ゴオオオオ…

 ユーアの機体が現れてから、誰も口を開かない。
 
 いや、開くことが出来ない。

 そこにいるのは圧倒的な威圧感を放つ、人造神。

 人によって作られた物ならばどうしてここまで畏怖を感じるのか。

 ゴゴゴゴゴ…

 その答えを誰も出すことなく、突然人工島が揺れ始める。

 「これは…何だ?」

 信哉はコンソールに視線をやる。

 島の地下、いや残った建物を中心に何かが地上に出てこようとしているのが

 モニターの表示でわかった。

 どの道、これ以上の戦闘は無理だ。

 信哉はノアシップのブリッジに通信を開いた。

 「月詠艦長! 撤退だ! これ以上の戦闘は意味がないし

  何より何か…ヤバイ!」

 『え、ええ。しかし…』

 「とりあえずアグマイヤは死んだ。けど…まだなんだ!

  まだ何かが起こる! とにかく一旦集まってここから離れた方がいい!」

 『わかりました、貴方の言うとおりにいたしましょう。

  各機、撤退を! 全速でこの領域から離脱します!』

 その間、ユーアは何をするでもなくただ黙ってたたずんでいる。

 信哉は後ろを警戒しつつも、ボロボロになったグレンツェンを担ぐのを手伝い

 後方で待機するノアシップへと撤退した。

 全員がノアシップに帰還すると同時に、それは現れた。

 島の外周をその場に残し、基地は塔へと姿を変えた。

 塔を中心に浮かび上がる、それはまさに空中の要塞。

 ぐんぐんと上昇し、空へと上がる神の城。

 そして振るわれる裁きの雷。

 ヒュオン!

 聞こえたのは一瞬の音。

 ドオオオオオオ…

 そして地上のどこかにそれが落ちる音もすぐにやってきたのだった。









 エクシードブレイブス 第74話

 JUDGMENT











 アグマイヤとの戦いから数日が過ぎていた。

 ユーアがあの日放った閃光は地上の大地を焼き尽くし、

 数多のコロニーを薙ぎ払った。

 さすがに消滅したコロニーなどはなかったが、地球周辺の

 コロニーの被害は甚大で、地上は大混乱に陥っている。

 あの圧倒的で絶望的な力を見せ付けられたその後、

 ユーアから地球上、周辺のコロニーに一斉に通信が入った。

 内容は至極簡単である。

 『私はこの世に覚醒した神、ユーアである。

  汝ら人の驕りを裁くため、今ここに地球から人の一掃と

  宇宙に上がった人類を抹殺を宣言する。

  これは警告ではなく、予告である』

 彼女はそう告げた。

 『三日後、まずは地球から人類を消す。

  その後、私は宇宙に出る。

  そして地球は再び長い年月をかけて

  元の姿へと再生を始めるのだ』

 それだけを言い残しユーアの通信は切れた。

 当然、この通信を誰もが性質の悪い冗談と考えた。

 その数分後、謎の攻撃を受けて月周辺のコロニーが全滅するまでは…。

 三日後、という期限を待たず先手を打つべしと考えた

 コロニーは保有する戦力をユーアにぶつけた。

 その戦力の数は地球を制圧するには十分すぎるほどの数だった。

 R・Gが先陣を切ってはいたが、地球に対する反感を持ち、
 
 密かに戦力を温存させていたコロニーの数は多数存在したのだ。

 だがそれだけの数を持ってしてもユーアの居城は揺るがず

 いともたやすく撃破された。

 生産ラインは失われたが、まだ神の居城を守る鋼鉄の兵士達は健在だ。

 メタルギアの連携の前に、数だけの戦力など無意味だ。

 もっともユーアに守護者など必要ないのかもしれないが…。

 こうして、地球とコロニーはかつてない危機に見舞われた。

 パニックの中、ユーアを本当に神だと信じ狂信する

 信者も現れたりもした。

 現在は、唯一残った珠瀬長官の指示の元、各地区に生き残った

 住民を集めている。軍がそれらを保護するという形で生存者の
 
 一点集中を図ろうと言う事だ。そうする事で混乱を避けようと動いている。

 比較的落ち着いている極東支部周辺の街では、普段どおりの

 住民達の営みが見えるが、それでも不安の色は隠せない。

 ノアシップでは最終的な決を皆がリビングで待っている最中であった。

 連邦が瓦解した今、実質的な指揮は全て珠瀬長官に移っていた。

 月詠、秋子、珠瀬の三人で二日後にどうするかを話し合っている最中なのだった。

 そして、結論を告げる時間が来た。





 ――ノアシップ リビング

 モニターに月詠の顔が表示される。

 その場に集まった皆は今か今かとその口が開くのを待つ。

 「それでは皆さん、私たちの決定を報告します」

 誰もが息をのみ、静かにそれを待つ。

 「エクシードブレイブスは」

 どうするのか、

 まるでこの一秒がものすごく長く感じられる。




 「ユーアに対し最終攻撃を行うことが決定しました」

 ワアアアア!

 その言葉に皆が皆、歓声を上げる。

 このまま引き下がる事など誰が考えようか。
 
 皆は徹底抗戦の気でいたのだ。

 「攻撃開始時刻はユーアの攻撃が開始される

  二日後の18時より前の朝9時に行います。

  今日と明日、皆さんは英気を養ってください。

  我らが失敗すればどの道地球に未来はありえません」

 そう、コロニーと地球両方を合せても唯一ユーアに対抗できるのは

 このエクシードブレイブスのみだろう。

 「以上です、皆さん…最後まで諦めずに頑張りましょう」

 ピシュン

 そういい残しモニターは消えた。

 とにかく時間があるのはいい事だ。

 そう思った信哉は医務室へと向かうことにした。






 ――ノアシップ 病室

 パシュウ

 自動のドアをくぐり信哉は病室へと入る。

 「ん? 緋神君か」

 そこにはマークの左腕を取って診察している聖がいた。

 「霧島先生、マークは…」

 「ふむ、とりあえず一命は取り留めたよ。ユユさんの方も

  精神にかかった負担による昏睡だ。眠ればじきに目を覚ます」

 「そうですか」

 とりあえず二人ともあの無茶にも関わらず無事に生き残った。

 それは信哉にとって何よりありがたかった。

 「ただ…フォークナー君の方は無傷というわけにはいかないな。

  左足は完治するが、左腕は…どうやっても義手になる」

 「……」

 信哉はマークの腕に目を向ける。

 この犠牲の上に自分達はアグマイヤを倒した。

 感謝してもしききれない。

 名誉の負傷、何て言葉は他人がその人の痛みを知らぬから

 無責任に言える事だ。

 そんな陳腐な台詞をマークに捧げても彼は喜びはすまい。

 「信哉、そんな顔をするな。むしろ聖先生のおかげで
 
  左足は何とかなったんだ。儲けもんだ」

 「そう…なのか?」

 「ああ、お前らみたいなガキにこんな痛みを背負わせずに済んだ。

  俺はそれだけで満足だ。こんなのはな、一生知らなくていい。

  俺は過去に清算しなきゃならないことがあったから

  あそこで逃げるわけにはいかなかった。これはそのツケだよ、

  もっとも大分まけてくれたみたいだがな」

 くっくっくと心底おかしそうにマークは笑った。

 その表情には何か憑き物が落ちたような顔に見えた。

 その視線の先に彼が何を見ているのか、信哉は知らない。

 だから信哉もいつものように軽口を返す。

 「なんだよ、そんなにでかいツケだったのか?」

 「ああ、左腕だけで済むとは思えないほどな」

 そう言ってマークは自身の左腕を見た。

 包帯が巻かれかろうじて腕の形をしているが

 この腕はすでに死んでいる。

 「まあ聖センセが義手を用意してくれるし

  まだパイロットを降りる必要はないそうだ」
 
 「まだ乗るのか」

 「悪いな、まだ楽隠居はさせてくれないんだよ、

  もっともさすがに今回の戦いは無理だが」
 
 そう言って歯がゆそうに唇を噛んだ。

 「肝心な時にお前らヒヨッコの尻拭いをしてやれないのは

  不安だが、しっかりやってこい」

 「言ってろ、病室にすぐに勝利の報告を届けてやるよ

  大怪我人」

 そう言って信哉はマークの右手をぽんと叩いた。

 「それじゃ俺は行くよ、お大事に」

 「ああ」

 パシュウ

 そう言い残し、信哉は自動ドアの向こうに消えた。

 「それでセンセ? 俺の義手はどうなるんだ」

 「そうだな…希望があればドリルなどもつけられるがどうする?」

 「そいつは魅力的な提案だが、生憎ドリルなんて火星じゃ使い道がねえ。

  マシンガンくらいにしてくれないか?」

 「仕込み腕か、生憎と私はそういう物騒な物は作らん主義でね」

 「ドリルは物騒じゃないのか…」

 などと病室では不穏当な会話がなされていた。
 
 



 ――ノアシップ 廊下

 そこには思いつめた表情で立つあゆがいた。

 信哉は覚悟を決めてあゆに声をかける。

 「月宮、どうかしたのか」

 「あ、緋神君。教えて欲しいことがあるんだよ」

 やはりそう来たか。

 おそらく真実を知るのはもう俺だけなのだと知っているのだろう。

 「ユーア…あの子の事、緋神君は…」

 「知っている。もっとも他人から聞いた情報と俺の考えとで成り立つ

  推測だけど」

 「お願い、あの子の事教えて欲しいんだ。

  あの子から感じたあの念、あれは…」

 「わかった…少し長い話になる。甲板に出よう」

 そう言って信哉はあゆを促し歩き出した。
 
 あゆもそれに従い無言で信哉についていくる。




 ――ノアシップ 甲板

 甲板からはわずかに風が吹く。

 航行していないノアシップの甲板は少しくつろぐのも悪くない場所だ。

 ついてきたあゆを振り返り信哉はポツリと語り始めた。

 「まずは結論から言おう。ユーア、あれは月宮、お前の体細胞を使った

  クローン体だ。7年前、お前は真琴と一緒に父親の手で

  アザゼルより救出されたけど、あれは違うんだ。

  真琴のことは計算外だったみたいだが月宮のことは

  最初から手放される計画だった」

 「え? だって…」

 「救出されるまでの間に、ある計画が成り立った。

  それはすでに自我の芽生えつつある子どものお前を使うより
  
  一からお前と同じ能力を持つ物を育成した方が
  
  効率的だと思われた。だから、同じ念を持つお前が

  クローンにどのような効果を与えるかわからなかった。
  
  それでアザゼルはお前をわざと父親に返したんだ」

 「……」

 「そして立ちあがったゴッドフォースプロジェクト。

  数少ないサイコドライバーの子どもを集め、
  
  様々なタイプの念を研究し、最終的に適応者に

  神としての覚醒を促す計画。その課程でやはり
 
  能力の強さはユーアがトップだった」

 あゆは黙って聞いている。

 「ユーアにはもっとも神に適した者として『器』の名を

  尊人はその不安定さ、制御の出来なさから『愚者』の名を

  祐一はその能力の低さ、可能性を期待するという皮肉を込めて『星』の名を

  そして俺は…俺の念は他の三人のフィールドを破れるという

  あまりに攻撃に特化した念ゆえに『剣』と呼ばれた」

 信哉は一息ついてまた話し始める。

 「俺たちは結局神としての適正は高くなく、ゴッドフォースなどと

  ご大層な名前だったが、どちらかというと神が覚醒した時の

  尖兵としての意味合いが強かったらしい。まあ…これが
 
  ジジイの計画の全貌さ」

 「そう…なんだ」

 あゆの表情には色々な物が入り混じり、よく読み取ることは出来ない。

 「ただ付け加えるなら、あゆのコピーは二体作られた。

  染色体レベルで細胞をいじり、男性体と女性体が。

  もっとも男性のほうはやはり適正が上がらず

  アザゼルに放棄された。それが俺たちが火星で戦った

  イサイルだった」

 あゆは答えない。何かを考えているのかそれとも
  
 あまりに大きすぎた事の重大さにつぶされようとしているのか。

 「ユーアにはスイッチが入れば神として覚醒できるだけの

  サイコドライバーとしての素質があったらしい。

  もっともなんでサイコドライバーが『神』と呼ばれたのかは
   
  知らないけどな…」

 「………」

 「俺が知っているのはここまでだ。スイッチの入ったユーアは自身を

  神として信じ込み、いや信じ込むとは違うか。神としての人格に目覚めた

  という言い方のほうが正しいか。そして不要な人類を抹殺し裁く存在になった。

  そうプログラムされていると、イサイルから聞いた」

 「ねえ、緋神君、一つだけ教えて」
 
 「なんだ」

 「ボクの念は…ボクの力は…彼女に通じるの?」

 信哉は目をつぶって静かに首を横に振った。

 「……残念だがお前だけの力じゃアイツには届かない。

  無論、それは俺にも言える事だ」

 「そうなんだ…」

 少し肩を落としたようにつぶやくあゆ。

 「あゆ、けどサイコドライバーの力はあくまで念だ。
 
  それは信じる心に他ならない」

 「うぐぅ?」

 「難しく考えるな、俺たちは全力でアイツにぶつかるだけだ。

  大体、人から作られた物が神様名乗るなってんだ。

  同じ人なら…俺たちが勝てないことはない」

 「あ…うん! そうだね!」

 その信哉の言葉が心強かったのか、あゆは笑顔で返事をした。

 「そう思うなら、今のうちにたい焼きでも食っとけ。

  お前はたい焼きが切れると食い逃げ犯になるんだろ」

 「うぐぅ! そんなことないもん!

  ちゃんとお金払うよ!」

 「そうかそうか、だったら今のうちにたらふく食っておけ。

  次は三日後だぞ食べられるの」

 「…何か引っかかるけど、そうしてくる…」

 「おう」

 そう言ってあゆはノアシップの中に入って行った。

 見上げる空に信哉は何を想うのか。

 風は今もなお優しく吹いて、音を奏でる。

 「そう、ユーアの力はオリジナルである月宮を超えている。
  
  それを月宮自身が誰よりわかっているはずだ。
   
  同じ力ではアイツは倒せない。…俺の剣でなければ。
 
  アガートラームはそれが出来るように作られているはず。
 
  出来るはずなんだ…」

 後は己の覚悟次第。

 迷いはない、マークを見ろ。彼は死のギリギリのラインに立たされる

 賭けに勝って帰って来た。

 同じ賭けを自分もやるだけだ。但し負ける事は考えない賭けを。

 信哉は空を見上げる。空の彼方、天空にその居を構える

 作り物の神をその目に見据えるために。

                              続く 


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