――極東支部 朝陽との激戦の末、勝利を収めたデュランダルチームは 続いた戦いの疲れと疲労を癒すため、また修理と補給のために 極東支部へと帰還した。 現在の経緯を直接、長官である珠瀬に報告する都合もあったためでもあるが。 特に妨害もなく、帰還したカノン・バンガードを始め多くの機体は ほとんどがドックに収容され、整備班は大忙しである。 スクランブル要員を数名基地に残し、半日休暇をクルーに告げた後 秋子は長官の執務室を訪れた。 「失礼いたします」 ノックと同時に秋子はそう言った。 「おお、水瀬君か。入ってくれたまえ」 ドアを静かに開け、中に入った秋子は敬礼をして 「デュランダル、ただいま帰還いたしました」 「まあ、そう堅苦しい挨拶は抜きにしてくれたまえ。 ただでさえ、連邦本部の連中と顔をつき合わせているのだから」 そう言って苦笑いをした長官を見て、秋子は敬礼を解いて くすっと微笑んだ。 「それが長官のお仕事ですよ」 「全く難儀な物だ。それでは報告を聞こう…と言いたいところだが 一つ残念なニュースがある」 「何でしょうか…? まさかアンリミテッドのメンバーに何か…」 「うむ…実は…。火星でのバフラムとの戦いの最中、 川澄舞君が戦死したそうだ」 訃報とはいつも突然やってくる。 望みもしないものばかりが、いつも勝手にやってくる。 ただの一兵に過ぎない、それは戦いに赴くことのない 傍観者たる上の人間の言い分である。 彼ら同士からすれば、それは大きい犠牲であり悲しむべきことである。 それが軍人らしくなかろうとも関係なかった。 ここに集まっている誰もがそんな理屈で戦っているわけではなかったのだから。 だから、秋子は何も言わずただ頭を垂れて、命を散らせた 自分の娘と年の変わらぬ少女に黙祷をささげた。 エクシードブレイブス 第55話 未だ先の見えないその道 ――ドック 浩平は、街に下りる前に機体の様子を見に来ていた。 もっともそれは建前で、姿の見えない茜を探しにきただけなのだが。 きょろきょろと辺りを見回してみると、見慣れない機体の前に 茜と詩子が並んで立っている。 「よう、茜とそのおまけ」 「むっ、折原君そのぞんざいな扱いは何?」 「俺なりに敬意を払ったつもりだが」 「どこが敬意なのよ。どうせ茜を探してたんでしょ? せっかくの半日休暇だもんねー」 うしし、と嫌な笑いを浮かべる詩子に少しムキになって反論しかけて 浩平は自分をなだめて、茜に話しかけることでスルーした。 「で、茜? こんなところで何を?」 「…詩子が乗るという機体を見ていました」 「ふーん…ってこれ?」 浩平は側にある機体を見上げた。サイズは浩平の知る限りでは ゲシュペンストと同型ぐらい。頭のデザインが同タイプのことから 同型機であることは想像に難くない。 ただ、同型機の割に武装が貧弱で装甲もゲシュペンストほど厚くない。 右手に中型サイズの実弾系ライフルを搭載、左手にはジェットステークを 改良したらしき武装があるが、見た目の貧弱さは変わらない。 下手をすればビームライフル一発で落とされそうな雰囲気がある。 「おい柚木、いくらなんでもこいつで戦うのはきつくないか?」 「ああ、見かけのこと? そりゃそうよこれゲシュペンストシリーズの ATT計画の試作機だもの」 「ATT計画? 何だそりゃ?」 「PTの元祖であり、まだまだ開発、改良の余地を残すゲシュペンストを 様々なコンセプトで作り変えて新しいPTを生み出す計画のうちの一つよ」 どうやら開発の裏ではそのような計画が進行していたらしい。 「で、そのATTってのは?」 「ALMIGHTY・TRANSFORM・TROOPERの頭文字を取ってATT。 いかなる戦況にも対応できる万能型のPTってわけ」 「…それで万能というのは?」 ちっちっちと指を鳴らす真似をして詩子は答えた。 「慌てない慌てない。これはね基本形なの。武装や装甲が貧弱なのは 当然よ。これは換装パーツによって変化するタイプだから」 「なるほど、変形、換装なしでどんな状況にもってのは限界があるし 無駄がある。だが換装なら必要な時に必要な能力を最大限に 発揮できる、そういうことだな?」 「折原君〜? 言葉で言うのは簡単だけどね、ここまで形にするの 大変だったんだよ?」 うっとりと眺めるようにそのPTを見上げる詩子。 「ちなみにこの子、グラムナートって言うの」 「この子…」 ダメだ、この詩子の浸透ぶりにはついて行けない。そう思った浩平は そろそろ話題を切り替えようとした。 「茜、そろそろ街に出ないか?」 「…いいですよ」 静かに控えめながら、嬉しそうに笑顔を浮かべた茜は浩平に連れられて その場を離れた。 気づかずに語り続ける詩子を置いて。 ――街 繁華街 浩平は茜と共に街に下り、久しぶりに戦いのない空気を二人で満喫していた。 ここにいる誰もが今の平和を感じ、当たり前のように日常を過ごしている。 気がつけば、戦いが日常になったのはいつからだっただろうか…。 そんな事を考えていた浩平の前に、 「よう、折原」 「あ、折原君に里村さん」 舞人と希望の二人が現れた。 二人もどうやら浩平たちと同じく久しぶりの休日デートと言った感じのようだ。 「よっ、二人もデートか」 「ふっ、折原。これをただのデートと思うなよ」 「ほう、どうただじゃないんだ?」 「いや全額俺持ちなんだ」 「…べたべたの上に情けないオチだな。何だよ、また浮気でもしたのか」 「貴様ッ! 言うに事欠いてジェントル桜井になんて事を! 生まれてこの方レディファーストを信条とする俺が浮気? ははっ、おかしくて涙が出そうだ、おーい母さんお茶くれ、お茶〜」 「で、大げさなオーバーリアクションは置いておいて何をやった?」 「寝坊して三十分遅刻しました」 「どこまで情けないんだお前は…」 虚勢を張り続けた男の真実はなんとも間抜けな話だった。 だがそれでも、希望は遠慮しているらしく手に持っているのは クレープ一つで、他に荷物は見当たらない。 希望の度量に感謝するべきだな、と浩平は思った。 「しかし、このクレープ買ったはいいが今ひとつなんだよな。 少し甘さが足りない」 「そうだね、もうちょっとチョコが欲しいかな」 「俺のなんか蜂蜜きゅうりなのに甘さが足りないぞ」 浩平は舞人の聞き慣れない発言を少し疑問に思った。 「蜂蜜きゅうり?」 「ああ、メロンの味がするぞ」 「…普通にメロンを頼めよ」 どうしてこの男は平常時になるとこうもボケるのか。 いやそれは他人事じゃないか。住井が絡んでくると自分もこんなものだろうと 浩平は反省した。 「…それなら私のお薦めのワッフルを食べに行きませんか?」 「え?」 笑顔の引きつった浩平など露知らず、舞人との希望は 「お、いいな口直しにワッフルも悪くない」 「ねえねえ、里村さん私も食べたい!」 「…それじゃ行きましょうか、浩平」 「こ、ここで俺に振るのか…」 もはや逃げ場なし、と悟った浩平は大人しく茜の後をついていく。 この二十分後、おいしいおいしいと会話を楽しむ希望と茜をよそに いかにこの練乳がけ蜂蜜ワッフルを食いきるかに頭を悩ませる 二人の男が顔をあわせて苦悩する姿があったという。 ――執務室 「では火星側は優勢に傾いているのですね?」 「ああ、今頃バフラムに総攻撃を仕掛けているだろう。 この一戦に全てがかかっている」 「しかし地上側はあまり…」 「うむ…特に連邦のお偉いさん方がな。火星にアンリミテッドを派遣した件で 私をちくちくいたぶる物でな」 「まあ、上から見たら現在そこらのコロニーよりもよっぽど力を持つ 火星に対してまた負い目を作れるチャンスでしたからね」 「彼らはすでに独立を果たした後だ。何でも地球中心でないと気がすまない 老人の集まりには敵わんよ」 そう言って、珠瀬はふうっとため息をついた。 「まあその辺は御剣の総帥さんのほうが根回ししてくれているからな。 問題は、ここ最近の不可思議な動きだ」 「どういうことでしょう?」 「…東京都における人間の人口がこの数週間で10%ほど減っている」 「は? それは一体…」 「つまりだ、人口調査における人数が10%ほど急激に減ったということだ。 そして何よりおかしいのが、行方不明、死亡届、そう言った類の物が 存在しないことだ。そうまるで急激に跡形もなく消えうせたかのようにね」 「それは…異常ではないでしょうか?」 「そうだ、コンピューターによる調査ではなんら異常は見られなかった。 だが戸籍、住民票、そういった資料を含め、実際に東京都の人口を 観測した結果そういう数字が出ている以上、原因を追究せねばならん」 「誰にも気づかれずにそう言ったデータを消した上で、人をさらう 勢力がある、と?」 珠瀬は何も答えない。答えるべきことがないのかそれとも…。 「今の段階では何も言えん。何しろ誰もが消えた人物について騒いでおらんし 何より誰が消えたのかも探しようがないのだから」 「それは…そうですが」 それではお手上げ状態である。住民のうち誰かが申し出れば 何かの手がかりになるかもしれないが、現状では 『人工が10%近く減った』 ということが人が消えたということを表す唯一の証拠だからである。 (一体何が起こっているというのでしょう…) 秋子はこの正体不明の事実に、薄ら寒い物を感じずにはいられなかった。 ――???? 「これで…何とかなるかもしれない」 その女性は最後になるであろう積荷を搬入し終えると その輸送機、タウゼントフェスラーを隠し壁の向こう側に移動させると 壁を下ろす操作をした。 「まだ…あの子達は気がついていない。これがあの子達を助ける 鍵になるといいのだけれど」 ガガガガガ… 壁が下りその姿がドンドン隠されていく。 ゴゴン…。 重厚な音と共に、輸送機は完全に壁の向こうへと消えた。 格納庫に余分なスペースがあることを不審に思われるかもしれないが そもそも、この場所自体がまともな場所ではない。 彼女はそう踏んでここを下積みの場所へと選んだのだ。 素早くそこから離れ、女性は何事もなかったかのように 廊下を歩いていく。白衣を纏い、凛としたその表情は美人という 表現以外的確ではない。 オレンジの髪をストレートに下ろし、胸にかけられたネームプレートには 「沢渡主任!」 「何かしら?」 「例の機体の出力がやはり予定より出ていないんです。 検査をお願いします」 「わかったわ、先に行ってて頂戴」 「はい!」 バタバタと研究員の男性が来た道を引き返していく。 それを見守る彼女のネームプレートには 『沢渡 マコト』 そう刻まれていた。 続く
後書き 局長 「今回初登場の機体「グラムナート」は」 純夏 「琉餡さんのアイデアを採用しました」 希望 「ありがとうございます〜」 SSのTOPに戻る