1月16日(土曜日)


 夕暮れの商店街の別れから1時間後……
 私はあの場所へ向かっていた。
 私のお気に入りの場所へ……




    「…栞」
    「…はい」
    「やっぱり、病気を治すことが先決だと思うけど」
    「…分かりました」
    「ごめんな」
    「いえ…祐一さんの言う通りですから。それでは、今日はこれで帰ります」
    「ああ。またな、栞」
    「…はい」




 噴水公園……本当の名前は知らない。
 遊具などは一切なく、中央に凝ったつくりの噴水がある広場と言った方が正しいだろう。
 人通りから少し離れたところにあるせいか、その景観にも関わらずデート途中に立ち寄るカップルは少ない。
 だからこそ私のお気に入りの場所でもあり、穴場でもあるのだが。
 雪を払って噴水の縁に腰掛ける。
「祐一さんと、ここに来たかったな」
 それはもう叶わない願い。
 そして叶わない方がいい願いだった。
 私は恋をしたかったのだろう。
 たとえ失恋でも良かった。
 このまま死の恐怖に怯えているくらいなら、もっと他のことで心を満たしておきたかった。
 でも……私のそんな身勝手な願望のために、人を悲しませるわけにはいかなかった。
 少し無理をすれば学校に行くことだってできたかもしれない。
 そうして祐一さんを騙し続けることも出来ただろう。
 だけど、これでよかったのだ。
 私が人を好きになってはいけないのは当然のことなのだから。
 これでいいんだ、と自分に言い聞かせるように私はストールを握り締めて縮こまった。
 だけど、涙を止めることは出来なかった。
「私、これからどう生きればいいのかな……」
 誕生日まであと約2週間。
 私の命はそこで潰える。
 何かをするにはあまりに短く……
 何もしないで過ごすにはあまりにも長い恐怖の時間だった。
 ザアアアアと爽やかな音を立てて、背後の噴水が飛沫を上げる。
 ライトと月明かりに照らされた夜の噴水は異世界にいるかのように綺麗だった。
 こんな噴水をバックに恋人とキスを交わしたらさぞかし幻想的だろう。
 その時、私は祐一さんと残りの時間を過ごし、ここでお別れのキスをするシーンを想像していた。
「ドラマみたい……」
 ドラマ?
 そうだ、どうせ死ぬのならドラマのように死ぬのも悪くない。
 叶わなかった最後の願いを想像し、お気に入りの場所で息を引き取る薄幸の美少女。
 フランダースの犬みたいでなかなかいい。
 小説にしたらベストセラー間違いなしだ。
 そうだ、ここで死のう。
 自殺なんて寂しい死とは違う。
 私はここで夢を見ながら死に、そして物語の中で生き続けるのだ。
 薬も切れてきたようだ。
 体が発熱してるのが分かる。
 でも、まだ倒れるわけにはいかない。
 私はポケットからちょっと大きめのメモ用紙を取り出し、持ち歩いていた水彩色鉛筆を取り出した。
 水は後ろにいくらでもある。
 私は自分の幸せそうな顔を必死に描いた。
 30分後……
 そこには笑顔の私が書きあがっていた。
 絵本のような絵だったが、なんだかすごく気に入った。
 こんなことなら背伸びなんかして、肖像画みたいな似顔絵を描くことはなかった。
 最後の最後に私は自分にあったタッチに気がつくなんて皮肉なものだ。
 後はこれを濡れないよう胸に抱いてここで寝れば、勝手に物語が出来るだろう。
 今の私なら間違いなくここで凍死できるはずだ。
 私はちょっとした満足感を覚えながら横になった。
 心地よい疲労感が私を襲い、ものの数分もしないうちに私は眠りについた。




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