憎悪の入り混じった複雑な念。

 たとえサイコドライバーでなくとも悪寒や不快感といった
 
 感情で感じ取れるほどの強い念。

 信哉はその巨大なうねりに飲み込まれないよう気を強く持った。

 「倉田さん、二人の機体の修理をお願いします。その後

  武達の後を追ってください。先へ進んだんでしょう?」

 「え? いいですけど…でも」

 「俺のことなら心配要りません。それに…ゼロシフトに対抗できるのは…

  ゼロシフトだけです」

 信哉は強い口調で佐祐理の発言をさえぎった。

 オシリスは相変わらず上空に浮いたままこちらを見ているだけだ。

 それが何を意味するのか、佐祐理は理解した。

 「…わかりました。気をつけてくださいね」

 「ええ」

 そして信哉は次に真理奈とマークに通信を開く。

 「二人とも、後は俺に任せてくれ。すぐに後を追う」

 「…ま、これ以上は俺たちじゃ無理だろうからな」

 「…信哉…」

 肩をすくめて笑うマークに対し、真理奈はやはり不安げだ。

 無理もない、さっきまでその恐ろしさを目の当たりにしたのだから。

 「そんな顔するな真理奈。俺は負けない、すぐに追いかける」

 「真理奈、信じてやれ。そういう気持ちが今は一番大事なんだ」

 「…わかった。先に行って待ってるから」

 「ああ」

 そう言った真理奈の顔は笑顔だった。

 これで何も憂いはない、信哉はアガートラームを少し他の三機から

 離れた場所へ移動させる。

 それと同時にオシリスもアガートラームの正面へと向かい合う。

 「今生の別れは済んだかい?」

 「生憎、やることがまだまだあるからね。死ぬつもりはないよ」

 「つもりがなくても死ぬさ。僕の手にかかってね」

 「さて、それはどうかな?」

 そしてしばしの無言。

 一瞬、一秒にも満たない次の瞬間に

 ガキン!!

 オシリスのロッドとアガートラームのブレードは火花を散らしていた。










 エクシードブレイブス 第44話

 決戦 act1 〜信哉とイサイル〜











 「てぇっ!!」

 「甘いっ!!」

 ガキン!!

 チィン! カン!!

 オシリスの繰り出すロッドの連撃を、アガートラームはブレードで防ぐ。

 オシリスが突けばそれをアガートラームは受け流し、そこへアガートラームが

 斬撃を振り下ろせばそれをオシリスはロッドで受け止める。

 ほぼお互いの間合いの中での攻防戦が交互に行われている。

 バシン!!

 その時、二人の攻撃のタイミングが被り拮抗のため生じた衝撃で
 
 お互いの距離が開く。

 「!」

 「!」

 そしてお互いに同時にゼロシフトを起動する。

 二人の機体は消えて空間を瞬間移動する!

 ガキィン!!

 そして互いに後ろの相手に向けて武器を向けた。

 そのタイミングすらもほぼ同時。

 姿を現したとき、二機は互いの武器を互いの武器で受け止める形で

 膠着していた。

 「やるじゃないか…ここまで互角に僕と競り合うとは…」

 「絶対に…負けられないからな…!」

 二人はお互いににやりと笑って見せた。

 信哉は余裕を表し、イサイルは嘲笑を意味した。

 「アーマーンか…、外から見たとき気がついた。あの長い空に向かっている

  煙突のようなもの…あれが砲身だな?」

 「ほう…何故そう思う?」

 「…お前が二番煎じを用いるとは思えないからさ。かつてのアーマーンは

  本体を軌道衛星フォボスに起き表向きは空間圧縮砲による地表攻撃を

  行うと見せかけていた。だが実際は…メタトロンの空間圧縮特性を最大限に

  用いた超エネルギーによる広範囲爆破だった」

 「それで?」

 バチン!

 台詞と同時に武器の膠着が解けた。

 お互いの距離が少し離れる。

 アガートラームは再び距離を詰めて二撃、三撃と攻撃を放つ。

 「ネタがばれてる様な物をお前が使うはずはない!

  答えろ! このアーマーンは一体何を…」

 「それに答える義務はないな。それに君の推測が当たっている証拠はない」

 だが放たれた斬撃を軽く下へ上へと受け流す。

 その勢いを殺すことなく。

 「…だったら力ずくで吐かせて貰う!!」

 アガートラームは一旦距離を取った。

 そして瞬時に十六発のホーミングミサイルを背後に展開した。

 「いけぇっ!!」

 シュドドドドドドド!!

 尾を引いて高スピードでミサイルはオシリスに向かっていく。

 「こんなもの!」

 オシリスは少し下がりながら回転させたロッドで次々とホーミングミサイルを

 落としていく。

 ズドオオオオ!

 するとオシリスの真下から巨大なエネルギー球、

 アガートラームのバーストショットが襲い掛かる。

 だがイサイルは慌てず、機体を少し左に移動させてそれを避ける。

 その時、イサイルは機体の背後に空間の乱れを感じた。

 「それで背後を取ったつもりか…甘い!!」

 ビシュ!!

 振り向きざまに放った横凪ぎのロッドだったがそれは

 何の手ごたえもなかった。

 「!?」

 「こっちだ!!」

 ズガアアアア!!

 勢いよく横に回転し、エネルギーの乗った斬撃を放つ

 アガートラームのバーストブレードが綺麗にオシリスのボディに決まった。

 「ぐあああっ!?」

 また運の悪いことにオシリスの背後にはアーマーンの柱があり、

 背中から叩きつけられた。

 かなりの衝撃が中のイサイルを襲う。

 「く…今のは…」

 「デコイを展開した後すぐにまたゼロシフトをした」

 つまりオシリスが振り向いた時点でアガートラームはその背後に

 回ったというわけである。

 「くく…舐めた真似を…」

 「イサイル…お前ほどのサイコドライバーがどうして…」

 「どうして?」

 「…お前はアザゼルの関係者じゃないのか」

 「僕と君とはあの日海の上で会ったのが初対面だったね」

 「それは間違いない。だが…」

 「君はつくづく頭がいい。想像だけでそこまでたどり着くのだからね」

 「想像だけじゃない。さっき一瞬映ったお前の顔だよ」

 「ああ…しまった、ついモニターに…」

 押し殺した笑いをイサイルは浮かべていた。

 まるで気がついて欲しかったかのように。

 「だがそれを僕から語らせたいならば僕を倒すことだね。

  でなければ…」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…

 アーマーン全体が振動を始める。

 それは弱いが継続的に起き、まるで何かの起動を始めたかのようで

 信哉は落ち着かなかった。

 「アーマーンオシリス…起動。そしてアーマーン・リターナー…

  この二つを相手にどう出る? 緋神信哉! そして愚かなるプロジェクト

  『ゴッドフォース』のCL−2!」

 「その呼び名…知っているということはお前は…!」

 「貴様が本当に「神の欠片」足るか…僕の存在のために

  僕自身が見極める!!」

 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!

 アーマーンの下部からエネルギーがオシリスに集まり

 オシリスは赤と黒をベースにした機体から、真っ白く輝く

 色へと変化し、六角形のパネルが帯状に連なり機体の周囲を旋回している。

 「人が…人が神になれるか。お前の言うとおりだ。あれはどうしようもなく

  愚かで馬鹿な計画だよ。だから俺は「神の欠片」なんかじゃなく…」
 
 信哉はアガートラームのコックピットの中の一つのスイッチを押した。

 アガートラームのコンソールにはシステムの移行を示すメッセージが表示されている。

 「サイコドライバー、緋神信哉としてお前を倒す!!

  俺は人間だ! 神なんかじゃない!!」

 そのシステムとは…こう書かれていた。

 T−オーバードライブモード、と。

 アガートラームは周囲を念動フィールドに覆われ、うっすらと光を纏っている。

 そしてブレードであるクラウ・ソラスには常にエネルギーがほとばしっている。

 信哉の念動力を完全に引き出した上で機体性能を向上させ、

 メタトロンの特性を人為的に引き出すシステム。

 それが信哉の提案したT−オーバードライブモードである。

 機体を完全に念によって支配できるため操作性、機動性は格段に向上するが

 反面、通常よりも遥かにランナーにかかる負担は増大する。

 だが、それでも信哉はこのシステムを構築した。

 それは人間という個を無視したプロジェクトを妄信的に続ける

 アザゼルに人間の持つ可能性を示したかったというのもあるのかもしれない。

 「行くぜ!! イサイルゥゥゥ!!」

 「来い! 信哉ぁぁぁぁぁぁ!!」

 解けない謎を抱えたまま、二人は再度激突しようとしていた。
 
 アーマーンはまだ静かに鳴動を続けていた。

 いつ、噴火するかわからない火山のように。

                          続く

  

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