――ノア・シップ ブリッジ 「艦長、敵の数が減り始めました。どうやら協力が取れたようです」 巽の報告に月詠はうなずいた。 モニターに表示されている光点が少しずつ減っているのがわかる。 当然減っているのは敵側の光点である。 ところがその安堵の雰囲気をぶちやぶるかのようにモニターに何かが表示された。 急スピードで祐一達に接近しているのがわかる。 「えーと…これはまた未確認機ですねえ。しかもOFです〜」 美凪はあくまでマイペースに報告した。 これではよくわからないだろうが、彼女の表情には明らかに焦りが浮かんでいる。 「照合完了! 登録されている識別番号ではありません。 ですが…類似いえ、これが模造品でしょうか…。同型と思われる 機体のデータが一機だけ上がっています」 雪乃はごくりとつばを飲んだ。 そこにあがっているデータは考えるにはあまりに絶望的だったからだ。 「一体…何の」 そのデータを見て月詠は目を見張った。 もっともあってはならない機体。 これの類似、あるいは模造品が地球にいる? そのことは彼女達にとってあまりにむごすぎる事実だった。 エクシードブレイブス 第3話 黄泉より帰りし亡霊と王 「そこだっ! マシンガン!」 武の吹雪が構えたマシンガンは的確にラプターをとらえた。 弾幕に押され接近戦がメインのラプターは反撃できずに撃破された。 吹雪の後ろから冥夜の乗った建御雷が上昇し、上空にいた一機に、 「せえっ!」 巨大なブレードの一撃を見舞う。 その姿はまさに刀を振りおろす侍と言えた。 一刀の元に切り捨てられるラプター。 このように彼らの参加により、ラプターとの戦闘はようやく終わりが見えた。 「ひゅうー、自衛団とはよく言ったぜ。下手な連邦の部隊よりよっぽど 強いんじゃないか?」 信哉は感心したようにつぶやいた。 そこへ祐一が、 「連邦と比べたらあいつらに失礼じゃないか?」 ああ、と信哉はうなずいた。 「さて…これで全部片付いた…!?」 そこまでつぶやいて信哉は妙な空気を感じ取った。 まるであってはならないものの放つ異様な雰囲気である。 「モニターに…この反応はOF?」 するとそこに…丁度祐一達にかこまれるような形で一機のOFが現れた。 全身が主に赤で統一されたカラーで頭部はまるで犬のような機体。 そして威圧的な5枚の翼に、長いロッド。 信哉は自分の知る知識の中からあれと似た…いや 同じ機体を思い出した。 「アヌビス…!?」 ――ノア・シップ ブリッジ 「ダメです、すでに未確認機冥夜様たちと接触しています!」 月詠は唇をかんだ。 だが彼らを見捨てるわけには行かない。 「ノア・シップ発進準備!!」 「ええ!? でもこれが撃墜されたら…」 月詠の決意は変わらない。 ここでアヌビスを撃退できなければ地球がかつての火星のようになるだけだ。 「命令に変更はありません。発進準備!」 三人はその表情から月詠の覚悟を読み取ったのか 素早く準備を始めた。 「メインエンジン、始動!」 「全砲門スタンバイ準備!」 「作業員の所定位置への移動開始!」 その見事の手際に普段のボケぶりはどこへやら。 瞬く間にノア・シップは準備を整えていく。 発進前の警報がなり、船内はにわかに騒がしくなっていく。 「発進までの予定時刻3分!」 月詠はその間もただ光点の移るモニターを見つめている。 「冥夜様…どうかご無事で」 「アヌビスって…まさか」 武はそれ以上言葉にできなかった。 「…数年前バフラムが火星で反乱を起こした際にバフラムのリーダーが 使用していた最凶のOF…。たった一機で地球軍の戦力の3分の2を削り 火星を火の海にした今だ悪魔の伝説として残る機体だ…」 信哉が変わりに説明した。 「だが…あれは地球軍の手に確保されたジェフティとその仲間たちが 破壊したはずだ!」 祐一は思わず怒鳴り声を上げた。 「落ち着け祐一。じゃあここにあるクラウ・ソラスのモデルはなんだ?」 「…! まさか…」 祐一に浮かんだのは最悪の答えだった。 「ジェフティと同じで、アヌビスのデータもまた…どこかから流れたんだ。 連邦がこの手のデータを抹消するはずが無い。極秘事項とでもほざいて どっかで保管してたんだろう…。もしくは製作に関わった者が作り出したか…… どちらにせよジェフティもアヌビスも元は地球がメインで作られているんだ。 知ってる奴がいてもおかしくない」 信哉と祐一が会話をしている間も無反応のアヌビス。 だが、それは一瞬のことだった。 彼らの目の前からアヌビスは消えたのである。 「…どこだ!?」 だが次の瞬間祐一のフラムベルクが突如海に向かって叩き落された。 アヌビスが背後から攻撃したのである。 「うわああぁ!?」 叫びつつも機体の体勢を立て直す祐一。 どうにか着水は免れた。 「…いつの間にフラムベルクの後ろに回りこんだ!?」 「無論君達の目の前でだよ」 突如、アヌビスのパイロットが外部通信で話しかけた。 華奢な男を思わせるソフトな声だった。 だが、発言の一つ一つに計り知れない悪意も混じる。 「それと誤解の無いよういっておくが…これはアヌビスの原型…いやジェフティとアヌビスの プロトタイプだよ。あまりの危険性に製作者達が抹消した品なのだけれどね…。 名を…ウオン・ネフェル。君達にはオシリスといったほうが…聞こえがいいかな」 オシリス…。 救世主にして死の神を名乗るエジプトの神である。 「アヌビスの親の名か。確かにプロトタイプのようだな。 それでわざわざ地球まで来た目的は何だ」 往人の問いにアヌビス改めオシリスは無言のままだった。 だが、また外部通信から男の声が聞こえる。 「地球…連邦に宣戦布告といったところかな…。アヌビスの亡霊…いや バフラムのかな。今度は火星ではなく地球をいただくという宣戦布告をね」 その言葉にまた往人が返す。 「…先のバフラムとの一件以来、火星は地球の支配を離れたはずだが」 「ああ。だがそんなものに何の意味がある? 優れたスペースノイドが 劣っているアースノイドより過酷な生活を送らなければならない理由がどこにあるんだ? 僕は、火星をあるべき姿に導こうというんだ。 地球人たち、奴隷が僕らのために働くという姿にね」 そう言うとオシリスは翼を広げた。 「それとも…君達が僕を止めてみるかい? 無理だろうけどね。アハハハハハハ!!」 オシリスは不快な笑い声と共に姿を消した。 「くっ! お互いの機体の周りを確認するんだ。 奴は必ず死角から狙ってくる!!」 往人の合図で全員はその空域で散開した。 フォーメーションを維持しつつ皆は辺りをうかがう。 しかし、OFはもともと一対多数を想定して作られている。 その程度の警戒でオシリスの瞬間移動をとらえられるはずもなかった。 機体が現れたことに気づいてからでは、彼らに反撃の術は無い。 「くっ!!」 一瞬の間にオシリスが消える。 悲鳴を上げたのは冥夜だ。 建御雷が背後から攻撃を受けバランスを崩す。 「冥夜!」 すかさず吹雪が支えバランスを保つがそれが限界だった。 気づいたときにはすでにオシリスはそこにいない。 静止状態に入らないオシリスに対して攻撃する手段が祐一達にはなかった。 「くっそう…」 信哉の呟きが無念そうに響く。 ところが、 シュゴオオオ!! 祐一達の機体の間を縫うように一閃が伸びていく。 ドゴオオオ!! 「なにいっ!?」 オシリスはその砲撃をもろに喰らった。 かなりの遠距離砲だったのでさすがにとらえられなかったようだ。 「これは…ノアか!」 武が気づいたように大声を上げた。 見れば、ノア・シップがすでに目視で確認できる位置にいた。 巨大な砲門が煙を上げている。 先ほどの一撃はあそこから放たれたのだろう。 「チャンスだ! 祐一!!」 「任せろ!!」 この機を逃さず信哉はクラウ・ソラスを急発進させた。 上手い具合に背後を取ったクラウ・ソラスは、 オシリスの翼を掴むとフラムベルクに向かって投げた。 オシリスは体勢を直せずそのままフラムベルクに近づいていく。 「全てぶち込んでやるぜ…せいぜい赤く燃え上がりな…。 ブースト!!」 フラムベルクはバーニアを全開にして猛スピードで特攻する。 「うらぁっ!!」 フェイズセイバーを突き出し、オシリスをセイバーに固定する。 串刺しになったような形でオシリスはフラムベルクに捕獲された。 そしてそのまま零距離でマシンガンを無数に打ち込まれる。 次には両肩のスクエアクレイモアを打ち込む。 さらにフェイズセイバーを抜き、切り払いで吹き飛ばし、 「これでとどめだ!!」 スプリットミサイルの雨が無防備のオシリスに襲い掛かる。 祐一いわく、フルバーストコンビネーションと呼ぶ攻撃方法だ。 フラムベルクのほとんどの武装を近距離で叩き込むコンビネーションである。 その容赦の無い連続攻撃を始めて目の当たりにした三人は 威力はもとより無駄の無い組み合わせに身震いした。 その間によいよオシリスにミサイルが全弾命中する。 ドガガガガガアアアアアン!! 爆炎が巻き起こり、噴煙が辺りに広がり始める。 その中心を皆は緊張しながら見守っていた。 そして…。 白い煙の中から オシリスは再び姿を現した。 多少機体はダメージを受けたようだ。翼が何枚か欠けている だが、戦闘不能と呼ぶには程遠い。 おそらくノア・シップも含めてこの場にいる全員を落とすことはまだできるだろう。 だが通信からは意外な台詞が飛び出した。 「なるほど…少々遊びが過ぎたね…まあいい。 宣戦布告は済んだんだ…。今日はこの辺で引き上げるよ。 また会おう…。特に君…」 クラウ・ソラスを…中に乗る信哉を指して 「僕の名はイセイル…君の名を…聞かせてもらおうか」 「…緋神…信哉」 くくくと押し殺した笑いを浮かべてイセイルは 「この借りは必ず返すよ…。見事な攻撃を加えた 君の友達にもね…」 「俺は相沢だ、相沢祐一。イセイルだったな…。 今度はこの程度じゃ済ませないぜ…必ずな」 やがてオシリスは上昇を始める。 今は迎撃する余裕は無い。 下手をすれば無駄な犠牲を生むだけだとわかっているからだ。 それは先ほどの強気な発言を残した祐一ですら同じである。 今は何とか手傷を負わせたこと自体がむしろ、奇跡的なのだから。 だから彼らは黙って見送っている。 己の無力をかみ締めながら…。 「楽しみにしているよ…はは…ハハハハハハ!!」 その赤い冥界の王は…高笑いと共に 空へと消えた。 無限ともいえる宇宙と言う名の空へと…。 続く SSのTOPに戻る