――ノア・シップ ブリッジ

 なんとか敵を退けた一同はノア・シップのブリッジに集合した。

 とはいえオシリスの圧倒的な力を見せられた後ともあり

 周りには重い空気が漂っていた。

 ちなみに祐一と信哉はここにはいない、月詠が身元調査を行っている最中である。
 
 「あー…」

  この重苦しい空気を何とかしようと武は言葉を捜した。

 だが元々直情的に動く武がそのような配慮など持ち合わせてはいない。

 ようするに不器用なのである。

 「まあ深く考えても仕方が無い…」

 そんな武の様子を見て往人がようやく口を開いた。

 彼の言葉はその場を和ますには十分だった。

 「とりあえずそろそろ夕飯の時間だ。食ってから考えるぞ」

 そういっておもむろに立ち上がりブリッジを出る往人。

 その様子を唖然と見送りながらも、なんとなく緊張の解けた面々は

 食堂に向かうのだった。








 エクシードブレイブス 第4話

 不敗の剣











 ――ノア・シップ データベース

 「身元確認終了…お二人とも確かにデータが存在しています。
 
  また肉体改造を受けた形跡はなし…」

 月詠が二人のレポートを手にそういった。

 「念動力は下手にいじると能力が消える可能性もあったみたいだからな」

 祐一が壁を背にしたポーズで言った。

 「俺達のほかにも何人か同世代の奴らがいたが…俺達は念動力者ということもあり

  まだ実験はましだったな」

 信哉はその言葉にうつむいたように黙る。

 今でもありありと思い出せる阿鼻叫喚の地獄。

 自分よりも年若い少年少女が、失敗作と称してゴミのような場所に捨てられる。

 その途中を見かけたこともあり、表面上は平然としていたものの

 心の中には無念の思いといずれ自分もこうなるのかという不安を抱えることとなった。

 月詠は表情を曇らせたが報告を続けた。

 「2年前に拉致され「アザゼル」…でしたね? そこで様々な戦闘教育を受ける。

  …残念なのですが相沢様のご両親はやはり亡くなられています。

  緋神様は孤児でしたね?」

 「…ああ。確か北海道のほうの小さい孤児院だったとおもうが…]

 「そちらのほうは無事でしたよ。ただ緋神様がいなくなられたと同時期に

  そこを管理なさっていた方…山瀬様ですね。亡くなられたので孤児院自体は

  なくなってしまったようですが」
 
 「そうか…」

 ただ自分が原因で孤児院自体が無くなったのではなかったので

 信哉はその話にほっと一息をついた。

 ただ育ての親が無くなってしまったことには少なからずショックを受けたが。

 ただ思い返せば自分が拉致されたのは孤児院から離れて公園で一人
 
 遊んでいたときだったから、目撃者を消す必要もなかったのだろう。

 「ただお二人とも世間的には行方不明扱いになってますね。

  緋神様にいたっては捜索願いが受理されたままになっています」

 淡々と続けられる月詠の報告だったが、そこに祐一達は疑問を抱いた。

 (俺達はまだ消されていない…何故だ?)

 アザゼルのやり方を知ってから、おそらく自分達の存在はデータ上からは

 抹消されていると思っていた二人はいぶかしげに思った。

 何か意図があってのことだったのだろうか? と。

 「どうしますか? 一応我々が保護した、と報告を入れてもいいのですが…」

 そこで祐一達は悩んでしまった。

 ここで保護を受けたところで、身元引受人のいない今、

 しばらくは生活の援助も出るだろうし、一般教養は身につけさせられたので

 いくらこのような状況下においても職を見つけ平穏を得ることはできるだろう。

 だが、そういった生活を続ければいずれアザゼルには見つかるだろう。

 何しろ表向きはでかい企業団体だったはずだからだ。

 しかし祐一達は自分達を追う敵がいる以上ここにおいてくれ、とは

 言い出せなかった。

 そんな様子を見受けたのか月詠から思わぬ提案が出た。

 「もしお二人がよろしければこの自衛団体「アンリミテッド」の

  一パイロットとして所属していただけませんか?」

 二人は同時に月詠を振り返った。

 その顔は驚きにあふれていただろう。

 「この自衛団体は御剣財閥が、連邦には属さない遊撃隊として結成したものです。

  ですので資金面は問題ないのですが、いかんせん自治という名目上、

  パイロットは個人の能力と自主的な参加が必要になります。

  ですからお二人のような優秀な、ましてやOFとPT乗りとあっては

  ご協力を頼まずにはいられないのです。もちろんお二人の自由ですが…」

 確かに今はメインパイロット達が何人か降りているとはいえ

 戦力不足は確かにわかるところだった。

 二人にとって今一番得意な戦闘技術を生かせて、衣食住の保障があるとなれば
 
 断る余地は無い。

 ただ、ここで自分達を抱え込めば敵も増やす計算になる。

 「俺達を追ってアザゼルがここに接触してくるかもしれないという

  デメリットについてはどう考えているんですか?」

 信哉の問いに月詠は

 「あらそのようなことは愚問ですわ」

 月詠はさも当然のようにこういった。

 「このアンリミテッドは御剣財閥頭首が浮世の悪を滅するために結成なさったのです。

  そのような組織が存在しているというのにどうして見過ごすことなどできましょう」

 なるほど、と祐一達は思った。
 
 この人たちは本当に自衛団なのだ。連邦のような腹黒さも、アザゼルのような

 打算的なことは微塵も感じられなかった。

 二人の答えは決まった。









 ――ノア・シップ 食堂
 
 「というわけで本日付でアンリミテッド所属になった相沢祐一です」
 
 「同じく、緋神信哉です」

 かくして二人はこのような挨拶を食堂ですることになった。

 クルー達はそれを拍手で迎えた。

 自己紹介や歓迎の挨拶などもそこそこに食堂では小さな宴が始まったのである。





 2時間後…





 信哉は後片付けを済ませ、月詠の元へと向かっていた。

 ノックをすると「どうぞ」の声と共にドアがプシューと音を立て横に開く。

 「すいません月詠さん。少し相談があるんですが…」
 
 「あら? 何でしょう」

 月詠は椅子だけ回転させて信哉に向き直った。

 緑のロングヘアーをまとめ、指揮官用のスーツを粋に着こなすその姿は

 まさに凛とした大人の女性だった。

 人形めいた同じ境遇の少年少女達や、まるで狂ったような科学者達に囲まれていた

 研究所にいたころとは違い華やかなので信哉は少し目移りしたようだった。

 と、そのような贅沢な悩みは口に出さず、信哉は

 「探して欲しい人がいるんです。一人は佐伯真理奈。

  あの孤児院で唯一俺が仲良くしてた女の子なんですが…」
 
 「わかりました」

 信哉は少し照れくさかったがかまわず続けた。

 自分がいなくなったことをもし心配してくれるような人がいたとうぬぼれるなら彼女だろう。

 一つ年下で、何をするにもくっついてきた少女。

 会いたい、というわけでもないが無事が確かめられればそれでいい。

 と、信哉は考えていた。

 「もう一人は…水瀬、水瀬秋子。祐一の叔母で多分

  巻き込まれてなければ生きてるはずなんだ」

 「あら、その方でしたらいずれ会えますよ」

 「え?」

 信哉はきょとんとした。

 「その方は、連邦軍内独立遊撃部隊「デュランダル」のチームリーダー。
 
  そして母艦である「カノン・バンガード」の艦長ですよ」

 信哉の思考は少し停止した。

 そして、

 「ええええええええええ!?」

 艦長室にひときわ大きな声が上がったという。







 ――ノア・シップ リビング

 「…というわけで祐一、お前の叔母さんはたいそうやり手のようだ」

 祐一は秋子の武勇伝の一部を聞いて口が開いたままになっていた。

 最後の記憶に残っているのは7年前あの町を訪れたときだ。

 それでもあの優しい微笑を絶やさなかったあの叔母が、
 
 連邦の腐った権力者どもを歯牙にもかけず、

 遊撃部隊を率いているなどとは誰が思うだろうか。

 「伝説のロンド・ベル隊の再来とまで言われているらしいぜ」

 ロンド・ベル…それは100年以上も前もこのように

 戦乱に荒れた時代があった。

 その戦いを終わらせたのがロンド・ベルの名の下に集った

 スーパーロボットたちなのである。

 以降武力は解体され、MS開発などは凍結になったわけだが

 数十年前から戦乱の予兆があらわれ始め

 2年前にはバフラム戦役が始まり、宇宙圏を中心にまた
 
 騒がしくなったため地球は再び鋼鉄の機神たちが飛び交う世界へとなったのである。

 いまや形式や記録だけでしか残っていなかったMSなどが

 再び世に現れ始め、軍備増強に伴い100年以上もの月日を経て

 再開されたPT計画など。

 地球は再び戦乱の表ざたに立たされたのであった。

 「秋子さんがねえ…まあ確かにおかしくもないか」

 話を戻そう。祐一は信哉の話に多少こそ驚いたものの

 どこかあきらめたように納得もしていた。

 「それよりも気になったのだが…緋神。

  そなたの機体のOF…クラウ・ソラスといったな?」

 「ああ、それがどうかしたのか御剣」

 「私は世俗に疎いのだが…どこかで聞き覚えのあるような名前なのでな…」

 ああ、と冥夜の質問に信哉はうなずいた。

 「あの名前は俺がある神話の英雄が使っていた聖剣の名前からつけたんだ。

  アガートラームという英雄が振るっていた剣…「不敗の剣」クラウ・ソラス」

 「不敗の剣…か。大層な名前つけやがって…このー」

 そういって武は信哉の首に腕を回す。

 「ぐ、ぐあ…離せ武ー」

 「ふははははは、ならば抜け出て見せろー」

 そうやって二人の馬鹿が張り合っている間に他の三人はのんびり

 身の上を語り合っていた。










 ――月周辺  カノン・バンガード ブリッジ

 「そうですか…わかりました。どの道近いうちに戻らなければなりませんしね。
 
  ではその時に」

 三つ編みをたらしたおっとりした女性が通信を切る。

 「祐一さんは無事でしたか…。これではあの子達も落ち着いてはいられないでしょうね」

 そう言って頬を手に微笑む。

 「アザゼルですか…。私の子達を不幸にさせるところだった行いは許せませんね。

  命の痛みというものを思い知っていただきましょう」

 顔は笑っているが表情は笑っていない。

 背景は暗いトーンで効果音はゴゴゴゴゴといったところだろうか。

 この時、この場にいたオペレーターたちは思った。

 にこやかに怒れる鬼神がこの日現れた…と。

 そう、この人物こそがカノンにその人ありとうたわれた

 最強の艦長、水瀬秋子である。

                                  続く
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