「俺が食い止めます。今のうちにここから離脱してください」

 祐一は確認させるようにそう言った。

 「しかし…祐一さん!」
 
 「秋子さん! 見ただろ今の!? あいつに勝てる手段はないんだ!

  このままじゃ皆死んじまう! 俺たちの仲間だけじゃない!

  R・Gの…宇宙から見た地球の酷さを語ってくれる奴らも

  皆、皆!」

 祐一の言葉は深く秋子の心に突き刺さる。

 秋子の本音は何が何でも祐一を救うことだ。

 そのためにここまで来たのだから。

 だが、今の自分にはそれとは別の命も背負っている。

 ここで自分だけが出撃し、祐一を生かすと言う選択は出来ない。

 時間がないし、何より的確にここから脱出するには

 自分の指示が必要だ。

 「秋子さん…悩むことなんてないんだ」

 「悩まない…悩まずにいられますか!」

 それは初めて、叔母としての感情での叫びだった。

 「もういいんだ、秋子さんも、名雪も、真琴も、あゆも。

  みんなの気持ちは十分に受け取った。

  家族を皆殺しにされても…待っててくれる家族がいたんだって、

  教えてもらったから。

  だから…」

 ギュオオオオオ…

 フラムベルクが再び起動する。

 「今度こそ、俺の力で家族を守る! 仲間を守る!

  もう二度と、アザゼルの連中に奪わせはしないっ!」

 ズドオオオ!

 フラムベルクが飛ぶ。

 「祐一ぃっ!!」
 
 その様子をただリビングルームのモニター越しにしか見れない名雪。

 気がついたとき、あゆも真琴も名雪も、格納庫へと走っていた。












 エクシードブレイブス 第66話

 サ・ヨ・ナ・ラ











 ――格納庫 入り口

 「えっ…」
 
 最初にその異変に気がついたのは真琴だった。

 「なんでよ…なんでドアが開かないのよ!」

 「ええっ!?」

 あゆが悲鳴を上げるのとカノン・バンガードが動き出したのは

 同時だった。

 「お母さん!?」

 名雪は進路を変えて走り出した。

 ブリッジへと。





 ――堕ちた聖域

 「このっ!」

 ガキン!

 打ち込んだステークを避けようともしないシュヴェルツァー。

 ステークは炸裂し、一瞬は装甲を削ったかのように見えたが…

 爆風が止むとそこには全く無傷の機体が存在していた。

 「ははは…避ける必要もないか」

 「まあ…それだけに恐怖の対象だった訳だしね」

 祐一は通信が近かったことに驚いて横を見ると

 何故かそこにはサザビーがいた。

 「久瀬!? 何で乗らなかった!」

 「悪いが…君一人で時間が稼ぎが出来るような相手ではなかったのでね。

  信じてくれた部下達には悪いが…残らせてもらった」

 「お前…頭いいのに馬鹿だな」

 「たまには君のような馬鹿に合わせるのも悪くないさ」

 二人はまるで友人同士の会話のように軽口を交わした。

 



 ――ブリッジ

 「お母さん! どうして…どうして祐一を置いていくの!?」

 いつものように体裁を気にせずにありのままの感情でぶつかる名雪。
 
 それをとがめるような者は誰もいなかった。

 中にはすでに涙を流すのを堪えている者もいた。

 名雪は秋子の肩を掴んで尚も詰め寄った。

 「どうして…どうしてっ! 私たちは…私たち…は…」

 名雪はすでに嗚咽が混じり言葉にならない。

 けれども秋子は娘の手を取って、

 「祐一さん自身が望んだからです…ごめんなさい名雪。

  私は…私は名雪ほどまっすぐではいられないの。

  私の一言でこの船全員の人間の命が死に晒されてしまうのだから…」

 そう言って秋子は名雪に背を向けた。

 名雪はまだ話を続けようとしたが、母の背がわずかに揺れているのを

 見て、言葉をつなげなくなった。





 ――リビング

 「ダメだ…また再生しちまってる!」

 「どうしてよ…どうして…!」

 北川も雪見も理不尽な結末を迎えようとして悲痛な叫びを上げた。
 
 皆で協力し、不可能と言い切られた隕石落としを阻止できたのにも関わらず

 このような形で仲間の命が奪われようとしている。

 だが戻ってきたあゆたちの話を聞き、無駄に騒ごうとするものもいなかった。

 ただ、奇跡が起きないかと、モニターを皆必死で見るだけである。

 



 ――堕ちた聖域

 「ふう…もうそろそろ限界か…」

 「ふ、以前総がかりで襲い掛かった時の十五分の記録を更新したようだよ」

 「へえ、そりゃいい。あんときは信哉も入れて四人がかりだったからな」

 すでにフラムベルクもサザビーもあちこちが損傷しボロボロだった。

 もっともその損傷の殆どは、先の戦いによるものだ。

 シュヴェルツァーとの戦いのダメージは内部機械に集中している。

 そんな互いの機体を見て、くっくっくと二人で笑った。

 昔、まだ研究所にいた頃。

 苦しみもあったが、影ながら助けてくれた人たちと

 同じ境遇のもの同士の交流。

 全てが懐かしく思えた。

 祐一は通信を開いた。
 
 「皆、これで最後だ、よく聞いてくれ。俺は…研究所に連れ去られた時に。

  もうこの世で一人きりなんだ、そう思ってた」

 けれど、研究所で友と呼べるものたちと出会い、

 「でも名雪たちが必死で俺を助けようとしてくれたこと、

  ここで皆と出会ったこと、それが俺を一人じゃないと教えてくれた。

  そしてまだ…俺にも守るものがあると言うことを」

 ふと親友の顔がよぎった。

 信哉は…他人を守るために自身が傷つくのを恐れないタイプだった。

 「もうアザゼルには何一つくれてやらない。家族も友達も。

  二度と奪わせはしない。守り抜いてみせる」

 祐一はステークを起こした。

 これが最後の一撃。

 「…沢渡マコトという人に会ってくれ。その人が…シュヴェルツァー攻略の

  鍵を握っている。後は頼んだぞ皆」

 通信は送信のみだった。受信は聞く気はなかった。

 聞けば決心が鈍りそうなそんな気がしたから。

 ズドオオオ…

 フラムベルクが突進の準備に入り、久瀬もまた通信を開いた。

 「…諸君、すまないが僕はこの先を見届けると言う義務を果たせそうにない。

  だが悔いはない。ともに戦った君たちが生き残っているのだから。

  だから僕の代わりに伝えて欲しい。宇宙から見た地球の有様が

  どのようなのか…僕らから見て地球はどう変わってほしいのか…。

  それを伝えるのは君たちに託す」

 短く、だがはっきりとした意思の宿った一言だった。

 そしてサザビーも発進準備に入る。

 「もういいのか? 久瀬。あちらさんは待っててくれるみたいだけど」

 「いや、伝えるべきことは伝えた。いつまでも先方を待たせるのも失礼だろう」

 「違いない」

 互いに言うべきことはあった。

 志を違え、争いあったもの同士。

 だけどだからこそ言葉は要らない。

 ステークのついた右手と、サザビーの左手がカツンと音を立てて触れた。

 「行くぞっ! 相沢君! 後は任せる!!」

 「おうよっ!」

 ズドオオオオオ!

 二機が同時に飛たち、サザビーがまず先に仕掛ける。

 突き出されるエネルギーを避け、正面からファンネルと共に

 ライフルで射撃の嵐を繰り出す。

 キュオオオオオオオオン!

 だが、撃てども撃てども手ごたえはない。

 「遊びは終わりじゃ、いい加減眠るがよい…」

 ヒョオオオオ!

 シュヴェルツァーの右手に握られた黒いエネルギーの剣。

 サザビーを正面に捕らえ、逃げ場はない。

 「どうやらここまでか…悔いはない。戦士として…」

 バガオオオオオオオオン!!

 ものすごい爆発音と爆風、そして煙を巻き上げサザビーは散った。

 巻き起こる煙に、シュヴェルツアーの視界は奪われる。

 (ふん…これにまぎれて後ろか横からの奇襲…と言ったところじゃろう?

  相沢よ。だからお前は甘いと言うのだ)

 アグマイヤは横と後ろに集中した。

 だが、音を立てて煙が避けたとき予想もしない方向から
 
 フラムベルクは姿を現した。

 「ま、真正面じゃと!?」

 「どんな敵だろうと撃ち貫くのみ! 正面からな!!」

 ドゴオオオオオ!

 ステークが深々と突き刺さる。

 そのままフラムベルクはブースターを全開にし

 シュヴェルツァーを押し出すように特攻し続ける。

 気がつけばすでに堕ちた聖域のあった島の上ではなく

 どことも知れぬ海上の上だった。

 「あ、相沢! お主…!?」

 「もとより覚悟の上! てめえに一矢報いるにはこれが一番だろう!」

 祐一の狙い、それは一撃での消滅である。

 再生、とは元になる何かがあるから成立する。

 では…一撃で消し去ることが可能ならば?

 そしてその威力を出せるのは…

 ヒュオオオオ…

 先ほどから突き刺さったステークがドンドン祐一のエネルギーを吸い上げている。

 とっくに制御可能な状態は超えている。
 
 そう、機体ごとステークのエネルギーのリミットを越すことである。

 最初で最後の祐一の大博打である。

 (これで…終わるとは思えない。けれどこれしか打つ手がない…!)

 やがてフラムベルクがそのエネルギーを抑えきれず、反発が機体を蝕んでいく。

 バチバチと時折機体から電流のようにエネルギーが溢れ、機体は小刻みに震え始める。

 (つき合わせて悪いな、相棒…)

 臨界点を超える。

 やがて祐一の視界を真っ白い光が埋め尽くした。



 ―名雪…あゆ…真琴…秋子さん…

  さよなら俺の家族…


  ―栞…武…舞人…北川…皆…

    さよなら…俺の仲間たち…


    ―信哉…アザゼルに残った『アイツ』を討てるのはお前しかいない…

     信哉…







 後は任せたぜ…信哉












 ドゴオオオオオオオオオオ!!












 ――リビング

 モニターにはすでにフラムベルクもシュヴェルツァーも捉えられてはいない。

 ただ無機質な地図と光点だけが存在している。

 だが…先ほどまで二つ輝いていた光点は…今は一つしかない。

 消えた方の反応は誰もが口にしなくてもわかった。

 涙するもの、何かに当たるもの、さまざまだったが
 
 共通するのは祐一の死亡…それが大なり小なり仲間たちの心に

 深い悲しみを呼んだ事である…。



 ――軟禁室

 一方、ここで軟禁を受けていたR・Gのメンバー達も

 また自分達を守るために散った総帥の死に涙していた。

 中にはモニターにずっと敬礼したままのものもいて

 いかに久瀬の人望が高かったを思わせた。

 ただ一人香里だけは、涙を流すこともなく

 (…馬鹿…)

 無言のまま、モニターを見つめていた…。





 ――ブリッジ

 「…相沢機の反応消えました…」

 「敵機の反応確認できません…おそらく距離が離れすぎたものと…」

 「そうですか…わかりました。後、ノアシップに伝令を…」

 「了解…」

 ブリッジのあちこちからすすり泣きの声も聞こえる。

 名雪はその場に座り込み、

 「ゆ…い…祐一…」

 ただ祐一の名を呼びながら泣いていた。

 秋子はそんな娘の傍にそっとたたずんでいた。

 言葉はかけても意味がない。

 深い…深い悲しみに他者は何もしてやることは出来ない。

 「沢渡…マコトさん…」

 祐一が残した人物の名。

 この人物に出会い、あの悪魔のような機体を攻略する手がかりが出来たのならば

 あの忌まわしき二つ名を再び背負う時が来るかもしれない。

 秋子はその覚悟も出来ていた。

 二度も、家族を守れなかった不甲斐なさを自分自身への憎しみに変えて。

 立ち上がると秋子は、

 「全速力で離脱! とにかく距離を稼ぎます!」

 いつものように凛として激を飛ばした。

 そうすることでいつもの自分を取り戻すように。

 だがそんな彼女も目から流れる涙を拭う事を決してしなかった…。




 ――海上

 「甘かったの…相沢や」

 丸い球体、黒い光に覆われた黒い球体。

 だがその状態でいたのも一瞬のことだった。

 そこから次々に失われたパーツが再生されシュヴェルツァーは

 再び元の姿に戻った。

 「コックピットは必ず潰れんように設計したんじゃ。ここさえ残っておれば

  何度でも再生できるようにな…」

 ピピピ

 「何じゃ?」

 「アグマイヤ様、レックス、レイ、エア、共に準備が整いました」

 「そうか、では無能組を保有している基地を破壊させろ。
 
  誰一人生かすでないぞ」

 「了解しました」

 通信が切れる。
 
 「器の起動、そしてシュヴェルツァー。もはやワシを止められる者等

  おらぬ! 地球はそして宇宙はワシのものじゃ!

  堕ちたる神の意のままじゃ! フォーフォフォフォ!」

 狂った老人の高笑いがコックピットに響く。

 少年は散った。家族と仲間を守るために。

 だが、その意思は悲しみとなって、また強い意志によって
 
 友へと仲間へと受け継がれる。

 物語は、終末へと向かい始める。

 神という名の器の戦いへと…

                             第三部 地球編 完


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