少しふらつきながらも何とか夕呼の部屋を訪れる信哉。

 「…香月博士…俺の機体を…」

 「随分起きるのが遅かったわね。他の皆はもう出てるわよ」

 やはりそうだったのか、と信哉は唇を噛んだ。

 「そんな顔しない。出来てるわよ、大破したクラウ・ソラスの

  調整も含めてね」

 「…! 本当ですか!?」

 意味ありげに口元に笑みを浮かべて夕呼は席を立った。

 「ついて来なさい、案内するわよ貴方の新しい機体にね…」

 夕呼はそう言って部屋を出た。

 信哉は何も言わずその後を追う。

 「緋神、体の調子は?」

 途中で夕呼は信哉に尋ねた。

 「大丈夫ですが?」

 「そう、クラウ・ソラスについていたお粗末なもんじゃなくて

  本場のT−LINKだからね。生半可な状態じゃ死にに行くようなものよ」

 ごくりと信哉はつばを飲んだ。

 一体どんな機体に仕上がったんだ?
 
 一瞬そんな不安がよぎった。

 そして格納庫のドアが開かれ、信哉の目の前に一つの機体が

 鎮座していた。

 「さあお披露目の時間よ、貴方の新しい機体の」










 エクシードブレイブス 第43話

 不敗の剣、それは正しき者の手に宿りて











 「これが…俺の…」

 そこにあるのはクラウ・ソラスをベースにした新しいOF。

 全体的なデザインはさほど変わっていないが特徴なのは

 銀色をベースにした輝く機体。そして以前より大型になった

 右腕のブレード。

 「クラウ・ソラスに使われていたメタトロンは通常発掘される

  ものよりも空間圧縮特性が強かった…いわゆるレアメタルだったのよ」

 「気づかなかった…」

 夕呼の説明はなおも続く。

 「そのためあの機体は一度破棄して完全にOF用のブレードとして作り直したわ。

  そして貴方の要望どおり、私が知る限りの最高のT−LINKシステムを

  搭載したOFを作成しそれに取り付けた」

 「はい」

 信哉は頷いた。

 「追加された武装は、トリプル・コメット、ゼロシフト、ハルバード・W

  破棄された武装はコメットにレイ・ハルバードにファランクス。他はは以前と

  同じく使えるわ。後、ベクタートラップの応用技術として対象の機体を

  圧縮空間に捕縛するゼロバインドというのがあるけど…」

 「ゼロバインド…それが何か?」

 「ブレードはさっきも言ったとおり、空間圧縮特性が強いわ。

  それは空間干渉能力が高いということが言える。すなわち…圧縮された

  空間を破らずに、影響を与えることも可能…ということよ。

  まあそこら辺は念動フィールドを展開するなりして圧縮空間を維持すると

  なおいいでしょうね」

 「それは…それの意味するものはまさか」 
                       ・・・・・・・・
 「飲み込みが早いわね。そう、圧縮された空間に圧縮されていない

  物理エネルギーを叩き込むことが可能なの。当然、ブレードを媒体にして

  バーストエネルギーを注ぎ込むことも可能ね。その後圧縮された空間を

  元に戻す…つまり」

 「叩き込んだエネルギーが数百倍に倍加される…」

 「これぞこの機体と貴方の能力が一つになった最強の必殺技ね」

 信哉は機体を見上げた。

 見た目はそれほど変わらないが、相当のハイスペックとなったようだ。

 思わず手が震える。武者震いという奴か。

 信哉は手を握り締め、その震えを抑える。

 「名前は…なんにする?」

 「クラウ・ソラスを使っていた人の名をご存知ですか?」

 夕呼はふっと目を細めて笑った。

 まるで信哉がそういうのをわかっていたかのようだ。

 「…幸運をもたらす勇者の名、銀の腕のヌアダ」

 「知っててこの色にしましたね?」

 「当然でしょう?」

 信哉は笑って言った。困った人だ、その目はそう言っていた。

 「そして彼の別名は…アガートラーム」

 「決まりでしょう?」

 「もちろんです」

 不敗の剣は、正しき持ち主に返された。

 剣は使われてこそ意味がある。

 その意味は振るいし者が決める。

 信哉は迷わずコックピットに乗り込んだ。

 以前とは違い、機体と全身の感覚が一体化したように感じる。

 「さすがT−LINKシステム…以前とは全然動かす感じが違う」

 ただその分精神にかかる負担も大きいことは容易に想像できる。

 「ありがとうございます、香月博士」

 「例はいらないわ、久しぶりに面白い仕事だったわよ」

 そう言って夕呼はアガートラームから離れた。

 信哉は通信をブリッジにつなぐ。

 「月詠艦長、ハッチを開けてください」

 『緋神さん!? 貴方いつの間に…』

 「時間がありません、早く!」
 
 『…わかりました。どうか気をつけて』

 「はい、艦長も気をつけてください。まだ伏兵がいるかもしれません」

 『ええ、何とか死守して見せます。ハッチ開けなさい!』

 ゴゴゴゴゴ…

 命令と同時にアガートラームの目の前のハッチが開く。

 「緋神信哉、出ます!!」

 ズドオオオオオ!!

 その輝く機体を惜しげもなくさらし、アガートラームもまた

 突入口へと飛び出していくのだった…。





 ――アーマーン最深部

 マークの機転により、オシリスを相手に善戦をしていた

 三人だったが、一方的な攻めではないというだけで

 こちらが有利に立ったわけではなかった。

 すでに三人の機体はあちこちがボロボロで

 徐々に機体に無理が見え始めている。

 特に戦闘機形態でしか戦えないマーク機の損傷はこの中では一番激しく

 一歩間違えば彼は、ここアーマーンの藻屑と化してもおかしくない状況だった。

 「ちっ…最強のOF相手じゃさすがに分が悪すぎるか…」

 思わずマークはそうこぼした。だが彼とこのRTYPEでなければ

 オシリス相手にここまで戦えはしないだろう。
       ・・
 「君も…その機体でなければマシな戦闘が出来るだろうに…」

 「お見通しか。だが悪いな俺はもう人型機動兵器に乗るつもりはないんだ。

  この機体もおせっかいな知り合いがその気持ちを汲んで作ってくれたもんだからな。
  
  …たとえ不利だろうとこのシリーズ以外に俺は乗るつもりはない」

 「それで死んでいれば世話はない。全く理解できないな」

 「お前のようなお子様にはもう少し経験しないとわからんわな」

 軽口と同時に波動バルカン弾をオシリスに打ち込む。

 オシリスはロッドを正面で回転させて難なく回避する。

 そこへ背後からサラマンダーが奇襲を仕掛ける。

 ビュオッ!!
 
 だがその動きを察知したオシリスはゼロシフトで瞬く間にその場から消え、

 サラマンダーの撃ったレーザーは虚しく消える。

 オシリスはそのままR−911Sの背後に回ったが、

 「甘い!!」
 
 レフトスラスターを利かせてそのまま右に平行移動し

 その勢いに乗ったままブースターの右側だけを作動させ

 驚くべき速さで回転し、背後に振り返りフォースレーザーでけん制する。

 ロッドを打ち込もうとしていたオシリスは、その動きを急停止し

 レーザーを避けた。

 そこへアルテミスがバーストレーザーを放つ!

 「今なら!!」

 ズガアアアオオ!!

 急な運動がかかっているオシリスに避ける術はないかに思えた。

 が、

 「残念だったね!」

 キュオン!!

 ゼロシフトの起動が間一髪間に合い、三人から少し離れた場所に

 瞬間移動したオシリス。

 「ふーっ。さすがに今のタイミングは怖かったな」

 まるで緊張感の感じられない口調でイサイルは言った。

 だが同時にマークは理解した。

 あのタイミングより速く威力のある攻撃は出せない。

 タイムラグでゼロシフトで避けられてしまう。

 つまり…自分達にオシリスを倒す手段がないということを自覚してしまった。

 (くそっ…ふざけんじゃねえ、まだだ…まだ何か…)
 
 マークは必死に頭を回転させた。

 これ以上誰も死なせるつもりはないと、そう誓ったのだ。

 「さて…そろそろ終わりにしようか?

  もう反撃の手段はないだろう?」

 「なっ…! まだです! まだ佐祐理たちは!!」

 キュンキュン!

 ヒイイイイイイン!!

 サラマンダーが急加速し、リップルレーザーを撃つ。

 それだけだと中心に向かって動くだけで避けられるレーザーだが

 その中心を縫うようにツインレーザーを放つ。

 正面から、かつ広範囲にわたるこの攻撃は

 高速移動であるゼロシフトでは当然かいくぐることは出来ない。
 
 佐祐理はこの時すでにこう考えていた。

 (この攻撃なら回避方法は二つ!)
 
 左右のどちらか、もしくは上下にリップルレーザーの範囲外まで避けることだ。

 「ふっ!」

 オシリスが動く。
 
 その一挙一動をマークは見逃さず先読みする。

 (下だ!!)
 
 わずかにぶれただけの動きでマークはオシリスの動きを先読みした。

 そしてRー911Sの最強かつ最速の攻撃方法を展開する。

 「こいつが避けきれるか!! 喰らいやがれロックオン波動砲!!」

 ズギャアアアアア!!

 「この程度ならゼロシフトで…!!」

 ヒュオン!!

 オシリスはその場から素早く離れた、そして波動砲は…

 真っ直ぐにオシリスに向かって伸びている。

 「何ぃっ!?」
 
 ズガガガガガガガ!!

 波動砲はオシリスから離れることなく当たり続けていた。

 装甲部分を削られていくようにダメージを与えている。
 
 「こいつはな…元々都市部での戦闘を想定して作られたもんだ。

  ロックオン波動砲は出力が多少落ちるが、相手の動きをリアルタイムで

  補足し続けて永続的にレーザーを射出し続けるんだよ!!」

 「くううっ…! この程度でぇ!!」

 ズバアアアアアアアン!!

 オシリスはバーストエネルギーを集約させたロッドで波動砲を切り裂いた。

 だがその瞬間はまだがら空きである。

 「捕らえました…いかにオシリスといえども…

  ベクターキャノンの直撃を食らっても無傷でいられますか?」

 「…!!」

 その瞬間初めてイサイルに焦りが浮かんだ。

 何だ、こいつらは。

 何故ココマデボクヲオイツメラレル?

 サラマンダーは最初の攻撃以降移動しながらずっとベクターキャノンの

 準備に入っていた。

 サラマンダーの最大の武器である。

 移動しつつ最強の武器の準備が出来る、という点は。

 「ベクターキャノン、発射!!」

 ズドドオオオオオオオオオ!!

 真っ直ぐに伸びた空間圧縮砲は、
 
 オシリスを完全に捕らえた。

 すでにゼロシフトを使っても避け切れはしない。

 はずだった。





 「舐めるなあぁぁぁぁぁぁ!!」







 ズガガガガガガガガ!!

 一瞬何が起こったのかは理解できなかった。

 ベクターキャノンが…捻じ曲げられたのである。

 「…まさかこの機能まで使わせるとはね…」
 
 イサイルもさすがに少しばかり表情に余裕がなかった。

 「い、今のは…?」
  
 まだ落ち着きを取り戻せない真理奈がやっとそれだけを口にした。

 「…圧縮空間と念動フィールドを同時に起動すると

  湾曲フィールドと似たような空間障壁を作り出せるんだよ。

  まさか君たち相手に使うとは思わなかったけどね…」

 「念動フィールド…だと!? まさか貴様…」

 マークが核心を言う前にイサイルのほうから口にした。

 「そうさ、僕はサイコドライバーだよ。意図的に念を隠してたから

  気づかなかったろう?」

 はははと嘲笑うイサイル。

 誰もが驚きのために口を開けなかった。

 「それにこのオシリス。いくらあのイレギュラーOFのプロトタイプと言えども

  そのままで使い物になるわけないじゃないか」

 言われてみればその通りである。

 イレギュラーOFであるアヌビスとジェフティはいわば完成形。

 それのプロトタイプとはいえ、性能的に見ればそのままでは

 見劣りしただろう。

 「さて、今度こそ本当に終わりだよ。まずはそこで固まっている

  お嬢さんから…」

 「! しまった、佐伯! 動け! 逃げろ!!」

 だがマークの叫びもわずかに遅かった。

 すでにオシリスの射程内にはアルテミスが入っている。

 ゆっくりとロッドを振り上げ、渾身の力を持って振り下ろそうとする。

 真理奈はアルテミスに防御姿勢を取らせるが…おそらく無駄になるだろう。

 だが、最後の最後まで真理奈は諦めなかった。

 やがてロッドが振り下ろされ、佐祐理もマークもひしゃげて
 
 砕けるアルテミスの姿を想像したが…。







 ガキン!!






 鈍い金属音によりそれは阻まれた。








 「遅くなってすまない、待たせたな真理奈」










 そこにはマークたちも初めて見る機体。

 銀色に光り、オシリスのロッドをも押し返すパワー。

 「あ…」

 真理奈の目から涙が零れ落ちる。

 待ち望んだ人は、遠く、離れていてもその呼び声を聞いて駆けつけてくれたのだから。

 「信哉…よか…った」

 「緋神さん…」

 「ったく遅いんだよ、いつまで寝てるつもりだ?」

 三人がそれぞれに信哉を出迎える。

 「すまない、だが遅れた分は取り戻す」

 そう言って信哉はオシリスに…イサイルに向き合う。

 「信哉か…待ちくたびれたよ。あの日以来…君が僕の前に立つのを待っていたというのに」

 「その割には爆弾なんてセコイ手を使ったもんだな」

 「ふふふ…いいね、相変わらずその戦意を失わないその目。
 
  そして心地よいほど鋭いその念…」

 「…今までよく隠し通したもんだ。それだけの強い念を…」

 その言葉と同時にオシリスとアガートラームは距離を取る。

 「さあ! あの日の決着をつけようか!」

 「望むところだ! 俺とアガートラームがお前を冥界に送り返してやるよ!」

 今、二人のサイコドライバーがアーマーンの地下を舞台に再び

 ぶつかり合う。
 
 果たしてその後に残るのは…何だろうか…?

                            続く

後書き

局長    「この話からの推奨の曲は「アストラナガン戦」の曲をお勧めします」

佐祐理   「あははーっ、それを聞きながら書いたからですね?」

局長    「その通り」  

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