轟音を立て、火柱と煙を上げて軍艦は次々と落ちていく。

 すでに、艦隊は本隊の第8番艦と、後続の4番、6番を残すのみとなった。

 すでに指揮系統などというレベルの問題ではない。

 混乱のさなか、各艦はただ自分達が生き残るためだけに戦っている。

 そこには連携も協力もないただただ、無作法な砲撃と無人機の射出だけが

 延々と続いている。

 だが、それらも底をつき武たちが、後続の軍艦に攻撃を始めたときだった。

 「ハッチを開けなさい。ファイナ・エクステン、出ます」

 『艦長…』

 「私が出た後のことは各艦の自由にします。…自分達で

  納得のいく道を選びなさい」

 『艦長!』

 オペレーターの制止に近い呼び声もファイナを止めるには至らない。

 彼女は開いたハッチから愛機を発進させる。

 フォーリンスター…それは旧バフラムでの女性士官が搭乗していた

 ネフティスと呼ばれるOFをモチーフにして作られた近接主体のOFだ。

 両手に取り付けられた、ムチ状の武器で近、中距離から

 相手を追い詰める高機動力を持った機体である。

 また、そのスピードを利用した特攻攻撃も強力で自らを弾丸とした

 直線攻撃は、自分で軌道を変える事も出来る点を考慮すると

 フォーリンスターの遠距離攻撃ともいえる。

 飛び出したフォーリンスターの前に広がるのは無限の荒野。

 そして星の広がる広大なる宇宙。

 流れ星のごとく、一筋の軌跡を生む青いOF。

 狙いはただ一つ、クラウ・ソラスのみ。

 「これ以上は好きにはさせないわ!!」









 エクシードブレイブス 第37話

 drop the tears











 「よし、信哉残りわずかだ。一気に押し切るぜ!!」

 「おう! 任せろ!!」

 二人はそう言って右と左に散開した。

 クラウ・ソラスは軍艦の周りを縦横無尽に飛び回り、

 砲撃手を混乱させる。

 見当違いの方向へ打ち出される弾丸を華麗に避けて、

 一気に甲板に取り付くと次々と砲台を切り払っていく。

 「うわあああああ!!」
 
 砲撃手が恐怖におののき悲鳴を上げる。

 だが本当の恐怖は、

 「よし、後ろを取った! 倉田さんたちばっかりに

  危険を任せて置けないからな」

 武は軍艦後方の動力部を睨みつける。

 スイッチを入れると、天照の右腕は変形を始め、

 巨大な砲門に姿を変えた。

 吹雪の時よりも大きく、頼りになるその砲身は白銀色に映えて

 輝いていた。

 粒子が集まりエネルギーが砲身に集約していく。

 「一発限りじゃなくなったからな…。遠慮なくくれてやる!!

  フォトンバスタァァァァ!!」

 ズドオオオオオオ!!

 巨大な粒子弾は高速で打ち出され目にも止まらぬうちに

 軍艦の動力部に着弾、そして、

 ドガアアアアアアアアア!!

 動力部のみならぬ、その周辺も巻き込んで爆発する。

 後方から火災が発生し、軍艦は見る見る推力を失い地上へと

 引っ張られ落ちていく。

 「よっしゃ、後は残りを…」

 「残念ね、これ以上はさせないわ」

 ヒョン!!

 天照の前に突如横切る青い一閃。

 武が視線を走らせるとその先には、真っ青なカラーリングのOFが

 存在していた。

 両腕からはよくしなるムチ状の武器が存在している。

 先程の一閃はあのムチが横切ったせいだろう。

 攻撃を中止し、その青いOFを囲むように四人は陣取った。

 「…誰?」

 舞の問いにパイロットは外部通信を開いた。

 「私はこの艦隊の指揮官のファイナ・エクステンと言います。

  これ以上貴方達に妨害をされては作戦に支障が出ますので」

 「それで指揮官自ら出陣か。にしては出るのが遅すぎないか?」

 信哉の問いにファイナは答えない。

 「あんた…自分が出ざるを得ない状況が出来るまで待ってたのと違うか?

  俺達の攻撃には波はない。軍艦が一隻落ちた時点で出撃する時間は

  あったはずだ」

 「確かにそれは言えてますね、ということはどういうことでしょう?」

 佐祐理の疑問に信哉は、

 「俺達の中の誰かに用事があるんじゃないのか?

  あんたの個人的な何かが…な」

 「フ…頭と口ばかりよく回ることね」

 ファイナは小ばかにした口調で信哉を一蹴した。

 「確かにそこの坊やの言うとおりよ。私の行動を疑問に思って当然。

  私の狙いは、そこの坊やの乗る機体、唯一つ!」

 フォーリンスターはファイナのその言葉を合図に突如動き出す。

 初速の速さは他のOFの追随を許さない機動力。

 それでも信哉は何とか襲い掛かるムチをブレードで避ける。

 「くっ…クラウ・ソラスを?」

 「ええ、ジェフティそっくりのその機体。その機体を見るだけで
 
  私の中の怒りが、憎しみが、忘れかけていた感情が蘇るのよ!」

 ズガオン!

 左手のムチがクラウ・ソラスのボディ部分を強く打つ。

 伝わる衝撃に信哉は思わず息を呑む。

 「ジェフティだと…? あんたはまさか旧バフラムの関係者か何かか?」

 「ここで…戦ったのよ。私はあの時はただの射撃手だったけどね。

  たった一機で、ジェフティは私たちの艦隊を沈めた」

 バチン!

 つばぜり合いからようやくクラウ・ソラスは距離を取った。

 反動でお互いが吹き飛ばされる。

 「運良く助かった私はぼろぼろになりながら火星の辺境で過ごしていた。

  戦争に、いいも悪いもない。ただ敗者が全てを失うただそれだけのこと。

  そうして流れるように生きていた私に、バフラムの再結成の話が

  耳に入ったの」

 「それで貴方は再び軍に戻ったのですか?」

 自嘲気味に笑いファイナは佐祐理の質問に一瞥をくれる。

 「ただ流れるように生きるだけなら、戦場で、かつて全てを失った場所で

  死のうと思っただけよ。だが、あのジェフティにそっくりな機体を見て

  このまま引き下がれない。せめて、一矢報いる、私の希望はそれだけ」

 再び、距離を詰めるフォーリンスター。
 
 信哉も不意打ちは喰らわないとばかりに、クラウ・ソラスを

 防御形態に移行した。

 だが、その目の前に飛び込んだのは、

 「何ッ!?」

 ガガガガガガガン!!

 無数のウィスプの爆撃だった。

 「勝手な事言わないで!! あなたの個人的な感情で

  信哉を傷つけさせたりしない!」

 「真理奈!」
 
 「憎しみの矛先を間違えないで! どうしてあなたの理不尽な怒りを

  信哉に向けられなきゃいけないの!!」

 「黙りなさい!! 何も知らない子供が…、私があの炎上する

  軍艦からただ一人脱出させられて…何もかもを失ったあの日を…!」

 「バフラムだって力を持たない人たちから奪っているじゃない!

  平穏を! 居場所を! 命さえも! 

  ましてや私たち、戦場に立っている人に奪ったことに関する復讐なんて

  する権利はないはずでしょ!?」

 「…真理奈の言うことは一理あるな。命の奪い合いはお互い様だ。

  お互いそれを覚悟した上で戦場に立っている」

 武も真理奈の一言を支援する。

 だが、それもファイナを止めるには至らなかった。

 「だから何? 理屈では確かにそうでしょう。けれど、感情に

  流されないで決断を下す、それが貴方達に出来て?

  私に、正しい理屈とか、必要ないのよ!!

  この胸を焦がす激情だけが私を生かしてきた!

  正しいか間違っているかなんて私には関係ない!!

  邪魔するなら、貴女の方から消してやる!!」

 叫ぶファイナの感情の赴くままに、フォーリンスターは

 真理奈の乗るアルテミスに照準を変えた。

 その目には、恐ろしいほどの怒りが宿っている。

 「真理奈!」

 信哉は叫び、その間に入ろうとしたが、

 「待って信哉。残りの軍艦が援護射撃しようとしてる」

 クラウ・ソラスのガードをさえぎり、ウィスプで再びフォーリンスターを吹き飛ばす。

 その間に信哉は周りの様子を伺った。

 見れば軍艦二隻は、対艦砲の射程内に自分達を捕らえられる位置に移動を始めている。

 「お願い、三人で残りの軍艦を落として。一隻でも残ってたら
  
  本部が危ないから」

 「だけど…」

 信哉はなおも食い下がろうとしたが、

 「信哉、ここは真理奈を信じてやれよ」

 「そうですよー。女の子だって好きな男の子の役に立ちたいものですよー」
 
 「…信じることも大事。守り、守られるとはそういうこと」

 三人に諭され、信哉はしぶしぶオーケーを出すことにした。

 「…すぐに落として戻ってくる。負けんなよ」
 
 「任せて!」
 
 そういい残し、クラウ・ソラスを始めとする三機は

 軍艦を落とすためにフォーリンスターをやり過ごす。

 フォーリンスターは真っ直ぐにアルテミスを捕らえる。

 「私を一人で止められると思って?

  丁度いい、あなたを血祭りに上げることで

  あの機体の搭乗者に与える苦痛は想像を絶するでしょうね」

 「貴女は…もう憎しみをぶつけられさえすれば相手は誰でもいいんですね」

 悲しそうに、真理奈は目をそむけた。

 だがそれもまた一つの答えか。戦場において綺麗事ほど通用しないものはない。

 所詮、人間同士の血で血を洗う戦争には違いない。

 それぞれに抱える大義名分があり、どちらもそれを正しいと信じ戦っている。

 自分達が正義、とは思ったことは少なくとも真理奈はない。

 信哉を救う力を得る、その時が来たら力を貸してもらう条件で

 真理奈はデュランダルに参加したのだから。

 最初は、人を撃つのすら抵抗もあった。

 いつしか、自分が目的のために人の命を奪っていることに気がついていった。

 だからそれを正当化するつもりはない。

 だが、彼女の行為はそれとは反するものだった。

 復讐したければすればいい、信哉が奪われたならば

 自分も同じ事をするかもしれないことを彼女は否定しない。

 だが、矛先を誤ったそれは単なる狂気の行動としかいいようがない。

 理由があれば、復讐を正当化するという意味ではない。
 
 履き違えた暴力は、何も結果を残さないからだ。

 復讐という形でならば、結果はどうあれ何らかの形で

 完結はするだろう。

 だが、その理由を無くした暴力はどうだろうか?

 その発端となるものが消滅するまで止まることなく
 
 ただ際限なく破壊のみを繰り返す。

 それが、愛するものに向けられているのならば、

 「そんな人に負けられません。二年、死んだかもしれない人を

  探し続けた諦めの悪い私は、そう簡単に負けません!!」
 
 真理奈は己の信念を込めて迷い無くトリガーを引いた。


                              続く


後書き 後書き 局長    「何気に敵味方共に女性」 佐祐理   「あははーっ女の意地の張り合いですね」 舞     「…そうなの?」 SSのTOPに戻る