1月24日(日曜日) PARALLEL
あゆは水瀬家を去った。
「あゆちゃんは…幸せな時間を恐れているみたいでした。わたしではあゆちゃんのお母さんのかわりにはなれないみたいですね」
秋子さんは残念そうだった。
「それは違いますよ」
「え?」
「幸せが本当に怖い人なんていませんよ。幸せに浸れば浸るほど……裏切られたときが怖いから…だから幸せが怖く思えるんです」
「月宮さん…」
「あゆは秋子さんのことを慕っていると思いますよ。僕よりもね」
電話を終えて僕は暗い気持ちになった。
あゆの態度が今の僕に似ていたからだ。
僕はこの7年、幸せとは無縁だった。
これは半分は本当だ。
だけど、どこかで幸せから逃げているのも事実だ。
7年前、あゆが僕を受け入れてくれたときは、幸せな家族の生活が始まると思っていた。
しかし、それは妻の死によって裏切られた。
そして、祐一君のおかげであゆが笑顔を取り戻し、せめてあゆとは幸せにやっていけそうだと思ったときも……
そんなささやかな幸せさえもあの事故で奪われた。
求めさえしなければ裏切られることもない。
僕はこの7年、本当の幸せというものを意図的に避けていた。
栞ちゃんにしても、少し面白そうだから相手をしているだけだ。
もっとも栞ちゃんも栞ちゃんで、死への恐怖を紛らわしたいから僕を相手にして楽しんでいるのだろう。
あの子の投げやりな雰囲気を持った言動がそれを示している。
僕と栞ちゃんの関係における幸せとは、虚像のような幸せだった。
二人とも本当に求めている幸せは別のところにあるのだから。
僕も栞ちゃんも幸せを失ってばかりだ。
幸せを取り戻すか、何か代わりの幸せを見い出せたとき、僕たちはもう一度幸せに向かって歩き出せるのだろうか?
秋子さんには夫の代わりに、名雪ちゃんやジャム作りという幸せがある。
だが、僕や栞ちゃんには何も無い。
失うばかりが幸せというものではないと知るまでは、とても幸せを求める気にはなれない。
そして、今のあゆもそんな心境なのだろう。
母親を失い、祐一君と別れた。
その記憶があゆを幸せから遠ざけるのは十分理解できることだった。
あゆは目覚める可能性がある。
幸せを取り戻せる可能性が残っているから僕は生きていられる。
その可能性だけが僕の生きがいだ。
もし……あゆが妻みたいにいなくなったら……
僕はこの先生きていける自信は無い……。
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