――堕ちた聖域 内部 住井は少し拍子抜けしていた。 仮にも敵基地の内部、しかもどちらが勝つか負けるかという 命運を分ける戦いだというのに、この内部のがら空き具合はどうだろう? 先ほどから警戒しているが、コントロールセンターに近づいても 人が増える気配もない。むしろ減っている気さえしている。 (罠か…?) 最初にその可能性も考えたが、敵を懐に入れる罠をかける理由が 住井には思い当たらなかった。 そもそも、そんな面倒くさいことをするくらいなら最初から 入れなければいい。 色々な考えが頭を巡ったが、目的の部屋が見えてきた以上 住井は考えるのをやめた。 (今は俺たちにしか出来ないことをやるだけだ) エクシードブレイブス 第62話 奇跡なんてない ――堕ちた聖域 コントロールセンター 「誰もいない…か」 予想通りだったとはいえ、ここまでガラガラだとさすがに 何かあるのではないかと疑いたくなる。 とりあえず敵はいないようなので、住井はハンドガンを下ろして 懐にしまった。 中央には隕石群の動きをトレースしている擬似モニターがセットされ 部屋の周りは画面とコンソールで埋まっている。 「とにかく調べるか」 住井はコンソールを叩いた。 「七瀬、念のため入り口を見張っててくれ。誰か来たら知らせてくれ」 「わかったわ」 言われたとおり、留美は入り口のシャッター前の画像をモニターで 映すようにセットした。 無論、敵が来た場合すぐ動けるように自身はドアのすぐ傍にいる。 住井はカタカタと必死でコンソールを叩き、次から次へと情報を引き出していく。 (急がねえと…!) 潜入に時間がかからなかったとはいえ、そもそもこの作戦は時間がない。 急げるだけ急いでも問題はない。 焦りつつも確実に住井は画面に必要な情報を呼び出していくのだった。 ――堕ちた聖域 「これでえーと二十…忘れた」 一方祐一たちは味方の援軍の到着により多少敵がばらけたものの、 以前敵地の中央で四方八方を敵に囲まれていた。 今、祐一が呟きかけた数字は撃墜数である。 正確には二十五。 「やれやれ予想以上に敵の壁が厚いな。これじゃお仲間が来るのに もう少し時間がかかりそうじゃないか?」 「そうだな、久瀬の奴もいい仕事するよ。敵ながら」 「北川さん、相沢さん、のん気にお話もいいですが 私はそろそろ弾薬に限界が来てるんですが」 美汐の機体クロムファルケンは遠距離主体の援護系の機体だ。 さすがに長期戦ともなると弾薬もそろそろ底をつく。 「ふうむ、一旦何とか母艦までの道を切り開かないといけないな、相沢」 「簡単に言ってくれるぜ…よっと!」 会話中に乗り込んできたキュベレイを軽くいなしてブレードで一撃。 「ぐあああ!」 ドガアアア! エネルギーの節約のための必要最低限の行動。 とはいえそれでごまかすのもそろそろ限界のようだ。 「うちのメカニックは優秀だ。十分もあればフルチャージしてくれるはず」 「成る程、そうなると話は決まりだな」 「では私はお二人の後について行きますね」 祐一と北川はフラムベルクとクロムファルケンを並べると、 「死にたくない奴は…」 「そこをどきやがれっ!!」 ゴオオオオオオ!! 祐一はバーニングダイバー形態で特攻し、クロムビルガーは ビクティムビークで突撃する。 二機の勢いはいきなりのことに戸惑い、動きの固まったMS部隊を まるで蜂の子を蹴散らすように吹っ飛ばす。 「わあああああ!?」 「な、なんだこいつら…ぎゃあああ!」 ドガアアア! ズゴオオオオ! まるで二本の流星のごとく、二人は敵陣を切り開き 地上で善戦していた部隊の正面に到着した。 「よっ! 皆のおかげで何とか離脱できたぜ」 「相沢くん…無茶するね」 さすがの詩子でも呆れるような特攻に、祐一は 「いや、やっぱ思い切りが大事だろ」 などとふざけて返してみた。 「とりあえず俺たちは一旦補給に戻る。何とか中央までの道を…」 「維持しとけってんだろ。任せろ、この桜井舞人様にな!」 そう言って舞人は先陣を切って敵地に飛び込んでいく。 後を追うように希望のメタスが追っていく。 「ま、心配しなくても大丈夫だよ。それより早いとこ行って来て。 時間は…あまりないよ」 「ああ」 祐一は返事をするとカノン・バンガードへとさらに飛び立った。 母艦の方ではすでに受け入れの態勢が整っている。 それぞれ順番に三機を格納するとコックピットを開けて 三人は一旦外に出る。 「五分だ! 五分で終わらせろ!」 山彦の掛け声で必死の形相の作業員がそれぞれの持ち場につく。 祐一たちは近くの椅子にとりあえず座って少しでも 休息を取ることにした。 「北川…後何時間だ?」 「…二時間。厳しいな」 祐一はちっと舌打ちをした。 「隕石群じゃなければなあ…宇宙に出て直接防ぐことも出来るんだけど」 「過去にそれで二度阻止されているからな。質より量ってわけだ」 祐一は下を見たまま考えた。 そしてあることを思い出した。 「北川…お前は何で久瀬に…R・Gについた?」 「ん? ああそういえば話してなかったな。久瀬の監視だよ。 もしかしたら正しい方向で地球を救えるかもしれない。 けれど道を間違えるかもしれない…俺と一緒に脱出した奴は 本当にどっちに転ぶかわからないような状態だったんだ。 だから俺は様子を見ることにした」 「その結論が…ここにいることか」 「ああ、久瀬はいろんな方法を模索したが結局のところ たどり着いたのは過去の人間が考えた「地球から人を抹殺する」ことだったんだ」 「…そうか」 「あいつ自身、嫌気が差していたのかもしれない。 宇宙の人を軽んじ、我が物顔で地球をむさぼるこの星の人間が」 「……」 「けれど、過去の人間はそれが正しいと証明できなかった、だから阻止された。 俺は違う方法で解決してみたかった、たとえそれが今すぐに現れなくても いつか答えが出るような、そんな方法で」 「俺たちは生きているから、な」 「…マコトさんがよく言ってたな、その台詞」 「たとえ私たちが死んでもその思いを継ぐものが生きている。 それが私たちが生きているってこと」 祐一はそこで言葉を切った。 笑顔でそう言い、研究所時代に唯一つの支えをくれた人を懐かしんで。 「だから君達も生きて何かを残しなさい。それを感じ取ってくれる人がいれば 君達は確かにそこで生きているから」 「…昔なら笑い飛ばしそうな台詞だが、あの人に言われちまうとな…」 北川は照れたように頭をかいた。 「…終わらせちゃダメだ。たとえどんなに時間がかかっても… 俺たち自身の過ちは俺たち自身が償わないといけない。 壊して…それでまた最初から何て許されていいもんじゃない」 「地球は粘土や積み木じゃない…ましてただの資源の塊でもない、か。 贅沢な奴だよお前は」 「何言ってる、お前だってそう思ってるくせに」 「俺は…」 北川は言葉に詰まった、そしてふと隣の美汐を見た。 「天野…どうかしたのか?」 「え? いえ…気のせいですね」 それは何かの予感だったのだろうか? 美汐は一瞬北川の向こうにいるはずの祐一が消えたような気がした。 だが、一瞬の瞬きの後祐一は確かにそこいたのである。 (気のせい…ですよね) それは例えようのない妙な不安。 だから、そんな不安を紛らわせたくて美汐は北川と言葉を重ねる。 「北川さん、私は正直な話どちらがよかったのか まだわからないんですよ」 「そうか…ま、そうだろうな」 「けれど、全てを壊してやり直すより、たとえ時間がかかっても 今あるものをよりよいものに変えていこうとする考え方のほうが 私は好きです」 「そっか」 北川は少し嬉しそうに頷いた。 やがてそんな三人の前に山彦が現れる。 「終わったぞ! 後はお前ら次第だからな任せたぜ!」 「ああ! 絶対に勝って見せるさ!」 祐一達は走り出した。 友の待つ戦場へと再び向かうために。 そうして走り出した時、美汐の中の得体の知れない不安はもう消えていた。 ――堕ちた聖域 コントロールセンター 「何だと…!?」 住井は驚愕の表情をした。 そこには自分達にとって絶望的な数字がはじき出されたからだ。 「解除に要する時間が…五時間!? そんな馬鹿な…!」 そんな住井を嘲笑うようにモニターの一つにある男の顔が映った。 「やあデュランダルの潜入者さん、楽しんでもらえているかな? R・Gの統括を担っている久瀬だ。さすがに名前は知っているかな?」 「お前が久瀬か…!」 住井はモニターに映った自分と年の変わらぬ少年の顔をにらみつけた。 「さて、出迎えの者も用意しなかった理由にそろそろ気づいたかな?」 「…出迎える必要がないからだ。どう頑張ってもここからアンテナへの 供給を立つためのプロセスの実行には五時間以上がかかる」 「その通り、そして供給源は当然のことながら地下にある。 そう…アンテナの真下に。外部から供給を立つことは不可能」 ダン! 悔しそうに椅子を蹴りつけた住井をさらに久瀬は追い討ちをかける。 「アンテナの周囲を覆う障壁を消すにはどうすればいいか? 考えるまでもない内部からの消去という結論には誰だって行き着く。 ならばその内部に解除する方法がなければよい」 ふふふ、と久瀬は含み笑いをした。 勝利者の特権たる余裕の笑みである。 「どのみち最初から君たちには勝ち目のない戦いだったということだ。 残念ながらね…」 そういい残しモニターは消えた。 「住井…」 留美が声をかけるがそれは決して住井には届かなかった。 「くそっ…畜生! 畜生ぉぉぉぉ!!」 コントロールセンターに無情な叫びが響き渡った。 崩壊まで、後二時間…。 続く SSのTOPに戻る