――極東支部

 決戦当日、ノアシップは全ての準備を終え、

 発進の合図を待つだけとなった。

 各員はすでに乗船を終えている。

 ブリッジにはいつもの面々。

 見据えるは空に立ちはだかる神の居城。

 月詠はこの強大にして恐るべきプレッシャーを放つ

 あの城に、不思議なほど何も感じなかった。

 畏怖も恐怖もない、不敵に笑みを浮かべる余裕すらある。

 「パイロット全員乗り込みました!」
 
 「ノアシップエンジン良好! いつでも発進できます!」

 オペレーター達の報告が済むと、月詠は館内回線を開き、

 「それでは…これよりエクシードブレイブス最後の作戦を開始します!」

 月詠の言葉を合図にノアシップがゆっくりと浮上する。

 「オペレーション・ゴッドブレイク、始動!!」

 ドゴオオオオ!

 ノアシップはエンジン全開にして空へと向かう。

 裁きを下すべく頭上に構えるあの城を目指して。









 エクシードブレイブス 第76話

 steel my heart











 神の居城まではそれほどの距離はない。

 高度はかなり高いものの、それさえ合ってしまえば

 攻め込むのは楽だ。

 地上用機体の飛行距離を稼ぐため、やや上空の方に位置し、

 ノアシップは待機した。

 ピピピ
 
 突如、謎の回線からの通信がノアシップのブリッジに

 入った。

 「艦長、通信です!」
 
 「開きなさい」

 「回線開きます!」

 おそらく月詠は回線の主が誰であるかを確信していた。

 そしてそれは予想通りの相手であった。

 「…あなた方はあくまで神である私に逆らうつもりですか」

 ユーアは、抑揚のない声でそう言った。

 否、彼女には感情などすでにないのかもしれない。

 「貴女が神であるかは関係ありません。ただ、私たちの行く末を

  貴女一人に預けて置けない、それだけですが」

 「愚かな、あなた方の行く末など互いに争い、そして最後には

  絶滅するだけの存在でしょう。一体何度同じような問答を繰り返して
  
  来たのですか」

 月詠は、よくもまあ口が回るものだと感心した。

 「そうね、貴女の言うとおりだと私も思います。けど、
 
  貴女が本物の神であるならまだ話も聞きましょうが

  殺戮を正当化するためだけに作られた、張りぼての神の

  言葉など私たちには届きません」

 はっきりと、月詠は彼女を作り物だと言った。

 ここからユーアの表情をうかがい知る事は出来ない。

 だが、

 「思い上がりも甚だしいですね…! いいでしょう、

  ならばその勘違い、神である私が自ら訂正して差し上げましょう!!」

 「いいでしょう、但し訂正は必要ありませんよ。

  作り物が神を名乗るのもおこがましい! 

  消えなさい! 老人が作りし妄想よ!!」

 ピシュン

 通信が切れると同時にノアシップはハッチを開けた。

 「エクシードブレイブス出撃!!

  あの城を落とします!!」




 ――神の城 上空

 「今回は作戦も何もない! 一気に奴を目指すぞ!!」

 先に飛び出したのは浩平のHI−Eガンダム。

 空戦タイプの機体が次々とそれに続く。

 空に浮かぶのは要塞がぽっかりと切り取られたように浮かんでいる。

 塔は中心に建っていて、その前には見間違う事のない

 女神を模した機体がたたずんでいる。

 「あれを落とせばこの戦いは終わるのよね?」

 「ええ、深山さん。その通りよ」

 雪見の問いに千鶴が答える。
 
 そう、アグマイヤが発端となったこの戦いの全ては

 ユーアを倒す事で全てが終わる。

 「出来るだけ一人でも多くユーアを目指すんだ!」

 信哉はそう言って地上を這うメタルギアを無視し、

 一直線にユーアの機体を目指す。

 だが、エアがそんなことを許すはずがない。

 アガートラームの進路上に立ちふさがる。

 信哉は一旦止まり、相手をするべく構えようとしたが、

 「緋神! 止まるなんじゃない、行けっ!!」

 その声は住井。

 「邪魔すんじゃねえ、G・インパクトキャノンっ!!」

 ズドオオオオ!!

 正面に構えた砲身から、強力な重力波を纏ったエネルギーレーザーが
 
 エアをまとめて撃つ。

 「住井、助かった!」

 「行って来い!」

 アガートラームは止まることなく進撃する。

 その周りには数機が集まってきている。

 「一度に攻撃できる人数も限られてるからね」

 雪見のディープスノーが、

 「俺たちが全員集まって勝てない相手なんていないって」
 
 浩平のHI−Eガンダムが、

 「いっちょケリをつけてやるとするか、神様相手にさ」

 武の天照が、

 「まあ、このジェントル桜井の異名を持つ俺にかかれば…」
 
 舞人のダンバリバーが、

 「負けない…ボクは負けないよ…キミにだけは絶対に!」

 あゆのガンダムセラフが、

 そしてそこからそれほど遠くない要塞の表面を滑空する数機。

 「我らの結束、彼奴に見せてくれようぞ!」

 冥夜の建御雷が、

 「いっくよー! 絶対皆で帰るんだよ!」

 純夏の霞が、

 「……終わらせましょう、皆で」

 茜のライトニングガンダムが、

 それぞれ、メタルギアの囲みを抜けて信哉の後に続いている。

 そして、アガートラームの隣には、

 「大丈夫、みんなが、信哉がいる限り、私たちは負けないから」

 そう答える、真理奈のアルテミスがいる。

 「行くぞ…ユーア! 俺たちが神なんかに屈しない事を見せてやる!!」

 信哉は高度を下げて、ユーアの機体に正面から襲い掛かる。

 「愚かな…人が神に敵うものか」

 そう言って女神の機体は、両手を信哉のアガートラームに向けた。

 その両手からは凄まじいまでのエネルギーが収束している。

 キイン…

 「うっ…」

 「うぐぅ…」

 信哉とあゆは軽い頭痛を覚えた。

 逆流する念。そう、これは、

 「あのエネルギーは…念動力なのか…!」

 信哉は驚愕した。

 あれだけの念を瞬時に練りだせる。

 あの機体にはT−LINKシステムを上回るほどの

 サイコドライバー用のシステムが搭載されていると言うのだろうか。

 それともユーアの念動力が桁外れになっているのか。

 何にせよ、あれはまともに喰らっていい代物ではない。

 「皆! 避けろっ!!」

 アガートラームは急角度で旋回し、女神の機体から離れた。

 ズドオオオ!!

 それとほぼ同時に女神の手から凄まじい勢いでエネルギーが照射される。

 触れた地面はえぐれ、まともに喰らえば機体はおろか、

 中のパイロットも蒸発するくらいの凄まじい熱量。

 物理干渉能力程度の念動力では比べ物にならないほどの威力だった。

 それはまさしく神の雷に匹敵する。

 だが、それでも彼らはひるむことはない。

 「あなたは所詮創られた神。なら…同じ人が壊せない理由はないのよ…!」

 ディープスノーに乗った雪見が先手を打つ。

 全砲門をフルオープンで放つ、フルインパクトキャノン。

 ズドオオオ!!

 一門、二門と次々に打ち出されるG・インパクトキャノン。

 断続的に続く、重力波は少しずつ女神のフィールドを打ち破ろうとする。

 「小ざかしい!」
 
 今度は女神の機体は左手を薙ぎ払う。

 拡散するように念動力の弾丸が周囲に無数にばら撒かれる。

 「うわあっ!!」

 「きゃあっ!!」

 さすがに細かいだけあって先ほどのような反則的な威力ではないが

 それでも戦艦の主砲クラスの威力がその一発には込められていた。

 かすった程度の被弾ですら、装甲を削り、衝撃は機体の全身に伝わり

 パイロットに恐怖を与えた。

 まともに喰らえば、それこそどうなることか。

 「怯むな! ここで引いたら負けだ!

  深山さんに続けっ! あのバリアを破るんだ!!」

 だがそんな恐怖も吹き飛ばさんとばかりに武は叫ぶ。

 無謀ともいえる特攻で、天照を真正面に突っ込ませた。

 「冥夜!」

 「承知! 行くぞ純夏!」

 「任せてー!!」

 天照はフォトンバスターを構えて、

 「どっちが力尽きるか根競べと行こうじゃねえか…!!」」
  
 ズドオオオオ!!

 フォトンバスターが女神に向かって放たれる。

 巨大なエネルギーの塊の弾丸はフィールドに着弾するものの、

 その勢いはまだ相殺されず、

 「全身全霊でこの太刀を放つ…受けてみよ!!」

 そこへ冥夜の建御雷の背負う、対艦刀・雷神の打ち込みが入る。
 
 ガガガガガ…!

 フィールドに阻まれ、空中でブルブル震える刀。

 だが、それでもまだ建御雷は引かずに、

 雷神を打ち込み続ける。

 「いっけぇ! どりるみるきぃぱーんち!!」

 ズガアアアアアア!!

 雷神の止まっている一点、そこを目掛けて霞の放つ
 
 スパイラルフィストが炸裂する。

 螺旋状のエネルギーと直線のエネルギーが交差し、
 
 その一点の衝撃は凄まじい物がある。

 だが、それでもまだユーアの念動フィールドは破れない。

 「くっ…人が…小ざかしい真似を!!」

 今度は女神の機体は片手を天にかざす。

 そこからは、まるで雷のような閃光が周囲に降り注ぎ始める。

 ドガアア! ドガン!

 特別な狙いを定めて撃つ攻撃でないとはいえ、止まったままの機体は的だ。

 ごっそりと周囲の床を削っていくその閃光の威力は

 直撃すればたまったものではない。

 だが、純夏と冥夜はまだその攻撃を休めていない。

 「攻撃を休めるな! 茜、行くぞっ!!」

 「…はい、浩平!」

 シュバババババ!!

 二人のガンダムは同時にファンネルを打ち出す。

 当然、目標はユーア。

 浩平はその精神力全てを、ファンネルの操作と自身の力の展開に注いだ。

 「…ダブル・E・ファンネル…射出!!」

 キュオン! キュオン!!

 二人合わせて数十機のファンネルがフィールドの全域に攻撃を行う。

 浩平はエターナルフィールドを用いて念動フィールドの内側に

 ファンネルを送り込もうとしたが、ダメだった。

 おそらくあの女神の機体の周囲の空間全てがフィールドなのだろう。

 だから、自分たちに出来ることは、フィールドを消耗させ

 消滅させるしかないのだ。

 「小ざかしいと…言っている!!」

 さらに女神の機体は両手を天にかざした。
 
 降り注ぐ閃光の数がますます増える。

 今度こそ、冥夜たちに当たる、その場にいた誰もがそう思った。

 「このっ…やられてたまるかぁっ!!」

 ズドオオオ!!

 だが当たる直前の閃光を真正面から天照がフォトンバスターで

 相殺する。

 「タケル!!」

 「まだまだっ!! まだ諦めるわけにいかねえんだよ!!」

 武は吼えて残りの閃光の動きを全て読みきろうとする。

 誰かに当たろうとするならばそれを止めるのが自分の役割と

 言わんばかりに。

 それと同時に、どこからか声がする。

 「待たせたな…真打は美味しいところでやってくる…ってな!!」

 突如女神の機体に影が差す。

 上空から舞い降りるは創造の騎士。

 ランスに全てのエネルギーを集中させて急降下する。

 ガガガガガガ!!

 円形のフィールドはたとえ頭上からの攻撃と言えど例外を許さない。

 重量、質量、全てを乗せた一撃ですらも防いでしまう。

 それだけの攻撃を浴びせてもまだ、女神の機体のフィールドは破れない。

 「ふっ…人の子よ。そろそろ諦めてはどうだ?

  そなたらの力では我が守り崩す事など敵わぬ」

 建御雷と霞の攻撃が止み、ファンネルもそろそろエネルギーが底をつく。

 一瞬、誰もが無理かと思い始めた瞬間に。




 「ううん、やっぱりキミはここで終わるんだよ」




 上空から、響く自分と同じ声。

 ユーアはその声が気に入らない。

 神と称される自分に唯一の不快感を与えるあの少女が。

 「黙るがよい、そなたらの夢物語もここで終わりだ」

 「みんなの力が一つになっている。今なら…キミを

  破る事が出来るっ…!」

 ババババ!

 あゆのガンダムセラフがその翼を開く。

 六枚の念動力の翼が。

 「後はボクが…ボクがキミの力を消せばいいんだよっ!」

 そう言ってあゆのガンダムセラフは急降下を始める。

 その翼に背負いしは、人の想い。

 傷つき、ボロボロになっても諦めない仲間たちのために。

 彼女は今、その翼を拡げ自分自身とも呼べる少女に立ち向かう。

                              続く


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