バフラム軍司令室において、二人の男が顔を見合わせていた。 一人は、バフラムの長であるイサイル。 もう一人は、地球からやってきた研究者の顔を被った悪魔たる橘敬介。 「ボルケスに次いで、カロンもやられたようだな。 思ったよりやるな、彼らは」 「ミスター橘、貴方の目的は『火星の先住者』の封印を解くことでしょう? 我らの戦局など気になさる必要はないでしょう」 薄ら笑いを浮かべて橘に言い放つイサイル。 その背筋の凍るような薄ら寒い表情に橘は顔色一つ変えずに、 「まあそうだがね。一応『最深部』まで案内してもらった義理もある。 それに『先住者』の目覚めまでまだ時間がある。 どうだね? 無人機動兵器の戦力を少し差し上げようかと思うんだが」 「フ…貴方も人が悪い。最下部の数ばかりある寄せ集めの兵器だろう?」 「だが、ラプターとあわせて使えば時間を稼ぐにはもってこいだ、違うか?」 「そうだな…それは遠慮なく受け取っておきましょう」 イサイルは橘の提案に素直に乗った。 そして、通信用のモニターを起動して、 「これより、特殊ミッション・コードBを実行に移る。 地上攻略部隊は、ポイントDにて終結後、一気にディフェンダー本部へ進め。 第1艦隊から、第8までの全ての艦隊は空路を取り同じくディフェンダー本部 上空を制圧せよ。繰り返す…」 命令を飛ばすイサイルを冷ややかな視線で見つめながら、 (イレイザーとバフラム…その両方を相手取るなど最初から無理だった。 ということだよ、国崎君…) この場にいない男に対し、嘲笑を浮かべていた。 その笑みは人のものでないように冷たく、そして残酷だった。 エクシードブレイブス 第35話 果てしなき荒野の大地と空と 「なんですって!?」 月詠は報告を読むなり大声を上げた。 「ま、間違いありません。ここより北東部に伸びる広い荒野に バフラムの地上戦力の一部が、一直線にこちらに向かっています。 また同じく、上空には艦隊が迫りつつあります!」 「地上を攻めつつ、まずは空を制圧するつもりですか…。 緊急発令! アンリテッドに集合をかけなさい!!」 月詠は報告してきたオペレーターにそう告げ、自分もミーティングルームに向かう。 (相手の手のほうが早い…! ここで出鼻をくじかなければ戦局を一気に ひっくり返されてしまいますね…) ――ミーティングルーム 「…最悪だな」 「数に物を言わせてきたわね…」 往人とひかりはモニターに移った敵の進行状況を見て呆れたようにつぶやいた。 「見ての通り、状況は最悪です。ですが、ここで相手の戦力をつぶすことが出来れば 戦局は大きくこちらに傾きます」 月詠の意見はもっともだった。 事実、これだけの戦力はバフラムの中でもかなりの数を占めることになる。 それらを用いて作戦を遂行できなかった場合、質では少なくとも 火星側に分があることの証明にもなる。 「艦隊の主力艦のタイプは?」 信哉は月詠に尋ねた。月詠は資料に落ち着いて目を通し、 「拠点制圧用の大型艦で、戦闘能力は連邦軍のラー・カイラム級と思って 間違いないでしょう。正面に大型の対艦砲と小型対空レーザーを数十門、 無人機格納スペースに加え、大量の実弾系の武装…それが合計八機」 つまり、軍艦の他に無人機を相手にすることも考えなければならないと言うことだった。 それはますますこちらには旗色が悪い。 しかし、信哉は何かを考えるようにしていたかと思うと、 「対艦にはOFのみを回して、残りの戦力で地上を相手にするというのは どうでしょう?」 「ええ!?」 突拍子もない声を上げたのは千鶴だった。 他にも声には出さないものの驚きを隠せないものが多い。 「ちょっと緋神君、貴方正気なの!?」 「ああ、もちろんだ」 信哉はしれっと答えたが千鶴の意見ももっともだった。 だが、信哉は落ち着いてこう答えた。 「確かに相手の火力は対したもんだ。だけど、火星軍で扱われている 艦は確か後部のそれも比較的浅い面に動力炉があるんじゃなかったか?」 「確かにそうだ。今、主力で使われている艦も例外なくそのタイプだ。 だけどそれが何だって…っておい、緋神?」 信哉の問いに答えたマークは顔を引きつらせながら、 「もしかして…ジェフティと火星艦隊との戦闘をそのまま再現しようって つもりじゃないだろうな?」 「そのつもりだけど?」 にべもなく信哉は答えた。 「確かに今の艦隊はエネルギー効率を重視してるから 空間圧縮による動力炉の保護はない。だから通常兵器でも落せるが…、 その分、武装を強化してるから単機じゃとてもじゃないが近づけないぞ?」 「だからOFだけで行くんだ。OFなら、他の空戦機に比べても機動力が違う。 まして、三機がかりならいけるはずだ」 マークの反論にも信哉は自信を持って答えた。 「もっとも行ける、と思ってるのは俺だけだから他の三人の意見も聞くけど…」 そう言って信哉は佐祐理たちに視線を走らせた。 佐祐理と舞は二人でなにやら相談しあっていたが 「はい、佐祐理はそれでいけると思いますよ〜」 「…はちみつくまさん」 あっさりとオーケーを出した。 「で、でも倉田さん…?」 不安そうに尋ねる純夏だったが、 「大丈夫ですよ、緋神さんの言うとおり十分勝算のある戦略ですよー」 と、笑顔で返されてしまい何もいえなくなってしまった。 「…佐祐理がいうなら大丈夫、それにそれほど絶望的とも思わない」 舞が後押しするようにそう言った。 もっとも本当に佐祐理の言うことを信じているだけかもしれないが。 そんな様子から、残る真理奈の意見におのずと視線が集中する。 「…えっと、多分大丈夫です。信哉の言うことですから。 私も精一杯やりますし」 真理奈は何とかそれだけ言い切った。 本当は、大丈夫かどうか不安だったが。 「…わかりました。それでは…」 「ちょーっと待って。その作戦にもう一人同行できる奴がいるわ」 月詠の発言をさえぎったのは夕呼だった。 自信ありげに腕を組み、一気に向けられた視線を真正面から満足そうに受け止める。 「白銀、あんたも同行しなさい」 「は? 何言ってんだ夕呼先生、俺の吹雪じゃこいつらには…」 「出来たのよ」 「へ?」 「待たせたわね、あんた専用の戦術機その名も…」 ――格納庫 「これが…天照?」 白銀に輝く機体、形状はほとんどが吹雪と変わらない。 「そうよ、ジェネレーター、スラスターなどの各部パーツの強化、 陸海空に加えて宇宙にも完全に対応した万能型のフレームに 強化型のフォトンバスターも搭載し、あんたの特化した操縦技術も 完全にトレースできる操縦機関。並みの操縦技術じゃ こいつを生かすことは出来ないわね」 「まじっすか…」 武は呆けたように天照を見上げている。 「フォトンバスターは通常弾が六発まで発射可能。別カートリッジに切り替えることで ガトリングとして打ち出すことも出来るわ。またブレードは液体形状変化金属を 使ってるから、最大で御剣の雷神と同じサイズに出来るわよ」 「他に武装面で変更点は?」 「特にないわね。ただ、フォトンバスターにエネルギーを使うから 今までどおり実弾兵器のみ搭載しておいたけど」 「そうですか…」 武はまだ感心したように天照を見上げている。 夕呼はくるりと振り返って 「これで問題はないんじゃないかしら?」 「そうですね、では残りのメンバーで地上部隊の相手をすることにします。 OF部隊はすぐに出発の準備を。地上部隊もすぐにノアシップに乗り込んでください!」 「「「「了解!!」」」」 ――廊下 「はあ…」 真理奈は浮かない顔で準備を整え格納庫へと向かっていた。 正直な話、今回の作戦でははっきり自分がお荷物になる可能性は否めなかった。 そんな思いがどうしても不安となって表れてくる。 それこそが戦場で生と死を分けるとわかっていても。 (不安になるのはしょうがないじゃない…! 怖いんだよ…!) 誰に対しての文句だったのか、彼女は先程からずっと 震える自分に気づくたびに心の中でそう叫んだ。 うつむいたまま歩いていたからか、正面から来た何かにぶつかる真理奈。 「おっと…って真理奈?」 「…信哉?」 ぶつかったのは信哉だった。 すでに戦闘服に着替えていて同じく格納庫へと向かうつもりだったらしい。 「悪かったな…って真理奈? どうした、顔色が…」 「え? え、えへへ、そんなことないよ?」 取り繕うように笑顔を浮かべて真理奈は答えた。 だが信哉は何もかもわかっていると言いたげな瞳で真理奈を見つめた。 「…怖いんだろう?」 「…!」 どうしてだろう、昔から、信哉に隠し事が出来たためしはない真理奈だった。 信哉はいつだって真理奈の強がりや、見栄をことごとく見破ってきたのだった。 「心配するな、武が参加することになったから作戦の順序を変えたんだ。 本当なら俺が突撃する予定だったんだが、武に変わってもらった。 あいつのほうが火力が強いから確実に落せるってさ」 「それじゃ…」 「俺は武の道を開く役目だ。遊撃だな、だからお前のフォローにも回れる。 お前は例によって後方射撃」 「うん…」 「仲間を信じろ、真理奈。それとおまえ自身もな、自分すら信じれない奴は 仲間を信じるなんて到底できやしないぞ」 そう言って信哉は真理奈をそっと抱きしめた。 信哉の鼻に、真理奈の長い髪から漏れる淡い香りが漂う。 真理奈は突然のことにどうしたらいいかわからずただされるがままだった。 「俺はな、自分と、いつも背中を守ってくれているお前を信じている」 「…知ってたの?」 そう真理奈は戦闘の際、後方射撃に回りつつ、常に信哉の動きを把握していた。 時折、信哉の知らないところで彼の危機を回避したことすらあった。 「武や鑑くらい長い付き合いじゃないけどさ、俺達も一応幼馴染だろう?」 「うん…」 「それくらいの意思疎通は出来るさ。いつもお前が背中に見えてたんだからな」 「そう…だね」 少しずつ、真理奈から緊張や不安が抜けていく。 想い、焦がれてきた少年のぬくもりが少しずつ真理奈に勇気を与えていく。 「それに…俺はお前のことが好きだから」 「…え?」 「二年、ずっとお前のことしか頭になかった。だから会えたときは嬉しかったよ」 「信哉…本当に?」 「最初は妹みたいでさ、あの孤児院に入ってからいっつも俺の後をついてきたよな」 「うん、私もお兄ちゃんみたいに思ってた、信哉は器用で何でも出来たから かっこいいなって」 「研究所に行ってからもお前が心配だった。泣いてないかなって、うぬぼれかもしれないけど 真理奈が泣いてるんじゃないかってそう思った」 「泣いたよ…散々泣いて…見つからなくて、それで決心したの。 強くなって信哉を探すんだって」 信哉は大事なものを扱うようにそっと真理奈の髪を撫でる。 真理奈はされるがままだ。 「そう考えたとき気づいた、俺はこんなにお前のことが好きなんだって。 力があるってそう思ったとき、守りたかったのは真理奈なんだ」 「信哉…」 「だから心配するな。何があってもお前は俺が守る」 「うん、私も…私も信哉を守るよ…」 うっすらと涙を浮かべ見上げた少女の顔に信哉は少しだけ嬉しくなる。 彼女が泣き顔を見せるのは信哉だけだった。それを信哉は知っているから 嬉しかった。 「そうだな、俺達お互いを守っていこう。そうすれば怖いものなんてないさ」 「うん!」 そう言って真理奈は嬉しそうに返事をした。 「さ、行くぞ! バフラムの奴らに一泡吹かせてやる!」 「行こう! 信哉!」 二人は駆け出した。お互いを思うがゆえに強くなる。 そんな絆を手に入れた二人が、今、等しく空に向かって翔ける。 続く
後書き 局長 「……」 信哉 「俺って告白してなかったんだ…」 真理奈 「私もびっくり…」 局長 「読者はとっくにカップルだと思ってたみたい」 信哉 「マジかよ…」 SSのTOPに戻る