「…初登場です。ぱちぱち」 佳乃 「これで大体AIRキャラもそろったんだよぉ」 観鈴 「私だけ台詞がない…がお」 晴子 「うちもないで…ったく作者をしめたろか」 SSのTOPに戻る