すでに30分が経過しただろうか。
 
 往人を中心にビルドラプターとの交戦もそろそろ限界に近かった。

 何しろ相手を落とせないのだから。

 しかし艦長の秋子は一言も言葉を話さずただ、ビルドラプターの群れに

 視線を向けていた。

  あゆは秋子から発せられるプレッシャーに畏怖すら覚えたという。

 すでに攻撃する手段がなく防戦一方のエクシードブレイブス。

 無数のビルドラプターが彼らを攻撃している中、秋子は見極めたように

 突然、通信用のマイクを掴んだ。

 「国崎さん、今からある一機に砲撃を一度だけ行います。
 
  それが貴方の言う橘の乗る機体です!」

 「え? あ、はい!」

 往人は神奈式を上昇させてビルドラプターたちを見渡せる位置についた。

 他のメンバーも何事かと思ったがその答えはすぐに出た。

 「砲門を開いて! 直撃させる必要はありません!」

 ズドオン!!

 カノン・バンガードの側面に取り付けられた砲門からミサイルが放たれる。

 尾を引いてミサイルは確実にある一機のビルドラプターを直撃した。
 
 機体からはさしてダメージのようなものは見当たらない。模擬弾を使ったのだろうか?

 とはいえ、往人はその瞬間を見逃さずそのビルドラプターに詰め寄り外部通信を開く。

 「いるんだろ…橘」

 その問いにしばらく無言だったが。

 「恐れ入ったな、よく見破ったものだ」

 「うちの艦長は人並みはずれた人だからな」

 そういって笑う往人に

 「あらあら国崎さん褒めても何も出ませんよ?」

 当の本人はいたってのんきに笑っていた。

 「みんな! 目的の敵は探し出した、他のは遠慮なく落としちまえ!」

 「「「「「了解!」」」」」

 その言葉に参戦していたメンバーは散開した。

 「さあ勝負はこれからだ! 橘!!」

 だがコックピットの橘は不敵に笑っていた。








 エクシードブレイブス 第24話

 そして翼もまた火星へ











 「それにしても艦長? どうやってわかったの?」

 あゆが驚愕の表情で秋子に尋ねた。
 
 秋子は笑ったまま
        ・・・・・・・・  
 「あの機体だけ国崎さんの機体に攻撃していなかったんですよ。

  他の機体は狙っているし、チャンスもあった…けれども攻撃をしない。

  それは国崎さんから反撃を食らうことが何か都合が悪かったんでしょうね」

 それにしてもこの20機の名からそれをわずか30分で見切るとは彼女は

 一体何者だろうか?

 あゆは改めて秋子のすごさを実感していた。

 「さて反撃開始ですね。全砲門を開いてください!

  各機の援護射撃に入ります!!」

 号令と共に各銃座に座るクルー達がそれぞれの前面にいる敵機に対し

 射撃を開始する。

 メインのメガ粒子砲も砲撃準備体勢に移行する。

 はっと気がついたようにあゆも、各計器類の微調整を始める。

 このときあゆは自分の中に湧き上がる何かに気がついていなかった。







 「これで決まりだ!!」

 ズドオン!!

 住井のヒュッケバインから放たれるフォトンライフルがまた一機

 ビルドラプターを落とす。

 「いやっほう! 攻撃さえ出来りゃこっちのもんさ」

 歓喜の声を上げて次の目標をさがす住井。

 さすがに防戦では押されていたが、攻撃できるとなれば

 こちらのほうに分がある。

 すでに戦場は海上にまで広がっており近隣の住民にもさして被害はない。

 しかし機動力はさすがに飛行形態を取る向こうのほうが上なので

 次から次へと、というわけにはいかない。

 細かい射撃による威嚇を行いながら適度に距離を取る作戦で

 持久戦に入った敵を落とすのは少々難しい。

 栞&佳乃のデストロイヤーの攻撃も思うように効果が出ず

 「佳乃さん! こうなったらフォーメーションで行きましょう!」
 
 「了解だよぉ! おいでポテト」

 「ぴこ」

 通常合体時には佳乃と栞のコックピットはつながっている。

 ポテトは佳乃のひざの上に移動する。

 そして栞は

 「合身分離!」

 佳乃のコックピットが射出され、同時にエクスカリバーが

 デストロイヤーの右手から離れる。

 そしてエクスカリバーは佳乃のコックピットと合体し飛行形態になった。

 「逃げ回るなら…逃げれないようにするだけだよ!!」

 飛行形態になったエクスカリバーはビルドラプターを上回る速度で

 後方に回り、

 「そこそこぉ!」

 ビームガンを連発する。

 エクスカリバーの先端に仕込まれたビームガンからレーザーが打ち出され

 ビルドラプターを威嚇、もとい直撃する。
 
 さすがに後ろから攻撃されては速度の維持はおろかバランスも保てない。

 動きの鈍ったビルドラプターを

 「チャンスです! アイソリッドレーザー!!」
 
 デストロイヤーの頭部の目から収束されたレーザーが放たれる。

 ガガガガオン!!

 機体を貫通しまっすぐと海へ落ちるビルドラプター。

 激しい水しぶきが上がるのを目視すると佳乃と栞は別の獲物を探す。

 二人の連携には単独では立ち向かえないだろう…。

 一方、橘機とにらみ合いを続けている往人。

 「どうした? 早くその刀で僕の機体を斬り給え。

  もっともその時は観鈴がどうなるかわからんがな」

 その言葉に舌打ちをする往人。

 苛立ちを表に出さないよう静かに言葉を発して橘を問い詰める。

 「言っておくが攻撃は出来なくても逃がすことはしないぜ。

  あんたの目的を知るまではな」

 「…僕の目的ね。君に言う必要はないようだよ。

  どうやら迎えが来たらしい」

 ふっと辺りに暗い影が差す。

 往人は、そして他のみんなも一瞬上を見上げた。

 そこには赤い色の航宙戦艦があった。

 「全機、すぐにヒリュウに離脱せよ」

 ヒリュウとは、外宇宙探査航宙艦を戦闘用に改良した戦艦である。

 大型のテスラ・ドライブを積んでおり機動力は侮れない機体である。

 橘の合図でわずかに残っていたビルドラプターたちは戦域を離脱し

 ヒリュウへと向かっていく。

 もちろん橘機も離脱しようとする。

 「待て! 逃がすか!」

 神奈式はビルドラプターを追おうとするが、目の前をビーム砲がよぎり

 一瞬動作が止まる。

 ヒリュウから援護射撃が入ったらしい。
 
 一門こちらに向いている砲門がある。

 「翼人のルーツをしりたくば…火星まで来ることだ。

  君にも関係のない話ではないからね」

 その言葉を最後に橘機は見えなくなった。

 ヒリュウはそれ以上砲撃などはせず急発進で空域から離脱する。

 「観鈴ーーーーーーー!!」

 ただ往人の悲痛な叫びだけがコックピットの中に響いていた。












 ――ヒリュウ ブリッジ

 簡素なブリッジで数人のオペレーターたちが無言で作業をしている。

 パシュ

 ドアが開きそこから入ってきたのは紛れもない橘だった。

 「艦長お疲れ様です」

 まだ20歳くらいの男性オペレータが橘に敬礼をする。

 「進路は火星に取れ。バフラムの案内人が来るはずだ」

 「了解しました」

 そういってオペレータはまた無言に戻る。

 橘は通信用の電話を取る。

 「橘です」

 『ああ君か…どうだね首尾は?』

 「良好です。これもあなた方から買い上げた『部隊』のおかげです」

 『何こちらも商売だからな…。試作型のPTだけでは不安だろうと思ってな

  それに何機かは撃墜されたろう? 補助要員と新しいPTをその船に積んでおいた』

 「すみませんね。振り込んだ料金以上のものじゃないですか?』

 『…アフターサービスという奴だ。気にしないでくれたまえ』

 「では遠慮なく受け取っておきますよ」

 『ああ、君の目的の果たされんことを』

 それだけ言うと電話は切れた。

 そして橘は薄ら笑いを浮かべる。

 「力を…統べるのは僕だ。あの子の父親である僕だけがその資格を持っているんだ…」

 後ろ暗い表情につぶやくのは己の野望のみだった。









 ――カノン・バンガード

 「では国崎さんも火星行きに志願したいというのですね」

 「ええ、勝手を言ってすみませんが観鈴を放っておくわけには行きません」

 秋子は黙っていた。

 往人もそれ以上のことは言わない。

 二人の間に奇妙な空気と沈黙がある。

 だが、秋子はいつものように微笑むと

 「わかりました。国崎さんもアンリミテッドに乗ってください。

  ですがくれぐれも単独行動は厳禁ですよ?」

 「…はいわかっています。それでは」

 往人は敬礼をしてその場から去った。

 秋子は頬に手をやるポーズで

 「まさか同じ日に同じ頼みごとを二度も受けるとは思いませんでしたね」








 廊下の角を曲がると往人はとんでもないものを見つけた。

 パイロット服を着た美凪がそこに立っていた。

 往人はびっくりして
 
 「遠野!? お前何してる?」

 「…制服の動きやすさを調べていました」

 往人は首を振る。

 そんなことが聞きたいのではない、と。

 「何でお前がそんなものを着ている」

 「…火星行きを志願したからです」

 その言葉に往人はまた言葉を失う。

 ぱくぱくと口だけが無様に動いている、相当動揺しているらしい。

 「…金魚?」

 「違う」

 はーっとため息をついて美凪の肩を掴んで

 「本気か?」

 「…はい」

 「戦う覚悟は?」

 「…あります」

 往人はじっと美凪の目を覗き込む。

 以前…昔あったときのような弱さはそこにはない。

 強い意志。輝く瞳の中にそれはある。

 「…手の届くところに大切なものがある。一度失ったことがあるから
  
  二度同じ悲しみを繰り返したくないんです」

 「お前ならそう言うと思った」

 「…国崎さん、助けましょう神尾さんを。私の大切な友達を」
 
 「ああ、言われるまでもない」

 ぱんっと往人は右の拳を左手の手のひらに打ちつけた。

 美凪も同じように。

 また一人、夏の町から少女が飛ぶ。

 遥かなる宇宙のかなたへ向けて。
                   
                                続く


後書き 美凪    「…ようやく全部の敵勢力が出てきたらしいです」 ポテト   「ぴこぴこ」 栞     「ようやく宇宙ですか? でもまだ出てない人がいますよ、ポテト」 ポテト   「ぴこ」 美凪    「そうですね。次はあの方達に出てもらうことになるんでしょうね」 ポテト   「ぴっこり」 舞     「…二人とも会話が成立している。かなりうらやましい…」 SSのTOPに戻る