崩れ落ちる…。 彼が積み上げてきた全てが。 この日のために築き上げた塔が。 一筋の光によって断たれる。 その光は、未来を信じる者達が束ねた光。 絶望せず、先の世界に未来を見た者達の光。 久瀬は、アンテナが崩れ落ちる最後の最後まで 決して目を逸らすことはなかった。 ガラガラと破片を降らせながら、それはもうアンテナではなく ただの瓦礫の山と化した。 誰も動くことはなかった。 アンテナが壊れた今、互いに争う意味がない。 誰もがそう思っていた。 「…何故障壁が消えたんだ…」 久瀬は一言そう洩らした。 すでにフラムベルクはサザビーから離れている。 そこへ黒いヒュッケバインが降りて来た。 「知りたいか? 大将」 久瀬はその声に聞き覚えがあった。 「…君はコントロールセンターに忍び込んだ男だな? 聞かせて貰おうか…何故障壁を消すことが出来たのか…」 「ある意味博打だったけどな」 住井はコックピットの中で肩をすくめながら語りだした。 エクシードブレイブス 第65話 完全なる暗闇、来たる ―― 一時間前 コントロールセンター。 「くそがっ! 舐めやがって…」 住井は周囲を見回した。 このまま引き下がるわけに行かない。正攻法で時間がかかりすぎるなら 違う方法を取るまでだ。 そう、自分達を信じて戦っている仲間たちのためにも 無理だから諦めろ、の一言で片付けるわけに行かないのだ。 「障壁を消す、というプロセスに移行するまでの プロテクトが頑丈すぎるから時間がかかるんだ…」 ならばそのプロテクトを消す行程を削除してしまえば 障壁を消すことは何のことはないのだ。 住井はプログラムをコンソールに移した。 製作者制限を次々に突破し、プロテクトの内容を 次から次へとモニターに表示する。 「この組み立てでこの公式…数値は単純化されている…。 あえて暗号化を利用し順路を複雑化…」 傍から見ている留美にはさっぱり訳のわからない単語ばかりだった。 潜入捜査に赴くことはあっても、もっぱら情報を引き出したり トラップを解除したりする頭脳戦は住井の役目だったからだ。 留美の役目は追っ手の足止め、破壊工作といった力仕事が主だった。 住井いわく、 『適材適所』 らしい。 やがてモニターをものすごい速さで眺めていた住井は 飛び跳ねるように椅子から離れ、代わりに、管理用のコンソールとは 別の離れた位置にあるマシンを立ち上げた。 どうやらこのマシンは通常のOSで動くマシンのようで 管理用コンピューターとは独立しているらしい。 「プログラム作成用の…っとあった」 そこで住井は深呼吸して呼吸を整えた。 そしてモニターに視線を移すと、 カタカタカタカタカタカタ ものすごい速さでキーボードを叩き始めた。 その速度は並みの速さではなく、見ていた七瀬を圧倒したほどである。 「七瀬!」 「な、何よ!?」 すると住井が突然手を休めずに留美の名を呼んだ。 さすがにその状態で話すとは思ってなかった留美はかなりびっくりした。 「記録用のブランクディスクを二枚探してくれ! 多分備品とかが入ってそうな棚とかがあるはずだ!」 「で、ディスクね? わかったわ!」 留美は住井のものすごい剣幕に押されて慌てて 部屋の隅の方にある棚を開けてみた。 ラベルの貼られたディスクは使えないだろう。 中には秘蔵データ(はぁと)などと書かれたディスクもあり 何故か留美はイラついたりもしたが、無視する。 下のほうの棚に封の切られていないディスクのまとまった物を見つけた 留美は、 「住井、これでいい?」 「おう上等! 置いておいてくれ!」 そう言われたので、すぐ傍において再び留美はドアまで下がる。 やがてどれくらい時が過ぎただろう。 留美は腕の時計を見た。 タイムリミットまで後20分。 結構な時間が経っていた。 何かをしたほうがいいのではと思いつつも何をしたらいいのだろうかと 悩む留美。 すると、 「出来た! 七瀬、手伝え!」 再び住井が留美を呼ぶ。 もう驚きもせずにおとなしく住井のところへ走っていく。 「いいか、お前はこいつをコンソールの左側のディスクドライブにセットするんだ。 俺は右側にセットする。但しこいつは同時に入れないとダメなんだ。 俺が合図をしたらトレイを閉じてくれ、いいな」 「う、うん、わかったわ」 思わぬ展開に少し緊張する留美。 まあトレイを閉めるボタンはすぐにでもわかるし 何も心配は要らない心配は要らないと自分に言い聞かせる留美。 トレイをオープンし、ディスクをセットする。 隣を見れば住井も準備が整ったらしい。 「それじゃ行くぞ?」 「ええ、いつでも来なさい」 「いっせーの……せ!」 カチ 二人のボタンを押す音がほぼ同時に重なる。 ウィィン…。 そして同時に二つのドライブはディスクを飲み込んだ。 ビービービービー! 「きゃあ!? 何? 何?」 「落ち着け! これは予想通りだ」 住井はそう言うとこれでもかと言わんばかりに嬉しそうな表情を浮かべて 椅子に座った。 コンソールを叩き、情報を打ち込んでいく。 モニターにはこう表示されている。 「BREAK TO PROTECT」 「プロテクト…破壊!?」 留美はその表示を読んで素っ頓狂な声を上げた。 「解除するのに時間がかかるならぶっ壊せばいいと思ってな。 幸い、プロテクトの内部プログラムさえわかっちまえば それを壊すウィルスを組むのは簡単だし時間も要らない」 住井はコンソールを叩きながらも驚きっぱなしの留美に説明する。 「二枚ディスクによる同時起動の制限を設けたのは その方が壊すのに時間がかからないからさ」 そして最後と、示すようにポンとコンソールを叩いた。 「これでご自慢の障壁は二分後に消失するぜ…R・Gの大将さん」 そう言うと住井はどっと疲れが出たかのように椅子に寄りかかった。 もうこんなプレッシャーのあるプログラムは組みたくない。 住井は心の底からそう思った。 ――堕ちた聖域 「…というわけだ。まあ敗因は自信があるからと俺らを わざわざ懐に入れたことかな」 「まさかあの短時間でそんなウィルスを組めるとは思わなかったよ…」 だがそういう久瀬の言葉には悔しさというよりある種のすがすがしさのような物が 含まれていた。 「やはり…地球には人がいなければならないと言うのが答えなのか」 「さあな、もしかしたら間違っているのは俺らかもしんねえ。 けど、それを決めるのは後世の奴らだ。今は…出来ることは やるしかない。お互いにそれをぶつけ合ってたまたま 勝ったのが俺たち…ってだけだ」 住井はそう答えた。 その間誰もが口を開かなかったが、 「水瀬艦長、ただいまをもってR・Gは全面降伏する」 「な、総帥!」 「まだ俺たちは戦えます!」 しかし久瀬はそんな部下達の言葉を制した。 「そして無駄な命を散らすのか? 僕たちはそのために戦ってきたのではない。 こうして地球人に粛清をもたらすために戦った。そしてそれが為せなかったの なら、大人しく降伏し、その責任を取るのが第一だ」 「総帥…!」 「水瀬艦長、一切の責任は僕が取ります。部下達はとりあえず 武装解除後投降という形にしてもらえないだろうか?」 だがそんな久瀬の言葉を遮ったのは他ならぬ久瀬の部下達だった。 「何を言うのです総帥! 責任なら我らにもあります!」 「そうです! 私たちは自分達の意思で貴方について来たのです!」 「総帥!」 しかしそんな部下達の言葉にも久瀬は答えを曲げようとはしなかった。 「久瀬さん、貴方の意思を尊重しましょう。但し、投降は貴方も一緒です。 ここで貴方一人を殺したところで何が変わると言うのですか? 貴方には宇宙側の人間としてこれからの地球を見届け、過ちを正すための 代弁者としての仕事があるのですよ?」 秋子はそう告げた。 彼女の言葉は曲解すれば、簡単に死ぬよりも生きて苦しめ、 とも取れなくもない。 「…水瀬艦長、貴女は…まだ僕に生き恥を晒せと?」 「残念ですが死に逃げるほど貴方は生きていません。 まだ、責任を死で取るには若すぎます」 「……わかりました」 数分後、ほぼR・Gの生き残りは武装解除後、カノン・バンガードに 軟禁という形になった。 そしてよいよ久瀬のサザビーを乗せようと言う時 「フォフォフォ…R・Gは総崩れか。見事じゃなデュランダル。 そして…相沢祐一」 「この声は…まさか…!」 祐一は空を見上げた。 そこには漆黒の体、長めのリーチを持つ爪を持った腕、黒いエネルギーの翼。 かつてアザゼルにいた時にこの上ない恐怖を感じた機体が 空に浮いていた。 「そしてそのデュランダルを落とせば、ワシの目的は達成される。 …カーカッカッカ!」 「アグマイヤァァァァ!」 祐一はあらぬ限りの声を絞って吼えた。 それは自身に上りつつある恐怖に打ち勝とうとする 行為であったかもしれない。 一方ブリッジでは、 「な、あの機体から…正体不明のエネルギーが感知されています!」 「機体能力測定不可能! 危険すぎます!」 オペレーターたちの声を聞き、秋子は、 「仕方ありません各機しゅ…」 「ダメだ! 秋子さん! このままカノン・バンガードは逃げてくれ!」 秋子の出撃命令を遮ったのは祐一の声だった。 「あの機体は…俺たちが束になっても勝てる相手じゃないんだよ!」 「な、何を言ってるの相沢君? 敵は一機だし皆でかかれば…」 「だったら見てろ星崎!」 祐一は希望にそう怒鳴りつけると、黒い機体に近づきマシンガンを撃ち込んだ。 希望たちのいるリビングのモニターは確かに弾丸が打ち込まれる様子が 映っている。 だがそこにいたみなの表情が変わる。 「めり込んでる…?」 「急速な再生…だ。あの機体の金属は変化と同時に元に戻る性質があるんだ」 通信での祐一の声は悲壮に満ちていた。 「フォフォフォ…小童共の驚く様子が目に浮かぶワイ。このワシの機体 シュヴェルツァーは相沢の小僧の言うとおりダメージを食らった 即座に再生を行う性質があるんじゃそして…」 シュヴェルツァーは右手から黒いエネルギーを照射した。 傍目には直径の大きいエネルギー砲にしか見えないが、 それに直撃したサザビーは、 「くっ…うわあああっ!」 久瀬はまるで直接コックピットを振動させられるような衝撃にうめいた。 「装甲を無視し、本体の内部の機械部分に直接ダメージを与える 攻撃方法をそなえておるんじゃよ…」 アグマイヤは愉快そうに笑った。 「さて、これでも全員でかかれば勝てるなどと夢物語を見る奴は おるかのう?」 その言葉に反論を返せるものはいなかった。 だがただ一人、そこで立ち上がったものがいた。 「秋子さん…頼む、ここでデュランダルを落とすわけに行かない。 逃げてください、皆を連れて」 ステークを構え立ち上がったフラムベルク。 祐一の顔にはある一つの決意があった。 続く SSのTOPに戻る