――アザゼル本部 終わりなき絶望(エンドレスディスペア) アザゼルの本部はその姿を公の元に晒していた。 連邦は崩壊し、グレゴリと言う隠れ蓑を必要としなくなったからだ。 人工島。 研究施設と島とが一体となった移動可能な島。 それがアザゼルの本部である。 ほぼ円形の島には植物と言ったものはなく、島といっても 移動要塞に近かった。堕ちた聖域のようなカモフラージュもなく 中央に三階建ての研究施設が陣取り、その周囲は特に防壁なども無いが その見通しのよさが返ってメタルギアを放つには丁度よかった。 その最深部、最重要研究施設には一人の少女が椅子に座っている。 その少女の容貌は儚げで、触れば消えてしまいそうなほど存在感が無い。 髪は肩を超える位長く、その瞳はどこか虚ろで意思が宿っていないように見える。 体は小さめ、白いローブのような物を羽織っているだけで 身動き一つしなかった。 アグマイヤはそんな少女を下から上まで舐めるように鑑賞していた。 その目は自分の作品を眺める創作家の目になっていた。 但し、純粋さは欠片も無かったが。 「アグマイヤ様、精神侵食率100%を超えました。 ユーアはいつでも起動できます」 研究員の一人がそう報告すると、 「ご苦労、但しユーアは自己覚醒状態にしておけ。 我々からこやつを起動する事は無い」 「は? しかし、すでに調整は完璧ですが…」 「馬鹿者、お主はわかっておらんのか?」 くっくっくととても可笑しそうに笑ったアグマイヤ。 「神が人に起こされるわけが無かろう? 自ら目覚めの時を悟るはずじゃ。もはや ワシらが出来ることなど無いのじゃよ」 「成る程…」 研究員の男はわかったようなわからないような感じで曖昧な 返事を返した。 全ての準備は整いつつある。 神の目覚めの時が。 覚醒した『器』が動き出す時が迫りつつあった。 エクシードブレイブス 第69話 鋼鉄の悪魔と鋼鉄の勇者達 ――ノアシップ 格納庫 「いいじゃないですか相良さん、大丈夫ですから」 「いやー、ちょっとそれはなあ…」 聞きようによっては少々危なげな会話に聞こえる栞と山彦のやり取り。 作戦決行日の前の日の夜のこと。 山彦は栞に頼まれごとをされたのだが、この内容というのが少々 無茶な内容だった。 「お姉ちゃんにこんな色は似合いません。塗り替えちゃってください」 「美坂さんに怒られても知らないぞ…」 頼みごとの内容は、要は黒いキュベレイの色が香里に似合わないので 白に塗り替えてくれ、というものだった。 色気も何もあったもんではない。 まあこの二人にそういった話が出るはずも無いのだが。 塗り替えの作業自体はそれほどかからないだろうが、機体のデザインに ついては本人達の希望が優先されるので、承諾なしに塗り替えるのを 山彦が渋っているというわけだ。 「大丈夫です、私も美坂さんです」 理由になっていない、山彦は心の底からそう叫びたかった。 だが反論する気の起きなかった山彦は、塗り替え作業を開始した。 もとい反論しても無駄だと悟った。こういうときの栞は何故か妙なほど押しが強い。 翌日、真っ白に塗り替えられた愛機を見て 苦笑いをして立ち尽くしていた香里の姿を見かけるものが何人もいたと言う…。 ――ノアシップ 作戦会議室 「現在アザゼル本部を兼ねた人工島は太平洋中央へと移動中。 現在我が艦は後方より追跡中」 月詠がモニターを指しながら状況を説明する。 「今回の作戦は総力戦ですが、数体別働隊として 本部を直接急襲する突撃隊を編成します」 「突撃隊?」 信哉は聞き返した。 「ユユさんの搭乗するグレンツェンを援護しつつ、 シュヴェルツァーを破壊する部隊です。 進行ルートは島の沿岸部。 但し、グレンツェンは海中を移動してください」 「敵側に私の存在を勘付かれるとまずいからね?」 ユユの問いかけに無言で頷く月詠。 モニターには丸い円が表示されている。 円の中央よりに外周に赤い点、これがノアシップの接触ポイント。 そこからぐるっと外周沿いに進む矢印、終着点はやや中心より。 それが突撃隊の進軍ルートだった。 「突撃隊は出来るだけ交戦しつつ、無駄な浪費を避けつつ北上。 本部前でグレンツェンと合流してください。 ではメンバーを発表します」 月詠は別のモニターに切り替えた。 「信哉さん、真里菜さん、武さん、詩子さん、マークさん、マコトさん 以下六名でユユさんをサポートしてください」 「わかった。だが具体的にそのシュヴェルツァーを倒す手段ってのは なんなんだ?」 マークが当然の疑問をぶつけた。 それに答えたのはユユである。 「グレンツェンとシュヴェルツァーのコアは共振反応を起こせるの。 元々一つのコアを二つに分けたものだからね」 「ああ、それで?」 「二機の再生機構を統括しているのはこのコアなの。 つまり共振反応を起こして両方のコアを消滅させ、 再生機能のなくなったシュヴェルツァーを残りのメンバーで破壊する。 これがシュヴェルツァー攻略よ」 「わかった。それでコアを破壊するための条件は?」 「直接グレンツェンのコアにコンタクトしないと出来ないから、 グレンツェンがシュヴェルツァーに接触する必要があるの。 けどあのジジイもそれを知っているでしょうから、私だけじゃ 近づくのは不可能」 「俺らでその隙を作ってやる必要があるってことだな…」 パン! マークは手のひらに拳を打ちつけた。 「任せろ、サクっと終わらせてやるぜ」 「はいはい、頼りにしてるわよ」 そんなマークの意気込みもユユにさらっと流された。 話が途切れた時、留美が質問を続けた。 「私たち、正面からのメンバーは何を?」 「残りのメンバーはメタルギアの殲滅に当たります。 但し、知っての通りメタルギアは強敵です。 常に複数のメンバーでの連携を心がけ、危ないと思ったら 母艦に引き返してください」 ノアシップから一直線に中心に向かって引かれる矢印がモニターに 表示される。 残りのメンバーが進む進軍ルートだ。 小細工も何も無い正面突破。 「わかりました」 そこで会議室は静かになる。 もう誰も質問は無いようだ。 「予定では後二時間後には島に接触できると思います。 それまで各自準備を怠らないように、では解散!」 ――ノアシップ 廊下 「……緋神」 「ん? ああ彩峰、どうした?」 廊下を歩いていた信哉は慧に出会った。 「……これで終わると思う?」 「……」 信哉はその問いに肯定しなかった。 まるで見透かされている、そんな気がした。 そう、まだ可能性がある。だが信哉は余計な不安を与えないため その事を伏せていた。 …イサイルから聞いた話の事を。 「……やっぱりまだ何かあるんだね」 「気づいてたのか」 「………さあ」 「…聞いてるのは俺なんだが」 信哉は頭を抱えた、武を見ているとよくわかるのだが やはり慧のペースはどこか常人とは違う。 「……前から聞いている神とか器とかっていうのがちょっと」 「まあ、普通に考えれば気になるよな」 「……でも確信じゃない。ただの憶測、だから余計な混乱は避けたい」 「だから誰にも話さない、か」 「……確信に変われば言うよ?」 「……言っておくがそこまで言われて俺が話すと思うなよ?」 「………ちぇ」 「拗ねてもダメだ、それに…俺だってわからない」 そう、慧と同じで信哉の中にある答えも憶測でしかない。 全ての真実は全てあの男の中に。 アグマイヤという狂った老人の頭の中にしかない。 「一つ言っておけることがある」 「……何?」 「神様なんていない。奇跡なんて無い。俺がはっきり言えるのはそれだけだ」 「……」 「だから…人は努力する。無駄かもしれない、けれど結果が見えるまで 諦めない。都合よく思い通りになる力なんてなくていいんだよ、俺たちには」 「………」 「何だよ、可笑しいこと言ったか?」 慧は少し、いやわずかにと言うべきか口元に少し笑みが浮かんでいる。 「……単純馬鹿」 「…ぐ」 「……けど、そういう考え方は嫌いじゃない。白銀もそう」 「武もか」 「……馬鹿同士、通じ合う物がある」 「もういい、どっか行け」 そう言いながら信哉は慧に背を向けた。 慧もまた信哉に背を向ける。 二人とも…そこはかとなく笑っていた。 ――ノアシップ 格納庫 格納庫内では時間ギリギリまで最良の状態に機体を維持するため 整備班がひっきりなしに動いている。 それだけではなく、引き返してきた機体の整備もすぐに出来るよう 受け入れ態勢も整えている。 そんな中、一人の男が機体のチューンを行っている姿があった。 「鷹嘴さん…さすがにこれ以上は限界ですよ。機体が溶けちまう」 山彦はもう限界だという風に答えた。 「そうだな、俺の理論でもこれ以上は無理だと告げている。…今のままではな」 「まだ上を目指すんですか」 「俺の理論に終わりは無い」 そう言いながら鷹嘴は手元のノートを叩き続ける。 それが彼の証明。彼の武器。 鷹嘴は愛機、リ・ガズィを見上げるとまたキーボードを叩き始めた。 一分一秒、コンマの差でさえも今より速くあるために。 彼はそれだけを考えキーボードを叩き続ける。 この戦いは全ての人が戦っている。 ノアシップに乗る全ての人が。 船は、悪意と鋼鉄の悪魔のひしめく島へと進む。 鋼鉄の勇者達を乗せて。 続く もしよろしければクリックしてください〜。 SSのTOPに戻る