――極東支部 「最終防衛ライン突破されました! 応答ありません!」 悲鳴に近い報告が支部に届く。 前線はすでに襲撃者達によって壊滅状態に追い込まれていた。 「くそっ…速い!」 ジムUに乗ったパイロットがマシンガンを撃ち続けているが 周囲を旋回しながらファンネルをばら撒く黒いキュベレイにはかすりもしない。 ジムの旋回速度が、キュベレイのそれに追いついていないのだ。 挟み撃ちをするように援護射撃を行う味方がいるものの、 キュベレイは意にも介さずひらりひらりと避けていく。 「…その程度か。やはり連邦軍の主力はあくまでデュランダルだけということね」 チッ そのパイロットは呆れたように呟くと手元のトリガーを引いた。 バシュシュシュ! キュベレイの両肩のパーツが開き、そこから無数のファンネルが射出された。 「行けっ! ファンネル!」 空から地上にいる部隊に向けて死を宣告する無数のビットが ジム部隊に襲い掛かる。 ズガア! ズガアア! 放たれるビーム、破壊される機体、轟音にかき消される悲鳴。 「ダメだ…逃げ…うああああ!」 「な…化け物…」 ゴガアアアアアア! こうして最後まで善戦した極東支部の部隊はもろくも全滅した。 「全機、このまま基地を攻撃! 但し深追いはするな、 無理だと思ったらすぐに引け!」 後方援護射撃を担うドーベンウルフの部隊が前進を始め、 黒いキュベレイを筆頭に、量産型のキュベレイの一個部隊がそれに続く。 地上部隊の先頭はレイ・ドーガの部隊が中心である。 すでに彼らの進路にあるのは、極東支部のみ。 (さて…彼らを相手にどこまでごまかしが利くかしらね…) 黒いキュベレイを狩る指揮官、美坂香里は あくまで慎重に戦局を予想するのだった。 エクシードブレイブス 第58話 再会、そして決別 「もう! 北西の方に出払ってる時に!」 休暇組だった留美はいち早くネロで出撃していた。 彼女に続くように休暇組で基地に戻ってきていた者達は こちらのほうの迎撃に出撃している。 「七瀬さん! 他の人たちはすぐ戻れるって、 通信が入ったよ!」 瑞佳が留美に通信を送る。 「どうやら片付いてはいるのね。おっけー! それくらいの 時間なら稼いであげるわよ!」 果敢にネロはレイ・ドーガの部隊のよりにもよって中心に向かって 移動する。 「どおりゃぁぁぁぁ!」 乙女らしさ0の掛け声と共に、ネロの巨大なビームサーベルが振り下ろされ、 レイ・ドーガの部隊は散り散りになる。 ズドオオオオ!! 避け切れなかった何機かがもろくもつぶされる。 「うわあああ!」 「ひるむな! 敵はたかがジムもどき一機だ! 撃て! 撃て!!」 キュオン! キュオン! 体勢を立て直した数機が掛け声と共に一斉にビームライフルを撃つ。 「そんなものぉ!」 キンキンキン! まるで弾を打ち返すかのようにサーベルを振るうと ビームはかき消された。 ネロの前に、生半可な攻撃は無効である。 さらにネロは両手のサーベルを連結させ、薙刀のごとく振り回す! 敵地の中心でこんな大立ち回りをやられた日には敵も 混乱しないわけがない。 「ひいいいい!」 「くそこっちに来るな! ぎゃああ!」 後方部隊も、連携の取れない前線の動きに二の足を踏んでいる。 この作戦とも呼べない、玉砕そのものの留美の特攻は 思わぬ形で成果を上げた。 すでに半数のパイロットが離脱を始めている。 「これが乙女の力よ!」 断言しよう、乙女は全く関係ない。 むしろ乙女とは対極に位置する力が働いたといっても過言ではない。 「あ、あははは…」 その様子を上から見ていた瑞佳は乾いた笑いを上げるしかできなかった。 「でもこんな無茶がいつまでも続くとは思えないし…もうー 浩平でも里村さんでもいいから早く誰か帰ってきてよー」 瑞佳の心配はもっともだった。 ところがそんな叫びが通じたかどうなのかわからないが、 「すまん、遅れた!」 「ごめんね、急いだんだけどー」 舞人のダンバリバーに希望のメタスが戦線に現れた。 「よっしゃあ七瀬! どいてろ、俺が華麗に一発決めてやる!」 「任せたわよ桜井!」 そういうとダンバリバーは背中から巨大なランスを取り出した。 「我が槍より来たれ破壊の雷! デストラクションスパーク!!」 バチバチバチ…。 掲げたランス全体に黒い雷が収束し、やがてランス自体が 電撃の槍そのものへと変わる。 「そうら…よっと!」 舞人の掛け声と同時にダンバリバーの手から槍が敵部隊の 中心に向かって投げられる。 それを見た留美は慌てて、 「へ? ちょ、ちょっと待ちなさいよ! この馬鹿!!」 ブーストをフル回転させて敵部隊の塊をその巨体で押しのけるようにして 緊急離脱した。 哀れ吹っ飛ばされた機体は起き上がるのもままならないまま、 ズゴアアアアアアアア!! 黒い雷が槍を中心に吹き荒れて、並み居る機体を薙ぎ払うように荒れ狂う。 その一閃、一閃が恐怖の対象であるかのごとく 一機、また一機と機体は破壊されていく。 一方、その威力を何とか射程範囲から逃れたところから眺める留美は、 「こんの大馬鹿桜井! アンタ、あたしごと殺す気!?」 「あー、いやその…」 まさか勢いで放ったらあれほど威力があった、とは口が裂けても言えない 舞人だった。 何はともあれ、留美と舞人の活躍で大分数の減ったR・G軍だが、 以前、その戦意は衰えずキュベレイの部隊が地上部隊を支援するように先行してきた。 ダンバリバーが近接戦に持ち込もうとするも、機動性が段違いで、 結局防衛のみになってしまう。 (だーっ! これじゃ反撃も出来ねえよ!) そう焦っていた時、 ギュオオオオ! ズガガガガガ!! ビームの連射と、一瞬空を横切る影。 そこには六枚の翼を下げたガンダムがその勇姿を見せていた。 「うぐぅ、やっと出撃できたよ〜」 地上にはステイメンや、F91の姿も見える。 どうやらようやく水瀬三姉妹が出撃したらしい。 「全く! なゆ姉ったらこんな時に限って起きないんだから!」 「うー、だから謝ったのにー」 どうやら名雪を起こすのに手間取ったらしい。 一度寝てしまうと起きるのが困難な名雪らしい。 しかし、今は昼間なのだが昼寝でもしていたのだろうか? 「おー、来たな羽ガンダム」 「うぐぅ、桜井君、その呼び方はやめて」 「そうか? とてもトレンディで今風だぞ」 「ボク、別にトレンディでなくてもいいもん…」 どうでもいい会話をしているところに、 「おっまたせー! ごめんねーポテトが見つからなくてー」 「すいません遅れました…」 「ぴこぴこー」 お騒がせトリオの狩るデストロイヤーに 「全く休暇くらいゆっくり取らせてくれよな…」 ぶつぶつ文句を言いながら、祐一のフラムベルクも合流した。 「皆さん! 北西の部隊合流まで基地に敵を通さないで! いいですね!?」 秋子の号令が、全機に伝わる。 「ようは防衛戦ってことね!」 「一歩だって通しませんよ!」 留美と栞が気合を入れて叫ぶ。 「そう…それじゃあたしが相手でも大丈夫ね、栞」 その声はまるで問いかけるというより、どこからか 怨念のような暗い雰囲気だけが印象に残る声だった。 「え…?」 どうして? 栞が最初に思ったのはそれだけだった。 どうして? 栞の頭を埋め尽くす単語もそれだけだった。 「しおりん? どうしたの?」 佳乃が心配そうに声をかけるが、栞はガクガクと震えるように だが、確かめるようにこう呟いた。 「…おねえ…ちゃん?」 「そうよ、栞。あなたの姉の美坂香里よ」 その声はオープンの回線だったため、戦闘をしつつも 他のメンバーにも聞こえた。 「ちょ…! 何の冗談よ!」 「やっぱり本当に栞の姉は…!?」 事情を知るもの、知らぬもので感想は分かれたが 動揺しないものはいなかった。 「どうしてですかっ! どうしてお姉ちゃんは…!」 やっと我を取り戻した栞は悲痛な声で叫んだ。 半ば予想していたことでは在ったが、やはり突きつけられた現実は あまりに痛かった。 「栞…貴方は覚えていないでしょうけど、あたしたちは元々コロニーの方で 育った。父も母もコロニーの労働者だった。両親は重要な資源の発掘される 可能性のある炭鉱の発掘作業に従事していた」 香里は栞の問いに答える気なのかそれともただの語りなのか わからないことを話し出した。 「けれど、あの事件…CE32事件のせいで両親は…そして栞は…」 「CE32事件…!」 秋子はその単語に表情をしかめた。 「そちらの指揮官さんはご存知のようね。炭鉱で起きた事故、 救助活動にいち早く動いた連邦、しかし彼らの目的は 視察で来ていた各企業の上層部の救出を優先し、救えた筈の 炭鉱労働者たちを見殺しにしたのよ!!」 作業用の発掘機に乗っていた作業員と視察団体を乗せた大型機 が生き埋めになった事件。 表向きは連邦軍の速やかな対処によって、被害が抑えられたかのように 報じられたが、コロニー関係者はこの事件の裏にある 連邦軍が労働者たちを見捨てたという事実を知っていた。 「しかし、この事件にはまだ裏があるのよ。発掘していた炭鉱は 実は未発見のウィルスの生息が確認されて、それが漏れる前に 炭鉱労働者もろとも連邦軍が落盤に見せかけて埋めたっていうね!」 「…水瀬艦長…本当ですか…?」 すがるように秋子に通信を送った栞。 だが現実は、 「事実です…。当時、私は連邦の内部の情報を探っていましたから」 「そ、そんな…」 「そして炭鉱労働者の家族に感染したウィルスについては連邦は一切何も 処置をしなかった! 結局栞を救えたのはつい最近、ずっとそのウィルスの 治療法を研究していた医者だけだったのよ!」 「……」 「……」 誰もが口を挟めなかった。 もっとも戦いの手を休めたわけではないが。 連邦に与している自分たちを真っ向から否定しているかのような 香里の檄は、少なからず迷いを彼らに抱かせた。 だがそれを打ち砕く一声がそこに響いた。 「けど、だからって地球全部を否定されるわけには行かないな」 ヒュオオオン! 一閃、それはライフルの一撃。 「地球にもいい奴も悪い奴もいる。連邦が悪い、それは間違いないが だからいっせいに粛清しようなんてのはちょいと無茶が過ぎるんじゃない?」 グラビトンライフルを構えたヒュッケバインが一機。 いち早く基地に戻ったのは住井だった。 「俺たちは、何も悪者を擁護しようって訳じゃない。 皆そこら辺にある守りたいものを抱えているだけさ。 それこそ手の届くような範囲くらいだけな。 何が正しくて何が悪いかって? そんなもん一人一人が決めればいい」 そう言って再びまたトリガーを引いた。 それは香里にとっては難なく避けられた。 「だからアンタは好きなようにすればいい。俺たちはそれを全力で止めるだけだ。 俺たちの言い分はそれで十分通るだろ?」 「…そう、そうね。地球に住んでる貴方たちにはあたしたちの見たものは 見えはしないでしょうね」 「そうだな、外に出てみないとわからんな」 「わかる必要なんてないし、わかりっこないわ!」 「じゃあ、自分の理由やら連邦がどうとか語るなよ。 わかりっこない相手にご高説賜る必要なんてないだろ?」 「…!」 「それとも妹には自分のやってることを知って欲しかった、か?」 「黙りなさい!」 ズババババ! 香里の激昂とともにファンネルが射出され一斉にヒュッケバインに 向かっていく。 「これくらいなら…っ!」 ズバババババ! 絡みつくファンネルを何とか避けようと縦横無尽に駆け回る。 グラビティウォールも駆使し、何とか最小限に被害を抑えた。 「くっ…!」 「こんなこと悟りたくはなかった、けど裏の情報かきあつめてっと 見えて来るんだよ、色んな物が…だけど」 ガチャ ヒュッケバインはGインパクトの武装を取り出し構えていた。 「それを理由に、全てを否定するなんて…あっちゃいけねえ。 あっちゃいけねえんだよ!!」 ギョオオオオ…。 重力エネルギーが収束し、後はトリガーを引くだけになる。 「うああああっ!」 だが、そのトリガーを引く前に、 住井のヒュッケバインが大破した。 「…たった一つのファンネルは見逃したようね」 「ちっ…エネルギーを集めるタイミングを狙ってやがったか…!」 砲身に集まったエネルギーをファンネルの一撃で暴走させる。 それによって砲身のエネルギーは行き場をなくし結果 ヒュッケバインを大破させた。 浮力も失い、地上へと落ちていくヒュッケバイン。 「住井!」 「大丈夫です、コックピット内までは衝撃は到達していません! すぐに彼を収納して!」 秋子の号令によるヒュッケバインの救助作業が行われ始めた。 当然、地上の部隊はそれを援護しつつ戦うことになる。 だがそれ以前に、姉に何のためらいもないことを知った 栞の方が震えていた。 (撃てる…? お姉ちゃんを…この手で?) 自信なさげにトリガーを見る栞。 佳乃はただそれを黙って見つめるしかなかった…。 続く SSのTOPに戻る