突入作戦を明日に控え、エクシードブレイブスのメンバーも

 各々の時間を有効に使おうと、施設のあちこちに散らばっていた。

 そんな中、武はとある疑問があり香里を探していた。

 鎧衣尊人。

 火星より戻ってきた時にR・Gが崩壊したことは耳にした。

 ところが一人だけ所在の知れない人物がいた、それが尊人である。

 結局、あの裏切りの日以来出会っていないわけだが

 彼がこのまま消えるはずは無い。

 これからの戦いに、不安を残して置きたくない武は

 香里から何か情報が得られないかと、彼女を探して歩き回っていた。

 そう思って武は施設内を歩き回っていたのだが中々彼女には会えない。

 ところが廊下を曲がると、向こう側から一人で歩いてくるのは

 まさしく香里その人だった。

 「美坂」

 「あら白銀君、何か用?」
 
 香里は平然と答えた。









 エクシードブレイブス 第68話

 愚者











 武は尊人について尋ねた。

 最後に見たのはいつか、R・Gでの彼の行動。

 細かいことに至るまで武は香里に尋ねてみた。

 香里からの返事は、

 「最後に見たのは、あの最後の作戦前ね。もっともあたしも

  機体に乗り込む最中だったから、後姿を見ただけだけど」

 「そうか」

 ということは尊人は例の作戦とは別に行動をしたことになる。

 「そもそも、アイツとR・Gとの接点はなんだったんだ?」

 「久瀬君の知り合いだった…そうとしか聞いていないわ。
 
  他にアザゼルから持ち出したMSの資料なんかを貰ったみたいな

  話を開発部がしていたみたいだけど…」

 開発部とは、R・Gに存在したMSなどの開発を担当していた部署のことである。

 「それで壊滅前にまた姿を消した、か。ったく…」
 
 「現れるかしら? 彼」

 「五分五分だな、アイツの行動は俺でも読みにくい」

 「彼ってすごく怖いのよね」

 香里は意味ありげな口調で言った。

 「恐怖とは違う意味の怖さ。100%本能だけで、思うままに

  行動できるっていう感じ。彼にとっては楽しいかそうでないか

  それだけが判断材料みたいな感じを受けたわ。

  それでいて狂人というわけではなく理知的な判断を下せるだけの

  思考力もある…」

 「そうだな…思えば確かに」

 人の話を聞かずに自分の話だけを進めたり、それでいて話はきちんと理解していたり。

 考えてみれば、思い当たる節はいくらでもあった。

 今となっては苦い思い出だが、ゲームで遊んでいた時もそうだった。

 読めるようで読めない彼のプレイスタイル。裏をかいているのか

 それともただ単にがむしゃらなだけなのか、判断の付かない戦略。

 だがそんな風に感じさせることすら尊人の作戦だとしたら

 武は薄ら寒い物を背中に感じた。

 「どっちにせよ、今回の作戦に彼が乗り出してきたら…手ごわいわよ」
 
 「その時は俺が落とすさ…今度こそな」

 武は決意も新たに拳を打ちつけた。

 時刻はそろそろ夜の8時を回ろうとしている。





 ――????

 「そう、それじゃボクはしばらく身を隠すよ。

  決着が付くまでは出ない方がいいでしょう?」

 尊人は手元で何かをいじりながら答えた。

 「そうだね、『器』の覚醒はそろそろだと思う。

  『星』はあの爺さんにつぶされちゃったけど、

  まだ『剣』があるからね。勝算はあると思うよ」

 ぴた、と尊人の手が止まる。

 「今回はでしゃばらない方がいいでしょう? あなたもデータを

  取りたいはずだ。『愚者』は踊る、ただ自身の望むままに。

  ボクはボクのやりたい用にやらせてもらいますよ」

 そして再び手がそれにかけられる。

 「ええ、それは間違いなく。この世界でそれを実現できそうなほどの

  能力を持ち、モラルに欠けた人物はあなたしかいないことがわかったから。

  あの爺さんはちょっと能力が足りないね。モラルのなさ具合はばっちりだったけど」

 それが月光を受けて光る。

 「うん、それじゃボクはそろそろ行くね。いずれ…また」

 通信が切れる。

 尊人は薄ら笑いを浮かべながらそれを月光にかざして見上げた。

 「楽しければ…それでいいんじゃない? ねえ…武?」





 ――極東支部

 「あれ、国崎さん」

 「ん…ああ、アイスクリームの少女か」

 「私そんな名前じゃないですよ」

 往人の冗談に真面目に返す栞に、

 「すまないな、アイスの印象が強すぎて名前が消えてしまったんだ」

 「そんなこという人嫌いです」
  
 ちょっとふくれっつらをしてみる栞。

 だが、そんなもので別段罪悪感を感じるような往人ではない。

 「どうしたんだ? みさきの奴なら食後のデザートを皆で食べるんだよ〜

  とか言いながら食堂に行ったぞ。お前もその口じゃないのか」

 「私、みさきさんのペースについていけませんし」

 いやそれは嘘だ、と往人は思った。

 デザートの内容がアイスであったならばいい勝負をするに違いない。

 「私はお姉ちゃんを探していただけですよ。さっきから姿を

  見かけないんです」

 「ああ…香里ならシュミレーションルームにいたぞ。

  武と何か話していたようだったが」

 「そうですか、ありがとうございます」

 ととと、と小走りに往人の横を抜けていく栞。

 ふと思い出したように振り返り、

 「国崎さん、後で背中を見たほうがいいですよ〜」

 「ああ?」
 
 往人の疑問には答えず栞は廊下の角を曲がって消えていった。

 何気なく往人は背中に手を伸ばしてみたが何か、紙の様な手触りを感じ

 それをひっぱった。

 少しくしゃくしゃになったが何か書いてあることがわかる。

 拡げてみてみると、

 『食べ物をあげると、100mを7秒で走ります』






 ――リビングルーム

 「うおらぁっ!!」

 突然怒声を上げて入ってきた往人に何事かと視線を走らせる皆。

 当の本人は走ってきたため肩で息をしている。

 「どうかしたの、国崎さん〜」

 詩子がのほほんと尋ねたが、

 「これは何だ! これは!」

 突きつけられた紙を見て、皆が苦笑い交じりに視線を合わせた。

 「えーっと皆気がついていたんですけど…」

 小町は指を手であわせて困ったように、

 「何か面白かったんで言い出せなくて…」

 純夏は往人と視線をあわせないように、

 「誰も言い出さないうちに国崎さんが出てっちゃったんだよね」

 そして名雪が止めを刺した。

 「誰か一人ぐらい教えろよ…。というか観鈴! 観鈴は!?」

 「何? 往人さん〜」

 当の本人はトランプを片手にリビングの椅子に腰掛けている。

 正面にいるのはあゆや真琴だ。おそらく三人でババ抜きでもしていたのだろう。

 「お前まで教えてくれないことは無いだろう…」

 「え? だって私正面に座ってたから知らなかったよ?」

 「はい?」

 「にはは、往人さん忘れてる? 私のほうが先に座ってたんだよ席」

 困ったように言った観鈴の言葉はさらに往人の敗北感を増した。

 そして往人が席を立ったときには観鈴は先に食べ終わり、後片付け組みを

 手伝ってたことは、食器を持って行ったときに知っている。

 「こ、これはいじめだ! 住所不定無職の哀れな青年を

  汚いものでも見るかのような…! 差別だ差別!」

 今度は訳のわからないことを叫び暴れだす往人。

 静から動へと忙しい男である。

 「観鈴〜、次観鈴の番〜」

 「あ、ごめんね真琴ちゃん」

 そう言って観鈴は真琴から一枚のカードを取る。

 そこにはにこやかに笑う死神の姿が。

 俗に言うババというカードである。

 表情に出さないように努力するものの、

 観鈴はポーカーフェイスが苦手である。

 「さあ、あゆ、真琴にカードを引かせなさい」

 「何でえらそうなの、真琴ちゃん」

 すぱっと悩みもせず真琴はカードを引いた。

 そして会心の笑みといわんばかりの微笑を浮かべ、

 「やったー! 真琴またいっちばーん!」

 「ええー!?」

 あゆが残念そうに叫ぶ。

 見れば真琴の手札はすでにない。

 「また観鈴とあゆの一騎打ちね」

 「うぐぅ…何で勝てないんだろう…」
 
 と、往人の件はなかったがごとくトランプは進められていく。

 そこで小町があることに気がついた。

 「そもそも最初に貼ったのは誰なんでしょうね?」

 「ま、こんなことを考えそうなのは数人しかいないわね」

 そう言って翼は指折り数えてみる。

 「折原、住井、そしてさくっち。この中の誰かかあるいは共謀か…。

  ま、一人一人締め上げればすぐに…」
 
 「うおおおおおおおお!」
 
 ドドドッドドッドド…

 翼が言い切らないうちに往人はまたしても叫んでリビングを飛び出して行った。

 「落ち着きの無い…」

 ふう、と翼はため息をついた。

 「でも、皆いつも通りだよね。私最初緊張してたんだけど何か安心しちゃった」

 「や、それが一番だと思うよ」

 「うん、背負い込んでもどうしようもないし」

 翼と名雪は答えた。

 どのみちやれるだけやらなければいけないのならば。

 それこそいつもどおり振舞えることが一番大事なのではないか。

 皆、声に出さずともそれを知っているから普段どおりに過ごせる。

 仲間たちがいることが。

 そして明日はいよいよ決戦の時。

 お互いの存在を頼りにしつつ、皆が皆眠りに付くのだった。






 追記

 結局、往人の半ば強引な調査により、往人の背に張り紙をした犯人は

 全員であることが判明。

 舞人が往人に話しかけて気を引き、住井が紙を張り、

 浩平がわざとらしく背中からぶつかると言う三段重ねの悪戯だった。

                               続く


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