現在ノア・シップは研究所の周辺まで来ていた。

 ここで適度な人員をおろした後、すぐに前線へ戻るためである。

 艦は辺りを警戒しつつ近場の岩場に身を隠した。

 「月詠艦長、研究所へは少数で向かいます。室内戦となると

  多人数の場合かえって危険です」

 信哉の進言に月詠は少し考えて

 「そうですね…。わかりました、緋神さん、佐伯さんを先頭に、

  結城さんと八重樫さんは二人のバックアップに当たってください」

 月詠は少し全員を見回した後そう言った。

 呼ばれた四人が出撃のために格納庫へと向かう。
 
 やがて足音が遠ざかると、残ったメンバーはわずかだった。

 「残りのメンバーは前線へ向かいます。各自準備をしておくように!」

 「了解!」

 そして次々に格納庫へと向かっていく。

 道すがら、往人は美凪を捕まえて話をする。

 美凪は先日、専用のPTで出撃を許可されたのだが…。

 「…遠野、お前本当にあれに乗るつもりか?」

 「…はい。そうですが?」

 どうしてそんなことをといわんばかりに美凪は聞き返した。

 「…マジか…」

 唯一その姿を知る往人は頭を抱えて苦悩した。

 「香月博士もよりにもよってとんでもない機体を作ったもんだぜ…」

 往人は自信ありげに歩く美凪の後姿を見て、一抹の不安がよぎったのだった…。








 エクシードブレイブス 第33話

 究極の翼











 前線ではすでに指揮系統の乱れた無人機が目の前の敵を倒すのみの

 乱戦と化していた。

 物量戦では明らかに劣るが、力押しの戦略に対してこちら側は

 的確な戦闘で被害を最小限に戦える。

 火星軍のLEV隊も徐々に体制を建て直し、アンリミテッドのメンバーのサポートに

 回っていた。

 「珠瀬さん! 3時の方向! 敵が固まってきて味方が押されてるわ!

  援護を!」

 「はいっ! 迎撃します!」

 そう返事した珠瀬の閃光は、スナイパーライフルを構え

 照準を合わせる。

 その彼女の狙いは素早く、そして正確だった。

 ズドオン! ズドン! ズドン!

 珠瀬のスナイプでコア部分を的確に射抜かれ

 次々と撃墜されるラプター。

 無論、その間閃光の周辺の安全を確保しているのは草薙に乗った榊である。

 純夏の乗った霞はLEV隊の護衛と修理を兼ねて後方に下がっている。
 
 常識で考えれば高々数機の援軍で状況がひっくり返るとは思えないのだが、
 
 彼らの能力と機体がその常識を覆したともいえる。

 そして何より、

 「舞! 右の集団を一気に斬っちゃってください!」

 「…はちみつくまさん」
 
 ビッグバイパーに乗ったこの二人によるところが一番多かった。

 飛行形態で、上空から情報を確認し苦戦区域に一気に飛び込み

 すかさず人型に変形し、そこから一気に斬り捨てるのは舞。

 そしてそれが終わるとまた再び飛行形態で離脱…とまさに電光石火の活躍だった。

 無論、この動きにはマークの素早い情報伝達によるサポートもあってのことなのだが

 肝心の本人はと言うと…

 「うおっ! 後方5時の方向! 敵接近中だ、やっつけろ!!」

 「ぎゃあっ! 正面から敵機の集団が来てる! 援護求む!!」

 と、死に物狂いで避けつつ情報を伝達していた。

 というより彼が恐れていたのは、

 (少しでも被弾したらユユに…ユユに〜!!)

 頭に響く小悪魔の微笑に耐えつつ懸命に機体を守っていた。

 そんなこんなで戦闘を続けていた彼らの元に三機の機体が接近していた。

 着流しの浪人に翼が生えた人型兵器、フロンティア神奈式。

 いわずと知れた往人の愛機。

 そしてその下のほうには比較的特長のないガンダムがついて来ていた。

 何より彼らが一番目を引いたのは神奈式の隣にある機体だった。

 全身が澄んだ青に包まれ、少し強面のデザイン。

 そして背中に生えた大き目の翼。

 「…ウイングヴァルシオンエアカスタム…参上です。ぶい」

 無表情というか無感情で言う美凪。

 「…皆さん、出来るだけ下がってください、敵を散らします」

 「って遠野!? お前いきなりアレを…」

 往人が慌てて止めるが、美凪は、

 「…行きます」

 「と、遠野さん!」

 牧島の必死の懇願も耳に入らず、ヴァルシオンは両手にエネルギーを集めだした。

 赤と青の二つの光点が生み出す線が交わりあい一つの閃光弾を生み出す。

 そしてそのまま両手を突き出し美凪は叫んだ。

 「…ツインクロスマッシャー…!!」

 ギュオオオオオ!!

 両手から放たれた閃光弾はお互いに絡み合い、交わりあい高スピードで敵の

 塊へと突っ込んでいく。

 二つの光が一つになり、そしてそれらがまた巨大な塊となって完成し

 ズドオオオオオ!!

 着弾点からものすごいエネルギーの半円と衝撃波が発生する。

 火星の地表を巻き上げ、周囲にいたラプターたちは衝撃により削られた

 エネルギーの中心部へと吸い込まれていく。

 下がるのが遅かったら、仲間も巻き込んでいるほどだ。

 やがて衝撃と轟音が収まったとき、火星の地表に新たなクレーターが刻まれた。

 刻んだ当の本人は、

 「…へいきへっちゃら、です」

 「そりゃお前はな」

 往人の突っ込みも意に介さない。

 多少の動揺すら現れていなかった。

 この惨事にその場にいた誰もが固まるかに見えたが、

 無人機に動揺も躊躇も存在しない。

 動きの止まった味方機に対して、積極的に近づいてくる。

 「…! み、皆さん! とりあえず戦闘を続行しましょう!!」

 佐祐理は慌てて全機に呼びかけた。その声を合図に動きの止まっていた

 メンバーも次々と動き始める。

 「…遠野さん…躊躇ってないんだろうか…」

 麦兵衛は彼女が平然とヴァルシオンを駆っているのを見て

 まだまだ修行が足りないと、実感していた。

 幸か不幸か、この30分後に火星軍は見事にラプター部隊を退けることとなる。



 ――ベクターキャノン研究所

 内部に潜入すると、すでに倒されたLEVの残骸が散らばっていた。

 研究所というよりは兵器開発所に近いらしく、天井も入り口も

 人型機動兵器サイズで作られていた。

 一本道でここまで来たが、どうやら敵はすでに内部にまで潜入しているらしい。

 「急ごう、手遅れになる」

 信哉はそう言って先頭をずんずん突き進んでいく。
 
 やがて中央管理施設と書かれたドアを開いた。

 中央に天井にまで連なる巨大なタワー型のコンピュータがある広いホール。
 
 そこではまだ銃撃の音がした。

 見れば数機のOFとLEVが交戦している。

 「間に合ったか! 真理奈! 八重樫さん! LEVの援護を!

  俺はあのリーダーっぽいOFを抑える! 結城さんはコンピューターの

  ガードをお願いします!」


 「「「了解!」」」

 各機素早く散開する。

 アルテミスはLEVに攻撃を仕掛けているマミーヘッドに

 ウィスプを打ち込み間に入る。

 LEVのパイロットは、

 「き、君たちは…?」

 「私達はディフェンダーの要請できた友軍です。援護します」

 「そ、そうか。助かる」

 それだけ言うとLEVは少し後方に下がった。

 どうやら戦闘用ではなく、作業用のLEVらしい。

 そんな様子を後ろから眺めていた青いOF。

 全体的に汎用性の高い人型。

 両腕に取り付けられているのは大型のブレード。

 その他に目立つ点がないことから近接用のOFであることが伺えた。

 「…任務の邪魔をされては困るな」

 パイロットの男は30代後半といった渋い声でそうつぶやいた。

 頬に傷を持ち、サングラスをかけているがその視線の奥は底知れぬ深い闇。

 「グラオファング、行くぞ」

 男はそうつぶやきOF、グラオファングを発進させる。
 
 近接用だけあって瞬発力と機動力は高めだ。

 随分天井近くまでいたはずだが、あっという間にアルテミスを射程内に捕らえる。

 だがそこへ何かが横切った。

 反射的にグラオファングの右腕のブレードで払う。
 
 キィン!!

 メタトロン同士の独特の金属音が響き、パイロットはその何かに視線をやる。

 「あんたの相手は俺がする」

 「…子供か」

 「…ガキだと思ってナメると痛い目に合うぞ」

 「…フ、戦士の目か。悪くない相手だ、お相手しよう」

 男は不敵な笑みを浮かべると標的をクラウ・ソラスへと絞った。

 (…く…ベテランか、すごい威圧感を感じる…!)

 信哉は今まで感じたことのない重さの空気に緊張した。

 だが躊躇している場合ではない。雰囲気に呑まれたら負けだと言い聞かせ、

 信哉はレバーを取る。

 「…行くぞ!!」

 「来い!」

 ズドオオオオ!!
 
 バーニアを利かせて、信哉は真っ向勝負を挑んだ。

 相手の武装からして遠距離戦を選んでもよかったのだがあえて信哉は
 
 正面から近接戦を仕掛けることを選んだ。

 (遠距離攻撃のスキをつける機体とも限らないしな…

  それに俺の遠距離攻撃は固定式の武装しかないから

  移動しながらの攻撃はしにくいし…)

 相手の機動力から考えると空中で静止するのは自殺行為に思えたのだ。

 クラウ・ソラスの射程内にグラオファングを捕らえた信哉。

 「てりゃあっ!!」

 右腕のブレードを思いっきり縦に振るう。

 そこから薙ぎ払いと十字切りのコンボに繋ぐ作戦だ。

 速度は十分だったはずだった。
 
 だが、

 ガキン!!

 グラオファングはそれを両腕のブレードで挟み込むようにして押さえた。

 まるで白刃取りのように。

 「…悪くない太刀筋だ。だがこの「蒼き牙」たるグラオファングの前では

  児戯に等しい!」

 チィン!

 素早くブレードを弾かれ、クラウ・ソラスは大きくのけぞった。

 そしてがら空きのボディに素早く牙を打ち立てるがごとく

 グラオファングの左手のブレードが突き刺さる。
 
 「ぐっ!」

 コックピットに伝わる衝撃に思わずうめく信哉。

 かろうじて機体を逸らそうとしたが、直撃は免れなかった。

 ブレードを振るい、グラオファングを弾こうとするが、

 ブレードが当たる前にグラオファングが自ら機体を引いた。

 「ほう…あの一撃で沈まぬか、ますます楽しみな奴よ」

 「へっ…あんたを楽しませるために来たんじゃない」 

 軽口で返す信哉だったが、状況は圧倒的に不利だった。

 「そうそう名乗るのを忘れていたな、俺の名は
 
  カロンという。死すものの名をとどめるのも戦士の役目。

  お前の名はなんだ?」

 「緋神信哉。あんたの名は俺が覚えておいてやるよ」

 「フ…出来るかな?」
 
 その言葉の意味を理解したらしくカロンはやはり口元にわずかな笑みを浮かべるのだった。

                                     続く


後書き 全員    「ヴァルシオン!?」 局長    「いやーははは(汗」 武     「…いくら数少ないスーパー系オリジナルとはいえ…」 純夏    「やりすぎだよ」 冥夜    「読者の反応が楽しみであるな」 SSのTOPに戻る