白い。

 ただ真っ白い世界に往人はいた。

 見渡す限りの白い世界、上も下もわからない漂うだけの世界。

 (観鈴…観鈴はここに?)

 何故かはわからなかったが往人にはそう感じられた。

 ここは…空に似ている。
 
 理由無く存在する、存在するのに理由の要らない場所。

 それが空。誰の頭上にも浮かぶ広い広い無限の場所。

 往人は進む。進んでいるのかどうかはわからないが、
 
 かき分けるようにただただ前へと。

 あの瞬間確かに掴んだ彼女の手を探して。

 今度こそ離さぬ為に。

 そして今度こそ、

 彼女の翼を解き放つために。











 エクシードブレイブス 第47話

 決戦 act4 〜未来へ翔ける比翼の鳥〜











 「はあ…はあ…」

 どれくらいそうしていただろうか。

 往人はいつしか息が上がり、その手の動きも鈍くなっていた。

 だが行けども行けども観鈴の姿は無い。

 いやそれどころか本当に進んでいたのかどうかさえわからない。

 そんな漠然とした不安が、徐々に往人から進む気力を奪っていく。

 「くっ…」

 完全に歩みの止まった往人。

 何も無いこの空間で、まるで雲のように漂う自分。

 「翼…か」

 往人は思わず呟いた。

 (ここが空ならば翼を持たない俺に進む資格はないのだろうか?)

 往人はそう思ってしまった。

 結局、自分はただの人だ。

 人形に込められた願いがどれほど大きな物だったのか、火星に来てようやく

 思い知ったほどの程度の人間だ。

 そんな自分がこの無限の空に挑戦しようなど無謀にも等しい。

 (俺はどこまで行っても無力だ)

 やがて突き出そうとしてその手を引っ込めた。

 往人が進むのを諦めようとしたその瞬間。

 「…!」

 自分の目の前に見たことも無い人影が現れた。
 
 一人は刀を下げた和服の武士が、もう一人は平安の十二単を着込んだ

 妙齢の女性。

 どちらも顔がよく見えない、だが往人は懐かしさを感じていた。

 その人影は往人を見て微笑んだように見えた。

 そしてくるりと背を向けると進みだした。

 「待て…待ってくれ!」

 往人はその背を追いかけようと立ち上がる。

 もう動かないと思った手足が、体が、全力でそれを追いかける。
 
 まるで彼らがその導を与えてくれたかのように。
 
 往人の中に再び立ち上がる気力がわいてきたのだった。

 やがて二人はその歩を止め、往人はその足元に目をやった。

 そこには求めて止まない最愛の女性。

 神尾観鈴が見慣れた姿で横たわっている。

 もう往人に疲れも何も無かった。

 ただ彼女のそばにたどり着きたいその一心でひたすら

 進む。

 そして伸ばした手が彼女を捉えた。

 「観鈴、おい観鈴!」

 必死で呼びかける往人。もう起きないのではないか
 
 そんな疑念に駆られながら、往人は必死で呼びかけた。

 「…往人さん? あれ? 私…」

 観鈴はそんな往人の心配とは裏腹にあっさりとその意識を取り戻す。

 「馬鹿野郎…心配かけやがって…」

 「あはは…ゴメンね往人さん」

 自分に何があったか、それをしっかりわかっている観鈴は

 往人の言葉に素直に謝った。

 そして往人はその腕の中に観鈴を抱きしめた。

 「わ、ゆ、往人さん」

 「無事でよかった」

 ただそれだけが往人の胸を埋め尽くしていた。

 そしてふと二人は上を見上げた。

 翼を持った女性が愛しそうに往人たちを見下ろしている。

 往人はその視線が何かにうすうす感づいたようだ。

 ポケットにいつも忍ばせてきた相棒をその手に取り出す。

 人形。

 共に旅路を歩んできたボロボロのその姿。

 「長いこと待たせたな。だが…お前との旅はどうやらここで終わりらしい」

 人形は往人の力なくともぴくぴくと動き始める。

 旅の終焉。

 それが往人にも人形にもわかったのだろう。

 「さあ! 帰れ! お前のあるべき場所へ!!」

 カッ!

 人形はその言葉を合図に光の粒子となって散らばった。

 そして再びその粒子が集まり一つの形を作り上げる。

 翼を持った、一人の少女へと。

 その少女は観鈴を見てわずかに微笑んだ。

 そして、その翼を羽ばたかせ翼を持つ女性の下へと

 飛び立った。

 そして武士と女性もその後を追う。

 そうして往人達より少し上に4人は集まった。

 彼らは何も言葉を発さない。

 だがそれでいいと往人も観鈴も思う。

 その眼差しが、微笑がどれだけ彼らが待ち望んでいたものかを語っていたから。
                いま
 そして往人はこの瞬間に、過去を現在へと届ける自分の旅は

 ようやく終わりを告げたのだと実感した。

 そして、翼を持つ少女はその翼から二つの羽を往人たちへと向けると、

 四人の姿はいつしか見えなくなっていた。

 「わ、往人さん背中背中!」
 
 「そういうお前こそ!」

 観鈴と往人は互いの背中を指摘しあう。

 無理も無い、二人にはそれぞれ左翼と右翼と呼べる翼があったのだから。

 翼は対となる翼が無ければ決して羽ばたくことは無い。
 
 比翼の鳥。

 仲睦まじい夫婦などを差す故事に基づく言葉だが、今の二人を

 称するならまさしくそれだろう。

 今なら越えられる。

 この世界を。

 そして往人は空の向こうへ、その無限の可能性に羽ばたけることを

 実感していた。
 いま
 現在から未来へと繋げる旅がここから始まることを。

 「…遅れるなよ観鈴」

 「うん! 往人さんもね」

 二人は手を取った。

 そしてそれが自然であるようにその翼をはためかせる。

 そして二人は飛び立った。



















 ――アーマーン最深部

 「くそっ! まぶしくて何も見えない!!」
 
 武はその輝きに向かって叫ぶが意味の無いことだった。

 「あ、光が…」

 純夏がそう言ったとき、急速に光が止んでいく。

 誰もがその目を徐々に広げていくとそこには…。







 「さて…それじゃケリをつけるとするか橘」

 「…ゴメンねお父さん、でも私はもう迷わないから」








 誰もが言葉が無かった。

 そこには先ほどまで対峙していたおぞましい機体はなく、

 輝く虹色の翼、鋭い嘴、天翔ける巨大な鳥。

 例えるなら鳳凰か不死鳥か。

 翼の夢は、今、正しき思いと力によって現世に蘇ったのだ。

 過去の怨念ではなく未来へ羽ばたく希望を力に変えて。

 「これこそが…翼の夢の真の姿」

 「羽ばたく天空皇・神奈。私と往人さんの翼」

 バサッ!

 その翼がひとたび羽ばたくと無数に連なる尾の羽から

 ブーストと表現すればいいのだろうか、それが起動し

 ものすごいスピードを出して橘機の背後に移動した。

 「なっ!?」

 「は…速い…!?」

 ひかりと千鶴はその常識外れの機動力に思わず絶句した。

 「往人さんここは私が!」

 「任せた!」

 観鈴の声に反応して神奈はその上体を起こして翼を広げる。

 「天より起こされる神風を…!」
 
 バサッ!

 翼がひとたび羽ばたくとその翼から無数のレーザーが放たれる。
 
 並みの機体なら蜂の巣になりそうなほどの数である。

 「くっ…これが…これが遺産の真の姿!?」

 ドガガガガガガガガ!

 バリアを張ってガードするが攻撃の質が違いすぎた。

 簡単にバリアを破り、本体に無数のレーザーが突き刺さる。

 「ぐおおおっ!?」

 たまらず橘の翼の夢は後方まで下がる。

 「す、すげえ…」

 武はその威力にただただ感心していた。

 翼の夢は見た目の割りにダメージは軽かったらしく、

 再び体勢を立て直し、
 
 「おのれ…こうなれば…ぐっ!?」

 ズドオオオオオ!!

 そんな翼の夢に強力な圧縮砲が突き刺さった。

 「あははーっ、皆さんお待たせしましたー」

 「ごめんなさい遅くなりました!」

 そこへ現れたのはサラマンダーにアルテミス。

 「倉田さん! 佐伯さん!」

 「おい、俺もいるぞ」

 そして続いて現れたのはR9−11−3。

 「くっ…貴様らがここへ…イサイルは…まさか?」

 「そのまさかさ」

 キュオン!!

 翼の夢の眼前に突然現れる銀色の機体。

 バシュッ!!

 そして鋭い一回転と同時に斬りつけるバーストブレード。

 「あいつは死んだよ。そして火星に巣食う最後の敵はあんただけだ」

 アガートラームがその姿を現した。

 「信哉!」

 「真理奈、終わらせてきたよ…ちゃんとな」

 真理奈の呼びかけに信哉は優しく答えた。

 「よっしゃ! 全員がそろったし何の問題も無いな!」

 「うむ、もはや全力を持って敵を討つのみ!」
 
 武が叫び、冥夜が答える。

 「いくぞぉ! 皆!!」

 そして信哉の号令と取れる合図が、

 「おおっ!!」

 全員を一斉に動かし、いよいよこの戦い最後のフェイズが開始されようとしていた。

                              続く 

  

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