戦いは熾烈を極めつつあった。 拮抗した能力、互角のランナー、そして互いに譲れない想い。 全くの五分と五分の条件の中、二つの機体は互いに 我こそが勝者たらんと、攻防を繰り返した。 アガートラームが回転し、鋭いバーストブレードを放つも それを受け止めるオシリス。 そしてオシリスの放つ放つ拡散式のバーストショットを ホーミングレーザーで撃ち落すアガートラーム。 そう、もはやこの長期戦の中で勝負を決すのは一撃である。 満身創痍にお互いを追い詰めたものの、とどめとなる一撃を未だ 繰り出せない二人。 その気持ちだけが二人のランナーに力を与えていた。 だが時は待ってくれない、時間が経ちアーマーンが始動すれば 結果として信哉は負けなのだから。 エクシードブレイブス 第45話 決戦 act2 〜存在の証明〜 バシィ! 再び同時に攻撃し、その衝撃がアガートラームとオシリスの距離を開く。 何度同じやり取りを繰り返しただろう? 幾度無く二人は拮抗状態に陥った。 後方に下がり、再び距離を詰めようとレバーを倒した信哉はふと その手を止めた。 オシリスが動いていなかったからだ。 「…何のつもりだ?」 信哉は尋ねた。 「…君は何を持って己を証明する?」 「証明?」 そうだ、とイサイルは頷いた。 「君が紛れもない緋神信哉であることを証明するものは何か…と聞いている」 「そんなもの…」 信哉はイサイルから注意を逸らさずに考えた。 確かに確固たる証明は自分にはないかもしれない。 すでに戸籍は死亡扱いになっているし、そもそもそんなデータが 「緋神信哉」たるものを証明するとは思えなかった。 「無理をしなくていい。人は誰しもそうだ、『自分が自分であること』を 確実に証明するものは自分にはない。それを持つのは他者だ」 イサイルは答えがわかっていたのかそんなことを言い出した。 「君が名乗った「緋神信哉」という名を持つものが君であることを証明するのは それを知る他人だけだ。君にはその証明が出来る」 「それが…何だというんだ」 「…君は知りたがっていたな。何故僕がこのようなことをしたのかと。 その答えだ。僕は僕であることを証明したかった」 「馬鹿な…こんな無意味な殺戮と破壊に?」 「…僕はアザゼルで生まれた。7年前に」 「…何だって?」 クックックとイサイルは挑発するような笑みを浮かべた。 「食いつきがいいな。それでこそ話した甲斐があるというものだ」 「…本当なのか?」 信哉は探るように尋ねる。 イサイルの真意が読めない。そもそも何故このような話を始めたのかも 理解できない。 「僕が作られた目的は破壊と殺戮。何者も寄せ付けぬ圧倒的破壊力」 「だから…」 「しかし、僕ではそれが出来ないとわかったアザゼルは僕を 木星圏に放棄した。僕は木星での開拓地域に労働力として送られることになった」 「木星圏…」 「あのジェフティが木星のカリストで発見されたことは知っているだろう? 偶然にもあの区域にはもう一つのOFが隠されていたのさ。 当時のバフラム軍は気づかなかったようだけどね」 「それが…オシリス」 「調べてみると、ジェフティも秘密裏にあそこに放棄されたらしくてね。 二つのメタトロンが共鳴しあったのか…まあそこら辺は偶然だろうけどね」 「どちらにせよ、お前はオシリスを元にこのバフラム軍を作り上げ…」 「そして火星に眠る秘密を知った。火星には先住者がいたのさ。 翼人と呼ばれた「翼持つもの」たちがね」 「翼人…」 信哉は往人が追っていた「翼持つもの」という単語をおぼろげに思い出した。 「そもそも不思議じゃなかったかい? 千年も前から伝わる 機動兵器が何故日本にあったのか」 「それは…地球に来たときにってまさか…」 「ご名答、記録によれば翼人は一度地球にその高度な科学力で訪れている。 しかし何らかのトラブルで地球から帰れなかった一人が…」 「それが…」 多分往人が言っていた少女のことだろう、と信哉は思った。 すなわち往人にとってはこの火星はその旅路の終点でもあったわけだ、と。 「現在の科学力との融合で翼人の遺産は強力無比の兵器となったわけだ。 …これが僕の作り上げたバフラムの正体だ」 「何でそんな話を今したのかがわからないんだが」 信哉は攻撃態勢を取りながらそう言った。 空気が変わったのを見逃してはいなかった、オシリスはもう攻める気でいる。 「…さてね、多分次の接触で決着がつくから疑問の残らないよう 少しだけサービスしただけさ」 「…そりゃどうも。だが俺から言わせれば死ぬ前の懺悔に聞こえたけどな」 「生憎、僕は祈る神を知らないんでね。何に懺悔すると言うんだ?」 「そうだな…俺も神様は信じちゃいない。信じるのはいつも仲間と 自分の力だけだ」 アガートラームはブレードを構えた。 オシリスはロッドを手に取る。 「これで最後だ!!」 「望むところだ!!」 カッ! 二機が同時にゼロシフトを起動する! 正面にお互いを捕らえ、現れるまでわからなかった二機の初太刀は、 ガッ!! アガートラームが狙った最短距離の突きはオシリスの放ったロッドの 薙ぎ払いで受け流された。 だがそのままブレードを水平に払い一回転するようにして斬撃を見舞う アガートラーム。 しかし、そのブレードは虚しく空を切る。 すでにアガートラームの上を捉えていたオシリス。 ガン!! 背部を狙う、機体ごと回転する打ち下ろし。 「くっ!!」 信哉はたまらずスラスターを起動して機体の維持を図るが間に合わない。 続けざまに連続でのロッドの突きがアガートラームを襲う。 ガガガガガガガガ!! 「うわあああっ!」 アガートラームの装甲がもろくも削り取られていく。 その勢いで破片が舞い、メタトロン独特の輝きが辺りに散る。 「これで終わりだ!! 死ねっ! 信哉ぁぁぁぁ!!」 ロッドの突きと同時にバーストショットを放つという荒業を するオシリス。 (負けられない…) 信哉はただ一瞬、 (見極めろ…) 攻撃を受けているときこそが (その一瞬さえあれば…) オシリスに自身の最大の一撃を放つチャンスであることを。 完全に動かないと思った。 これで決まりだとイサイルは思っていた。 だから最後に放った突きがアガートラームを完全に沈黙し バーストショットで粉々に砕け散るであろうことまで確信していた。 「え…?」 だから、アガートラームがそのロッドの突きを回避したとき 咄嗟のことに反応できなかった。 アガートラームは素早くオシリスの懐に飛び込みその首を捕まえる。 「捕らえた!!」 その瞬間オシリスが圧縮空間に押し込まれる。 その空間を維持するために周囲に念動フィールドを張る。 オシリスからは何が起こっているのかはわからない。 「これで終わり…俺の勝ちだ!」 聞こえたのは信哉の確信に満ちた雄たけび。 「イクリプス・ゼロインパクトォォォォォ!!」 圧縮された空間にエネルギーを纏ったクラウ・ソラスたるブレードが叩き込まれる。 そして同時に信哉は圧縮空間を解除する。 バガガガガガオオオオン!! 圧縮された空間は元に戻ろうとする。 しかし、クラウ・ソラスが叩き込んだエネルギーは圧縮されずに 空間内に叩き込まれたのだ。 元に戻るのではなく数百倍に倍加されたのである。 ものすごい煙と火花が散り、一瞬視界が閉ざされる。 そして信哉が見たものは、すでにコックピットとわずかに腕のみを残す 無残なオシリスの姿だった。 アーマーンと同調し防御特性が引き出されていなければ木っ端微塵だったであろう。 改めて信哉は威力を痛感した。 当然、それだけの衝撃の中ランナーが無傷のはずはなく 「…僕の負け、か」 聞こえてくるイサイルの声もどこか弱々しかった。 「だけど…その状態で果たして「遺産」を止められるかい?」 「武達も頑張ってるはずだ。戦っているのは俺だけじゃない」 クックックとイサイルは相変わらずの笑いだった。 だが、次に聞くことはないだろうその命のともし火が消えかかっているのを 信哉はなんとなく察した。 「…仲間、か。やはり、己の存在を証明できない奴が 確固たる自分を持っている奴には勝てない…だな」 「どうだろうな」 そもそも本当に自分というのを持っているのがこの世の中にどれだけいるのだろうか。 むしろ、それを為そうとやりかたはどうであれ必死になったイサイルのほうが よっぽど強い「個」を持っていたのではないか、だがそれすらも 信哉に証明する方法はない。 「行けよ、もう僕には何もない」 「最後に一つ聞いていいか?」 「何だ?」 「お前は…アザゼルで何に関わっていた?」 「ああ…それは…」 信哉は突然相手のランナーのモニターが表示されたことに驚いた。 今まで、通信だけで声のみを聞いていたのだから。 「これが答えだよ。そして僕がいらなくなった訳…それを考えれば 君には答えがわかるはずだ」 「お前は…まさかそれじゃ…」 だが画像はあっという間に乱れ消えてしまった。 再び聞こえてきた通信はノイズが混じりよく聞き取れない。 「……通り、僕は……あ……コ……さ……性…のね」 バガガアアアアアアアアン!! その言葉を最後にオシリスは派手な爆音と共に砕け散った。 「……」 信哉はただ一人知った真実に打ちのめされた。 その答えは想像を超えていた、アザゼルという組織がとてつもなく 巨大に、そして邪悪に見えた。 ある意味イサイルは被害者だったとも思えてきた信哉はただ一言、 「…お前の存在は俺が証明してやるよ、バフラムの好敵手、イサイルとしてな。 誰にも知られずに死ぬよりはマシだろう?」 そう言い残し、信哉はアガートラームの各部をチェックした。 「……機体損傷率84%…武装異常なし、移動系異常なし エネルギー残量18%…ゼロインパクトは使えないけど 足手まといにはならないだろ、待ってろ皆! すぐに行く!!」 そしてアガートラームは信哉の掛け声と共に 両腕を広げて飛行形態に入った。 そして、背部のブースターが起動しアガートラームは 仲間の待つアーマーン最深部へと深い闇の底へと向かっていくのだった…。 続く SSのTOPに戻る