1月18日(月曜日)
わたしはあゆちゃんの病室にお邪魔した。
もちろん昨日の祐一さんとあゆちゃんのデートの話をするためだ。
「はー、秋子さんも若いですね……」
「どういう意味ですか、それは?」
わたしは少しムッときた。
月宮さんは今までわたしをどう見ていたのだろう?
「いや、変な意味ではなくて。女子高生みたいだなと」
そういうことか。
人のデートの話で盛り上がるなんて、たしかに女子高生と変わらないかもしれない。
「それにしても、今日は随分上機嫌ですね。何かありましたか?」
正直本当に気になった。
こんなに上機嫌な月宮さんは見たことがない。
「いや、昨日ある少女に会いましてね、彼女もうちのあゆのことを気にかけてくれてるんですよ」
「それはよかったですね」
いままで月宮さんは一人だった。
昔はお見舞いに来ていたあゆちゃんの同級生も、事故から数年後には誰も来なくなった。
少なくともこの3年、月宮さんは完全に孤独だったと思う。
わたし以外にもあゆちゃんのことを気にしてくれる人がいるなら、それは相当心強いだろう。
「どんな子なんですか?」
「昨日初めてあった子なんです。なんでも街であゆにあったとかで」
「あゆって、あのあゆちゃんですか?」
「ええ、その子を病室に入れてあゆに会わせたら、街で見たと」
「話したんですか?」
「はい。なんだか他人の気がしなくて。あ、でも彼女は真面目に聞いてくれましたよ」
「そうですか」
こんな非現実的な話を真面目に聞いてくれるなんて変わった子もいるものだ。
「秋子さん、それでですね、お願いがあるんです」
「何ですか?」
「これから、あゆに会ったらその話を聞かせてくれませんか」
「それぐらいなら喜んで。でもどうしたんですか突然」
こないだ、あゆちゃんの話をすることを拒絶した時と比べると、随分な心変わりだ。
「その子がその話を聞きたがっているんですよ。まあ、僕だって気になって仕方ないですが……」
なんだかますます変わった子だ。
月宮さんの様子からすると、その子のほうが話を聞きたがっているようだし……。
「その子、かわいいですか?」
「え、そうですね、かなりの美少女だったと思いますよ」
「…………」
「ちょ、ちょっと、秋子さん。何か誤解してませんか?」
「誤解を招くようなことを言ったのは月宮さんだと思いますが……」
「うぐぅ」
「誤魔化さないで下さい」
なんだか今日の月宮さんは本当に上機嫌のようだった。
「それでは、そろそろわたしは帰ります。月宮さん、無理はしないで下さいね」
「それは秋子さんもです。仕事もあるのに病院に来るのは大変でしょう」
「お互い様です」
そう言ってわたしが病室を出ようとしたとき、月宮さんが呟いた。
「…せめて、遅くても春前には目覚めて欲しいですね」
「はい?」
思わず振り返ったわたしに月宮さんは平然を装って微笑んでみせる。
何でもありませんよ、といった感じに。
「いえ、単なる希望です」
月宮さんは何かを隠しているようだった。
あゆちゃんの出現に希望を持ちたくなるのは分かるが、それが春前というのは何故だろう?
「おやすみなさい」
「おやすみなさい、秋子さん」
わざわざ言う気もないことを問い詰めるのも悪いので、わたしは挨拶して病院を去る。
月宮さんがわたしに余計な心配をかけないように気を遣ってくれていたというのは、後日知ることだった。
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