その大群は自然界の脅威。
 
 昆虫を模した飛行式機動兵器の群れとそれを率いる混沌の黒騎士。

 彼は絶望だった。

 あまねく程の長い時を生きて、外より人を見て

 常に期待とそれを上回る失望を味わってきた坂に住む精霊。

 彼が今この時において下した結論は。

 人の消滅。

 地球を再び自然の塊に戻すことだった。

 「…総攻撃開始。手始めに彼らを消す」

 「やってみろ…朝陽。俺は絶対に譲らない」

 ズドオオ!

 白き騎士が空へと舞う。

 虫型の機動兵器はそれを相手にせず地上へと降下していく。

 決着は、彼らがつけねばならない。

 希望と失望。

 同じ人に対して、対照的な感情を抱く

 人と精霊、相反する二つの道を生きるこの二人にこそ

 決断はゆだねられた。












 エクシードブレイブス 第54話

 それは舞い散る桜のように











 ガキィン!

 重厚な金属音と共に黒騎士と白騎士の剣がぶつかり合う。

 それは中世の騎士の決闘さながらの光景で、

 どちらも一歩も譲ることはなかった。

 舞人は吼える。

 「朝陽…考え直せ! 壊したら…壊しちまったら
  
  その先には何もない!」

 「人の歴史は、常に創造と破壊の繰り返しだ。僕が求めるのは

  破壊ではない…根絶だ。この地球から人という生態系を無くす」

 「お前だけでそんな大事…!」

 「…出来るのは知っているだろう? 僕たちの力がどれだけ

  人に影響するか、それをかつて味わった君なら」

 そう、舞人は知っている。

 負けない、そう誓い生きた自分でさえも、

 一度味わって、今度こそと思い生き抜いたたった一つの

 かけがえのない想いでさえも。

 その力の前になんら意味などなかった。
 
 彼が取り戻すことが出来たのは同じ力によって与えられた

 チャンスに助けられてのことだった。

 それくらい彼の力は、重い。

 ガキン!

 一瞬揺らいだ舞人の精神が大きく白騎士の動きに影響する。

 左肩部に剣の斬撃を喰らって大きく揺れるセイクリッド。

 「舞人君!」

 その様子を見ていた希望がその名を呼ぶ。

 「思い上がるなよ、人の子が! 長き時を生きて
  
  貴様らが見せてきたのは耐え難い失望と、反吐を吐くような

  偽善の繰り返しだった! 僕にそんな物を見せ続けて
  
  生きてきたのは貴様らだ、人間!」

 「朝陽…!」

 そう、人は、汚い。

 こうしている間にも、同じ人同士が、争い、傷つけあっている。
 
 舞人はそれを承知しているから何も言わない。

 けれど、
 
 「それだけじゃない…それだけじゃないんだ…!」

 「なに…?」

 「俺は…確かに一人じゃ取り戻せなかった…また繰り返すところだったさ!

  けれど…あいつがくれたのはチャンスだけだ。それを俺は

  モノにしただけだ、希望との絆を信じて!」

 「…それがお前の言う人の可能性、か?」
      きぼう  のぞみ
 「違うな、希望だよ。希望がいる限り、あいつはどこにいても

  俺の中にある希望を見つけてくれるんだ。そのきっかけをくれただけだよ。

  桜香が…それをくれたんだ」

 「そうだよ、約束したんだもの」

 希望が舞人に続けて言葉を紡ぐ。

 それはあの日、何かを取り戻した舞い散る桜の木の下で約束した。

 「私はこの名前を背負っている限り、どんな暗闇の中でも希望を探しあてるよ。

  だから何度でも思いだせるの」

 「…そうさ、忘れたら業務用生ゴミ処理機で殴る、そう言ったんだからな」

 舞人の口調には嬉しさと照れくささが混じったものがあった。

 「人には…必ず表と裏がある、誰もがそうさ。

  だから朝陽…裏しか…汚い一面だけ見たってお前の望むものは

  見れやしない! 眺めるだけのお前には決して届きはしないっ!」

 叫ぶと同時に、セイクリッドが剣を突き出す。

 咄嗟の判断が鈍ったか、その剣はガードを抜けて

 黒騎士の横腹にしっかりと突き刺さった。

 「ぐっ…だから言っただろう…そんな…そんな

  偽善は聞き飽きたと! 人は身勝手な生き物だ!

  自分が傷つくのを恐れ、他者を傷つける!

  それだけに飽き足らずやつらは自分以外のものを全て
 
  征服した気でいるんだ!」

 その時、舞人は後ろの方から何かを見た。

 それは、見たこともないガンダムだった。

 いや、外見上はガンダムだ、それは知っている。
 
 だが、その背には、六枚の翼がついていた。

 「あ…あれは何? 舞人君」

 「俺が知るか、だけど…」

 ズドオオオオオ!

 舞人の返事を待たずにそのガンダムは翼を広げて突進した。

 その驚異的な機動力は他を圧倒するスピード。

 そして何よりその翼の一つ一つが、昆虫兵器を

 次々と撃退していく。

 「ボクだけ…安全な場所にいるのはもう止めだよ!」
 
 「あの声は…」
 
 「月宮…か?」

 希望と舞人が同時に尋ねた。

 全員に開かれた通信から申し訳なさそうなあゆの声が届く。

 「ごめんね、皆。ボク、本当はちゃんとパイロットの適正を持ってたんだ。

  でも…引き金を引けなかったんだ。傷つけるのも傷つくのも怖かった。

  だから秋子さんにお願いしてパイロットからは降ろしてもらってたんだよ」

 その悲痛な独白に誰も口を挟まない。

 誰もが戦場に出る恐ろしさ、怖さを知っている。
  
 自分達は強制してここに立たされているのではない。

 それを知っているから誰もそれを責めることはない。

 「けど、みんなを見てて思ったんだ。ボクだけ逃げてちゃいけない、って。

  だから…改めてお願いするよ。ボクも…一緒に戦っていいかな?

  皆と並んで…戦っていいかな?」

 一瞬の間、そして、

 「今更…なんだよなー」

 最初に答えたのは祐一で。

 「そうね、最初から答えは決まっているのに」

 続いて雪見が。

 「結構一緒にいるのにねー」

 そして希望が。

 「もう一緒に戦っているだろ? そんな気づかいはいらないんだ、月宮。

  俺たちはもうとっくに一緒に戦っている仲間なんだから」

 最後に浩平がそう締めくくる。

 あゆはぽかんと口を開けていたが、

 「うぐ…皆ありがとう…ありがとう」

 心からその言葉を呟いた。

 「さ、真琴、あゆちゃんをサポートするよ」

 「おっけー、あゆあゆ、背中は守ってあげるから遠慮しないで行きなさい!」

 「あゆあゆじゃないのに…もう…。でも、わかったよ!」
 
 ズドオオオオ!

 そうして新たな絆を抱えた水瀬三姉妹のガンダムが散開する。

 初めてとは思えないほどの連携で、次々と

 昆虫が落とされていく。

 「聞いたろ、朝陽? これはさ、俺たちだけの馴れ合いってやつかもしれなけどな。

  けど、人には確かにこういう一面がある。不確かな目にも見えない

  けれど見えるよりも確かな絆って奴を信じて歩いていける。

  それは強さだよ」

 「だが……だが! それでも僕は認めない!」

 黒騎士は再びその巨大な剣を構えなおした。

 精霊力が、見る見るその剣に集まっていくのが舞人にも感じられた。
 
 「そんな不確かな答えよりも、僕は確実な答えを選ぶ!!」

 「このわからずやがぁっ!」

 盾を捨て、白騎士もまた剣を両手に持った。

 舞人の中にわずかに残る精霊力。

 それは人として生きるために捨てたかつての力。

 わずかに残っていたからこそこの機体は答えた。
 
 それを今ここで使い切ることは早計なのかもしれない。

 (悩むくらいなら、やってから悩む!)

 勢いだけで生きる桜井舞人らしい答え。

 高々と剣を掲げた黒騎士と、腰構えに両手で剣を引いた白騎士が

 同じ高さにかぶさる。

 ほんの一時、時が止まったかのように錯覚した。

 だが、それもわずかのこと。

 「ああああああっ!」

 最初に仕掛けたのは黒騎士のほうだった。
 
 「頼む…白騎士!」

 そして、光に包まれた真っ白い剣が、

 「奥義! 天桜舞っ!!」

 ズゴアアアアア!

 ガキィン!!

 両者の剣が交錯した時、

 その場は光に包まれた。

 「舞人君!!」
 
 その衝撃と輝きの中で舞人が意識を失いかけたとき、
 
 希望の呼び声だけが、聞こえたような気がしていた。









 ――????

 「何故君は…坂を下りた?」





 「さあな」





 「一度…味わった苦悩をもう一度味わう気になったのは何故だ」





 「途中まで忘れていた」





 「人として生きて…何を得た?」





 「絆」





 「それは…長き時をあそこで生きるよりも幸せか?」





 「痛みもある、悲しみもある、けれど…それを上回る喜びがある」





 「…僕には理解できないな」





 「そうだろう。下りなきゃ見えないものばかりだからな」





 「僕は下りる気はない」





 「好きにしろよ。けれど見ているだけなら何も変わりはしない」





 「変わるのか? 人は」





 「永遠じゃないからな、人は。限りがあるから絶えず変わる」





 「……」





 「俺は帰るぞ」





 「好きにしたまえ。僕も…もう帰るとするよ」





 「こんなゲームはもうごめんだからな」





 「そうだな、やはりゲームは企画するより楽しませてもらった方がいい」





 「ふん…お前好みの愉快なゲームは中々ないと思うがな」





 「人は千差万別だ」





 「言ってろ、じゃあな」










 「一つ、詫び代わりに土産を持っていくといい」












 ――小島 上空

 光が徐々に収束していく。

 皆、固唾を呑むようにその光景を見守っている。

 虫型の兵器はいつの間にか姿を消していた。

 誰もが決してその空から目を離さない。

 その時、光が突然はじけたように粒子を散らばせた。

 それはまるで




 舞い散る桜の花びらのように





 か細く、そして綺麗だった。






 そして浮かび上がるシルエットは






 白と黒、二色のカラーに身を包む超機神の姿だった。

 盾を構え、より神々しい刀身を持った破壊と守護、その二つを兼ね備えた

 創造の騎士。

 「ただいま」

 舞人は短く答えた。

 正直、何をどうこういうのも面倒だった。

 そんな舞人の性格を知る希望は

 「お帰り、舞人君」

 そう、迎えたのだった。

 遠く離れた日本の桜の木のある坂に、

 その瞬間、輝きが下りた事は誰も知らなかった。


                               続く

  

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