――大西洋沖 無人島 そう、そこは無人島のはずであり地図にも載っている程度の 小さな島だった。 表向きは。 悟られぬよう水面下で動いていたこの計画は全て久瀬の思うままに 完成していた。 「総帥、全ての準備が整いました」 そこは施設の一室、窓はなくわずかに机と明かりが存在するだけの 簡素な司令室。 「わかった、すでに極東支部との戦闘から一時間以上が経過している。 ロストサンクチュアリ 浮上させろ、『堕ちた聖域』をな」 「了解!」 報告に来た部下は敬礼を一つして部屋を去った。 館内放送が始まり、にわかに施設は騒がしくなる。 (さて…どう動く? デュランダルそして相沢君…?) 久瀬の笑みは挑戦者を待つその表情だった。 それは計画の完璧さゆえの余裕か、それとも何かを期待するのか 判断はつかない。 ただ一つ言えることは、これが地上での激戦での幕開けの 火種になるそれだけだった。 そして基地内にただ一人、出番を待つかのように息を潜める 男がいたということも。 全ては終幕へと向かって動き始めていた。 エクシードブレイブス 第59話 姉と妹 香里の黒いキュベレイは完全にデストロイヤーだけを的に絞ったようだ。 地上で回収されているヒュッケバインには目もくれず デストロイヤーに向かっている。 「しおりん! しっかりして!」 「わ…私は…私は…!」 ここに来て突然向けられた問いに答える間もないまま ただ栞はぶるぶると震えているだけだった。 覚悟は出来ていた、いざとなれば戦うことも辞さないことも。 だが目の前に明らかな殺気をぶつける姉を前にして その勇気は急速に失せていった。 これは人として正常な反応だろう。事情を理解していても 肉親に武器を平然と向けるのはそうそう出来ることではない。 恨みでもあれば別だろうが、栞にはそんなものはない。 「棒立ちよ! 戦場でそんなことしてて生き残れると思って!?」 キュベレイは両手からビームガンを放つ。 移動しながら放ち、デストロイヤーを釘付けにしつつ 徐々に間合いを詰めるかと思ったがそうではない。 キュベレイはそのままデストロイヤーの間合いギリギリ外を滑空で 滑りぬけ背後に回った。 そしてまたビームガンを放つ。 縦横無尽に止まらない攻撃を仕掛ける気なのだ。 攻撃力ではデストロイヤーの方が格段に上だ。 間合いに入った場合一撃で落とされることもありうる。 だが機動力ではキュベレイに分がある、相手の間合いの外から攻撃し 相手に反撃の機会を与えない戦い。 それがMSでのスーパーロボットに対する戦術といえる。 どんなに強力でも当たらなければいいのだから。 「きゃあっ!」 「ぴこー!」 断続的に襲い掛かる衝撃にたまらず佳乃とポテトは悲鳴を上げた。 栞もその声は聞こえているがどうしてもレバーが動かない。 (どうして…どうして動かないんですかっ!) 恐れていた。 栞もこの機体の力を知っている。 並々ならぬ攻撃力でもしも姉の命を奪ったら? 栞は彼女を止めたいだけで殺したいわけではない。 今までも進んでコックピットを狙ったりしたことはなかった。 これは戦争だ、それは重々理解しているし命を奪ったことに対する 言い訳も皆決して口にはしない。 だが、相手が姉であることを知りそれでも同じように戦えるか その自信は全くなかった。 無意識下の恐怖。 姉を他ならぬ自分の手で死なせてしまうかもという恐怖。 そして姉に殺されてしまうかもしれないという死への恐怖。 どちらも彼女の望みではない。 自身が戦場に立った理由ではない。 そんなことのためにこの戦いを勝ち抜いてきたわけじゃない! 自問自答が激しく栞の心を揺さぶった。 「しおりん…怖い?」 何とか機体の制御をしつつ佳乃はぽつりと尋ねた。 「怖い…ですね。お姉ちゃんじゃなくて…」 「お姉さんを死なせるのが怖いんだね」 栞は隠し立てすることもなく頷いた。 「このままじゃろくに話も聞けないままお姉ちゃんがいなくなってしまいそうで… それをするのが自分だと思ったら怖いんです」 「うーん、じゃあ私がやろうか?」 「え?」 「デストロイヤーの攻撃じゃ無理だと思うけど…しおりん、 エクスカリバーは…戦闘機だよ?」 非常事態のときほど頭が冴える、というタイプがいるが 佳乃はまさしくそれだった。 「大丈夫だよぉ、エクスカリバーの攻撃なら間違いなくあの キュベレイを止められるから。しおりん、信じてくれるかな?」 そう、やるのは栞だ。エクスカリバー単体でキュベレイに攻撃を当てることは 不可能。 どうしたって栞の手助けがいるのだ。 それは佳乃を信じなければ出来ない。 だがそれは攻撃を佳乃に任せるということに他ならない。 「いえ、それだったら佳乃さんがあのキュベレイの動きを止めてください。 その後、私が…やります」 「いいの?」 「はい、土壇場で逃げてしまうところでした。それじゃお姉ちゃんに 怒られてしまいます」 にこっと栞は笑って答えた。 そこに迷いはなかった。 佳乃も大丈夫だろうと思ったのか何も言わずに 「ポテト! 緊急分離するから私から離れちゃだめだよぉ!」 「ぴこー!」 「行きますよー! 絶対に失敗したりなんかしませんからね!」 「「「おー!(ぴこー!)」」」 三位一体、いや一匹が混じっているのでこの表現はどうかと思うが 息を整えた三人の乗るデストロイヤー・マスタリングは キュベレイとの間合いを詰めるべく突如動き出した。 「ようやく戦う気になったようね…」 香里はその動きを見てもそれだけを口にしただけだった。 動揺してばかりの栞とは裏腹に、香里は妹に銃を向けることに 何のためらいもない。 「さあ来なさい! どれだけやれるのか見せてもらおうじゃないの!」 まるで試してやると言わんばかりに香里はキュベレイの速度を上げた。 空戦対応とはいえ、MSに機動力で真っ向勝負を挑む馬鹿はいない。 まして佳乃と栞が立てた作戦は一度きりだ。 そのタイミングは必ず来る。 遠くからのビーム攻撃をシールドで防ぎつつ 二人はそのタイミングを待った。 やがて攻撃が当たらないので場所を変えるべく デストロイヤーの横を回りこもうと猛スピードで突進する キュベレイが接近した。 (今だ…!) 二人は同時にそう思った。 そこへ割り込むようにデストロイヤーの右手のエクスカリバーが 緊急離脱する。 パーツの着脱はすでに完了済みだったので 後は射出するだけだったのだ。 「なっ!?」 そう、香里は合体するところを見ていなかったため 二体合体のスーパーロボットであることを知らなかった。 突如目の前をふさぐように現れた戦闘機に動揺し 咄嗟に移動方向を変えるべくレバーを反対方向に倒した。 急速にスピードが失われたがまだ、減速が足りない。 そう思った佳乃は、エクスカリバーのビームガンでけん制した。 逃げる方向にさらに射撃を行われ、さらに減速して急上昇をした キュベレイ。 そこはすでにデストロイヤーの射程内。 外しはしない。但し、キュベレイを破壊させずに戦闘不能にするには 「荒っぽいけどこれが確実ですっ!」 「やらせはしないっ!」 ビームガンでけん制するも盾を持つデストロイヤーには無意味。 だがファンネルを射出するには時間がなかった。 コックピットの位置は完全に把握した。 ならば後は出来ることといえば 「てぇぇぇぇぃっ!」 ガキン! 何とシールドでキュベレイを完全に押さえ込むと そのままデストロイヤーは急降下を始めた。 「な…栞! 何する気…!?」 「馬鹿なお姉ちゃんには…」 栞の目の先には一つしか見えてない。 「少し頭を冷やしてもらいますっ!」 そう、極東支部の近くにあった海。 何の抵抗も出来ずにデストロイヤーとキュベレイは海へと 飛び込んだ。 ドッバアアアアアン! 派手な水しぶきに大きな波を立てて。 幸い、避難勧告が出ていたため沿岸部に被害は出なかった。 キュベレイの武装はビーム兵器オンリーである。 水の中ではキュベレイに対抗する手段はない。 「お姉ちゃん…」 「はあ…すっかり毒気が抜かれたわよ。何これ? これがロボット同士の戦い?」 呆れたように香里が呟いた。 「けど…残念だけどもう遅いわね」 「え?」 「あたしはただの時間稼ぎだから。今頃地上の部隊は引き上げているはずよ」 「時間…稼ぎ?」 「そう、もうどうにもなるもんじゃないわ。地球は…完全に滅ぶ」 押さえつけられたままの香里は自重するように呟いた。 ――太平洋沖 無人島 久瀬の一声と共に無人島は変貌した。 島の表にあった自然は完全に姿を消し、 そこに現れたのは要塞とも呼べる巨大なアンテナを中心にした 施設である。 長い間島をカモフラージュにし、隠し続けてきた久瀬の いや、R・Gの最終作戦を実行するための施設。 すでに施設内のコントロールルームは数々の技術者が 施設の起動に全力を注いでいる。 「コンヴィクト・メテオ発動までの時間はどれくらいになる?」 その施設の上部に現れた巨大なモニターには久瀬が映っていた。 「プロジェクト発動までおよそ六時間はかかると思われます」 「わかった、では連邦にR・Gの名で宣告しろ。 その間に逃げるも戦うも自由だとな…」 「かしこまりました!」 それを最後に通信は切れた。 そして施設はまた慌しくなる。 地球崩壊の秒読みは今ここから始まってしまった。 ――極東支部 香里達の部隊との戦闘から三十分後。 住井は怪我一つ追う事はなくミーティングルームの片隅にて 「俺は不死身だ! はぁーはっはっは!」 などと先ほどのシリアスぶりは一体何処へやらという感じだった。 古株の浩平や茜と言った面々はあきれ果てた顔をしている。 そこへ秋子が入ってきた。 かなり深刻な状況なのは顔を見るだけで全員がわかった。 「先ほど捕らえた栞さんのお姉さんからの話とあわせて とんでもない報告が届きました」 「何ですか?」 手元のファイルを目に秋子はこう告げた。 「今より五時間後、地球は流星雨によって崩壊する。 これは愚かな地球人への断罪である、と」 「な…?」 誰もが言葉に詰まった。そして秋子はそばにあったモニターの電源を入れた。 「すでに何千何万の単位で小隕石が地球への移動を始めています。 これによってすでに連邦は完全にマヒ状態に陥っていますね」 「そりゃそうでしょう、上からじゃ宇宙に逃げるしかないもんな」 住井がのん気に答えるが、ことはそれだけではない。 助かったとしても地球は隕石によって巻き上げられた土砂により 完全に太陽の差さない死の星と化す。 元に戻るまでにどれほどの期間を費やすのか想像もつかない。 「R・Gはご丁寧にご自分達の施設の位置まで教えてくれまして 先走った上層部が鎮圧部隊を差し向けましたが先ほど全滅したようです」 「どうして上の人間はこう状況を把握できないのよ…!」 イライラしながら雪見は呟いた。 「どうやらその施設は地球に隕石を誘導するだけでなく、防御機構も 兼ね備えているようで、こちらから攻めるのは容易ではありません」 「落とせる物なら落としてみなってか…自信家の久瀬らしいやり方だ。 それに隕石を落とすってのは昔にもあったらしいけど、 宇宙から落とすんじゃなくて地球から呼び寄せるってのも 逆転の発想だな。しかも小粒を全域と来たもんだ。 一個一個対処できるはずもない…ってか」 祐一は悔しそうに久瀬の発想を語った。 祐一の言うとおり、施設が防御機構を持っているのなら 隕石で彼らも死ぬことはありえない。 まさに抜け目のない作戦だ。しかも時間がないと来ている。 「さて、ここまで話して皆さんに質問します。 もう諦める、という方はいらっしゃいますか?」 「秋子艦長?」 誰もが疑問のまなざしを向けた。 「今ならまだ逃げる手段はあります。幸いすでに緊急避難用シャトルが 準備されていますからコロニーへ逃げるという選択はあります」 「私はまだ諦めませんので作戦を立案します。 しかし、それに皆さんを巻き込むことは出来ません。 ですからご自分の意思で決めてください」 秋子はやんわりとしかし強い口調でそう言った。 それは秋子の作戦とやらがいかに覚悟のいるものかを示していた。 だが、誰もがそこから動こうとはしなかった。 皆、戦う覚悟は当に出来ているのだ。 そもそもそんな諦めのいい人物ばかりならこんなとこに いないだろう。 秋子はふっと目を閉じて笑った。 「どうやら愚問だったようですね。ではこれより R・Gとの最終作戦を発表します。その前に ある人物を紹介します」 そう言うと同時にミーティングルームの扉が開いた。 そこから入ってきたのは小柄な少女。 「初めまして皆さん、元R・Gの天野美汐と申します」 その挨拶だけでもその場にいた全員がひっくり返りそうになったのだった。 知ってか知らずか、天野はのんびりと頭を下げたのである。 続く SSのTOPに戻る