南はただの偶然だと思っていた。 そう、自分が攻撃を見失ったのはほんの偶然だと。 だが、それは紛れもない勘違いであった。 浩平の攻撃はことごとく自分の視界から消え確実に当たった。 加えて彼のガンダムもまた、まるで自分の意図しない場所から出現し 南は浩平を追うことすらできなかった。 「くっ…どうなってんだよ!」 レバーを握り、スロットル全開で南はやけになって特攻攻撃に入った。 ガンダムが視界の目の前にいる。 機体の運動から南は右に動くと予想し方向をその動きに合わせた。 計算ではスピード上、浩平のガンダムを右のカタールで攻撃できるはずだった。 「うおおおおっ!!」 雄たけびと共に突き出したレイ・ドーガの右手。 が、ほんの数秒の間にガンダムはあきらかに南の計算を遥かに上回る位置に 移動していた。 がら空きの本体に向かって振り下ろされるビームサーベル。 ズガアアン!! レイ・ドーガの右手が無重力の空間に舞う。 止まることなく一定の回転を繰り返しながらそれは戦場から少しずつ離れていった。 「ふう…勝負あったな」 あまり余裕ではない表情の浩平がそういった。 エクシードブレイブス 第7話 迫り来る悪意 「う…そんな…馬鹿な…」 南は小さくなっていく自分の機体の右手を見ながら 呆然となってつぶやいた。 胸に宿るのは喪失。 敗北。 またしても勝てなかったという敗北感。 「引け、そして二度と戦場に立つな。今は…そしてそのR・Gは… お前の場所じゃないよ…」 浩平は警告とも取れる言い方でそういった。 それを聞いても反応しない南。 周りではまだ小競り合いが続いている。 浩平は南の相手をする必要がないと判断したのか 機体の向きを変えると味方の援護に向かおうとした。 ドオオン!! 「何!?」 突然、味方の機体が攻撃された。 見覚えのある人型の兵器。 白くまるで幽霊のようなフォルムに質感のわからない金属。 「…奴か!」 浩平は中心でその機体を操っていると思わしき機体に急速に接近を始めた。 その場所ではあっけにとられたレイ・ドーガの部隊を尻目に 真琴たちが白い機体を相手に善戦していた。 「沢渡! 水瀬! 無事か!」 「真琴達はまだ大丈夫!」 「折原君、私達は大丈夫だから…行って!」 …浩平は無言で先を急ぐことで返事をした。 一方ブリッジでは… ――カノン・バンガード ブリッジ 「あ…艦長…あれって…」 あゆはなれない口調で秋子をそう呼んだ。 作戦行動中はそう呼ぶように秋子が言ったのだった。 何度か宇宙、地球問わず接触している謎の勢力。 だが、それを知る人物が一人いた。 「えいえん…ですか」 秋子はつぶやくようにそう言った。 ただ一人の生還者の話から知ったのはその事実だけであった。 「発進準備! 各機の生還を確認後この空域より離脱します!!」 秋子の激とと共にカノン・バンガードは発進準備に入った。 エンジンが急速回転し、砲門が全員スタンバイに入る。 ――戦闘空域 「…来たな…主亡き『えいえん』よ…」 浩平はその中心の機体に目を向けた。 その姿は片翼の天使。 衣をまとった名もない天使の姿をしていた。 「…シュンはもういない。そして俺は現実を選んだ だからお前はその残った翼に宿るべき 俺を探しに来たんだろう…」 破壊というもっとも手っ取り早い方法で、と浩平は付け加えた。 天使は何も言わない。 だが浩平に向けてその手を差し出した。 「断る。みずかにもいったはずだ、えいえんなんて必要ない…。 俺だけじゃなく…この世界に『お前』はいらないんだ!!」 浩平はフィン・ファンネルを起動した。 忌まわしき追いかけてくる過去を断ち切るために。 「行けっ!! フィン・ファンネル!!」 無数のファンネルが天使に向かって飛んでいく。 一瞬天使の表情が悲しみにゆがんだように浩平に見えた。 ファンネルの攻撃が当たるや否やの瞬間、天使は姿を消した。 そして攻撃が終わるとまた姿をあらわした。 「やはり『普通』の攻撃じゃ無理か」 浩平は精神を集中する。 通常よりも強力な、だが当然のリスクを伴う攻撃。 ためらうことなく浩平はスイッチを押した。 迷わない、その決意ゆえに。 「これならどうだ!! E・ファンネル!!」 先ほどと同じくファンネルが放たれる。 天使はまたしても姿を消した。 だがそれを追うかのように次々とファンネルも姿を消した。 数秒の沈黙。 天使はファンネルと同時に現れた。 浩平のファンネルは確かに天使にダメージを与えていた。 破損した表面からそれが伺える。 「え…え…? 折原君今何したの?」 現状がつかめない希望は少し混乱していた。 そこへあらかた敵を片付けた佐祐理から通信が入った。 「E・ガンダムには浩平さんという「特殊なニュータイプ」のための 機能がついてるんですよ。名をエターナルシステムといいます」 「エターナルシステム?」 雪見が興味深げに聞き返した。 「浩平さんは佐祐理たちとは次元の違う世界から帰ってきたことによって ニュータイプに覚醒しました。ですから浩平さんのいう「えいえん」への チャンネルを開いたときのように「物体」の存在率を変化させることを 可能にしたシステム、それがエターナルシステムです」 「あうーっ…」 「何か…すごい機体だね」 真琴はよくわからずうなって、名雪はなんとなく納得したようだ。 「ですが当然のリスクがあります。浩平さんが「えいえん」に行ったときに 誰もが浩平さんのことを忘れてしまったようなのです。 ですから…存在を変化させておく時間は限られています。 また使えば使うほど浩平さんへの疲労、負担は増大します」 佐祐理の説明はそれで終わりだった。 自然と皆は浩平の闘いに目を向ける。 そこには過去との決別を望む一人の少年の戦いがあった。 「…はあ…はあ…」 すでに限界までファンネルは撃ちつくした。 天使のほうもそこそこぼろぼろだが、浩平のほうはもう限界だった。 「まだか…まだ消せないのか…お前を… 人の怨念を…」 天使の左手にエネルギーが集約する。 浩平は機体も精神もぼろぼろだった。 次の攻撃はかわせない、浩平はそう思った。 ところがそこへ ズドドドドドドドン!! 嵐のような連続砲撃が天使に直撃した。 攻撃に集中していたので避けることができなかったのだろう。 「折原君! 早くこっちに帰還して!」 「了解!!」 あゆの通信を受け、カノン・バンガードに帰還する浩平。 「E・ガンダムの収容を確認!」 「はい、カノン・バンガード全速離脱!!」 カノン・バンガードはその場からすぐに離脱した。 無表情の天使と、離脱することすら忘れ 一人放心状態の男を残して。 ――戦闘空域 「…俺は…折原には…俺…は」 『えいえんは…あるよ…』 南は声を聞いた。 少女とも少年とも取れない声を。 『えいえんは…あるよ…』 「えいえん…俺の…世界…」 南の機体は天使に吸い込まれるように そしてそのまま天使は姿を消した。 …両翼となって。 ――???? 「南機…反応消えました。衝撃、エネルギー反応共にありません」 「ふむ妙だな…。まあいいデータは取れた。これを元に レイ・ドーガの改良を行ってくれたまえ」 「はい、かしこまりました」 敬礼をするとオペレーターの一人は出て行った。 入れ替わりに金髪の少年がその部屋に入ってきた。 「捨て駒か…相変わらずやることえぐいねえ…」 「茶番はよしたまえ。本気で思っているわけではないのだろう」 そう言った眼鏡をかけた少年は金髪の少年から視線をそらす。 「それより…彼女のほうはどうだった?」 金髪の少年は肩をすくめて言った。 「あいつは相当の腕だ。だがいいのか? 報酬を先に払っちまって」 「我々のほうから彼女と契約を結んだようなものだ…。 報酬を後送りにするのは脅迫というものだ。違うかな?」 「ふっ、確かにな」 だが、と眼鏡を直しながら 「事実を知ったときには…あの少女がなんと思うか…だな」 「あいつのことだ。何も言ってないに違いない。 俺達に…R・Gに敵対するかもしれないな」 ふむ、と少年はすわりなおした。 「だとしても彼女の心配は要らない。あれは…物事を感情だけで はかる人ではないだろう?」 「ああ、背筋がぞくりとするほどだ」 くっくっくと、眼鏡の少年は笑った。 「かつての偉人達がなし得なかったことを…僕らがやろうじゃないか… 重力に魂を引かれた者たちから地球を救うためにね」 そのすさまじく強い信念に、金髪の少年は畏怖を覚えた。 ――カノン・バンガード 格納庫 「あははーっ これはまたずいぶんと…」 佐祐理は結構な状態になったE・ガンダムを見てそう言った。 その隣では浩平が少し小さくなっている。 無論物理的に小さくなったわけではないが。 「悪い…倉田先輩」 「いえいえ、気にしないでください。でもまだ全力では 使えていませんね。リミッターが外れていません」 浩平はきょとんとした。 「リミッター?」 「ええ。もし浩平さんが今以上の力を使えるようになったら… いずれこれが外れるかもしれませんね」 まだ真価を発揮してないことは気づいていたがその事実は浩平を驚かせた。 「必ず…ケリをつけてやるぞ」 だが浩平は知らなかった。 『えいえん』が今、恐ろしい力につつまれていることを。 続く SSのTOPに戻る