「くっ!」

 「ほうれ、ほうれ、どうしたんじゃ動きが鈍いぞ?」

 黒い剣を振り回し、弄ぶようにグレンツェンを翻弄するシュヴェルツァー。

 反撃をしたいのだが、グレンツェンの目的はシュヴェルツァーの

 再生能力を破壊するというものだ。

 無駄に戦闘を重ねて、必要なエネルギーを使い果たしてしまうわけには

 いかない。

 アグマイヤもそれがわかっているから、まるで抵抗できない捕虜を

 いたぶる様にグレンツェンに仕掛けている。

 そんな様子を後ろから見守っていた他のメンバーだが

 下手に援護を仕掛けてもグレンツェンの狙いがわかっている以上

 それが徒労に終わってしまう可能性は高かった。

 ゆえに援護すら出来ずにただ少し離れた位置で出方を窺うしかなかった。

 だが、この状況に業を煮やしたのかマークが

 「気にいらねえな、あのジジイ…」

 「マークさん?」

 真理奈が尋ねるが、マークは返事をしない。

 「ユユが手出しできないと思っていやがる…か。

  ならかえってそこが狙い目か」

 「おい、マーク。どうしたんだよ?」

 黙っているのが不思議に思ったのか武も呼びかける。

 「お前ら、攻撃の準備をしとけ。俺がチャンスを作る」

 「えっ? でもまだミナサキさんが…」

 詩子が尋ねるが、マークは、

 「ユユが動くチャンスを俺が作る。お前らはすぐにでも

  仕掛けられるようにしとけって」

 「マーク…?」
 
 マークはそれだけ言うと通信を切った。

 そして愛機であるR−911−3を見回した。

 「頼むぜ、相棒」

 そう言うとマークは通信を開いた。

 相手は当然…









 エクシードブレイブス 第72話

 闇を切り裂く光、閃光となって











 ピピピ

 グレンツェンに通信が入る。

 敵の様子を窺いつつ、ユユは通信を開いた。

 『よう、苦戦してるな』

 「マーク? そんなことを言うためだけに繋いだのなら殺すわよ」

 イライラしてるのかユユは歯に衣着せずに言った。

 殺気も十分にこもっていて、子どもを恐怖のどん底に陥れるには

 十分すぎるほどの威力がある。

 我が相棒ながら、とマークは少し身震いしながらも話を続ける。

 『まあ待てって。要はグレンツェンの手があの黒い機体の
  
  心臓に届けばいいんだろ?』

 「それが出来ないから困ってるんじゃない」

 『ちなみにコアってのは破壊できるのか?』

 「多分無理ね。コアまで衝撃が届くまでに二重三重の障壁が

  展開されているはずだから。だから共振反応を起こさないと壊せないのよ」

 『なら、逆に言えばコアは残るわけだ』

 「マーク…あなた何を?」

 『波動砲をフルロード、リミッターを解除し至近距離で

  ぶっぱなす』

 「ちょ! 何考えてんのよ! そんなことしたら…」

 『おそらく威力に耐え切れず砲身はぶっ飛ぶだろうな。

  まあコックピットまで飛び火する可能性もないわけじゃない』

 「それがわかっててなんで…!」

 『頭にこないか、あのジジイ』

 「は?」

 『あのクソジジイに、お前が作った機体のほうが優れてるって

  身をもって証明したいだけだ。でないとお前の相棒の俺の

  腕まで疑われる』

 「…言ってくれるじゃないの」

 ユユはその言葉に不敵に笑った。

 『お互い様だ。つーわけでこの破損に関しての責任は無しな』

 「ちゃっかりしてるわね。いいわよ条件付でね」

 『ほう、どんな条件だ』

 「…生きなさい」

 先ほどとはうって変わって真剣な口調でユユは答えた。

 『……』

 「死んだら、私が死ぬまで償わせるから。私の機体を使ったのに

  死んじゃうような馬鹿にはね」

 『了解した、その条件でいい。それじゃタイミングは外すなよ。

  文字通り…一発だ』

 「わかったわ」

 そう言って通信を切った。

 お互い交わすべき言葉はもう無い。
 
 これで終わりじゃないのだから、次がある。

 マークはそう約束した。だからユユはこれ以上

 かける言葉は無かった。

 突然、動きの止まったグレンツェンにアグマイヤは

 「どうしたんじゃ、もう観念したのかの?」

 「冗談じゃないわね、貴方を倒す作戦を練っていたところよ」

 そう言うとシュヴェルツァーの頭上からレーザーが撃ちこまれる。

 アグマイヤはその方向に目を向ける。

 そこにはレーザーを撃ちつつ接近するR−911−3の姿があった。

 「戦闘機じゃと…ヒョーヒョヒョ、そんなもので

  シュヴェルツァーと戦う気か? 巨象に挑む蟻の一撃、

  いや、蟷螂の斧とはこのことじゃな、ヒョーヒョヒョ」

 アグマイヤはその滑稽さに大笑いした。

 機体の操作も放っておくほどに。

 レーザーは一見全て弾かれているように見えるが、傷つけた矢先から

 再生しているだけである。

 (機体装甲はさほど丈夫じゃない。これなら…!)

 マークは手元のコンソールを左手で操作しつつ右手の

 レバーはシュヴェルツァーに向かっていくよう機体を操作した。

 「波動砲エネルギー充填リミッター解除、機体制御オートパイロット設定。

  照準セット、フォース後方移動完了、衝撃座標軸修正プログラム起動…」

 カタカタと音を立てて、R−TYPEのプログラムを

 修正していくマーク。

 そんな彼に一瞬過去の事がよぎった。

 死に直面して恐ろしさに取り乱したあの頃を。

 今も同じだ、一歩間違えば死ぬ。その状況はあの頃となんら変わりない。

 だがこの落ち着きはどうだろう、死ぬことが怖く無くなったのだろうか?

 しかし、マークはわかっていた。死ぬことなんてないからだと。

 自分は生きるために今飛んでいる。死ぬためではなく、生きるために。
 
 だから怖くは無い。相棒の信頼を、この機体を、そして今まで生き抜いてきた
 
 自分の腕を信じているから。

 やがて目の前にシュヴェルツァーの姿が映った。

 後はトリガーを引くだけだ。

 「さあ…真っ向勝負と行こうじゃねえか…!」

 カチッ

 そのトリガーは今まで引いたどのトリガーよりも重かったように感じた。






 ズドオオオオオオオ!!






 バチバチバチッ!
 
 その砲身からあり余るほどの巨大なエネルギー砲。

 逆流したエネルギーの一部が機体の表面を走り、装甲が破損し
 
 欠片が飛ぶ。

 機体は小刻みに震え、普通ならその衝撃で狙った照準も何もあったものでは

 ないはずなのだが、マークが事前に用意したプログラムと

 「このおおおっ!」

 腕が千切れそうになりながらも彼自身が機体を安定させていたからだ。

 だがその安定が彼にとってはよくなかった。

 本来、どこかに吹き飛んだりバランスを崩すことで

 行き場の無いエネルギーは機体の外に向かうのだが

 波動砲として撃ち出されている状態を維持しているため

 そのエネルギーは全て機体に返る。

 ズガオン! ボン!

 すでに計器類は破損し、エマージェンシーを伝える

 レッドランプがコックピット内に点灯している。

 機体の表面はすでに装甲がはげてボロボロで
 
 今にも砕け散ってしまいそうだったが、それでもマークは耐えた。

 行き場を失い、溢れるエネルギーはすでにマークの左半身を焼き尽くしているが

 血に濡れ、皮膚は裂け、体は悲鳴を上げているがマークはそれを無理やり押し込んでいる。

 この悲鳴は機体の悲鳴と同じ、機体が耐えているのにパイロットの自分がうめき声を

 上げることなどどうして出来ようか。

 「ぐっ…この程度の痛み…この程度の痛みでぇっ!!」

 少しでも気を抜けば衝撃で折れてしまいそうな腕で、必死にレバーを固定するマーク。

 そしてユユはすでにグレンツェンを走り出させていた。

 タイミングは見えた、後はチャンスを待つのみである。

 一方マークの方は、機体が吸収しきれない衝撃のダメージが全身に回り始めた。
 
 最初から襲われている左手と左足が完全にやられているのがわかったが

 痛みは不思議と感じない。

 そんな余裕も無いのか、それとも間隔が無くなったのか。

 やがてそのあふれ出す波動砲のエネルギーが徐々に途切れ始める。

 「いけぇっ! ユユッ!」

 その叫びを最後にマークの意識は途切れた。

 だが傷つきボロボロのはずの両腕はしっかりと機体の操作レバーを握っていた…。

 「くっ…さすがに驚いたがこれくらいではシュヴェルツァーは…」

 視界が開き、機体の損傷を確認しつつ、

 アグマイヤがそう言いかけたとき、

 「残念ね、アンタはここで終わりよ!」

 ガキン!!

 グレンツェンの右手は確かに、シュヴェルツァーの黒いコアと接触した。

 「し、しもうた狙いは…!」

 「遅いっ!」

 ガガガガガ…

 小刻みに震えるシュヴェルツァーのコア。

 それと同時にグレンツェンのコアも震えだしている。

 その振動がユユには、はっきりと伝わっていた。

 「砕けなさい! 悪しき研究の成果よ!」

 パキィン!

 やがてその振動によって、コアはまるで霧散するように

 空気中に消えた。

 その砕いた時の静かな衝撃は全て、ユユの精神を蝕んだ。

 頭が割れるような痛み、音無き悲鳴のような耳鳴り。

 途切れかける意識の中、それでも最後にユユは、

 「はあ…はあ…後は頼むわよ…皆…」

 そのままがっくりとうなだれたまま気を失った。

 ガシャン

 グレンツェンは機体の操縦者の気絶と同時に

 制御を失いその場に止まってしまった。

 そしてマークのR−911−3は、

 大破しなかったのが不思議なくらいボロボロに変わりながらも
 
 グレンツェンの足元に不時着していた。

 一瞬、何が起こったのかわからなかったが

 いち早く信哉は動いた。

 「飛べっ、アガートラーム!」

 ズドオオオオ!

 無防備な二人の機体をあのまま晒しておくわけに行かない。

 そう思った信哉は考えるよりも先に、グレンツェンを庇うように

 前に出た。

 「アグマイヤァァァァァ!」

 バシュン!

 そのまま一気にバーストブレードでシュヴェルツァーを吹き飛ばす。

 回転し、勢いの乗った斬撃にエネルギーを上乗せして放つ

 アガートラームの一撃。

 「うおおおっ!?」

 ズドオオオ…!

 地面に仰向けに倒れこみ、肩のパーツが一部破損したシュヴェルツァー。

 その間に信哉はグレンツェンとR−911−3をやや離れた場所に

 移動させた。

 二人に一応通信で呼びかけるが返事は無い。

 だが、熱量反応はある。
 
 二人とも死んではいない。

 「マコトさん、ユユさんはどうして…」

 「グレンツェンもシュヴェルツァーも搭乗者には

  精神に何らかの影響を与えているの。

  原因は不明だけど…多分それがユユに何らかの負荷をかけたんでしょうね」

 「ユユさんは…」

 「知ってて乗ったわ。こんなものを作った私の責任だって。

  作られたものに罪は無い。作り出したものと動かしたものが
 
  その責を負うべきだ…ユユは作る時にいつもそう言ってたわ」

 「そうですか…」

 いつもの姿からは想像出来ない言葉だ。

 だがそれこそがユユの本当の姿なのだろう。

 「緋神君! あの黒いのが…」

 詩子の叫びに信哉は振り返った。
 
 シュヴェルツァーが起き上がったのだ。

 だが、脅威はどこにもない、何故なら。

 先ほど破損したパーツがそのままだ。

 驚異的な再生能力、それこそがシュヴェルツァーの脅威だったのだから。

 それが失われた今、あの機体にどれほどの恐怖があろうというのか。

 「アグマイヤ…ここまで来るのに長かったよ」

 「ぬう…」

 どうやら再生能力が失われたことは気がついているらしい。

 先ほどの余裕はどこにもない。

 「あなたのおかげで失ったものはたくさんある。

  生み出された悲劇もたくさんある」

 そしてアガートラームはブレードを構える。

 「けど、今日ここで全てが終わる。

  ここまでの道を皆が作ってくれたからな!」

 「ぬおお!」

 シュヴェルツァーは動き出す。

 最後の悪あがきをするつもりなのだろう。

 「皆! 俺に続けぇっ!!」

 ズドオオオオ!

 アガートラームがその剣を構え真っ直ぐ突進する。

 そしてその姿に惹かれるように残りの機体が突撃する。

 全ての決着が今、訪れようとしている。

                               続く


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