それは偶然だったかもしれない。 だが、必然であったかもしれない。 ただ一つわかること。 それはこの機体が自分を選んだこと。 だから少年は。 己の運命に立ち向かうことにした。 好きになったから。 歩き出したから。 そのために坂を下りたのだから。 この世界に広がる、嘘と欺瞞と怠惰と恐怖。 でも、それと同じだけ真実と、優しさと、愛があふれていることを 少年はどこかで信じているから。 人がいるだけ思いがあるから。 それを否定されることに屈したくなかった。 だから少年は吼える。 俺は人間だ、と。 エクシードブレイブス 第8話 想い、宿りて坂を下る ――星崎希望 デュランダル合流二日前 「それじゃ、希望は上に上がるのか?」 「うん、デュランダルに一時的に合流だって」 ここはアンリミテッド本営の軍事基地。 桜坂のはずれに構えるこの基地は自治という名目でも 非常に立地条件が良かった。 食堂で簡単な会話をしながら何気に飛び込んだ単語に コップを持った少年、桜井舞人は希望に聞き返した。 「ま、別に希望がいてもいなくても何もかわんないか」 「あ、その言い方可愛くない〜」 すねたような表情で希望は舞人に反論する。 「そうですよね〜、さくっちには雪村さんに、青葉ちゃんに かぐらちゃんて可愛いお友達がたくさんいらっしゃいますものね〜」 「な、何を言ってるのかなチミは。大体そういう意味で 変わんないとかいったわけじゃなくてだな…」 しどろもどろになりながらやきもちモードの希望の相手に四苦八苦する舞人。 そんな二人の様子に気がついて近寄る女性が二人いた。 「何やってんのあんたたち。こんなところで痴話喧嘩?」 「「ち、痴話喧嘩なんかじゃありません!」」 「わあ、二人とも息がぴったりやっぱりお似合いだよー」 最初に声をかけた眼鏡をかけたロングヘアの女性は結城ひかり。 本人はあくまでクールに徹しようとするが、舞人のペースに乗せられると すぐにツッコミに回ってしまうほどの手の早さのため 「ひかり姐さん」と呼ばれからかわれている。 大して場の空気を読まない天然風の発言をした、 見た目子供のセミロングの女性は里見こだま。 舞人より一つ年上なのだが、見た目と何より扱いやすさから なかなか舞人には年上扱いされていない。 本人も自覚があるのだが、そのことにはあまり触れて欲しくないらしい。 ちなみに容姿の割りにスタイルはいい。 「どこをどう見たらそうみえるんですか、こだまさん」 舞人はあきれながらそう言った。 ちなみに希望のほうはまだぶつくさ言っていた。 「うーんそうだね…全部?」 「答えになってねえ! つーかはやっ!」 頭を抱える舞人。 こだまのほうは終始?マークが頭に浮かんでいたそうだ。 舞人はその日、そんな感じで訓練の間の休憩を楽しんでいたのだ。 ――桜坂 桜の見える丘 「ふー…」 舞人はよく一人でここに来ることが多かった。 時折戦火に巻き込まれそうになりながらもここが対象になることはなかった。 「俺は…どうしたいんだ?」 自衛団に入ったのはたまたまだ。 偶然、学校帰りに連邦の部隊の一人が目の前で死んだのだ。 無論、MSの中から出てきて。 舞人はまだ動くことを確認してMSの中に乗り込んだ。 戦いたかったわけではない。 その場にいた友人達を危険にさらすことを恐れたのだ。 結果、襲い掛かってきたR・Gの部隊を撃破することに成功した。 そこで舞人は改めて自分の置かれている現状を知った。 今まではどこか遠くの話題のようにすら感じていた。 だが、現実はそんなに甘くなかった。すぐそばに 危険はあったのだ。 舞人は自分でもあきれるくらいだった。 自衛団へのテストを受けるなど。 ところが意に反して舞人はパイロットの適正があることがわかった。 その後友人達も何人かが訓練を受けることになって…。 そんな感じで舞人の周りは急激に変化して行った。 それでも変わらないのはここの坂に来てしまうことだった。 「……」 吹きなれたメロディーの口笛を吹く。 背中に何かを感じた。 舞人は立ち上がる。 「…朝陽か…」 「あれ? わかっちゃった?」 そこには無邪気な顔をした少年が立っていた。 顔は笑っているが目には底知れぬ黒が広がり、 全てを見下すかのようなそんな雰囲気を放っている。 「通告に来たんだ。いつまでままごとを続けるつもりだい?」 「あいつは…覚えていた。俺の気持ちは変わらない。 お前も…もう一度考えてみろよ。人は…お前が言うほど 愚かじゃない」 ふん、と朝陽は鼻を鳴らした。 何を言っている? とまるで愚物を見るような目でそういっていた。 「それが人の愛情だと? 信頼だと? 一時の感情を そう信じるのか! 言った筈だ! のぼせ上がるのも大概にしろ!」 「この坂の宿命を俺達は越えられた! 後は俺がはっきりするだけなんだ!!」 「だから、お前はここに来たのか。 その一言を言うためだけにここに通いつめたというのか」 そうだ、といわんばかりに舞人はうなずいた。 「ならば僕からも一つ教えておこう」 朝陽は手を掲げた。 突然回りに昆虫のような機体が坂を包囲した。 「朝陽!?」 「僕は…人間に鉄槌を下すことを選んだ。そのための超機神を手に入れたのでね」 超機神…その発祥は数千年もの昔にもさかのぼるロストテクノロジーの塊。 未だその全容は解明されていなく、一部では意思を持った有機生命体という説もある。 俗に言うスーパーロボットとしても認識されている。 パイロットを求めるものもいれば自ら力を振るうものもいる。 朝陽の上に浮かぶ黒い騎士。 いや騎士のような姿をしたロボットだった。 「黒騎士…カタストロフィ…悲劇的な終幕。 人間に終わりを告げるにはぴったりだと思わないかい?」 「朝陽…お前!」 舞人は朝陽に掴みかかったがそれは黒騎士の一閃によって阻まれる。 目の前が真っ白になる。 「うわあああああ!!」 舞人は目を開けた。 焼けるような痛みも、違和感も感じない。 目の前にぼんやりと見えるのは 黒い服を来た小さな少女。 舞人は覚えている。 彼女と約束したこと。 彼女のおかげで人としての生を見出したこと。 そして、再び彼女と交わす。 「あきらめないのですね…?」 「ああ、あの時いったはずだ」 「約束は…覚えていますか…?」 「ああ、笑っていることだ。俺が心の底から… 笑っていること…」 「大丈夫ですね…。ではこれが本当に私にできる最後のこと…。 今の私は…今の私は…貴方と同じだから…」 それきり声は聞こえなくなった。 そう、舞人は知っている。 彼女もまた自分と同じように人に触れ坂を下りたことを。 だから今は最後の贈り物を素直に受け取ろう。 それをこの機体も望んでいる。 自分を選んでくれたことを知っている。だから… 「行くぞ! まだ何も終わってなんかいない!!」 坂にもう一つ差し込む光が現れる。 突如、カタストロフィの前から消えた舞人の代わりに現れたのは 白い白銀の鎧をまとったようなデザインの騎士。 「白騎士、セイクリッド! 参上!!」 と、言ってから舞人は少しばかり後悔した。 (どう考えても俺ってスーパー系じゃないのにな…) ま、仕方ないかと思いなおす。 あまり深く考えず行動する舞人の癖は良くも悪くも、である。 コックピットには見たことのない計器類が並んでいる。 肘掛に二つの水晶体があり、舞人はそれを使って操作するのだと 本能的に悟った。 「ま、やるだけやってみるか。行くぞセイクリッド!」 セイクリッドは舞人のイメージどおりに動いた。 まるでそのまま舞人が巨大化したかのようだった。 「はあっ! セイントクルス!!」 右手からブロードソードタイプの巨大な剣を取り出して 昆虫…クワガタのような機体を十字に切り裂いた! ズドオオオ!! 見事に4つに分かれたクワガタは爆音を立てて消えた。 「こ、これは…なんというか…」 舞人はリアル系の訓練の時には味わえなかった爽快感を感じていた。 だが、それなりに真面目な点もある舞人はすぐさま朝陽に向かい直る。 「朝陽…どうしても引かないのか?」 「くどい! 僕はもう人間の存在を認めない! 認めてなるものか!!」 カタストロフィが一瞬で間合いを詰めて突きを放つ。 セイクリッドは盾でそれを受ける。 そのまま右手の剣でカタストロフィの頭部を狙うが、 反動を利用して下がったカタストロフィにまんまと避けられる。 「くっ…まだ本調子じゃないか」 朝陽は悔しそうにつぶやくと次々と昆虫を引き上げさせた。 「朝陽! 待て!!」 だがその声を聞くことなく朝陽は姿を消した。 坂はまた静かな静寂と風に包まれる。 ザアアアアア… もう散ってしまった桜の木の葉が風に揺れる。 「朝陽…。もう一度だけ信じて見れなかったのか? 桜花は…歩き出せたんだぞ…?」 舞人のつぶやきは哀れみでも悲しみでもなかった。 ではどんな気持ちでいったのか…。 それは舞人にもわからなかった。 ――二日後 「へえ…じゃ自衛団とカノンが合流か…」 舞人は眠そうな顔をしながらそう言った。 「うん、また基地が騒がしくなるね」 こだまは笑いながらそう言った。 舞人は話もそこそこに基地の外の庭を見る。 そこで一人の少年と遊んでいる5人の少女達。 その中で少し控えめに、それでも共にいることを楽しんでいる黒服の少女。 「ああやって…信じられる奴だっているのに…」 舞人は桜花を見ながら届くことのない呟きを 遥か空の向こうに消えた朝陽に向けてつぶやいていた。 続く SSのTOPに戻る