――ノアシップ ブリッジ 「そうですか…」 モニター上で、デニスは申し訳なさそうに頷いた。 「善意で来ていただいた方が先に犠牲になるとは…全くお詫びのしようがない」 「いえ、それこそ気になさらないでください。皆…覚悟はしていたことです」 月詠はそう答えたが表情に陰りがある。 無理もない、現実は残酷だ。理屈では命のやり取りであるとはいえ 目の前に訪れたのはあまりに突然のことだったからだ。 「だが…そもそもあなた方は軍人ではない。…強要されて戦っているわけではない。 だからこそ、申し訳ない」 「それは…」 月詠は言葉に詰まった。そう、彼らは自ら志願して戦った。 だから…命を失ったとて恨み言を言うようなものはいないだろう。 しかし、それが犠牲者を生んで当然という割り切り方はできない。 「…虚しいものですな。いつの世でも何故か私のような年寄りは 生き残る。未来を担うべき子供たちが先に死んでいく…」 「……」 そう言ったデニスの言葉は実感が含まれていた。 彼は…何度も体験したのだろう。 若い命が失われる瞬間を。 ノアシップはもうすぐアーマーン突入口前にたどり着こうとしていた。 エクシードブレイブス 第41話 過去から未来へつながる追憶 ――ノアシップ格納庫 「おい! そのパーツそっちに回してくれ!」 整備班に所属する男達が所狭しと走り回っている。 「もうすぐ、突入の時間だ! 何としても間に合わせろ!!」 補給、機体の整備、修理…それらを急ピッチで進めていく。 戦場に出ることのない彼らにとってはこの瞬間こそが戦闘である。 戦いはパイロット一人でやっているものではない。 彼らはそれを知っているから、己の仕事に誇りを持っている。 ――ノアシップ 廊下 「ユユ、あの機体を使わせてもらう」 ユユを呼び出して開口一番にマークはそう言い放った。 その目は普段からは考えられないほど真剣だった。 「…R−911S…都市警戒機最終型…現行のR−TYPEでもっとも 火力の強い機体に旋回速度の高い高機動型…あれを使うの?」 ユユもそのマークの表情に普段の茶目っ気はどこへやら。 真面目にマークの話を受け止め聞き返す。 「…ガキにばっかり負担かけるわけに行かないからな。 今回の任務に偵察能力は必要ない。…ただ敵を撃つだけだ」 「わかったわ。数分ですぐにオーバーホールしておくから」 そう言うと長い髪をなびかせてユユはマークに背を向けた。 向かう先は格納庫である。 「マーク…。これ以上女の子を死なせたら許さないわよ」 「わかったといいたいが、台詞に問題が大有りなのに気づいているか?」 「…当然でしょ」 「やれやれ…善処はする」 振り返り際に微笑を浮かべてユユは廊下を曲がって見えなくなった。 ――医務室 眠ったままの信哉に時間一杯付き添うつもりで 真理奈はそばの椅子に腰掛けていた。 規則正しい寝息。信哉は目覚めることなく眠っていた。 (いつからだったかな…) 真理奈はその寝顔を見ながら遠い昔を思い浮かべていた。 いや、遠い昔というほど前のことでもない。 だが…信哉がいなくなりそして今までの激動の日々。 平和だった頃が昔に感じられても無理はなかった。 (信哉の存在がとても大きくなって…信哉のいない生活が 考えられなくなったのは…) そんな淡い想いを抱いてた少女時代。 だが、突然の信哉の行方不明。 守られていただけの自分は無力だった。 真理奈は力を求めた、彼を、信哉を探し出し そして…隣で彼の力になれるだけの自分を。 (待ってるから…先に戦場で。来るって信じてるから…) 信哉の右手を持ったまま真理奈はそう祈っていた。 ――個人用 佐祐理の部屋 (舞…舞…) 佐祐理はテーブルに立てた写真を見ながらずっと泣き崩れていた。 かつてデュランダルに所属する前に、まだ平和だった頃 二人で撮った写真だ。 舞は笑うのが苦手で、カメラにも仏頂面を向けていた。 そんな舞の肩に手を置き、微笑む佐祐理。 今、写真の中だけの存在となった舞。 現実は佐祐理をとめどなく悲しみの中に追いやっていく。 パシュー 部屋のドアが開いた。 そこには無表情な一弥が立っていた。 いや無表情だったわけではない、何かをこらえるように 唇を震わせている。 「…何やってるんだ、姉さん」 「…何も…」 つかつかと一弥は佐祐理に歩み寄る。 「今は…するべきことがあるだろう?」 「佐祐理は…佐祐理にはもうすることなんて…」 そう、もう疲れたのだ。 父の手助けになればと必死に頑張ってきた日々。 そんな佐祐理を助けると言って一緒に頑張ってきた舞。 舞を失ったとき、佐祐理は「今」に執着する理由がなくなった。 抜け殻のような佐祐理の目は輝きを失っていたのだ。 「…舞さんと初めて会ったときと同じだね」 「…」 「今の姉さんは…舞さんと同じだ」 「舞…舞と同じ…」 うわごとのように繰り返す佐祐理。 だが意思のようなものはない。自分から進んで捨てているようにすら 一弥には見えた。 「もう…たくさんです…疲れました…佐祐理は…」 「!!」 パァン!! 部屋の中に響く乾いた音。 一弥は驚きもしなかった、むしろ何故もっと早くそうしなかったのか。 その言葉がキーワードであったかのように自然と手だけが動いた。 佐祐理の頬にはうっすらと赤みが差していた。 当の佐祐理だけがぽかんと一弥を見つめていた。 「…ぶった…?」 「…」 「佐祐理を…ぶった!」 「姉さんもそうしたでしょう、かつて舞さんに!!」 「…ねえ、佐祐理と一緒に行こう?」 「…私には…何もないから」 「そんなことないですよー」 「…私にはもう…」 パン!! 「…痛い」 「そんなこという子は許しません」 「…どうして?」 「あなたにはまだ大切なものが残っているからです」 「…」 「だから佐祐理と一緒に行きましょう?」 「…佐祐理」 「ねえ、あなたの名前は?」 「…私の名前…舞」 「あははーっ、よろしくね舞ー」 自暴自棄になって、荒れていた舞。 母親の突然の死。 元々不器用だった彼女は友人を作ることもなく孤立していた。 そんな彼女を佐祐理は放っておけなかった。 まるで…何もなかった自分を見ているようだったから。 そして一弥はそんな舞を家に連れてきて、ひっぱたいた経緯を 見ていたのだった。 「舞さんは立ち上がった、姉さんのおかげで」 「…」 「だから今度は僕が…姉さんを立たせる」 「…」 「まだ…姉さんにも残っているから」 「…何が?」 一弥は黙って佐祐理を部屋から連れ出した。 佐祐理も逆らわない。 逆らうことが出来なかった。 そしてたどり着いたのは…格納庫。 すでに調整が終わっていてこの辺りは静かだった。 そこにあるのは真紅のビッグバイパー。 「…ビッグバイパーをベースに改良を加えた新型。 コードネーム『サラマンダー』」 「サラマンダー…」 次に一弥はとある設計書を見せた。 「これは舞さんの案を取り入れて作ったサラマンダーのセイバーだよ。 …姉さんのスタイルに合わせて使いやすいように…ね」 「舞…が?」 「舞さんは、今も僕と…姉さんの中にいる。そして戦う意思も費えていない。 でも…意思だけじゃ戦えない。…意思を剣に変えているのなら それを振るう人がいなければ」 「舞…」 佐祐理は見上げた。その真紅の機体を。 そして見た、手を広げて待っている少女の姿を。 コックピットに、それは見えた。 『行こう…佐祐理』 『…私たちはいつも二人だった』 『だから…たとえ離れてもそれは変わらない』 一瞬のことだった。 佐祐理の弱さが招いた幻影だったかもしれない。 だが、それでも。 「…行きましょう一弥」 失意に落ちた少女は、 「舞が待っています…あの機体に乗って」 再び戦意を取り戻すきっかけとしては十分だった。 「そうだね、でもまだ時間はある。今のうちに格闘の訓練を積んでおいた方がいい。 たとえわずかな時間でも、機体に慣れるには十分だよ」 「そうですね、舞の…データを見せて、一弥」 「ああ」 二人はそう言って格納庫を離れた。 もう佐祐理の目には迷いはなかった。 ――ノアシップ ブリッジ 「アーマーン周辺の空間圧縮フィールドは?」 「それについては問題ありません。倉田機の新型サラマンダーに ベクターキャノンを取り付けたとの報告があります」 戎はそう答えた。 「しかし…彼女は」 「ご心配には及びません、艦長」 そこへ現れたのは一弥。 「姉は立ち上がりました、何も心配は要りません」 「そうですか…」 つらい決意をしたであろう佐祐理を思い、月詠は優しく微笑んだ。 「では乗員に告ぐ! これよりアーマーン攻略戦に入る! 各員所定の機体に搭乗し出撃せよ!!」 出撃のサイレンが鳴り艦内が慌しくなった。 よいよ火星攻略最終作戦、アーマーン攻略戦が始まろうとしていた。 続く
後書き 局長 「やれやれ、ようやく宇宙編も山場だ〜」 往人 「随分と反応があったようだな前回」 局長 「そりゃもう、何故か投票数が影響でてるほどだ」 美凪 「…でもこれ以降は彼女の出番はほとんどないんですよね?」 局長 「そうなるな」 美凪 「……にやり」 往人 「…遠野、全然にやりとしてないんだが」 SSのTOPに戻る