――アーマーン最深部

 すでに天井が見えなくなるほどの深い深い火星の中心にそれはいた。

 柱は上の方にあった機械的な部分は無く、生き物の触手がねじれ合って

 作られたかのようなグロテスクさを表に出し嫌悪感を抱かせる。

 そしてそれらからまるでコードのように伸びている先に、

 二つの機体が静かにたたずんでいた。

 人骨をイメージするとそれを表現するのにもっとも的確だろう。

 人骨がまるでオーラのような黒いエネルギーでパーツを連結しているような機体。

 それはさながらロボットと呼ぶより生体の化け物に近い物がある。

 往人の乗る神奈式を先頭に、続々と油断無く近づくアンリミテッドのメンバー達。

 しかしそれは、

 「ようこそ、「翼人の遺産」の間へ」

 心底楽しそうな橘の声であっさりと崩された。

 「橘! 観鈴はどこだ! どこにいる!」
 
 「慌てるな…君の目の前にいるだろう?」

 「目の前…だと…!?」

 目の前、すなわち橘はその不気味極まりないその機体を指す。

 「翼人の怨念が作り変えてしまった「翼人の思念を実体化」する機体…

  この世に現存するのはこの二体だけだ。「ウイングオブドリーム」

  翼の夢と呼ばれる天翔ける翼人たちの残した最後の遺産だ…」

 「翼の夢…こんな…こんなおぞましいものが…?」

 くっくっくと橘は押し殺した笑いを浮かべる。

 往人の苦悩が楽しくて仕方が無い。言葉にせずとも態度が雄弁に

 橘の信条を物語っている。

 「そうとも…千年という長い間、彼らは待っていたのさ。

  自分達を虐げた地球という星に復讐する機会をね…」











 エクシードブレイブス 第46話

 決戦 act3 〜旅の終着〜











 「冗談だろ…? これが俺たちが今まで戦ってきたイレイザーの

  正体だって言うのか…?」

 「冗談にしては…笑えないわね」

 武と千鶴は同じような感想を洩らした。

 無理も無い、翼人の経緯は火星に来るまで間に往人に聞いたとはいえ、

 現実を直視するとやはりやりきれない気持ちはあった。

 「解せないわね、だとしたらどうしてそれを貴方が

  自由に出来るの? 橘さん」

 ひかりは詰め寄るように訊ねた。

 「無論、彼らにとっての「鍵」を僕が握っていたからさ。

  もう一つのほうの機体の主導権をもらうかわりに彼らに

  起動用の「鍵」を渡したのさ」

 「…鍵…まさか…」

 美凪がハッと息を呑んだ。

 「正解だ。観鈴だよ、正当な翼人の力と宿命を継承した彼女こそが

  ここに繋ぎとめられた翼人の力を解放する鍵だったのだ」

 あっさりとそう答える橘。

 その様子に誰もが疑った。

 こいつは本当に人間か? と。

 自分の娘を生け贄にささげたようなものじゃないか。

 「てっめえ! その観鈴って娘はお前の娘じゃないのかよ!!」

 誰より先に武が激昂した。

 「生憎とそのような感情で私の知識欲は止まらなかったよ」

 「この…!」

 言葉を続けようとした武を往人が制す。

 「彼らは…死して尚、ここに帰り着くのか…思念となって」

 「どうやらそのようだな。私としては技術だけでも残っていれば…と
 
  思っていたのだがな。何にせよ観鈴を連れて行くことはなんら

  無駄にはならないと思っていたのだが…相当大きな獲物になったよ」

 往人は注意深く翼の夢を監視した。

 どこもかしこも骨をイメージした物体で組み立てられた構造の

 丁度、人で言う心臓の辺りに淡く光る物体を見つけた。

 そこから黒いオーラが発せられ、血液を循環する文字通り心臓となっている

 ように見えた。

 橘が乗っていると思われているほうは、おそらく別のエネルギー供給機関が

 あるのだろう、そんな変化は見えない。

 「ならば観鈴を取り戻し、貴様を倒せばここでの戦いは終わると言うことだな」

 状況を把握した往人はにべもなくそう言った。

 「ほう? 上のほうではバフラムの総大将が君たちの仲間をそろそろ

  倒す頃じゃないかな?」

 「足止め引き受けておいて勝手に死ぬような奴らじゃないんだよ」

 往人はそう言って神奈式をスタンバイさせた。

 神奈式はその手に刀を持つ。

 「どうやら過去からの旅路はここで終わるらしい…。

  遺産とやらと一緒にうずもれるのは貴様だけで十分だ橘。

  観鈴にはまだ未来がある。今度こそ幸せに生きるための大事な時間がな…」

 ズドオオオオ!!
 
 言うや否や神奈式はブースターで急発進する。

 狙いは当然観鈴の乗る翼の夢。

 「お、おい! 国崎さん! 一体どうする気だ!?」

 そのいきなりな行動に誰も面食らった。

 牧島がついていけずにそう問いかけるが、

 「要は、あの観鈴って娘だけを取りだしゃいいんだろう!?」

 「ま、それが一番妥当な線ってやつ?」
 
 武とつばさは同時に往人機の援護をするため神奈式の両サイドに回った。

 「出来るだけ強力な武装の使用は避けて! 後方支援に回るわよ!!」
 
 ひかりの指揮の下、援護系の壬姫、千鶴らが出来るだけ動きやすい地形に

 陣取る。

 周りの機体の動きにあわせて参会するアンリミテッド。

 「面白い…だが僕がそのような動きを黙認すると思ったかな?」

 「…させません」

 ガキィ!!

 そうして動いたもう一つの翼の夢を抑えたのはヴァルシオンを駆る美凪。

 「…せっかくの恋人達の再会です。無粋な真似は避けてください」

 「ふふふ…中々面白いことを…。…っ!?」

 ブオン!

 突如視界に映った大振りのビームサーベルを咄嗟だったが避ける翼の夢。

 「嫌でも黙ってみててもらおう! 貴様のような外道

  もはや許しては置けない!!」

 牧島は眼前の敵をにらみつけた。

 元より非道を嫌う牧島はこの手の人間に対する敵意は強い。

 「ふん…地球の下等な人間が…」

 そうぼそっと呟いた橘の声は誰も聞いていなかった。

 一方、無抵抗のはずの無い観鈴の乗る翼の夢は無機質に

 しかし確実に往人たちを襲っていた。

 感情も何も無い、いや憎しみに駆られた怨念たちの

 直情的な攻撃がかえって往人たちには読みづらく、

 中々、攻撃を当てることができない。

 「くそっ…目の前にお姫様がいるって言うのに…!」

 「タケルさん! 焦っちゃダメだよ、あの大きい刀に斬られたら…」

 「わかってる、そう何発もこらえられるような代物じゃないあれは…」

 そう翼の夢は巨大な刀を武器にしていた。

 直接手に握って振るうわけではなく、遠隔操作によるトリッキーな動きのため

 軌道が読みにくいのだ。

 うかつに踏み込めば下手をすれば真っ二つということも十分考えられた。

 「どうにかして…国崎さんが飛び込めれば…」

 純夏はやや離れた位置から機会をうかがっている。

 「観鈴…待ってろ…すぐに助けてやる…そして…」

 往人は翼の夢の奥。

 眼を閉じて、コアに包まれている最愛の少女に呼びかけるように

 「今度こそ、この因果を断ち切ってみせる!」

 往人は吼えた、力の限りに吼えた。

 神奈式はそれに応えるようにその機体に少しずつ光を纏っていく。

 故郷に帰りついたこと。

 それが神奈式にも力を与えているのだろうか?

 「…そうだな、お前を解き放つ、それが本当の意味で

  観鈴を救うことになるんだったな」

 確認するように噛みしめるように往人はそう呟いた。

 その手には力が込められている。

 かつて自分は翼のある少女を探した。

 そして自身もまた、空への憧れを抱いた。

 彼には約束があった。

 過去から現在へと紡がれた人形と共に課せられた約束。

 一つは果たされた、そしてそのもう一つの約束が彼を再び

 旅へと誘った。

 彼には翼があった。

 過去から現在へと紡がなければならない想いという翼が。

 そしてそれを届けたとき、彼に宿っていた翼は今その背を離れ、

 「観鈴ゥゥゥゥゥ!!」
 
 彼の片翼、神尾観鈴と言う少女の下へと導こうとしていた。

 過去、現在、未来それらが今、一つの約束の元に導かれた旅人の手によって

 一つになろうとしていた。

 だが、皮肉にもその叫びを遮るのは観鈴を取り込んだ翼の夢である。

 往人の接近を許すまいと、その巨大な剣で、

 両手から放たれる黒いビーム砲で、

 あらゆる存在を拒絶するかのごとく近寄らせることは無かった。

 「くっ…後、あと少しだってのに!!」

 「往人!! 迷うな、一気に飛び込め!!」

 武は躊躇する往人に叫んだ。

 見れば天照はすでにフォトンバスターを撃つ準備に入っている。

 「皆! あいつの攻撃を封じることに全力を注げ!」

 「了解!!」

 武の合図で全員が遠距離武装を手に取った。

 往人はその姿を見て、ふっと笑った。

 「それじゃお前らを信じて任せる! 死んだら枕元に立ってやるよ!!」

 「そ、それは怖いから遠慮します!」

 壬姫だけがその冗談を真面目に受け取った。

 神奈式はその翼のバーニアを全開にし、最短距離で観鈴のコアへと

 接近する。

 当然、それに向かって刀が振り下ろされるわけだが…、

 「やらせるかぁ!! フォトンバスター、発射ぁ!!」

 ズドオオオオオン!!

 神奈式に刃が届く瞬間、巨大な光の球は見事にその刃の軌道を逸らせた。

 横に流されるようにいなされた刀は虚しく地面を打ち、音を立てた。

 その刀を一旦手放し、両手の砲門からビーム砲を照射しようとする翼の夢。
 
 「させません!!」

 ガオオン!!

 閃光の放つスナイパーライフルが右の手を、

 「ここからなら…ま、当たるで…しょ!」

 いつの間にか左手の真横に回りこんだトーラスがその手に持った

 ブレイクショットガンを放つ。

 ズドン!!

 間髪いれずに行われた攻撃によって、神奈式の接近を阻むことは出来なかった。

 そして、神奈式の目の前には観鈴がいた。
 
 眠っているように眼を閉じ、体を丸めて黒い球体に包まれている。

 その姿は、かつてその宿命によって弱らされたかつての観鈴の姿を

 往人に思い起こさせた。

 「観鈴! 迎えに来たぞ!!」
 
 そうして伸ばした神奈式の手がわずかに翼の夢に触れた瞬間。

 カッ!

 「な、なんだ!?」

 「ま、まぶしい!」

 当たりは神々しいほどの光に包まれていた。
 
                             続く

  

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