美汐は持っていた手紙の内容を告げた。 その内容とは以下の通りである。 R・Gの陣取る施設『堕ちた聖域』についての記述がまず一点。 施設内には強固な障壁発生装置が存在すること。 これは外敵の侵入というよりも流星による被害をなくすためのシェルターと思われる。 そして施設中央にある巨大なタワーアンテナこそ、地球へ流星を降らせるための 要らしい。 原理は不明だが、要はあのそのアンテナから隕石を誘導するための 力が働かされているらしい。引力や斥力といった物理的干渉ではなく 念動力、T−LINKシステムを応用した物であるらしく 目に見えない念動ウェーブによって擬似的に隕石の軌道を修正し 地球へのルートを取るように働きかけるらしい。 アンテナを破壊すれば隕石は通常のルートに戻るが、時間が遅い場合 地球の引力に引っ張られる位置まで隕石が到達してしまう恐れがある。 そうなると施設の破壊はなんら意味を成さない。 施設存在時より、隕石の降下場所は不安定になるだろうが 数を考えれば結果的に少なくとも生物は絶滅するだろう。 あまりに壮大すぎる計画にメンバーはかなりのショックを受けていた。 「さてここからが本題です」 秋子はこれを元に立案した作戦を発表した。 エクシードブレイブス 第60話 堕ちた聖域 「この情報をもたらした北川さんという方がどうやら施設内の障壁装置を 破壊するという旨がこの手紙に書かれていました」 「…らしくない方法とりやがってあいつ…」 祐一は毒づいた。元々北川にしてはおとなしく久瀬に付き従っているのは おかしいとはうすうす思っていたがこうなると やはり少し腹が立つ。 北川ではなく、自分にだ。 「破壊を行うのは施設起動後より二時間後。つまり後一時間後には 北川さんは単機戦闘を行うことになります」 美汐は頷いた。 「よって私たちに時間はありません。そこで、比較的被害の少ない機体で 空戦可能な機体は先発隊として出てもらいます。 メンバーは雪見さん、あゆちゃん、祐一さん、美汐さん、そして星崎さん」 「秋子さん悪い、俺はその先発の中でも先に出て構わないかな?」 「…どうしてですか?」 「北川に借りを返さないと、いけないんですよ」 「……仕方がありませんね。美汐さん、貴方も一緒に行ってください。 確かに北川さんの実力はもう何度か目にしてますが今回は事情が事情です」 「…ありがとうございます」 美汐は深々と頭を下げた。 「それでは各員速やかに準備を! 破損の激しい機体は移動中に整備します!」 「了解!」 ――太平洋上空 「相沢さん…でしたか?」 「ああ、何だミッシー?」 フラムベルクとクロムファルケンは並んで海洋上を飛んでいる。 かなりの高速で飛ばしているが、目的の地点まで 後十分はかかるだろう。 「…すみませんその呼び方は止めていただけますか?」 「そうか…可愛いと思ったんだが」 「そんな酷なことはないでしょう」 可愛いといわれて何故酷なのか理解に苦しみながら 祐一は話を進めた。 「天野は随分と北川に信頼されてるんだな」 「…いいえ、私があの人に勝手についていただけです。 R・Gに身を置きながら、何故あんな考えが出来るのか 不思議だったから…」 「お前も何か不満があるのか、連邦に」 「私もスペースノイドですから。それなりに」 けれど香里のような明確な恨みや憎しみといったものは 感じなかった。 「多かれ少なかれスペースノイドは決して地球連邦にいい反応は持っていません。 そして近年における連邦の半ば労働力扱いにはほとほと困り果てていました」 「確かにあいつらはコロニーを植民地扱いだからなあ」 「ですから、この現状を変えられればと。私はそう思って志願しました」 「北川に会ったのはいつごろ?」 美汐は少し考える仕草をした。 「このファルケンをもらった時ですね。そしたら お前が相棒か? って」 「あいつらしいな、で?」 ふう、とため息が混じる。 どうやらあまりいい話ではないらしい。 「あの人はアバウトを通り越して大雑把過ぎました。 ミッションの作戦も滅茶苦茶、時間は守らない そのくせ実力だけはR・Gで一、二を争うっていうんですから手が追えません」 「苦労してそうだなその性格じゃ」 「振り回されっぱなしでした。ですけど…本当に地球と宇宙の事を 考えていたのはあの人だと気づいたのも最近です」 そうだろうな、と祐一は思った。 でなければこんなスタンドプレイはしないだろう。 そもそもあの二年前の脱出劇ですら、久瀬を監視するためだったかもしれない。 (いや、あいつは常々久瀬と話をしていたからな…) もしも本当にそれで地球も宇宙も変われると確信したならば 北川はずっと敵対したのではないだろうか? 久瀬の行いでは無理だと思った今、こうして美汐を逃がし、 自ら獅子身中の虫と化したのではないか? 祐一がそう思ったとき、北川の台詞をふっと思い出した。 『次は…ないかもな』 あの台詞はそういう意味だったのかもしれない。 次に敵対することはもうない…と。 「相沢さん見えました。あれです」 美汐の声に祐一は外部モニターを見た。 確かに巨大なタワーを囲むように島全体が要塞と思えるような 施設が目の前に広がっていた。 よく目を凝らせばすでに戦闘が始まっているらしい。 「あの馬鹿…」 「言ったでしょう、北川さんは時間を守らないと。 もっとも何か理由があって早めざるを得なかったのかもしれませんが」 どちらにせよ祐一達が先行したのは幸と出たわけだ。 「行くぞ天野!」 「了解しました」 ――堕ちた聖域 上空 「ちっ…障壁は破壊できたものの…!」 クロムビルガーは四方をすでに敵に囲まれ追い込まれていた。 地上からも銃口が向けられ、空戦用MSキュベレイに周りを取り囲まれ 要塞に取り付けられている砲台すらも全てがクロムビルガーを狙っていた。 「残念だよ北川君、君でも僕の理想は理解できなかったか」 「悪くはない、悪くはないがな。俺としてはスペースノイドだけのための 理想じゃいずれ同じことの繰り返しだと思うんだよ」 「ほう?」 「この方法で全てのアースノイドが死ぬと思うか? この苦しみ、悲しさを全てうらみに変えて生き残るのが絶対に出てくる。 そうなったら次は同じようなことがコロニーに向けられて起きるだろうさ」 「……」 「お前のことだからおそらく生き残ろうとするアースノイドを全て 殺す方法まで考えていそうだがな」 「だとすれば問題はないのではないかな?」 北川は戦いながらも久瀬の言葉を聞き逃さない。 「何百年立っても行き着いたところが地球人の粛清じゃ 何も変わらねえ。根元を根絶するよりも今を変えることの方が 大事だと俺は思う」 「腐った苗は、一度取り払わないとどうにもならない」 「だが、やり直すことは出来る。また新しい苗を植えることでな。 お前は取り払った根を二度と目が出ないようにするだけだ」 「そうかもしれないな…」 「俺はそんな方法でこの世界がよくなれるとは思えない。 時間がかかっても一人一人が周りの世界を変えていくべきだ。 誰か一人が全ての業を背負う…。そんな方法じゃ何一つ変わらんねえ!」 北川は吼える。 その間もビルガーのクラッシャーはキュベレイを砕き、マシンガンが ドーベンウルフを撃ち、コールドメタルソードが砲身を切り払う。 孤独な戦いを続けながら、北川は久瀬に向かって吼える。 「仕方ない、残念だが君には一足先に逝ってもらうとしよう。 さらばだ、生涯最後の友よ」 「久瀬ぇぇぇぇぇ!!」 一斉に砲門がビルガーに向いた。 どうやら全ての砲門に人が配置されたらしい。 四方八方を囲まれ同時に攻撃されればビルガーといえど逃げ場はない。 北川はちらりと時計を見た。 まだデュランダル到着の時間にはならない。 (さすがに時間を遅らせられなかったからな…まあいい 障壁は破壊した。あれはすぐに直せるもんじゃない…後は) そう北川が覚悟を決めた時、 「北川さん、ドライブを全開に!」 「…!」 突然飛び込んだ通信、そして聞きなれた合図。 迷うことなく北川はドライブのスイッチを最大に上げた。 ビルガーの背中のウィングパーツの出力が上がり、 ビルガーは高速飛行モードにシフトチェンジした。 「飛べ! ビルガー!」 ビルガーは全速力で目の前の砲門へと飛び込んだ。 それにより完全にタイミングを狂わされたため、 全く反撃できずに砲身は砕け散った。 そしてその後ろからキュベレイがファンネルを射出したが、 「アインス!」 ガキン! Uターンによってクラッシャーでキュベレイを捕まえるビルガー。 「ツヴァイ!」 ガガガガガガガガ! そこへ飛び込んできたファルケンがオクスタンランチャーを至近距離で 乱発する。 「ドライ!」 クラッシャーで思い切りキュベレイを放り投げる。 体勢の整わないキュベレイに、ビルガーとファルケンが高速で向かっていく。 これこそクロムビルガーとファルケンのコンビネーション攻撃。 「「ツインバード・ストライクッ!!」」 ズギャアアアア! クロスした二機が交差する一閃を生む。 不意に背後から襲い掛かったキュベレイは一撃の下撃墜されて 地上へと堕ちていく。 そこでようやく北川は、 「早いな…天野」 「北川さんは時間を守りませんから」 しれっとした態度で美汐は告げた。 そしてその後ろのほうにいる紅い機体に通信をつなぐ。 「お前らしくないやり方だったな北川」 「ああ、自覚してるよ。やっぱり策を弄するのは俺にはあわねえ」 「その割には二度も本気で仕掛けてきやがって…」 「まあ結果オーライってな。で。お仲間はいつごろ?」 「先発隊があと少し、本体はその数十分後かな」 「上等上等、それじゃせっかく拾った命だ。もう少し粘るとするか!」 そうして三機はそれぞれに背中合わせに構えた。 いかに増援があるといえどもここは敵の本拠地。 まして相手が久瀬となればまだ策が残っているかもしれない。 三人はお互いをカバーできる位置で空中戦を開始した。 ――連邦本部 会議室 「R・Gは全面的に降伏を認めていません。要求もありません」 「くっ…極東支部のあの部隊が負ければ我々は死ぬしかないということか…」 この場合においてもまだ自身の保身を考えている連中に珠瀬は ほとほと呆れていた。 「すみませんが、私は少し席を外させていただいてよろしいですかな?」 「構わん好きにしろ! 連中に必ず勝つように伝えるんだな!」 侮蔑の混じった罵声を浴びながらも珠瀬は会議室を出た。 正直な話あそこに残るのがたまらなく苦痛だったのだ。 しかしそれは彼にとっては幸いだったかもしれない。 何故なら、 「何心配する必要はありはせんよ」 一人の老人が口を開いた。 連邦の議員の中では古株の老人だ。 「どういうことだ、アグマイヤ」 「こういうことじゃ」 ダダダダダ! キュオンキュオン! 一斉に室内に浴びせられる銃弾、うめき声や悲鳴に混じって 聞こえる銃声。 「な…に…」 「やれやれ、お前さんらがもう少し穏便な話をしとれば 珠瀬の奴も逃げなかったろうがな…」 やれやれとアグマイヤと呼ばれた老人は首を振った。 髪はそれほどもなく、ただ目だけが異常なまでに 貪欲に光る、欲望に彩られた光をたたえていた。 足腰も手足も壮健そのもので老人と呼ぶには少しはばかられたかもしれない。 「まあいいわい、連邦のゴミを一掃するにはタイミングがよかったからのう」 「キサマは…一体」 まだ息の合った議員の前にアグマイヤは歩いていく。 そして見下すような視線を向けて、 「冥土の土産に教えてやろう。ワシの名はアグマイヤ・フォン。 アザゼルの創始者じゃよ。研究の第一人者でもあるがのう」 「馬鹿な…何故…」 「グリゴリの代表者ということで貴様らが懐に迎え入れたんじゃろうが。 おかげで連邦内部を調べるのはほんに楽だったわい」 「く…」 そこで議員は息を引き取った。 「アグマイヤ様」 そこへマシンガンに特殊スーツを着た兵士の一人がやってきた。 「申し訳ありません、珠瀬はどうやら騒ぎを聞きつけ逃亡した模様です」 「ふん、まあよいわ。してR・Gの方はどうした?」 「久瀬が動き出したようです。すでに交戦状態に入っています」 「そうかそうか、全てはワシの思うがままに進んでおるな。 『器』の起動は?」 「98パーセントまで調整終わりました。そしてアグマイヤ様の 機体も調整が済みました」 「ご苦労、ではそろそろ動くとするか。この星がそして 宇宙を支配するのは堕ちた神一人でいい事を、愚民どもに 教えてやるためにな…」 死臭と血の匂いが漂い、割れた破片や死体の散らばる会議室で 一人の老人の笑い声だけがひどく不愉快にこだましていた…。 続く SSのTOPに戻る