――堕ちた聖域 司令室 久瀬は窓から空を見上げた。 そこから降り注ぐであろう星に想いを馳せて。 穢れきった大地に、自らが鉄槌を下すその瞬間を。 「機は熟した、出るか」 久瀬は司令室の入り口を開けようとしてふと思いとどまった。 そして一度振り返ると誰もいない司令室に向かって敬礼をした。 それが何を意味するのかは久瀬しか知らない。 殆ど人気のなくなった基地内に自分の足音だけが響く。 コツコツ… そして格納庫のドアを開けて、長い廊下を歩き愛機の前で 立ち止まる。 「後世の歴史家に笑われようとも構わない。 僕は最後まで自らの意思を貫くつもりだ。 それが所詮過去の繰り返しだとしても…」 自らに言い聞かせるように、久瀬は呟いた。 そしてコックピットの中に入る。 真紅の機体、この機体が意味するは虚像の過去。 ミノフスキードライブ搭載によって空戦に対応しているものの、 その外観は殆ど変わらない。 サザビー。 かつてこの機体を駆った者の行った行為、そして末路。 全てが久瀬を道化と笑う気がした。 「…道化であろうと構わん。 サザビー、出るぞ!」 カタパルトは無機質に動き出し、開いたハッチは サザビーを戦場へと誘っていく…。 エクシードブレイブス 第63話 今再び、メビウスの輪を越えて ――カノン・バンガード カタパルト 「発進準備よし! ハッチ開けろ!」 ゴゴゴゴ… すでに祐一達の乗り込んだ機体を送り出すために カノン・バンガードのハッチが開く。 「相沢祐一、フラムベルク出るぞ!」 「北川潤、出るっ!」 「天野美汐…出ます」 ズドン! ズドオ! ズドン! 祐一達は補給を終え、再び戦場へと向かう。 上空から見るに進軍は順調のようで地上には殆どの敵部隊が 存在していない。 「戦線はすでに敵基地の中央か」 祐一の呟きに北川が答える。 「まあ、アンテナがある限り優勢なのはあちらさんだけどな」 「全くですね」 ため息をつくように美汐が答える。 やがて、激しい戦闘が目視でも確認できるほどになる。 「よし! 俺は敵の固まっている場所を目指す!」 「それじゃ俺と天野は遊撃に回るか」 「了解です」 そこで三機は散開した。 キュベレイ二機とファンネルの撃ち合いをしているE・ガンダムを見つけた 祐一はフラムベルクを右側のキュベレイに横付ける。 「なっ! 貴様!?」 「もう少し周囲に気を配るんだったな!」 ズギャア! バガン! 連続でブレードを二連。 縦斬りと横斬りの組み合わせでキュベレイは体勢を崩した。 そこへ左手のマシンガンを至近距離から叩き込む。 ズガガガガガガガガ! 「うっ、うわあああああ!」 キュベレイのパイロットは悲鳴を上げながら落ちていく。 一対一になった瞬間、浩平は分散していたファンネルを 一機に集中する。 「く、くそぉっ!」 捨て台詞を残してもう一機のキュベレイも落ちていく。 「折原大丈夫か?」 「ああ、まだまだ行ける。それよりも気づいたか?」 「何がだ?」 浩平は少し間を置いて答えた。 「あいつら…脱出装置を使った後、また別のMSに乗って出撃してるぜ。 明らかに同じ奴が乗っているとわかるMSを何度も落としたからな」 「そこまで必死なのか…この作戦に」 「そうかもな、互いに譲れない物か。 人は二つの腕を持ちながら、決して二つの物を手に入れることは出来ない。 一つの物を両手で抱えるしかない…か」 「悩むのは、終わってからにしようぜ、折原」 「そうか、そうだな」 二人は再びその空域を離れた。 それはまるで答えを先送りにしているように。 ――堕ちた聖域 別戦闘空域 「なゆ姉! 九時の方向から敵!」 「大丈夫! 任せて!」 ズギュオオ! 真琴の声と同時にステイメンは振り返りビームライフルの一撃を放つ。 そこへ舞人のダンバリバーが到着する。 「よーっと水瀬! 沢渡! 援護に来たぜ!」 「あ、桜井君〜」 「遅いわよ! さっさと真琴たちの盾になりなさいよ!」 「こ、こっちは急いできたってのに…」 が、ぶつくさ言う暇がないのは舞人にもわかっていたため その巨大な盾を構えてF91やステイメンをその背に庇う。 レイドーガや、ドーベンウルフの集中砲火がダンバリバーを 襲うが、こちらも伊達に超機神を名乗ってはいない。 全く足を止めることなくその巨体はレイドーガたちの眼前に迫る。 「く、くそっ! 奴は化け物か!?」 「押し切られるぞ! 撃て! 撃てぇ!」 だがその通り、次の攻撃はなかった。 ビシュオオオ! エネルギーを収束させ、鋭い殺傷力とムチのようにしなる柔軟性を持った サーベルが先頭のレイドーガを切り裂いた。 「残念、アンタたちの負けよ」 「チェックメイト、だよ」 ズドオオオオ! そしてその後ドーベンウルフはステイメンによって轟沈される。 「んじゃ俺は別の場所に行く。二人とも気をつけろよ」 「ふん、自分の心配をしてなさいよぅ」 「ありがとう〜桜井君〜」 対照的な二人の賛辞をもらって舞人は別の空域へと ダンバリバーを発進させた。 戦局自体は明らかにデュランダルに向いている。 ――堕ちた聖域 アンテナ周辺の上空 「なっ!? このプレッシャーは…」 浩平は今まで感じたことのないほど強い何かを感じた。 別の場所では、 「あうう…何…この押しつぶされそうな何かは…」 真琴が強すぎる『それ』を感じ取り、 「この感じ…何だ…強いただそれだけの念…」 祐一もそれを感じ取る。 その念の持ち主は、今まさに現れようとしていた。 地上からのハッチ、そこから飛び出した真紅の機体。 「久しぶりだな、相沢君…」 その声を聞き間違うことはない。 研究所の頃から嫌と言うほど語り合ったあの男。 「ああ、話は聞いていたが会うは久しぶりだな」 「それはお互い様だね」 まるで旧友と出会ったかのようなそんな会話。 だがお互いの間には一瞬たりとも油断のならない空気が展開されている。 「随分とお前らしくもない馬鹿げたやり方だな。 過去の事を知らないわけでもないだろう?」 「そうだな。おそらく後世の歴史家は僕を道化と笑うだろう。 だが、いい加減答えを出すべきなんだ。地球に人がいるべきか否か。 過去、それは幾度となく防がれてきたが一度確かめてみるべきだと 思わないか?」 「…確かめたら最後、もう二度とは戻らないだろうがな」 「そうかな? いずれ地球が人の住めるような状態に戻るだろう。 その時に宇宙にいる人間が地球へと戻るかもしれない。 その間、地球をただの資源とみなして宇宙で生活した人間が 今度、地球に何を求めるのか…? それを確かめるのは 決して間違いではないと思うがな」 「……そうかもしれないな、けれど」 祐一はフラムベルクのステークを久瀬のサザビーに突きつけて答えた。 「そのために、地球に住む人を全滅させるっていう考えはダメだ! 壊したのが俺たちなら直すのも俺たちの仕事だ! そうだろう!?」 「違うな、壊すことに罪悪感のないものに直す意思などあるはずもない。 地球から旅立とうとしない人類はそれだけで罪なのさ」 「それは…それは違う!」 「もういい、相沢君。こんな議論は過去に何度も交わしたろう? そして結論は決して一緒ではなかった。だから…」 サザビーが動く。 フラムベルクに向かって。 「僕らは戦うしかないんだ! 今こそ決着をつけるために!」 「結局…結局お前の行き着く先はそこか…! 望むところだ! 俺たちが…お前の馬鹿げたこの 作戦を終わらせてやる!」 フラムベルクもまた正面から特攻する。 ステークを当てることは不可能に近い。 ならば、 バシィン! サザビーのサーベルとフラムベルクのサーベルが打ち合い つばぜり合いになる。 「くっ…」 「このっ…!」 左手のマシンガンをフラムベルクがサザビーに向けた時、 サザビーは急に後ろに下がり、フラムベルクは正面に向けていた 勢いを殺せずよろめいた。 「甘いなっ!」 そこへ再びサザビーが斬撃を放つ。 だが、フラムベルクはそのまま前進し難を逃れる。 「20戦10勝10敗…今日こそ勝ち越させてもらう」 祐一は不敵に笑った。 「面白い…そうこなくては、ね」 そしてそれに答えるかのように久瀬も笑った。 地球の命運を分けるこの場所で、二人は互いの決着だけを 考えて戦う。 星が落ちる…その時間は迫る。 続く SSのTOPに戻る