――堕ちた聖域 上空 「ちっ!」 「てっ!」 バチン! ガッ! またしても衝突、そして再び離れる距離。 祐一相手にファンネルは通じないことを悟った久瀬は もっぱら遠距離から近距離そして間合いを取るという 一撃離脱の戦法に切り替わっていた。 祐一のほうは得意のステークを当てることを諦め 接近する一瞬に全てをかける待ちの戦法に入った。 緊迫する戦闘、間に誰も入ることの出来ない緊張感の結界。 互いに譲れない物を抱えた者同士の最後の戦いが今始まる。 エクシードブレイブス 第64話 二つの紅 ガガガガガ! ズギュオン! マシンガンでけん制するフラムベルクを即座にライフルで撃つサザビー。 そして銃を収めるその瞬間に距離を取ろうとするフラムベルクに サザビーは接近するが、それを待っていたかのようにサーベルで 一撃を狙うフラムベルク。 両者の技巧、そして機体の性能、総合してほぼ同じ。 ただ、時間だけがいたずらに過ぎていく。それは祐一に少し焦りを生ませる。 (正直、俺がどうにかできるわけじゃないんだけど…) タワーアンテナの質量はかなりのもので、長距離砲に属する 武装のない祐一の機体ではアンテナの破壊に貢献は出来ない。 だから祐一は時間の過ぎることに気を取られる必要はない、ないのだが それでも気になってしまうのは仕方がないことなのだろう。 「時が気になって仕方がない、そんな感じだな相沢君」 だがそれを見透かしたかのように久瀬の通信が入る。 「俺はデリケートだからな」 「ふっ…」 手の内を読まれているようで祐一は少し気分が悪かった。 それよりも自身の動揺がそれほど機体の操作に影響が出ているのだろうか? その方が祐一には気になった。 頭を振って余計なことを考えないようにする。 とはいえ、持久戦になりつつあるのは目に見えている。 何か打開策がなければ久瀬の思う壺である。 (…こちらから攻めるか…) 攻め手に回ることでこの状況を打開できる可能性はある。 が、遠距離戦においてはサザビーのほうに武装面で有利である。 攻める前に落とされる可能性すら出てくる。 だが祐一はそんなものは関係ない、と言わんばかりに微笑んで見せた。 (やってみなきゃわかんないな) ゴウッ! フラムベルクは加速して下から急上昇してサザビーの真下から狙う。 右手のステークを突き出して。 (相沢君…勝負に出たか!) 久瀬は敵の右手のステークに集中しつつ、ライフルでけん制 ファンネルを射出した。 「ファンネル! 行けっ!」 ババババババ! 打ち出されたファンネルは次々とフラムベルクに向かってくる。 「グラビティテリトリー! こんなの押し切ってやる!!」 重力フィールドでファンネルからの攻撃を防ぎつつ 祐一はサザビーまでの距離をますます詰める。 「くっ! 強引な手を!」 だが久瀬とて黙ってそれを待つことはない。 サザビーを旋回させ、突き出されたステークを回避する。 だがフラムベルクは急回転で向きを変えると再び 特攻を始めた。 作戦も何もないただの玉砕戦法としか取れない動きに 少なからず久瀬は動揺を始めた。 (相沢君らしからぬ攻め…何か裏があるのか!?) そう確信した久瀬はあえてその特攻を正面から受け止める覚悟を決めた。 射出したファンネルを数機目の前に待機させてさらに正面から ビームライフルの正射をあわせてビームの嵐で迎撃する。 さすがにグラビティテリトリーが持たずフラムベルクを覆っていた バリアは消失し、厚い装甲の上からでも多少の衝撃が コックピットに伝わってくる。 「この程度…もらったぐらいで!」 射程距離まで数十メートル。 強引に取ったその間合いでフラムベルクはさらにステークを突き出した。 「まだまだっ!」 だが、瞬間的にサザビーは右に避けることでギリギリで回避に成功した。 その瞬間フラムベルクは完全に無防備になった。 「もらったぞ相沢君!」 そう後はがら空きの側面からフラムベルクにいっせいにビームを打ち込めば 落ちる。 「残念だが…」 そのはずだった。 だがいつの間にかフラムベルクの左手に握られていたサーベルが サザビーとフラムベルクを繋いでいた。 「何っ!」 「お前のことだからステークに集中してくれると思ったよ。 おかげでサーベルを持ち変えたことに気がつきもしなかったからな」 「馬鹿…な!」 「さあ、フラムベルクと一緒に炎のダイブとしゃれ込もうか?」 ガキン! フラムベルクの両手がサーベルの柄を掴む。 エネルギーを全体にまとい、その名の如し炎の鳥と化す もう一つのフラムベルクの決め技。 「バーニングダイバァァァァァァ!」 ゴオオオオオオオ!! 逃れようもなくサザビーもろとも炎の塊となって 地上へと真っ直ぐに特攻していくフラムベルク。 「くっ…くそっ!!」 「うおおおおおおおああああ!!」 徐々に地面が近づく。 基地の壁に突っ込むほうが早いか? 誰もがその一筋のエネルギーの塊の行方を見守っている。 そして終点は訪れる。 ドガアアアアアアア!! 破片を撒き散らし、地面をえぐり壁に激突し、 ようやくフラムベルクは止まった。 機体は爆発してはいない。 だがサーベルを突き刺した部分が大分えぐれている。 高速移動の結果だろう。 サザビーもフラムベルクもとりあえず動くことは出来るようだ。 「悪いな、勝ち越しは俺のものだ」 「そのようだな…。残念だが」 「これで俺たちの勝ちだ」 「人同士の勝負はな…だが、星の命運をかけた勝負はどうかな?」 ようやく祐一は思い出した、というか本当に久瀬との勝負で頭を一杯にして 忘れていた。 慌ててアンテナのほうを振り返る。 まだ障壁は健在のようだ。フラムベルクのコックピットのモニターにも 確認されている。 「残り時間は…三十分。星の命運は今決まった」 「くっ…だけど基地のバリアはないんだ。お前らだってただでは…」 「残念だが…基地のバリアが破れた時点で僕らは死を覚悟していた」 「なっ!?」 「この作戦、R・Gの総力の割に人員が少ないと感じなかったか? すでにこの星の行方を見守るための人員は宇宙に逃がした後だ。 ここに残ったのは自発的に星を落とすために命を捨てる覚悟で 集まったものだけだよ」 「そんな…」 「本来ならば僕だけが残るつもりだったのだが…。 皆、地球が汚れていく様を見過ごせなかったのだろう。 この場に残ったのはそんな思いを抱えた者達ばかりだ」 全て、全て完璧な布陣を引くまで仲間の手を借り、自身が一人で やろうとしていたというのか? 祐一はこの計画の大きさを改めて知った。 「さて…もう残り数分だ。それで運命は決まる」 「まだ…まだだっ!」 だが吼えた祐一も何が出来るとも思えなかった。 ここで終わるのか? 思いつくのはそれだけだった。 ところが、 ゴゴゴゴゴゴゴ… 突如アンテナの周囲に異変が起こった。 「な、何だ?」 「障壁発生時の振動に似ている…? まさか…まさかありえない…」 久瀬が驚愕に満ちた表情でアンテナを見上げた。 皆、誰もが戦いを止めアンテナに見入っている。 一体、アンテナの周囲で何が起こっているのだろうか? ――カノン・バンガードブリッジ 「水瀬艦長! アンテナの周囲の障壁消失!」 「主砲いつでもいけます!」 秋子は確信した。 今こそ、今この瞬間しかない、と。 「全機に通達! 長距離砲を持つ機体はアンテナに向けて攻撃開始!」 「主砲開きます!」 秋子の命令と同時にカノン・バンガードの主砲が開く。 これが文字通り最後の一撃となる。 「メインメガ粒子砲、発射!」 ――堕ちた聖域 「インパクトキャノンフルオープン!」 雪見の掛け声と共にディープスノーの砲門が全て アンテナに向けられる。 「フルインパクトキャノン、発射ぁ!」 ズゴオオオオオオ!! そしてその横からはガンダムセラフが両肩の長距離砲、 ロングレンジキャノンの照準をあわせている。 「照準合わせ…よし。お願い! ロングレンジキャノン発射!」 ギュオオオオ! 二人の機体から発せられる長距離のエネルギー砲。 そして地上では、 「佳乃ちゃん照準合わせ!」 「いつでも行けるよぉ!」 「それじゃ行きます! グランドイレイザー! シュートッ!」 「ぴっこー!」 まるで撃てと言わんばかりに手(足?)を突き出したポテトに 合わせてデストロイヤーの胸から強力なレーザー砲が発射される。 そのタイミングはまるで合わせたように正確だった。 それぞれの攻撃は、一つに混ざり合うようにしてアンテナに直撃した。 ドッゴオオオオオオオオオ!! そのあまりの突然の出来事にR・Gの者は誰一人として動くことは出来なかった。 まばゆいほどの光が視界を埋め尽くし、誰もがアンテナから目を背けた。 衝撃も凄まじく、地上の機体は制御に集中しなければ吹き飛ばされそうな 勢いだった。 やがて爆風と光が止み、誰もがすぐにそこに目を向けた。 そこには、 天にまで届くかと思われたアンテナはなく、 折れた残骸だけがそこに残るのみであった。 ――カノン・バンガード ブリッジ 「隕石群の進路急変しました!」 「コース上に特に障害はありません!」 「時間ギリギリ…でしたね」 そんな台詞を言いながらも秋子は決してその微笑を崩すことはなかった。 わあああ…とブリッジに歓声が上がる。 この瞬間、勝ったのは…まぎれもなくデュランダルであった。 続く SSのTOPに戻る