「ノアシップ発進準備完了!」 「エンジン始動! 航宙モード移行開始!」 ノアシップ機関部はすでにフル回転で稼動中だった。 宇宙行きのメンバーの準備も整い、後はノアシップが発進するのみとなった。 月詠はモニターで状況を確認しつつ各部へ指示を出す。 「発進まで後何分!?」 「現在、エンジン稼働率89%!」 「残り3分といったところです〜」 「このペースで行けば何事もなく発進できますけど…」 月詠はしばし考えて、 「2分で全ての準備を済ませなさい!」 「「「はいっ! 艦長〜!!」」」 三バカオペレーターたちはさらに準備を急がせるよう手分けして 連絡を行った。 そして月詠は前線にいる石橋に回線を繋ぐ。 「石橋少佐、残り2分、何とか足止めをお願いいたします」 『了解した、この2分いかなる敵も通さぬ』 有無を言わさぬ返事。激戦をくぐり抜けてきただけのことはある。 「お願いします…皆さん…」 月詠に出来ることは地上に残る者たちに祈るだけだった。 エクシードブレイブス 第27話 天翔ける箱舟 地疾しる母船 「石橋より各機へ! ノアシップ発進まで残り2分! いかなる敵も近づけるな!!」 「「「「了解!!」」」」 石橋の号令によりさらに動きのよくなる地上部隊。 留美はすでに3機のレイ・ドーガを落している。 その勢いに押され、R・Gの偵察部隊の気力はがた落ちだ。 いかに奇襲のチャンスとはいえ相手の戦力を見誤るべきではなかった。 戦力とは単純に数だけでも質だけでも決まるものではない。 そして相手を威圧するのは留美の機体ネロの持つ武器にもあった。 2本の通常のものよりも極太のビームサーベル。 それだけでも相手を驚かすのには十分だったが、なんとこのサーベル レイ・ドーガの放ったビームライフルの一撃を切り捨てたのである。 重力制御の伴ったこのサーベルは空間圧縮による拡散を可能とし ビーム兵器をも切り裂くことが可能なのである。 もっとも通常の切り払いと同じく、動体視力などの技量は必要となるから 誰でも可能というわけではないが。 そして現在は2本のサーベルが連結した状態になっている。 双身刀というのを知ってるだろうか? 柄を中心として上下に刃のある刀のことだ。 ちょうどネロのサーベルはその状態を保っている。 巨大な機体がさらにあんなものを回転させながら迫るというのは まさしく恐怖の一言だ。 半端な機体ならコックピットこと両断される恐れすらある。 たじたじと攻めあぐねるレイ・ドーガを見て留美は、 「ふん、この乙女の武器に恐れ入ったようね」 (絶対に違う!) R・Gのパイロットはおろか、その場にいた誰もがあの武器のどこにも 乙女らしさを感じなかった。 下に恐ろしき勘違いである。 留美は上空のバフラム軍を確認する。 すでに舞人と祐一によってほぼ片付けられたらしい。 残っているラプターを地上の名雪の援護射撃を受けながら 確実に片付けている様子が映っていた。 「どうやらあっちは片付きそうだし、後はあんたたちだけね」 じりじりとネロがレイ・ドーガに迫る。 グルンガストもそれに続く。 こうなればやぶれかぶれとレイ・ドーガのパイロット達が 覚悟したときだった。 「悪いな嬢ちゃん、俺にも少し遊ばせてくれ」 何者かの通信がそれをさえぎった。 それと同時に森から何かが飛び出す。 木々が揺れ一瞬にして視界から消えた、空翔る機体。 「おお! 北川様!!」 R・Gのパイロット達の士気が上がる。 「お前ら一旦引き上げろ! これ以上は付き合う必要はない!」 北川がそう指示を出す。 「し、しかし…」 「引き際も大事だ。無駄に命を落すな」 その言葉にしぶしぶといった感じに次々とレイ・ドーガは撤退を始める。 「ちょっと! アンタの相手は…」 留美が上空の北川のクロムビルガーに怒鳴る。 「お嬢さんの誘いを断るのは俺の美学に反するんだが 今日はあの紅いのに乗ってるのに用事があるんでな」 そういい残しクロムビルガーは上空で戦っている フラムベルクを目掛けて飛んでいく。 「ちょ…何なのよあいつ!」 「落ち着け七瀬。とにかく伏兵がいるかもしれん ノアシップの周りを固めるぞ」 「あ…はい師範」 素直に頷くと留美と石橋はノアシップのほうへと急転換を始めた。 「ふん、あいつの狙いは俺か…悪い舞人残りは任せる」 「人使いの荒い奴だな…へえへえ任せなさいっと」 祐一はラプターたちが邪魔にならない空域に移動する。 クロムビルガーが正面に立つ。 いや立つという表現は少々合わないか、ここは空だから。 「よう、相沢。ちょっと近くまで来たんだが うちの偵察部隊が世話になったようだな」 「生憎俺は何もしていない」 「別段あの船を止められるとは思っちゃいないが あいつらの努力を無駄にしたくないんでね」 「それだけか?」 「…それだけだが?」 ぎこちないひどく居心地の悪い空気が二人の間に漂う。 こんなもの 「何故久瀬はR・Gを作った?」 「アザゼルを脱出する前から考えていたようだが?」 「…たった一年でここまでの組織を?」 「その謎には答えられる。俺達の部隊の大半はコロニー出身者だ。 特に連邦には辛くあたられた地域のコロニー中心のな」 なるほどと祐一は合点がいった。 久瀬はパイロットとしての能力もきわめて高いが、何よりすごかったのは 生まれ持った才能、カリスマ性だった。 彼の実力を見た上で反連邦精神を掲げれば、一人また一人と久瀬の元に集まるのは 自然な流れといえる。 彼は研究所でも特に人に慕われる性質だった。祐一もそれは変わらないところがあったが その「質」が違った。久瀬には「服従」や「忠誠」といった言葉でのつながりが 多かったように感じる。祐一のそれは「友情」や「愛情」という 人間らしいつながりだった。ある意味似たもの同士だったのかもしれないが 質という意味では確かな差がそこにあった。 「久瀬の指揮の元、R・Gは結成一ヶ月で地球周辺のコロニーの大部分を 牛耳った。後はまあお前も知ってるだろうがアザゼルにいくらか協力もさせている」 「逃げ出した実験材料の要求をあいつらが?」 「そこまでの背景は知らん。久瀬が何か握っているかもしれないがな」 祐一はしばし黙った。北川はおそらく嘘をついていない。 ここまでの内容で嘘をつく必要がないからだ。 だがそうなると別の疑惑が祐一の頭に浮かぶ。 「何故お前はそこまでご丁寧に答える?」 「お前が訊いたからだ」 「確かに有益とは言えない内容だが、べらべら話す理由もないだろう」 「それを言えば黙る必要もない」 埒が明かない。まるで北川は自分の何かを試しているように祐一には感じられた。 「お前は何故久瀬についた」 「久瀬の真意を測りかねているからだ。そして俺自身あそこで 成さねばならないことがある」 「そこまで話す事は出来ないんだな?」 「ああ、そしてお前が久瀬の真意に気づかない限り、お前は 決して久瀬に勝てない。いや違うなお前達、だ」 「久瀬の真意だと?」 「そうだ。奴の表面上の行動に騙されないことだな。 馬鹿みたいに真っ向から挑んでいるうちは奴の手のひらの上ってことさ」 その言葉を最後にビルガーは巨大なハサミ、クラッシャーを構えた。 「サービスタイムは終了だ。答えは自分で考えろ。ただし…」 ズドオオオオオ! ビルガーが急発進し、フラムベルクの眼前に迫る! 「俺と戦って生きていられたならば!!」 「くっ! 北川!」 ガキン!! ビルガーのクラッシャーは虚しく空を掴む。 急旋回で何とかフラムベルクはクラッシャーを避けた。 だがビルガーの攻撃は止まることはない。 間髪いれずに次の攻撃が迫る。 「コールドメタルソード!!」 やや間合いの長めの実体剣がフラムベルクの胸部を狙う。 「させるか!!」 フラムベルクは左手の三連マシンガンでそれをけん制する。 「ちっ!」 ビルガーは攻撃を止めフラムベルクの脇を飛びぬける。 祐一はフラムベルクを急旋回させてビルガーの背後を取る。 「この距離…! もらった!!」 ズガガガガガガガ!! フラムベルクの肩部に取り付けられたスクエア・クレイモアが火を噴いた。 無数のベアリング弾がビルガーの背中に降り注ぐ。 「ぐっ…味な真似を!!」 ビルガーは無理に振り返ろうとせずそのまま急上昇することで ベアリング弾を回避した。 だが多少のダメージは喰らっている。 「このっ!!」 ダダダダダダダダ!! ビルガーは左手の三連ガトリング砲を連打しながらフラムベルクとの距離を詰める。 祐一の本領は近接戦なのであえて距離を保とうとはしなかった。 G・テリトリーを展開しつつ、フラムベルクも 「させるかぁっ!!」 ミサイルとマシンガンを織り交ぜながらビルガーに特攻していく。 互いに微妙な攻撃の間隔を取りつつ、お互いの一撃を叩き込む瞬間を待った。 フラムベルクのセイバーを避ける! クロムビルガーのクラッシャーを避ける!! お互いの攻撃が決まらず、場が膠着し始めたときその瞬間は来た。 キィン! お互いの攻撃を打ち合いはじかれ、微妙な間が二人同時に訪れる。 ((今だ!!)) 仕掛けるタイミングは一緒だった。 「フラムベルク特攻形態…」 「ウイングパーツ展開、ドライブ全開…」 奇しくも二人の準備が整う瞬間すらも一緒だった。 それはまさしく刹那のタイミング。 「バーニングダイバァーーーーー!!」 「ビクティム・ビィイクッ!!」 ギュオオオ!! ズガン!! ビルガーのウイングによる鋭い体当たり! ガキィン!! フラムベルクのくちばしと化したエネルギーサーベルの一撃! ギュオオオオオオ…。 数打ほど同じ攻撃を繰り返した二人の機体はさらに上空へと昇っていき 「ああああああああっ!!」 「うおおおおおおおっ!!」 勢い増し、真正面からぶつかる。 交差。 一閃がお互いの機体に走る。 ズザザザザ!! そのまま二人の機体は地面に着地する。 どっちだ? すでに戦いを終え息を飲んで結末を見守る仲間たち。 ズドオオオン! ズゴオオオン!! 「ぐっ…!」 祐一のフラムベルクは右足、左手が大破していた。 大して北川のクロムビルガーのほうはボディにわずかな亀裂と爆発が起こったが 戦闘継続となれば間違いなく勝者は北川だった。 「まあアザゼルの機体程度じゃそれが限界だろう…」 嘲笑うように北川が笑った。 「お遊び程度のT−LINKシステム…せいぜいお前の力を5%も生かしていないだろう? 腕が互角なら機体の差が間違いなく勝因だな…」 「く…」 祐一は何も言い返せない。 事実だ。実際にフラムベルクには念動力を生かす装置はほとんどついていない。 何故かは知っている。知ってるからこそ悔しさがあった。 ビルガーがよろよろと飛び上がる。 「そろそろ覚悟を決めな…。半端なままだと…お前は死ぬぞ」 ズドオオオオオ! そういい残し北川は空の向こうに飛び去っていく。 まるで祐一に忠告をしに来たただそれだけのように。 誰もが息を呑む中、 「皆さん、何とか間に合いましたそれではノアシップ発進します」 ゴゴゴゴゴゴ…。 ノアシップが徐々に陸を離れる。 皆黙ってその姿を見守っている。 また皆無事に会えるそう思って。 そしてノアシップは小さくなっていき…消えた。 (確かにそろそろ決めなきゃならないな…。 このままじゃ…俺は) ただ祐一だけが北川の消えた空だけを見ていた。 それも一瞬のことだったが。 ――???? 「そうか彼らは火星に…」 北川からの報告を興味深げに聞く久瀬。 「どうする? 防衛線に引っかかるときに仕掛けるか?」 「かまわない行かせてやれ。まだ時間はある…」 「のん気なもんだ」 「寛大、と言って欲しいね。それに彼らがバフラムとイレイザーを抑えてくれるのなら その分、準備が進められる」 「結局はそれか」 くっくっくと久瀬は笑った。 「どうした北川君? 随分とご機嫌なようだが?」 「そうでもないさ。じゃ俺は疲れたから行くぜ」 「ああ、ゆっくり休みたまえ」 パタンとドアが閉じ、久瀬は窓から広がる宇宙を見つめた。 「間もなくだ…間もなく時は満ちる…」 ――???? 廊下 「北川君…」 そこには少し不機嫌な顔をしたロングヘアの女性が立っていた。 「美坂か、何だよ怖い顔して」 「聞いたわよ、ノアシップを見逃したそうね」 「おいおい、あの敵の真っ只中に飛び込んで 発進の邪魔しろってか? 冗談きついぜ」 おどけて見せたが美坂…美坂香里の目は笑っていない。 ややウェーブのかかった髪に整った顔立ちの美人。 だが、そんな人物に睨まれるとなると話は別だ。 「どうしてわざと見逃したの?」 「だから言ってんだろう、状況が…」 「とぼけないで」 その言葉には威圧の意味があった。 北川もさすがにおどけるのを止めて真剣になる。 「あの場にいた偵察部隊を使えばノアシップの機関部を狙うことは 貴方の腕なら出来るはずだわ。だけど貴方は部隊を引き上げさせ 一人でただ暴れただけだった。これをわざと見逃したといわずして なんというの?」 「おい、雇われの割りに随分な言いがかりだな。あそこでノアシップを足止めすることに 意味はなさそうだから先走った部隊にこれ以上被害が出ないようにしただけだ」 「何ですって…? 理由はどうあれ敵の船の動きを封じれるんだから 戦略的に意味はあるはずでしょ?」 「久瀬の戦略的には必要ないんだそうだ。そんなありきたりの戦略はな」 「…」 久瀬の名を出すと香里は即座に黙った。 確かに総帥の彼が必要なかったのであればこれ以上自分が怒鳴る理由もない。 興をそがれたように北川は肩をすくめた。 「ま、いいけどな。じゃな、お前もキュベレイの調整しておけよ」 「言われなくても!」 キッときつい目で睨むと香里は足早にその場を去った。 (勘付かれているのか…?) 北川はその後姿が見えなくなるまでその場に立っていた。 「北川さん?」 「うおっ!? …って天野か…驚かすな」 そこに立っていたのは少しくせっ毛のあるショートカットの少女、天野美汐だった。 北川の愛機クロムビルガーの相方機クロムファルケンの搭乗者で 事実上北川の相棒…なのだが。 どうにも真面目な彼女が北川は少々苦手だった。 「どうやら私がいることがまずかったようですね」 「いや、そんなことはないが…」 少し間をおいて北川を見ていた天野がやがて視線を外す。 「まあいいでしょう。それよりも連携の練習をしたいので シミュレータールームに来ていただけませんか?」 「嫌だって言っても連れてくんだろ? 行くよ行くよ…」 あーあと疲れたような表情で北川は天野の後を追った。 その胸に何を抱いているのかわからないまま。 箱舟に乗った少年達は火星へ 母艦に残りし少年達は地上を 本当の戦いはこれからだ 涙も血も、この先からますます流れていくだろう 運命はどれほど残酷なのか そして抗うことの意味は? 全ては戦いの向こうの時だけが知っている 第1部 集結編 完
後書き 祐一 「これで第1部!?」 雪村 「うわー、露骨な終わらせ方ですねー」 佳乃 「次からは第2部 火星編ですか?」 冥夜 「そうなるのだろうな」 瑞佳 「逆に言えば地上の人はしばらく出ないんだね?」 局長 「次回、第2部 火星編! お楽しみに!」 SSのTOPに戻る