――カノン・バンガード 艦長室 月詠からもらった報告書に目を通し終えた後、秋子は一人思い返していた。 7年前の、そして2年前の事件を。 「まさか祐一さんを拘束するとは…私としたことがうかつでしたね」 秋子は未だ後悔していた。 姉夫婦の大事な一人息子から2年もの月日を奪うことを許してしまったことを。 気づいたときには全てが手遅れだった。 あの日、二人の葬式を上げたあとポツリともらした娘達の一言も 昨日のことのように思い出せる。 『祐一は…どこ?』 二人の写真…姉夫婦の写真を前に秋子は誓った。 皆が皆、戦いに赴くのはこの時勢仕方のないことだ。 だが死ぬのなら年の順番だ。あの子達のような未来の担い手を むざむざ殺させたりはしない。 そう、墓前で誓った誓いを今また繰り返した。 この人は指揮官である前に一人の母親だからだ。 エクシードブレイブス 第5話 カノン・バンガード ――カノン・バンガード ブリッジ 「そうですか。倉田先輩、何から何まですいません」 少年は外部通信で女性と話していた。 先輩、というからには年上らしい。 「いいえー折原さん、気にしないでください。 あの機体の技術は民間では無理ですからー」 なんとも間延びした声が、それでいて人を和やかにさせる雰囲気の伝わる 声が折原浩平の耳に入る。 「もう間もなく到着しますのでその時にお渡ししますねー」 「ええ、倉田先輩達も気をつけて」 そう言って通信は切れた。 浩平はどかっと椅子に座る。 ようやく…自分の敵に立ち向かうだけの力が手に入るかもしれないと思うと 浩平は落ち着かなかった。 現在、カノン・バンガードは定期報告のため月周辺の調査から 地球へと向かっている最中であった。 この艦は連邦所属ということになっているが、形式上のことで 事実上は民間から戦力を集めているアンリミテッドと さして変わらないのである。 折原浩平も平凡な一高校生だったが、1年前の事件をきっかけに ある勢力との戦いを決意し、戦う術を求めていたが連邦の対応に あきれて途方にくれていたところを秋子がこの隊への所属を勧めたのだった。 自らトラブルを抱えているにもかかわらず浩平を迎え入れてくれた この「デュランダル」で浩平は半年でエース並みの実力を身につけた。 その秘密は1年前より覚醒したニュータイプ能力が原因であるらしい。 しかも自分は通常よりも異なったニュータイプであることもわかった。 そのため並みの機体では彼の能力を生かしきれず、同部隊所属の 倉田佐祐理という女性に相談した結果、浩平仕様のガンダムを 都合してくれることになったのだった。 彼女は御剣に負けず劣らずの財閥のお嬢様だ。ところが父親の弟に当たる 叔父が反乱を起こしたのだ。この戦乱を機にもっと倉田財閥を 大きくすべきだと。 それに反対した父親派と叔父派の真っ二つに割れた倉田財閥は それぞれの与する部隊に資金、および開発援助という形で 皮肉にも骨肉の経済的戦争を起こすことになったのである。 それに責任を感じた佐祐理は弟と共にこのデュランダルに参加。 その経緯もあって普段はなかなか都合しにくいガンダムを 浩平は難なく手に入れることになったのだった。 「この間のことといい…倉田先輩には頭あがんねえな…」 今度何かお礼を考えなきゃなーと浩平は思いながらのんびりと 地球への到着を待った。 ――カノン・バンガード 通路 「ほ、本当なの!? 秋子さん!」 「あうっ!?」 「間違いないの!? お母さん!」 話を聞くなり水瀬三人娘は秋子に掴みかかるようにつめよった。 「あらあら三人とも落ち着いて」 全く動じず、秋子は三人娘をなだめていた。 「間違いなく祐一さんよ。お友達と研究所を脱出したそうよ」 三人娘はうなずきあうと手を上げて大喜びした。 「よかった…祐一君無事だったんだ」 少々涙ぐんでいるのはカチューシャがよく似合う少女、月宮あゆ。 カノン・バンガード内、おっちょこちょい担当、 好物はタイヤキ。パイロットとしてではなく秋子の補佐として サブパイロットとして乗り込んでいる。 「べ、別に真琴は祐一が生きてればそれでいいんだし…」 少々意地っ張りな表情を見せているのはツインテールの少女、沢渡真琴。 いたずら好きで2年前に祐一がいなくなる前はよく遊びに来ていた 祐一にちょっかいを出していた。 カノン・バンガード内では現在は見習いのパイロット。 まだ戦闘経験はないが、その天性の才能には光るものがあるとは秋子の談。 「ほら、あゆちゃん泣かないで…」 と、メンバーでもっとも落ち着いて他の二人の姉的存在はロングヘアの少女、水瀬名雪。 前述の通り三人娘の長女的存在で、かなりのねぼすけで一日12時間は寝る。 ミッション遂行中は問題ないのだが、終わると途端に足りない分を補うかのごとく寝る。 イチゴが好物である。 「近々地球に戻るから、祐一さんにはその時会えるわよ」 秋子はそういい残してブリッジに戻った。 「うぐぅ、早く祐一君に会いたいよー」 あゆはその日を思い浮かべながら再会の日を楽しみにしていた。 ――カノン・バンガード ブリッジ 「あれ? 折原君どうしたの?」 リボンで髪をまとめた黒髪の少女。星崎希望が浩平に声をかけた。 彼女はアンリミテッド所属の民間志望兵である。 パイロット適正が高かったため、修理機能搭載のMSメタスで戦場の 援護を担当している。 「いや、倉田先輩と打ち合わせしてたんだ。星崎こそどうしたんだ?」 「私は何か飲み物でももらおうと思って」 そういって飲み物のコーナーへ近づいていく。 「そういえば桜井はどうしてるんだ?」 「うーん、まだ超機神の調整に戸惑ってるみたい。 昨日相良君から通信があった」 相良…というのは前述の桜井の友人であることが伺える。 「そっか。ま、往人の奴と一緒で扱いにくい機体なんだろうな」 「さくっちは、あれで案外努力家だから大丈夫だよ」 さくっちとは彼の愛称らしい。 彼女は明るく器量よし容姿よしで、アンリミテッドのクルーの間では 「プリンセス」などと呼ばれていたらしいが、実際はこのような 気さくな少女なのである。 夢は崩れるためにあるのであろうか? だがそんな彼女の性格がさらにファン達をとりこにしているとは このときの浩平には思うわけもなかった。 二人がそんな雑談をしていたときのことだった。 ビービービー!! 「敵襲!?」 「急ごう! 折原君!」 浩平はすぐさま飛び出した。 希望はコップをその場において浩平の後を追った。 ――カノン・バンガード ブリッジ 「敵タイプ確認。「R・G」の偵察部隊のようです。 あきらかにこちらに攻撃の意思を見せています」 オペレーターの一人が報告する。 「revolution・generation」…世紀の革命。 連邦制を廃止し新たな風を吹き込もうとする武力集団である。 先の倉田氏の叔父派が援助している勢力がこれである。 「少々数が多い上にこちらは、浩平さんに佐祐理さんたちを欠いている…。 名雪、真琴、希望さん…。少々手ごわいですね」 秋子は冷静に戦力を分析している。 そこへ通信が入る。 「こちら深山、深山です。応答願います」 「あら…深山さん? どうしたんですか? 貴女は倉田さんと一緒に地球だったはずじゃ…」 深山雪見…カノン・バンガードのメインパイロットの一人である。 冷静さと戦闘時の的確な状況判断によって幾度となく 部隊の窮地を救ってきた少女である。 「倉田先輩が、先に行ってくださいって。 何かいやな予感がするって言うんで飛ばしてきたら案の定です」 予感というか予知の域に達しているようだとオペレーターの一人は思った。 「それではすぐに合流してください。時間を稼げば 佐祐理さんたちも戻るはずですから」 「了解」 そういって通信は切れた。 「それでは皆さん、できるだけ無茶な戦闘は避けてくださいね。 真琴、あなたは初陣になるけど戦闘時は名雪の言うことをよく聞いてね」 この人にかかってはまるでお使いにでも行かせるように聞こえてしまう。 「うん、わかった。なゆ姉よろしくね」 「任せて。大丈夫だよ、危なくなったら私が助けるから」 名雪と真琴はお互いの合図を確認しあうとブリッジを出た。 「それでは皆さん出撃準備です!」 威勢がいいのか悪いのか微妙な掛け声で秋子の激が飛んだ。 かくして地球を目前にしてカノン・バンガードは一戦こうむることとなった。 続く SSのTOPに戻る