「艦長、無事地球圏を抜けました〜」

 戎が報告を入れる。真那は頷いて

 「ご苦労様、一応警戒しつつ火星へ進路を取りなさい。

  常に警戒レベルAでの巡航を心がけるように」

 「了解!」

 警戒レベルAとは常にサーチモードを働かせ敵影を監視すると共に

 こちらは出来るだけ痕跡を残さずに動く状態のことだ。

 若干進行速度が遅れるが、不意打ちに対応しやすくノアシップのように

 四面楚歌の状態で戦う部隊などに適しているといえよう。

 「しかしぃ、R・Gが私達に何もしてこなかったのは気にかかりますねぇ〜」
 
 巴がふとそんなことを言った。確かに地球の周りの監視衛星および

 コロニーの大半はR・Gの管理下にある。

 ゆえに真那は大気圏突入後すぐにでも戦闘があると予測し

 乗務員達に戦闘態勢でいるよう指示を出したのだが

 無事彼らの目の届かない範囲までこれたことに疑問を感じ得ない。

 「確かにねー。ちょっとおかしいっていや気になるよなー」

 そんな巴の発言に神代も同意する。

 そして無言だが真那も当然そう思っている。
 
 (R・Gにとってもバフラムは邪魔だから私達の邪魔をしなかったのだろうか…?

  しかし、私達が火星を目指すかどうかはわからないというのに…)

 真那にある一つの疑惑が浮かぶがあえてそれを口にしなかった。

 航海は驚くほど順調だった。

 そう静か過ぎるほどに









 エクシードブレイブス 第28話

 静かなる宇宙











 ――ノアシップ通信室

 「やっぱり必要か?」
 
 『ああ、どうやらビビッてる場合じゃないみたいだ』

 信哉は地上での経緯を祐一から聞いていた。

 その際、口に出された二人共通のキーワード。

 「T−LINKシステムか…こっちはまあ香月博士がいるから大丈夫だけど」

 『その点に関してはこっちも霧島先生がいるからな。後は俺達の

  心構え次第だな…』

 研究所でのことを思い出す。

 ゴッドフォースプロジェクト、そしてCL−2。

 信哉に刻まれた「四つの神」の二番目。

 そして祐一にはCL−1。

 二人にとって念動力の開放は忌まわしき記憶の扉を開くのと一緒だった。

 出来れば使いたくはない。

 腕が震える。何かを恐れて。

 それが何かはわからないが。

 『俺は覚悟を決めた。もう逃げない、絶対に使いこなし見せる』

 「…そうだな。何より俺達が扱いやすいように作るんだ。

  アザゼルの都合に合わせなくていいんだし」

 『そういうことだ』

 ふう、と信哉は上を見てため息をついた。

 無機質な天井が目に入る。

 「一応アイデアはあるんだ…クラウ・ソラス…あれが
 
  何で出来てるか知ってるだろう?」

 『…お前本気か?』
 
 何馬鹿なことを、と祐一はそんな声で言った。

 「剣は使い手がいてこそ、そしてお前のもな。

  本来の姿に戻ってこそ真の力を発揮できるだろう?」

 『…よく言うぜ。下手すりゃ「バニシング・トルーパー」ならぬ

  「バニシング・フレーム」なんてあだ名がつくぞ』
 
 冗談じゃない、信哉は憤慨した。

 「そんなへまは踏まないよ。お前こそ気をつけろよ。

  …北川は強い」

 『これ以上負けられねえ。心配するな』

 「ああ」

 『じゃ、次に会うときは地球でな』

 「死ぬなよ」

 『お前もな』
 
 そう残して通信は切れた。

 とりあえず信哉は香月博士の部屋を訪れることにした。



 ――ノアシップ 香月博士のラボ

 ラボと呼ぶのにふさわしいほどあてがわれた部屋は研究機材で埋まっていた。

 ここだけ別の世界の部屋のようで信哉は眩暈がした。

 信哉は自分のアイデアを包み隠さず夕呼に話した。

 「理論上は可能な機体ねえ…。ただ相沢も上手いこと言うわね。

  確かにこれなら下手すると「バニシング・フレーム」の名がついてもおかしくないわ」

 「絶対にそんな風にはしません」

 信哉は真剣にそう言った。

 夕呼は視線を逸らさずその目の中の真意を探る。

 「面白い仕事じゃない。引き受けたわ、ただし慎重にやらせてもらうわよ。

  あたしの経歴に傷をつけるわけには行かないからね」

 「そっちの心配ですか」
 
 「当たり前でしょ?」

 当然といわれては返す言葉もない。とりあえず信哉は細かい打ち合わせを始める。

 その間ふと、夕呼が唐突にこんなことを言い出した。

 「ゴッドフォースね…。何をしたら人が神になれるっていうのかしら」

 「…神様なんていませんよ」

 「それはどうかしらね?」

 「どうしたんです? 科学の権威の夕呼先生らしくもない」

 「確かめたわけじゃないからね。科学の権威だからこそ

  確証もない理論を否定も肯定もしない…それだけよ」

 確かに言いえて妙ではあるが。

 信哉はその発言が夕呼らしくて笑ってしまった。







 ――ノアシップ リビング

 パシュー

 自動ドアをくぐって信哉はリビングに入る。

 そこでは何人かが談笑に花を咲かせている。

 ふと時計を見ると訓練時間は終わっていた。
 
 信哉は空いていた席に腰掛けて飲み物を取る。

 ちなみにノアシップ内は重力制御が利いていて

 地上とほぼ変わらない生活が維持されている。
 
 無論食生活もだ。以前クルーの編成を行うとき

 みさきがしきりに駄々をこねていた理由が

 「宇宙食はおいしくないから嫌だよ〜」

 だった。

 まあのんきな彼女らしいと言おうか。

 さて話を戻そう。信哉が持ってきた飲み物はコーラだった。

 「あーっ、信哉見つけた〜」

 口元まで持っていったコップを放して信哉は視線を

 声の主に向けた。
 
 「何だ、真理奈?」

 「よかったね真理奈さん、緋神さんいたよ」

 真理奈の隣には小町が一緒にいた。

 どうやら二人で信哉を探していたらしい。

 「えと…そのちょっとさっき通信室で怖い顔してたから…

  心配になって」

 そのことか、と信哉は納得した。

 誰もいないかと思っていたがどうやら近くに真理奈がいたのだろう。

 そしてその雰囲気に声をかけづらかったのだろうと信哉は思った。

 「そうか心配かけて悪かった」

 だから信哉は諭すように優しく謝った。

 「ううん、それはいいの」

 そう言って真理奈ははにかんで笑った。

 信哉が安心する笑顔だった。

 「あらあら、小町さん当てられちゃった〜」

 と、隣で小町がおどけて見せるので真理奈が真っ赤になって

 「ちょ、小町さ〜ん(赤」

 「ほほほ、小町は皆さんの食事の支度があるのでもう行きますね」

 口元に手を当ててそそくさと退散する小町。

 元気に見えるが…やはり舞人との一軒はそれなりにショックだったのだろう、

 言葉に少し覇気がなかった。

 信哉も真理奈もそれがわかったようで

 「早く元気になるといいね」

 「そうだな。こればっかりは時間しかな…」








 ――ノアシップ 廊下

 「あはは…しっかりしっかりしなきゃ」

 小町はそうつぶやきながら歩いていた。
 
 泣いた、みさきの胸を借りてたっぷり泣いた。

 それでも、信哉と真理奈のやり取りを見ていると少しばかり

 心が締め付けられる。

 理屈で分かっていてもこの悲しみは割り切れない。
 
 「あれ? 雪村さん?」

 通りすがったのはこだまだった。腕にノートを抱えている。

 どうやら資料室からの帰りらしい。

 「あ…里見先輩」

 「元気ないね、どうかしたの?」

 傍目にわかるほど小町は自分が落ち込んでいるのを表情に出していたのだろうかと

 驚いた。舞人相手ならごまかせても他人は無理らしい。

 「いえ…ちょっと」

 「やっぱり辛いかな?」

 こだまはストレートに聞いた。

 「そうですね…やっぱりまだちょっと…」

 「そっか…私も昔経験したけど、辛いよね」

 こだまに失恋経験があることはちょっと小町には驚いた。

 確かに子供っぽいところはあるが(性格、体ともに)

 比較的男性の人気はありそうなのだが。

 「でも私は本が好きだったから。忘れようと思って好きなことに没頭しているうちに
  
  次に頑張ろうって。そう思えるようになったよ」

 「没頭…」

 「そう、好きなことをしているとね余計なことを考えなくて済むの。

  少しの間だけ、現実から目を逸らすの」

 「でも…」

 逃避ではないか、小町はそう思った。

 「現実だけ見つめてたら疲れちゃうよ、たまにはね、全部を忘れちゃうことも必要なんだよ。

  戻るために逃げるのは悪いことじゃないよ」

 「戻るために逃げる…」

 「そう」

 小町はしばし考えた。そういえば、みさきに全てを吐露して泣いている間はよかった。

 それだけが小町の胸にあったのだから。

 だが最近は考える時間が多かったせいかついつい昔を懐かしむことがあった。
 
 だからだったのかもしれない。いつまでも引きずってしまうのは。

 「なんとなくわかりました。ありがとうございますこだま先輩」

 「ううん、可愛い後輩のためだもの。頑張ろうね」

 そう言って二人は廊下で別れた。

 その小町の後ろ姿をふと振り返るこだま。

 そこに先程まで見えていた悲壮感はもうない。

 「もう、大丈夫だね」

 そのつぶやきは小町には聞こえないようつぶやかれた。

 ノアシップは向かう。

 激動の火星へ。

 後日談として

 その日の夕食は小町がこれでもかと腕を振るったらしい。

 皆がその食事を絶賛しながら食べる姿を見て一緒に食事を楽しんだ小町に

 もう悲しみは付きまとっていなかった。

                                  続く


後書き 武     「第2部スタートォォォォ!!」 冥夜    「どうしたのだ、武? そのように怒鳴って」 純夏    「これから出番が増えるだろうからテンション上げてるんだって」 壬姫    「タケルさん、やる気十分ですねー」 千鶴    「目立ちたがりなだけよ」 慧     「…弱い犬ほどよく吼える…」 SSのTOPに戻る