ノアシップがもう間もなく火星圏に突入しようというときに事は起きた。

 進路上に一部の戦力がコロニーから集結しているらしい。

 このままではその部隊との対決は避けることは出来ない。

 しかし、進路上には火星監視用のコロニーが少なくとも4基は確認できる。

 まごつけば火星軍との合流は不可能となる。

 このタイミングで戦力を配置する理由は一つしかない。

 おそらく地上での交戦時の生き残りが上層部に報告したのだろう。

 どの位置から火星に入ろうとしても戦闘は避けられないと判断した真那は

 メンバーをミーティングルームに集めた。

 幸いまだ時間はあるので何とか一計を講じようというのだ。

 少数戦力での戦いは常に戦略と戦術が行方を左右するのだから。

 ミーティングルームのドアが開くと、全員そろっていた。

 長テーブルを囲むように座るいつもの状態。

 「それでは火星突入のための作戦会議を始めます」

 真那の合図の元、バフラムとの最初の戦闘の作戦会議が幕を開けた。









 エクシードブレイブス 第29話

 オペレーション・マーズ











 真那が手元の資料を元に置かれた現状を説明する。

 「これが到着予定地の火星軍の駐留基地です。そしてこれが進路です」
 
 その進路はまっすぐ駐留基地に向かって一直線に伸びている。

 そしてその進路上に三つの黄色い光点が浮かぶ。

 その進路からはどの光点もほぼ距離は一緒か。

 そして進路上に無数の紅い光点が浮かぶ。

 おそらくそれが配置された戦力図なのであろう。

 「見ての通り、どのコロニーからもほぼ同位置に戦力が配置されています。

  このまま正面突破をかけるのは得策ではありません」

 真那の発言にひかりが答える。

 「かといってこの戦力を全部かわしていくのは不可能…。

  しかし出来る限り敵戦力は削っておきたい、そうですね?」

 「ええ、結城さんの言うとおりです。しかし現状ではその両方を実現するのは難しいでしょう」

 単純な数の上から見ても圧倒的に不利だ。何より相手にはコロニーがある。

 補給を常に受けられる相手と消耗戦はこちらのほうが圧倒的に不利だ。

 ノアシップはそれなりに改良を施されているものの長期的な戦闘には向いていない。

 となると何か策が必要になる。

 「ん?」

 武がその時妙なことに気がついた。

 「月詠さん、あのコロニーって…兵器生産所ってあるぞ?」

 「ええ、バフラム軍における軍事拠点のひとつで無人機の量産工場もあるそうですが…」

 「へえ…」

 にやりと武は笑った。

 そして、信哉と真理奈に振り返る。

 「信哉、いい作戦がある。乗らないか?」

 「内容によるな。武の作戦はハイリスク・ハイリターンだからな」

 「月詠さん、確かラプターは単純思考回路制御方式だったよな」

 「ええ、武装に適した戦闘をセオリーによって繰り返すタイプですが」

 「だったら工場をのっとればいい」

 その発言に誰もが目を丸くした。

 中には大声を上げるものもいる。

 しかし、それは半数で思考の早い一部のメンバーはなるほどと頷いた。

 「確かに混乱を起こすには無難だな。しかし潜入はどうする?

  コロニーに入るとなると少々厄介だぞ」

 信哉がそう言うと鷹嘴が立ち上がる。

 「ならば俺がコロニーの正面から劣りになろう。真正面から向かっていき

  一発も発砲してやれば注意はそちらに向くだろう」

 鷹嘴の発言に武が確認するように続ける。

 「で、その間に潜入と…」

 「そして混乱しているうちにノアシップは包囲網を抜けて

  合流…」

 最後を真那が締めくくる。

 無謀は百も承知だが、確かにこれとない効果的な作戦となった。

 「だったらついでに事が済んだら工場を爆破できるようにしておけば

  さらに有効ね。ちょっと待ってなさいあたしがウィルスを組むから」

 そう言ったのは夕呼だった。顔に笑みが浮かんでいる。

 「それでは作戦決行は準備が整い次第開始します。各自準備を怠らないよう!」

 「了解!!」

 真那の号令でその場は解散となった。





 ――格納庫

 武と冥夜は夕呼に連れられて格納庫まで引っ張られていた。

 「あんたたちの機体の微調整が終わったから」

 その一言で。

 武機にはスラスターモジュールが取り付けられ宇宙仕様へと変更がされている。

 他の機体はすでに宇宙を想定して作られていたが、

 吹雪は未だ地上用のパーツで構成されていたのだ。

 「香月教諭…これは?」

 冥夜は建御雷に取り付けられた『それ』を見て驚いた。

 何しろほぼ建御雷と同等の長さを誇る巨大な刀。

 「それが建御雷の新武装、対艦刀・雷神よ」

 まさしく雷を思わせる鋭利な斜線の刀身。

 そして一撃でPTを真っ二つに出来そうな長さと質量。

 戦術機の標準のブレードを遥かに上回る威力が期待できそうだった。

 「おそらくその剣なら御剣ならそこらに小型船なんて真っ二つに出来るわよ。

  上手く使って頂戴」

 ひらひらと手を振ってその場を去る夕呼。

 「感謝いたします。香月教諭」

 その場で冥夜は深く頭を下げた。

 冥夜はその場で建御雷を誇らしげに見上げる。

 その目は歓喜に震えていた。



 ――数時間後

 すでに目視できるほどの位置にコロニーが見えてくる頃

 作戦は開始された。

 すでに鷹嘴のリ・ガズィは発進している。

 潜入部隊の武、信哉、真理奈の三人はコロニー裏側に向かって移動している。

 残りのメンバーはノアシップの援護である。

 合図はない。

 状況を見て判断して動くしかないのだが…。

 何故か誰もがこの作戦の失敗を想定しなかった。

 それはお互いの信頼ゆえのことだったのだろう。

 そして。





 ズドオン!

 



 すでにコロニー近くまで来ていた武達の視界に何かの攻撃が見えた。

 警報が鳴り出し、ラプターたちが出撃するのが目に見て取れる。

 「さすが鷹嘴さん、さて俺達も潜入するか」

 武の一言で信哉と真理奈も行動に移る。

 「そうですね。目標ポイントはコロニーの丁度この辺です」

 「よし、降下する」

 騒ぎは大分大げさに伝わっているようで、コロニー内は騒然としている。

 だが機械だけでコントロールできる施設に元々それほど人はいない。

 武達は難なく工場に潜入することが出来た。

 どうやら作業員がいるときはLEVを使用するようなので

 OFや戦術機ごと入っても問題のない入り口と建物だった。

 「何でもいいからデータの端末を…」

 武がきょろきょろとあたりを探す。

 「あ、白銀さん、あそこにサーバコネクトがあります」

 サーバコネクトとはいわゆる大型機用の情報端末だ。

 いちいちマシンから降りずともコックピットを使って

 情報の参照が可能な機械のことだ。

 武は吹雪の腕をコネクトに接続してウィルスを注入する。

 画面には残っていたラプターシリーズの知能データの書き換え完了の画面が出た。

 「よし感染した。後は俺達が脱出するだけだ」

 「武、ラプターの発進までの時間は?」

 「コンピューターには2分とかからないはずだ」

 「じゃ鷹嘴さんを援護しつつノアシップとの合流点に急ごう!」
 
 「おうよ!」
 
 くるりと向きを変えて三機は工場を後にし、おとりの鷹嘴の元へと

 飛んでいく。

 その間も狂ったコンピューターは与えられた命令をこなしていた。







 ――コロニー監視塔

 監視塔にてモニターを見ているコロニーの管理人ホレイヌ・ザバーは

 予測不可能な動きをこなすリ・ガズィに呆然としていた。

 彼はこのコロニーの数少ない人間でバフラムの末端の人間だった。

 すでに齢40を超えている彼は戦線に送られることはなく

 雑用をこなしながら細々と暮らしていた。
 
 ところが、突然の異常事態にその原因はとモニターを見れば

 たかが一機のモビルスーツ。

 すぐに沈黙するだろうとラプターの出撃を命令したが

 いかんせん、そんなことはなかった。

 「さっさと落せ…全くこれだから無人機は…」

 そうつぶやいたとき、彼の目に異常な光景が飛び込んだ。

 発進口が開いたかと思うと、ラプターたちが次々と出撃を始めたのだ。

 全部の戦力を吐き出すかのようにどんどんラプターたちは飛び出ていく。

 「な、何だ? ワシは出撃を要請した覚えはないぞ?」

 コンソールを使い状況をモニターに出す。

 だが、こちらからの操作は一切受け付けず、やがてこのコロニーにあった

 ラプターは全て出撃した。

 「い、一体…何故…」

 しかしこれだけでは止まらなかった。

 赤いサイレンが鳴り出すと

 『警告します。この工場の機密保持レベルがAを超えました』

 『10分後、この工場は爆破されます』

 『総員速やかに退避せよ…繰り返す…』

 工場の爆破時の緊急避難用の放送がスピーカーから流れ出す。

 一体何故だ? ホレイヌは頭を抱えた。

 こんなことが上にばれれば自分は…。

 そう考えた彼はとにかく走った。

 非常脱出装置の中に入るととにかくスイッチを押した。

 どこだっていい。帰る場所などもうないのだ。

 諦めにも似た感情で彼は適当に避難場所を指定した。

 そして装置は彼を宇宙に放り出した。

 「一体何だったんだ…まあいい。どうせワシも…」

 まどろむ中、彼は遠くに爆音を聞いていた。

 彼の全てを終わらせた爆音を…。




 ――コロニー近海

 「ふっ…」

 グン!
 
 リ・ガズィは軽やかに宙返りそのまま反対方向へと飛行し

 旋回して体勢を立て直す。

 連携の取れていない無人機では鷹嘴のリ・ガズィを止めることなど不可能だった。
 
 ましてや障害物のない宙域で彼の障害になるものは何もない。

 「戦闘最速理論…やはり宇宙のほうが向いているな…」

 にやりと口元に笑みを浮かべる鷹嘴。

 それはスピードに打ち震える昔の血。

 だがそんな世界も間もなく終わりを告げる。

 ズドオン!!

 突如どこからの攻撃でラプターが撃破される。

 「来たか…どうやら作戦は上手くいったようだな」

 レーダーには潜入組の識別コードを発する機体が映っている。

 「俺の最速はまだ限界に来ていない。またの機会を待とう…」

 鷹嘴はそういい残しその場から移動する。

 後ろについてきていたラプターの姿はすでになかった。





 ――合流点

 間もなく合流というところでノアシップが肉眼で確認できるほどに見えてきた。
 
 ほとんど外傷もなく、どうやら無事だったらしい。

 『四人とも無事のようですね』

 通信から真那の声が聞こえる。

 「まあ首尾よく行きましたよ」

 武はそう答えた。

 『今頃はラプター同士の同士討ちの始末をつけている頃でしょう。

  急いで火星軍と合流します』

 「了解」

 武はふと視線を逸らすとそこには赤い星が移っていた。

 次の戦場である火星。

 今まさに彼らはそこに足を踏み入れようとしている。

 エンダーと蔑まれた辺境の星へ。
 
                                   続く


後書き 往人    「今回は随分頭脳戦だったな」 つばさ   「多分、総力戦にすると一話に収まりきらないからでしょ」 麦兵衛   「用は場のつなぎという奴ですね」 佐祐理   「あははーっ小細工は小ざかしいだけですよー」 SSのTOPに戻る