遠く離れてても感じる。

 意思。

 人の意思。

 それは決して一つとして同じ物のない空に浮かぶ星のような物。

 輝きも、大きさも、全てが千差万別。

 だが、彼はそれがもっとも不快だった。

 人の思念、薄汚れた欲望にまみれた黒い波動。

 口先だけの奇麗事や偽善ばかりで、常に薄っぺらい理想だけが

 つきまとう生き物。

 心の奥底でその可能性に惹かれながら、常に失望を味わわせる

 そんな人間が。

 彼は、朝陽は嫌いだった。

 かつて彼と同じ道を歩いていた男が、

 その可能性を示したはずだったのだが。

 それでも彼の心には届かない。












 エクシードブレイブス 第53話

 貴方に希望はありますか?











 ――小島 戦闘領域

 すでに部隊は敵味方に入り乱れ、乱戦となっていた。

 特に、視界を遮る森林や山がない平地の地形ではこうなるのは自明の理だった。

 「うーっ、そうやって距離を取ってれば安全だと思ってるんでしょ!」

 ズギュン!!
 
 真琴は叫びながらビームライフルを撃った。

 撃ち出された光弾は、ドーベンウルフの肩部にヒットした。

 だが、その程度でひるむ装甲ではなく、メガランチャーの砲門を

 真っ直ぐに真琴のF91に向けて発射する。

 「きゃあっ!!」
 
 反射的に回避運動に移る真琴。

 直撃は避けたものの、せっかく詰めた距離がまた離される。

 「あーっもう! これじゃジリ貧よう!」
 
 「真琴、焦っちゃダメだよ」

 後ろから名雪のステイメンが並んだ。

 「固まられたら厄介だったけど、せっかく分散してるんだから。

  私がサポートするから一気に落とすんだよ」

 「…あれね?」

 「うん、あれ」

 真琴はいとも楽しそうに笑みを浮かべて答えた。

 「おっけ! なゆ姉、一発分でいいから隙を作って!」

 「了解だよ〜」

 ドシュン!!

 背中のバーニアを吹かし、ステイメンは華麗に接近する。

 幸い近くにあの一機以外敵がいないことを確認していた名雪は

 右に左にと、蛇行運動でドーベンウルフの固定標的にならないよう

 徐々に近づいていく。

 当然、真琴のF91もそれにならって反対方向から接近する。

 ドーベンウルフのパイロットは当然どちらを相手にするか

 悩んだが、火力の強めの真琴のF91に狙いを定めた。

 メガランチャーの砲門がF91に向けられ発射されるか否やの

 瞬間に!

 ステイメンは素早くビームライフルを構えた。

 そして撃つ。

 ズドン!

 ズギュン!

 ランチャーが発射されたのとほぼ同時にビームライフルが

 砲門を直撃しあさっての方向に照準が向く。

 「チャンス! 真琴に隙を見せたことを後悔しなさい!」

 F91は両脇からのプラグをサーベルに直結して分離した。

 V・S・B・Rを利用したF91必殺の武器、フォックステイルである。

 射程はややハイパービームサーベルなどの高出力サーベルより劣るが

 その分、斬撃力に関してはこちらの方が上である。

 「いっけぇ! フォックステイル!!」

 ビシュオオオオン!!

 ムチのようにしなる軌道を見せながら、それこそ尾のような
 
 サーベルはドーベンウルフの装甲をいともたやすく貫き、

 本体にかなりのダメージを与えたようだ。

 「くっ! 離脱する!!」

 ズドン!!
 
 機体を破棄し、天高く上っていく脱出ポッド。

 「やったぁ! ありがと、なゆ姉」

 「うん頑張ったね真琴。さ、他の人の援護に行くよ〜」

 ステイメンとF91はその場から素早く去っていた。

 後に残るのは壊れたMSの残骸が残るばかりである。




 ――カノン・バンガード ブリッジ

 戦闘の様子をモニターしながら、月宮あゆは考えていた。

 自分は戦闘に参加するのを拒んだ。

 パイロット適正が高くないことを理由にあゆはパイロットになるのを
 
 拒否した。

 だが本当は違うのだ。

 誰かを撃つ事、そして自分がそれを行うのが怖かったのだ。

 自分の内に眠る力が顔を出すのが嫌だった。

 けれど今は、そのことを少し後悔し始めている。

 戦いはますます激化し、みなは熾烈を極めながらも戦っている。

 日々切磋琢磨し、お互いを高めあっている様子を見ていると

 歯がゆく思う自分がいる。

 全く戦う能力が無ければそんなことは無かっただろう、別のことで

 皆を助ければいい、とそう思えたはずだった。

 みさきのようにみんなの話を聞くだけでも助けになれたはずだし、

 雑用を笑顔でこなす青葉のように笑えていたはずだった。

 だがあゆは違う、仲間をある意味騙している。

 それがあゆの心を締め付ける。

 一時の恐怖で戦いから逃れたが、本当にこれでいいのか?

 二人で協力しながら戦い、支えあっているあの二人を見ているだけでいいのか?

 今、あゆの中に何かが芽生え始めていた。

 そして変わるなら今しかない、そう思ったあゆは立ち上がった。

 「秋子さん」

 「なあに? あゆちゃん」

 その目はまるで全てを見透かしているようで。

 あゆは迷うことなく告げた。

 「ボク、行くよ。名雪さんと真琴ちゃんのところに。

  もう逃げることはしないよ、戦うよ」

 秋子はその発言に驚くことなく微笑んだ。
 
 まるで全てわかっていたかのような慈愛の微笑を浮かべて、

 「そう…いつかそう言ってくれる日が来るのを待っていたわ。

  私の大事な娘ですからね」

 ふふ、と頬を手にやって微笑む秋子。
 
 娘、そう言ってくれたことにあゆは素直に喜びを示した。

 「ついていらっしゃい、あなたのために作らせた…

  あの機体をあなたにあげましょう」








 ――小島

 「く、くそ! なんだあの機体は!?」
 
 「ジムなのは顔だけか!? とんだブラフだぜ!!」

 一方、戦場ではR・G側のパイロットに動揺が走っていた。

 メガランチャーでも対艦ミサイルですらも切り払う謎のMS。

 ネロ・オウガを始めて目の当たりにしたパイロット達は

 その非常識ぶりに呆然としていた。

 「どうしたの、この程度で終わり?」

 留美はオウガに露払いでもさせるかのようにサーベルを振った。

 ジムの顔を取り付けたオーバーカスタム機。

 大型の腕や、巨体、そして火力を備えた機体は、
 
 能力のせいで、彼らにはよりいっそう巨大な敵に映ったという。

 「くっそう! これでも喰らえ!!」

 ドーベンウルフはメガランチャーをヤケクソ気味に放った。

 直線状にはサーベルを構えたネロ・オウガ。

 「この程度で…」

 オウガはサーベルを振り上げる。

 そして、

 「やれると思ってんじゃないわよ!!」

 遠慮なく振り下ろし、メガランチャーのエネルギー砲をいともたやすく

 真っ二つに切り裂いていく。

 分かれたエネルギーはそれぞれ左と右に逸れていく。

 「またか! なんて非常識な…」

 パイロットはどうしようもないと言いたげに叫んだ。

 確かに無理も無いが。

 しかし、一向に距離を詰めないドーベンウルフに留美は痺れを切らした。

 「近づかないなら…ここで終わらせるわよ!!」

 ガチャン! ガチャン!

 両手に持っていたサーベルの柄を本体の脇にあるプラグに接続する。

 ヒュオオオォォォ…

 重力エネルギーが収束し、その二連の柄は巨大な砲門と化す。

 「本家には多少劣るけどね…喰らいなさい…

  G・インパクトキャノォォォン!」

 ズゴオオオオオオオ!!

 重力砲が発射されドーベンウルフは逃げることすら無理なまま

 ドンドン威力で装甲を持っていかれる。

 「ぐあああ! ダメだ! 脱出を!」

 「俺もだ!!」
 
 ズドンズドン!!

 何とかコックピットに直撃する前に離脱する二機。

 「さーて、次はどこにいるかな?」
 
 留美はまるでショッピングでもするかのように索敵を始めた。

 彼女に見つかった敵兵は哀れである。






 ――小島 離れた戦場

 ギュオオオ…

 ガキン! キン!

 フラムベルクとクロムビルガーの戦闘は徐々に近接戦闘に

 偏り始めていた。
 
 最初こそ、空中でマシンガンの撃ちあいや、機動力を生かした

 ヒットアンドアウェーの戦闘になっていたのだが、

 お互いの切り札が、どうしてもクラッシャーとステークということもあり

 徐々に近接戦闘で隙をうかがいあうようになっていた。

 「相沢、お前は久瀬の真意をわかっているか?」

 突然北川が通信をよこした。

 戦闘は継続しつつも祐一は回線を開いた。

 「スペースノイドのための地球制圧だろ?

  あいつもお前も元はコロニーの出身だったしな」

 「ふん、やはり表面上しか見てないか。相変わらず単純な奴だぜ」

 その言葉に祐一はカチンと来た。
 
 ならばそれに付き従うお前は何を知っているというのか。

 「だったら何だ? あいつは研究所でも度々アースノイドに対する

  文句を言っていた。それ以外何の目的があるって言うんだ!」

 「だから真意なんだよ、表面上のあいつの行動ではなく

  その行動の裏にあるものを探ってみろ。わからなければ

  それでもいい。お前は所詮その程度だったと俺が思うだけだ」

 「…北川、お前は何を考えている?」

 「さてな、いい男は黙して語らずってな」

 ズガン!

 祐一はツッコミ代わりにステークを思い切り打ち込もうとしたが

 難なくビルガーによって止められた。

 「さて、どうやら部隊はほぼ全滅したようだがデータは取れた。

  俺はそろそろ引き上げさせてもらうぜ」

 「はっ、このまま逃がすと思うのか?」

 ズガン!!

 「何っ!?」

 フラムベルクに実弾が直撃し、祐一は慌てて後方に下げさせた。

 続いて先ほど立っていた場所にエネルギーレーザーが撃ち込まれた。

 「天野、グッジョブ」

 「撤退しますよ北川さん」

 ビルガーはふわりと浮いてファルケンと並んだ。

 その姿は比翼の鳥を思わせる。

 「じゃあな、相沢」

 その言葉はお前にはもう止められないだろう? という意味を含んでいるような

 気がして、祐一は追跡を諦めた。

 「次は無いぞ、北川」

 「そうだな…次は…ないかもな」

 ドシュン!!
 
 妙な一言を残して北川たちは去って行った。

 見ればそれを追うように何機かのMSも飛び立っている。

 回収地点が別にあるのだろう…。

 ピピピ

 「緊急連絡! 正体不明の機動兵器がこの島に接近中!」

 突然オペレーターの緊急連絡がつながった。

 「一機の正体判明…カタストロフィです!」

 その声を聞いた途端、今度は舞人の表情が変わった。

 「朝陽…来たのか」

 「とにかく島の中央に一度全機集結してください。

  個別では確固撃破される恐れがあります」

 続いて秋子の通信が入る。

 各機はそれぞれ島の中央へと向かい始めた。

 そして見上げた空には、見慣れた虫型の機動兵器と、

 それを率いる破滅の黒騎士の姿があった。

                                 続く

  

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