――バフラム艦隊 第8番艦 ブリッジ 艦隊軍は現在火星の中でも未開拓の荒野の上空を飛行していた。 ブリッジにたたずむ艦隊軍の隊長であるファイナは、眼前に広がる 赤い荒野を見つめていた。 ファイナは旧バフラム軍の数少ない生き残りである。 彼女だけではなく、ボルケスや現在バフラム内で地位のあるものは 全て前戦役における生き残り達で構成されていた。 まとめ上げたのは当然イサイルである。彼の持つ不思議なカリスマ性と オシリスの驚異的な能力に、一人、また一人とバフラム軍は急速に 力を取り戻したのである。 もっとも無人機が大半の戦力を集めるこの軍においては 優秀な指揮能力を持つものがいれば、それだけで一軍隊とはやりあえるのである。 ファイナはその中でも紅一点、女性の指揮官である。 火星も元をたどれば地球からの移民で構成されるので、 当然男尊女卑の考えは根強くあった。だが、彼女は戦闘LEVで ラプター千機斬りというとんでもない偉業で周りの罵詈雑言を黙らせた猛者だった。 セミロングにまとめられた髪、普段は温和な美人だが いざ戦闘となれば、その夜叉のごとき力を愛機フォーリンスターで 惜しむことなく振るってきた。 そのため、部隊内の数少ない将兵たちには戦場に立つ女神として 絶対的な支持を得ていた。実質上、バフラムのナンバー2であったといっても 過言ではない。 (そろそろ肉眼でもディフェンダーの基地を確認できるわね…) 彼女がそう思ったとき、 「ファイナ隊長! 前方より敵機確認! 数は4!」 「識別コードを表示しなさい! 前衛の第1、3艦隊に 警戒するよう連絡を!」 にわかに入った連絡で艦内は騒々しくなる。 オペレーターはすぐに表示する作業を終えた。 「OFが3機…もう一機は例の部隊の機体ですね」 「戦術機…とか言ったな。パイロット次第で能力が大きく変わる。 誰でも扱える機体ではないという話だったな…」 ファイナはしばらく考え込んだ。その深い瞳には 様々な思考がめぐっては消えた。 「第一級戦闘配備開始! 全力を持って敵を落とす!」 今、バフラム艦隊との戦いの火蓋は切って落とされた。 エクシードブレイブス 第36話 青い流れ星 「どうやら敵さんも戦闘態勢に入ったみたいだぜ」 武は確認するようにつぶやいた。 すでに、信哉達からも艦隊がこちらを標的にしたのは見て取れた。 「さてどうしましょうか…」 飛行形態で先頭を進む佐祐理が少し困ったように言った。 艦隊はここからわかるのはリーダー機と思われる中央の大型艦を 囲むように配置されている。 前線の二艦を落とせば、本体を叩くのは容易だがおそらく しんがりに控える三艦が承知しないだろう。 それに大型艦の両サイドにも一艦づつ控えている。 守りを崩さねば攻めるのは容易ではない。当然その守りを崩すのを 本隊が黙っているはずもないし、ましてや無人機の護衛がちらほら見え始める。 ゆっくり接近しつつ武は言った。 「信哉と佐伯は敵艦の外観に取り付いて敵武装を破壊して回ってくれ。 敵の対艦砲には気をつけてくれよ」 「わかった。武と倉田さん達はどうする?」 「俺たちは後方から動力部を狙っていく」 「要するに俺たちが囮か」 信哉は呆れたように、でも笑いながらそう言った。 「まあそういうなって、倉田さんたちには俺が動力部を攻撃する間の 遊撃も兼ねてもらうんだから」 「あははーっお任せください〜。白銀さんに近づく人は全部落として見せましょう」 「…はちみつくまさん、私も切り払う」 モニターの中ではガッツポーズをとる二人が見えた。 「というわけでまずは先頭の二艦を狙うぜ!」 「了解!」 武の合図で4機は散開した。 信哉の駆るクラウ・ソラスは対艦砲の正面から挑んでいく。 それを敵の艦隊長は、 「馬鹿め! 自ら死にに来るか、対艦砲用意!!」 甲板が割れ、そこから巨大な砲門が顔を出す。 小さい対空レーザー砲もこちらに向いている。 クラウ・ソラスはそれでも速度を落とさない。 アルテミスはは敵の射程外から、クラウ・ソラスの後を追っている。 「対艦砲、発射!!」 粒子が砲門に集い、巨大な粒子砲が放たれる! ズドオオオオオオ!! 「ここだっ!」 信哉は緊急回避用ブースターを起動した。 左肩部、左脚部からものすごい出力で作動したブースターは クラウ・ソラスを一気に右のほうへ移動させる。 「でもって…!」 信哉はもう一つのブースターを起動した。 右肩部、右脚部から同じ出力のブースターが作動する。 当然、つりあいの取れた出力は機体を猛スピードで前進させる。 「もらったぁ!!」 ザシュ!! 高速で近づいたクラウ・ソラスのブレードは対艦砲を根元から 完全に寸断した。 「いいぞ! 真理奈!」 「おっけー!!」 その言葉を合図にアルテミスから大量のウィスプが放出される。 「いけっ! ウィスプ!!」 小型のビットは次々と艦隊に向かっていき、外観に取り付けられた 対空レーザー砲、ミサイルポッドなどを次々と破壊していく。 信哉もそれを隠れ蓑に、甲板に取り付けられた武装を ブレードで片っ端から叩き壊していく。 「くっ…無人機を射出しろ!」 「た、隊長! 後方動力部に敵影!」 「何!? しまった奴らは囮か!?」 だが気がついたときには遅かった。 動力部の守りは無人機、しかも戦闘用のラプターのみである。 当然、敵機が近づいたことを報告する機能はついていない。 「…遅い」 ザシュ!! 人型形態のビッグバイパーが振るうロシュセイバーは その刀身が振るわれるたび、一機のラプターを破壊する。 川澄舞、その類まれな戦闘センスは無人機の戦闘AIなどものともしない。 一方武の方は、サンシャインブレードを対艦用に変化させたところだった。 ほぼ天照と同じくらいの大きさになった巨大な刀。 「ちまちまやるよりこの方が手っ取り早いってな! いっくぜぇぇぇ!!」 ズゴアアアアアン!! 動力部に値する巨大な丸い結晶体はバフラム軍の軍艦の命である。 元々は空間圧縮フィールドによって保護されていて、同じ空間圧縮兵器である ベクターキャノンなどを用いなければ破壊は不可能だったのだが、 先のマークの報告どおり、現在はその技術を使っていないらしい。 巨大な対艦刀を用いれば力ずくで破壊することも可能なようだ。 破壊された動力部を合図に軍艦のあちこちに爆発が起こる。 射出される緊急ポッドなどもちらほら見える。 「…ここまでか、ファイナ様ご武運を…」 赤い照明が点滅し、誰もいなくなったブリッジで 名もなき艦長はそうつぶやいた…。 ドゴオオオオオオ!! 「よしっ、まずは一つ!」 武はそう叫んで隣の軍艦に目を向けた。 「…次はあれ」 舞は言うや否やビッグバイパーを発進させて向かっていった。 ――バフラム艦隊 第8番艦 ブリッジ (想像以上にやるわね…) ファイナは手際のよさ、戦闘反応など様々な能力をその一戦から 感じ取った。 そもそもこの編隊ではお互いの存在が邪魔して対艦砲を使いにくい。 少数精鋭でこられたのは痛い点だった。 ファイナは奥歯を噛みしめた。これでは先のジェフティとの戦いと 一緒ではないかと、打ち震えた。 かつて、バフラム艦隊はジェフティ一機に全滅させられた。 あの類まれな高機動力で翻弄され、ベクターキャノンによって 次々と軍艦は落ちていった。 「フォーリンスターを準備させなさい、後各艦に連絡、 速やかに散開し、対艦砲の照準内にお互いを入れないよう 距離を取れと」 「りょ、了解。ファイナ隊長…自ら出るつもりですか?」 「…私はとことんあのOFが憎いらしい」 ファイナは前髪をかき上げてそう言った。 彼女の目に映るのはクラウ・ソラス。 武装も彼女が見たときほどではない。だが、あの忌まわしきジェフティの 姿をしたOFは、彼女の憎悪を掻き立てるには十分だった。 当然、ランナーは違うし、そもそもあのOFはバフラム戦役に 関わったわけでもない。 だが、あの姿が、あの機体が、あの戦い方が クラウ・ソラスの全てが彼女からありとあらゆる憎しみを思い出させる。 (せめて一矢は報いてみせるわ…たとえそれが筋違いの相手だったとしても…) そして彼女はブリッジから出た。 向かうのは格納庫。 復讐のためだけに、彼女は愛機の眠る格納庫へと。 続く
後書き 局長 「火星編はようやく折り返しかな〜」 武 「随分引っ張ってるよな」 局長 「ほっとけ」 SSのTOPに戻る