――バフラム本部地下最下層 火星の半分を占めているとすら思えるほど広い地下。 等間隔に立てられた柱は中心にエネルギー体を備え、 地中を通して何かにエネルギーを供給している。 そのラインの先には…巨大な翼を持つ女性を模した機動兵器があった。 大きさはOFより一回り大きい程度のサイズだ。 柱に翼を打ち付けられ、封印…というより人間の貼り付けのような 形で置かれている。 その様子を離れた部屋から監視するものがいた。 その男は基地内に響いている放送を耳にすると少し表情を変えた。 「ほう…ついに起動するか。『遺産』を利用した蘇りし アーマーンを…」 橘は通信回線を開いた。当然その先はイサイルのいる 司令室である。 『やあ、どうしました橘さん?』 「例の爆弾だが…OFのリアクタークラスのものまで 積む必要があったのかな? それでは、基地にまで 被害が及ぶと思うが…?」 『…わかってて聞いてるんだろ? 橘さん』 橘はふっと薄ら笑いを浮かべた。 その表情は、やれやれと心底呆れたような笑いだった。 「…すでに君はもう部隊という組織を必要としていない、か」 『ご名答、アーマーンはすでにオシリスがあれば起動するレベルまで 調整したし、手駒は無人機と貴方の『遺産』がある。 もう僕の目的に『人』は必要ない』 「そうか、私のほうは少々調整に時間がかかる。何しろ 千年の時をかけて蓄積された怨念の集合体とも呼べる代物なのでね」 『まあ僕のほうは、目的はただ一人ですから。残りのメンバーは おそらくそちらに向かうでしょう…。来れれば、ね』 「さて…彼らはいかなる答えを出すかな…?」 それを最後に通信を橘は切った。 ガラスの向こう…静かに横たわる機動兵器を前にして。 エクシードブレイブス 第40話 今、為すべき事を ――バフラム前線前 「ちっ…時間が…時間がないってのに!!」 ダン! 往人はコックピットのコンソールを叩いた。 だが、そんなことをしても事態は変わらない。 全員が頭を悩め、歩を止めて結論を待つ。 解析の結果、爆発までの時間は残り15分。 解除をするには時間がない。 部隊を全員まとめてノアシップが離れるのは簡単だ。 だが…もしここで一旦部隊を引けばバフラムを攻めるまでに 敵がいかなる手段を用いるかわかったものではない。 それに往人はわかっていた。 橘がこのような手段に出た理由…すでに『翼ある少女の遺産』は 彼の手によって、もう間もなく使われる可能性がある。 ここで引くことはおそらく…火星側の敗北すら見えてくる。 月詠はモニターを睨みつけながら考えていた。 だが時は平等でそして残酷だった。 決して止まることなく、決断の時は迫る。 ――ノアシップ廊下 「破壊は不可能…だったら爆弾そのものをどかしちまえば…」 武はそう言って格納庫へと向かおうとする。 だが、佐祐理はそれを止めた。 「無理です! どれだけの威力か推測できないのに…。 それでは爆弾を持ったままどれだけ離れて、かつ どれくらいの距離で引き返せばいいのかわからないんですよ!」 「だけど…ここで引いたら…多分俺達に勝ち目はなくなる!」 今までの戦況から明らかだった。彼らの主戦力はあくまで大量生産の 可能な無人機なのだ。 機械だけならばいくらでも代えはきく。 「だけど…だけどもう、もう時間が…」 真理奈はおろおろしながらそう言った。 見つめる先は…信哉の眠る救護室。 (どうしたらいいの…信哉が…みんなが切り開いた道が… 閉ざされようとしている…。どうしたら…いいの?) 真理奈が下を向いたとき、ふと気がついた。 「あれ…?」 「どうした?」 武がそんな真理奈の様子に気がついて声をかける。 「川澄さんは…?」 「え、舞がどうかしました…?」 言われて佐祐理も辺りを見回す。 つい先程までそばにいた舞が、音もなく消えていた。 「どこに行った…? あいつ…」 三人に言いようのない不安がよぎる。 「ブリッジに行って探そう、何か…気になる」 「あ、はい」 三人は慌ててブリッジに向かって走り出した。 ――ノアシップ ブリッジ バシュー 自動ドアをくぐり、三人はブリッジに駆け込んだ。 「格納庫が開いています! 発進準備に入ってるのは… ビッグバイパーですぅ!」 三人を迎えたのはそんな巴の声だった。 「どういうことだ!!」 武は巴に向かって怒鳴った。 「武様! どうしてここに…!」 「月詠さん! 川澄が…川澄が乗ってるのか!? あれに!」 「え、ええ…気がついたら…発進準備に…」 佐祐理はその言葉にたまらないほどの不安を受けた。 そこへまたドアが開いて誰かが飛び込んでくる。 「艦長! 舞さんが…! あ、姉さん…」 飛び込んできたのは一弥だった。 「一弥君、川澄さんは…じゃあ」 真理奈の問いに一弥は頷いた。 「…これを姉さんに渡してくれって…その後整備班の人たちを突き飛ばして 強引にコックピットに…」 「すぐに川澄機に通信回線を開いて! 早く!!」 月詠の言葉に慌ててオペレーターたちは通信回線を開く。 呼びかけると意外にも返事はすぐに来た。 「…こちら川澄」 「何をしているの! すぐに戻りなさい! ノアシップはこれより戦闘区域から離脱を…」 「…ダメ…です。ここで引いたらもう勝ち目はない」 言うが早いか舞はビッグバイパーを発進させ飛び出した。 …人型形態でも並みのOFとは段違いのスピードがある。 あっという間に爆弾のある地点まで近づこうとしている。 その動きを見て、佐祐理はますます顔色を曇らせ慌てて マイクを掴んだ。 「舞! 舞! お願い馬鹿なことは…やめて!!」 「川澄さん! 僕からもお願いします…こんな…こんな!」 二人は必死に懇願する。 この中では一番付き合いの長い二人だ。 おそらく舞がこれから何をするか…わかってしまったのだろう。 そして、武も真理奈も…その場にいた全員がそれを理解した。 「おい! 川澄…俺達は…俺達は死ぬために来たんじゃないぞ!!」 「…わかってる。だから…私がやる」 舞はまったく動じた風もなく言い切った。 普段が普段だからだろうか。口調すら変わってないようにすら聞こえた。 そうこうしているうちにビッグバイパーは戦場にいた 仲間達の上を通り過ぎた。 それと同時に舞の通信が全機につながる。 「川澄! あんた何を考えて…」 「…私が爆弾を移動させる。皆は一旦戻って補給を受けて」 ひかりの質問は強い口調で言い切った舞の発言にさえぎられた。 誰もがその言葉にショックを受ける。 もう爆発まで時間がない爆弾を移動させる…それの意味するところは。 「やめて! やめてよ! 川澄さん!!」 「川澄! そうだ、純夏の言うとおりだ…ここで死んで何になるというのだ!!」 純夏も冥夜も必死に止める。 そうだろう、死を覚悟してはいる、だがそれは犠牲を当然のごとく受け止める 覚悟ではない。 彼らはまだ…年若い少年少女なのだから。 舞は聞く気もない。黙って爆弾の前まで近づく。 メタトロンで周囲を加工された小型の爆弾で ビッグバイパーでも簡単に持ち上げられる。 舞は慎重にそれを持ち上げた。 どうやら火薬反応や衝撃に対してのみ作用するらしい。 持ち上げた程度では爆弾に変化はない。 ビッグバイパーはそのまま上昇の準備を始めた。 「舞! 舞! お願い…お願いだから…!」 佐祐理は涙声で訴える。 親友が…親友が逝ってしまう。 とめどなく溢れる涙をぬぐうこともせず彼女は必死に止めた。 そんな様子にブリッジにいた誰もが口を挟めずにいた。 ビッグバイパーは急上昇を続け、上がっていく。 舞の眼下に広がる火星もドンドン小さくなっていく。 「…佐祐理…泣かないで。私は…私のやるべき事を、 私だから出来ることをするだけ。爆弾を短時間で 火星から避けられる機体に乗っているのは…私と佐祐理だから」 事実そうだった。 信哉の機体は現在調整中、アルテミスはパワー不足。 となると…残るのはOF最速の機体ビッグバイパー。 舞はすぐに気づいた。そして…答えもすぐに出した。 「舞…待って、お願い…舞…」 「一弥…私が残した…「あれ」は?」 突然舞は一弥の名を呼んだ。 一弥は……冷静にそして答えた。 「完成は出来ます…大丈夫です」 「…ありがとう」 「舞ぃ…お願い…や、やめ…て」 もう言葉も絶え絶えに佐祐理はそれでも懇願を続けた。 言葉が出なくなったら…舞が…逝ってしまう、そんな気がして。 だが、…やがてそのときは来た。 「私は…佐祐理のことも、みんなのことも好きだから」 「いつまでもみんな…好きだから」 「春の日も…」 「夏の日も…」 「秋の日も…」 「冬の日も…」 「ずっと私の思い出が…」 「佐祐理や…みんなと共にありますように」 ドゴオオオオオオオオオオン!! その爆発は…ノアシップがすぐに引き上げなければならないほど 火星の広域を破壊するだけの威力があった。 轟音と共に船を揺らす衝撃波が そのすさまじさを物語っていた。 戦闘中のため外に出ていた機体のパイロット達も慌てて 防御行動に入ったほどだった。 「舞ぃぃぃぃぃぃ!!」 そして悲しみに打ち震える佐祐理の叫びが ブリッジを通して全パイロット達に伝わった。 あるものは泣き、あるものは上を見上げ、あるものは怒りを覚え。 そして…全員が己の無力さを嘆いた。 「馬鹿が…死ぬのは…死ぬのは年の順だって昔から決まってるだろうが!!」 マークはイラただしげにコンソールを叩いた。 その行為すら己の無力さを嘲笑っているようで…。 「川…澄…さん」 真理奈は呟いた。 「ちくしょう! 畜生!!」 武はドアを開けて外に飛び出そうとしたが、思いとどまった。 今は…今は為すべきことは何だ!? 「月詠さん…命令を」 「武様…」 「俺達が…俺達が今…為すべき事を…頼む」 「…わかりました」 月詠はその意思の強い視線に押されてマイクを取った。 「全機、一旦帰還せよ! 一時間の調整と補給の後我々は バフラム軍の本部、「アーマーン」への総攻撃を開始します!!」 それを合図に、機体が次々とノアシップに集まってくる。 武はそれをモニターで眺めながら 「川澄…お前が開いてくれた道…絶対に閉ざしはしない。 必ず…必ず!」 武は遥か宇宙に散った戦友にそう誓った。 悲しみと怒りの織り交じった感情が漂うアンリミテッドは 一人の犠牲と引き換えによいよバフラムへその切っ先を 向けようとしていた。 「佐祐理や…みんなと共にありますように」 少女の不器用な、それでいて一途な優しい思いを胸に。 続く
後書き 局長 「……(汗)」 純夏 「…あのー」 局長 「……(滝汗)」 武 「ここに来てものすごい暴挙に出たな」 局長 「…す、スパロボ系ですから一応」 SSのTOPに戻る