「各銃座は、目の前に集中しろ! 撃てぇ!!」 ダダダダダダ!! 軍艦に搭載された砲身から対空用の射撃が、天照達に向けられる。 だが、周囲を駆け巡る高機動機を落とすのにはこの手の攻撃は不向きだ。 それでも彼らにはそれしかない。 シミュレートされた状況に応じ、最適と思われるプロセスを ただ命令されたとおりにこなす。 それが効果的でないにしても、それが最善の方法ならば取らねばならない。 彼らのあり方とはそういうものだった。 (くっ…すでに全体の65%を損傷している…。 シールド展開率も幾ばくも持ちはしまい…ここまでか…) ファイナより託された軍艦だったが、すでに護衛の艦も落とされ 副官は唇をかみ締めた。 「シールド展開率28%に低下!」 「正面、対ビーム用シールド出力低下! だめです持ちません!」 そして上官であり、部下の命を預かるものとして。 ファイナなら、尊敬する隊長ならどうしただろうか。 「…各員、速やかに撤退せよ」 「は…? 副官…」 「この艦を放棄し、速やかに戦闘空域より離脱せよ」 「しかし…」 副官はコツコツとコンソールを操作する。 「それぐらいの時間は稼ぐ。私はお前達の命を預かるものだ。 …いけ。そして出来るならば穏便に暮らせ。 どのみち我らに戻る場所はない」 「副官…」 その場にいた誰もが思った。その雰囲気に空気に。 彼もはもう死を覚悟していると。 一人、また一人とその背中に敬礼し去っていく。 やがて誰もいなくなったブリッジで その男はモニターを見つめ、 「…未来を切り開くは若者…か。圧倒的だった戦力差をここまで埋めるとは…。 納得のいく死に場所だな」 もうモニターには砂嵐すらも映らない。 彼の目の前はすでに真っ暗だった。 艦内の照明が落ちた。 エクシードブレイブス 第38話 突き動かす、その思いは誰がために 「たあああっ!!」 ヒョン! ヒュオン!! 連なる二連のムチがアルテミスを効果的に打つ。 「くうっ!!」 「どうしたの!? 大口を叩いておいてその程度か!!」 アルテミスは後方に下がり距離を取ろうとするが、 すぐさま間合いを詰められる。 近、中距離はフォーリンスターからすれば最も効果的な位置であるのに対し、 遠距離主体のアルテミスはもっとも非効率な位置といえる。 機動力も劣り、自らの間合いに持っていけない真理奈は極めて 劣勢にたたされていた。 (何か強力な一撃でもないと距離を保てない…!) 一か八か、真理奈は駆けに出ることにした。 ガシッ!! 「何っ!?」 「これなら…どう!?」 アルテミスは右腕でフォーリンスターの首元を捕らえた。 そして、ウィスプを展開し回転しながら全弾を打ち込んだ! 至近距離の爆破効果は少なからずアルテミスにも影響を及ぼす。 「…!!」 ファイナは巻き起こる爆発の中顔をしかめた。 アルテミスはその爆撃の反動で後方に吹き飛ばされる。 本来ならそんなことはない、相手を掴んでいるのだから。 だが、真理奈はあえてその腕を放すことでダメージを与えると共に 距離を取るという荒業をやってのけた。 無論、アルテミスの追ったダメージも少なくはないのだが。 (これなら…行ける! バーストレーザーで一気に!) アルテミスは片手を上げてバーストのエネルギーをチャージする。 まだ相手は動いていない。 真理奈は勝利を確信した。 自分は賭けに勝った、と。 だが、ある一つの事を彼女は失念していた。 「!?」 ズゴオオオオアアアア!! 何が起こったのかはわからなかった。 ただ見えたのは青い流星のような軌跡。 気がついたとき、真理奈は荒野の地面にアルテミスが叩きつけられたことを理解した。 「うっ…」 そのときの衝撃が少しばかり自分の体に影響を及ぼしているのがわかった。 頭が痛い。 だがそれよりも驚いたのはフォーリンスターの初速と最高速だ。 体当たりである。 初速の速さもさることながら、最高速に達するまでの時間が 他のOFと比較しても異常に早い。 それを利用したフォーリンスターの特攻はまさしく自らを弾丸とする 遠距離攻撃である。 真理奈は飛びそうになる意識の中で、一弥に受けたアルテミスの説明をおぼろげに 思い出していた。 『…基本能力は以上です。後はこの高機動モードなんですが…』 『はい』 『かなり操作に癖があるので、慣れるまでは使わないでください。 ただ、アルテミスの本領はこのモードにありますので 少しずつ慣らしてはいってください』 『わかりました』 「…訓練したけど…5分が限界かな…」 真理奈は、必死に手を伸ばした。 まだ諦められない。やれることが残っている。 信哉を探すと決めたときから。 隣を歩いていこうと誓った日から。 その淡い想いが報われた瞬間から。 彼女の強さは、意思は一つ、また一つと階段を上った。 そして手は触れる。 共に歩んできた愛機の真の姿を開放するために。 「…これは…」 追いついたフォーリンスター。 コックピットのファイナはその機体の姿に驚いた。 左手には弓と呼べるものが握られていて、 ブースターの出力は目に見えるほど上がっていて、 全体にエネルギーフィールドをまとい、さながら女神のごとく 輝けるアルテミスの姿。 「アルテミス・ボウスナイパー…貴女の機動力に勝つには 私がこれを乗りこなさないといけない…」 「ふ、その様子だと散々持て余したようだな。今になって その姿になったということは?」 「…」 「沈黙は肯定か? 付け焼刃だな、追い詰められればどうにかなるなどと 思わないほうがいい。そんなものは幻想だ」 「そんなことは知っています」 ファイナはその一言に口を止めた。 「…たとえ必死になっても圧倒的な力に屈することはある」 「そうですね」 「だから! 圧倒的な力で覆す!! ただそれの繰り返しだ!! 戦争というのは! 絶え間なく続く争い事とは!!」 「…」 「お前たちとてそうだろう!? バフラムにかなわないと悟った 火星軍に招集されて来た、ただそれだけの存在じゃないの!!」 「私は…私はそんな大層な目的なんて持ってません」 「何?」 怯えることもなく、ひるむこともなく。 ただ、真理奈は正面の敵を見据えこういった。 「今も昔も、私の目的はあの人の隣にいる、ただそれだけです。 そのために、手を汚すことも、命を奪うことも恐れない。 そして、出来るならば共に歩く人たちも一緒に守っていきたい 本当にただそれだけ」 「…呆れた傲慢ね。それがあなたの愛なの?」 「…偽善を口にするよりましだと思いませんか? 戦いに身をおくものとして」 「悪くないわ、そういう考え方が出来るのは。私怨だけで戦う女としてはね」 「私は軍人じゃありませんから、国だとかそんな大きなものを 掲げて戦えません。大好きなあの人といる場所を守るので精一杯ですよ」 そして一呼吸置いて、真理奈はこういった。 「だけど、他の人たちもみんなそうだから…。 誰もが自分達とそして隣にいる人くらいを守れるのなら…。 一部の人たちだけが背負うことないんです、戦いの苦しみを。 誰もわかってない。本当守るってことはそれだけでいいのに。 ただ、隣にいる人をみんながみんな守ればそれで済む話なのに」 「言いたいことはそれで終わり?」 「ええ、少なくともアンリミテッド代表としては いい演説だったと思います」 おくびもなく笑って真理奈はそう言った。 「それじゃ…そろそろ死んで頂戴」 「いいえ、言ったはずです死ねません!」 ゴウッ!! フォーリンスターは返事も待たず先程と同じように アルテミスに突っ込んだ。 だが先程と違うのは手ごたえがなかったこと。 「なっ!?」 ズダダダダ!! フォーリンスターの手、足、脚部。 的確にブースターを狙ったと思われる衝撃。 それも後ろから。 たまらずフォーリンスターは後ろを向いたがそれでも敵の姿はない。 ガヒュンガヒィン!! 「なぁっ!?」 今度は的確にボディを撃たれる。 出力が落ちかかっている先程と同じスピードはもう出せないだろう。 だが、今度は正面にその姿を捉えた。 「速い…なんて速さだ」 「だから操作にクセがありすぎて負担が大きすぎるんですが…」 そう、アルテミスは高速移動状態から射撃が可能な状態になっている。 しかし、移動しながらまして高速状態では狙いをつけるのも一苦労だ。 コンピューターの補正もあるとはいえ、扱いには先の一弥の言うとおり 慣れが必要である。 感覚的に射撃を行う慣れが。 「これで終わりです。行きますよ…ウィスプ全弾射出! シューテングスター・アロー!!」 キュオンキュオン!! ウィスプの群れと同時に高速連続射撃を乱れ打ちするアルテミスの 高等技術。 無論、アルテミスは流れるように弓を引く動作を繰り返している。 動けないフォーリンスターにその無数の弾丸を避けることは出来ず 「きゃああああああああ!!」 ガガガガガガガガガガン!! 爆音と悲鳴がその辺りに響いた。 それと同時に天照達がアルテミスの回りに帰還する。 「終わったのか、佐伯?」 「…ええ、何とか…勝ちました」 武の質問に、真理奈は本当に何とかという感じで返事をした。 信哉は何か真理奈から先程よりも大きな意思のようなものを感じた。 「…?」 「…どうしたの? 信哉」 だが無邪気に笑顔を返す真理奈を見て、信哉はそれを気のせいだと思うことにした。 「いや…なんでも…」 ない、そういいかけたとき巻き上がる煙の向こうから 「このまま…死ねるかぁ!! せめて…あなただけは…!」 執念か、無念か、何かに突き動かされたファイナの駆るぼろぼろの フォーリンスターが真っ直ぐにアルテミスに向かっていく。 「まずい!!」 信哉はそのとき反射的に動いた。 何かを意識したわけではない。 「マミー展開!!」 クラウ・ソラス最硬にして最大の防御システムを起動。 機体をすっぽり覆える巨大なシールドでフォーリンスターを押しとどめる。 (くっ異常なエネルギーの集まる反応!? こいつ自爆する気か!) そう思ったときは遅かった。 爆音と共にものすごい衝撃があたりに散らばる。 バガガガアアアアアアン!! 「信哉!!」 「信哉!!」 「緋神さん!!」 武、真理奈、佐祐理がその名を呼ぶ。 クラウ・ソラスを盾にしてその衝撃は今だ後ろのメンバーには及んでいない。 「くっ…余波がすごい、一旦下がれ!! 急げ!!」 「信哉…! くそっ! 倉田さん、佐伯! 下がるぞ!」 真理奈は動かない。呆然とクラウ・ソラスを見つめている。 「でも信哉が!」 「ここにいたら何時まで経っても信哉が避難できないだろうが!! 急げ!!」 天照はアルテミスの腕を掴んでその空域から離脱する。 「信哉! 信哉ぁぁぁぁぁぁ!!」 その姿を見届けると信哉はマミーを展開しつつ下がろうとした。 だがそのとき、見えたのは 「…フォーリンスター!?」 さっきのは自爆のエネルギーではなかったのだ。 余剰エネルギーを暴発させて自爆だと思わせたのだ。 「……お前が…死ねば…」 それが最後に聞いたファイナの言葉だった。 結果として彼女の捻じ曲がった執念は達成されたことになる。 ズドオオオオオオオオン!! (マミーを展開し続けることはできない! 通常シールドで爆発の規模が広がらないうちに押さえ込む!!) だがそれでも機体のエネルギーが持ちはしないだろう。 信哉は僅かながらに希望を賭ける事にした。 (わずかに採用されているこの機体のT−LINKシステム…。 頼む、念動フィールドを…俺もあいつらも死ぬわけにいかないんだ… いかないんだよぉ!!) 己の力を、この機体を、仲間達を。 信じる全てを信哉は力に変えることを願って、 「うおおおおおおおおおおおお!!」 「収まった…?」 光が止んだとき、武が想像していたような衝撃も被害もなかった。 だが、 荒野に立つ、ボロボロに果てそれでもなお守るように立ち尽くす機体。 「信哉…?」 それと同じく全ての力を使い果たして、 その愛しき少女の呼びかけにも笑顔で答えることは出来ず、 「信哉? …ねえ! 信哉ぁ!!」 ただ少年は目を閉じたままだった。 武は慌てて生命反応を確かめる。 「まだ息はある! 川澄さん! 機体ごと運ぶぜ片側持ち上げてくれ!」 「…わかった」 人型に変形し、ビッグバイパーはクラウ・ソラスの右半身を抱える。 天照は左半身を。 「佐伯さん! 今は呆けている場合ではありませんよ!」 「倉田さん…信哉…信哉は…」 佐祐理の呼びかけにも半ば夢うつつな真理奈。 「お前がそんなんでどうする!! さっさと連れ帰って ひっぱたいてでも目を覚ませてやるんだ! 行くぞ!!」 「白銀さん…は、はい! そうですね!!」 まだ信哉の命は尽きていない。 出来ることがあるうちに、と真理奈は意識を取り戻す。 「死なせてたまるか…死なせてたまるかよ!」 必死に叫ぶ武に同意するように無言のまま移動する真理奈達。 だが、まだこの先に待ち構えている悲劇を彼らはまだ知らない…。 続く
後書き 武 「意味ありげに終わらせんなよ」 局長 「そうしないと盛り上がりに欠けるだろう」 冥夜 「最初からそのようなものないのではないのか?」 純夏 「冥夜…ツッコミが厳しすぎるよ」 SSのTOPに戻る