ノアシップはすでにバフラム軍の基地が目視できるところまで進軍していた。 ディフェンダーの部隊もあわせ、かなりの数が平たい荒野の上を 真っ直ぐに進撃している。 武達は急いで格納庫へと機体を収容させると、 信哉を救護室に連れ込んだ。 運ばれる間も信哉は眼を覚ますことはなかった。 船医に加え、夕呼も信哉の様子を調べることになり、 救護室の外で、武達は待つことになった。 無論、その間に自分達の機体は整備に回してある。 まだバフラム軍の侵攻が止まったわけではないからだ。 武は落ち着きなく部屋の前をうろうろし、 佐祐理と舞は何かに祈るようにドアを見つめ、 真理奈は下を向いてただ、信哉が無事であることだけを祈った。 やがてドアが開くと、中から疲れたような表情をした夕呼が出てきた。 「夕呼先生…信哉は…」 武の質問に、夕呼は表情を変えずにこう言った。 「身体的な障害はほとんどないわ。ただ…精神のほうに問題があるようね」 「精神…?」 真理奈の呆然とした呟きに夕呼はさらに言葉を続ける。 「おそらくT−LINKシステムが緋神の力についていけなかったのね。 本来、機体が被るはずのオーバーロードが緋神に返って来た…。 それがあの結果よ。今は時間を置かなければどうにもならない、 とだけ答えておくわ」 夕呼はそう言うとくるりと真理奈に振り返る。 「あんまり絶望的な表情をしない。緋神はいわば使いすぎた精神を取り戻すための 休眠のようなもの。時期がくればおのずと目覚めるわ、だから あんた達はあんた達に出来ることをしなさい」 そう言って夕呼は今度こそ武達の前から去った。 歩きながら夕呼は、 (どうやら、完成させなければいけないようね。緋神が寝ているし 丁度いいわ…) エクシードブレイブス 第39話 連なる絶望への布石 ――バフラム軍本部前荒野 すでに半数以上の数は撃退しただろうか。 最初こそ猛威を振るった無人機たちの勢いはすでになくなりつつあった。 「ふ…このような魂の通わぬ意思なき道具に我等が倒されるはずなどない!」 冥夜は高らかに叫び、その声に呼応するかのごとく 建御雷は雷神を両手に構え振り上げる。 「我等が力、とくと見よ!!」 ズゴアアアアア!! 建御雷の放った一閃はラプターを両断し、マミーを一刀両断した。 その斬られた機体に合わせて動くはずだったのだろう 後方の敵は一瞬動きが止まる。おそらくAIが作戦を変更しなおしているのだろう。 だが、冥夜の後ろからそれより早く動く影があった。 「マックス、援護するから心配せずに行きなさい」 「はい、八重樫先輩! うおおお、いけぇ! ガンダァム!!」 バーニアを利かせて牧島の駆るガンダムエッジがサーベルを水平に構えたまま 突進する。 「せぇやぁっ!! 切り裂けぇ!!」 ズシャアアアア!! 紅く煌く刀身が抵抗なくラプターのボディを切り払う。 その切れ味まさしくカミソリの如し。 しかしその後ろから近接型ラプターシリーズ通称「サイクロプス」が ガンダムエッジを狙っている。 だが、その無機質で重い拳が届くことはなかった。 ズドンズドンズドン!! 無数の散弾が一発ごとにサイクロプスのボディを見事に破壊していく。 「ふーん…ヤマの奴いい仕事したじゃない」 つばさはその威力に満足そうに頷いた。 戦局は明らかにアンリテッド側に傾いていた。 ところが、 「敵前方より未確認の機体多数接近してますぅ!」 オペレーターの戎の連絡が各機に入った。 途端に緊張が辺りに走る。 「見ろ! 上から来るあれじゃないのか?」 マークの声に各パイロットは上空のほうに視線をやる。 「え? ちょっと待ってよ…あれって…」 純夏が驚くのも無理はない、そして一番驚いているのは 「…神奈式と…同型…?」 往人の呟きから明らかだった。 そう、敵機は姿は着物を纏った女性に翼が生えた姿だったが 形式などは往人の駆る機体、フロンティア神奈式と同型に間違いなかった。 「…ォォォォ…」 その機体はまるで意思が宿っているかのようにうめき声を上げる。 それは悲しい女性の悲鳴のように聞こえた。 「えっと、分析完了! 確かに素材、周波数、機体のエネルギー形式などから 国崎さんの機体と同型の機体です。ただ生命反応が感じられないのと コックピットが存在しないのが大きな違いだと思います…」 神代の報告はますます往人を動揺させた。 (あれが神奈式と同型…ってことは俺の旅の探し物は… そして橘が言っていたのは…!!) 疑惑が確信に変わる。 『翼人のルーツを知りたくば…』 以前橘が言っていたことが思い出される。 (奴は知っていたというのか…? 一体どうやって いやそれは問題じゃない。だとすると観鈴を連れて行ったのは…) 「国崎さん!!」 美凪の悲痛な声が聞こえて往人は慌てて我に返った。 気がつけば目の前に夜叉のごとき表情の翼の機体が迫っていた。 「くっ!」 ズガアアアアン! 間一髪刀でそれを斬り捨てる。 どうやら神奈式同様、装甲はそれほど厚い物ではないらしい。 「読めたぜ…橘…。何が眠るかは知らないがお前が欲するのは 『翼持つ少女の遺産』か!!」 突然叫んだ往人の発言に誰もが首をかしげた。 そんなことを気にせずに往人は次々と翼の機体に切りかかる。 「どけぇ! こんなところで時間食ってる場合じゃねえんだよ!!」 ゴウッ! ザシュ!! ゴウッ! ザン!! 猛スピードで一刀の元に機体を斬り捨てて宙を舞う神奈式。 他の者は一瞬その動きに唖然としたが、すぐに通常の戦闘に戻る。 『まあ、そう焦らずに僕からのプレゼントでもどうだい?』 あらかた片付いた、そう思われたとき突然通信の横槍が入った。 「橘か!!」 『ご名答だ国崎君。君の足元を見たまえ』 全員の視線が神奈式の真下にある物体に集中する。 『それは時限式の爆弾だ。OFの動力炉と同じ反応物質を積んでいるから 少なくともこの辺りを消し飛ばすくらいの威力はあるね』 さらりととんでもないことを言ってのける橘。 『破壊は不可能。このまま部隊をまとめてどこまでも下がることだね。 もっともそうしたところで助かる保証はないが』 だが、ここで部隊を引けばバフラムに体勢を立て直す時間を与えるだけだ。 そして、それはイサイル、ひいては橘にしか有利にならない。 『そして最後に教えておこう。地球人がイレイザーと呼んだ あのクラゲ型の無人兵器だが…あれも翼人の怨念が生み出した 産物だよ。今君たちが相手をしたのは出来上がって間もないから ちゃんとした形になっていただけだ。侵攻の過程で地球に到達する頃には 形を維持できてなかったのさ』 「なんですって…?」 千鶴は衝撃の事実に驚きを隠せない。 『彼らは今もなお地球を恨んでいるということさ。ふっ… 人というのはどこまでも愚かだな。どうしてこう敵を作りたがるのか…』 橘の嘲笑はまるで自分は違うとでも言いたげだった。 『ではせいぜい悩んで結論を出したまえ。ただし、後一時間もないぞ』 「橘ぁ!!」 往人の怒鳴り声ももう届いてないだろう。 かくして彼らの時間は突如奪われた。 刻一刻と迫る時間。 誰もが悲痛な思いで、荒野に取り付けられた 小型のコンテナ型の爆弾を睨みつけていた。 ――バフラム軍本部 イサイルはその状況をモニターで眺めていた。 「どうやら勝敗は決したな」 マイクを掴んでイサイルはこう告げた。 「これより作戦の最終段階に移行する。 アーマーン・リターナーを起動せよ。 繰り返すアーマーン・リターナーを起動せよ!」 基地内に警報と赤いランプが点灯する。 わずかに残っていた基地の人間たちは慌しくばたばたと動き出す。 「さあ、始めようか。僕の存在意義を問う聖戦を…」 続く
後書き 局長 「さてアーマーンを確認しに行かないとなあ」 舞 「…書く前に確認すべき」 佐祐理 「だからこんなところで切ってるんですねえ〜」 SSのTOPに戻る