火星の荒涼とした大地に、5つの人影。

 そのうち4つは、現在火星軍の主力兵器である武装LEV、残りの1つは、

  LEVよりも無骨で鈍そうな印象を受ける人型機械であった。その正体は、

  旧地球世紀に開発された人型兵器、『ヴァンドルング・パンツァー(歩行戦車)』、

  略して『ヴァンツァー』と呼ばれるものである。

 『やれやれ、新人さんのお守は、面倒だぜ』

 『全くだ。わざわざWAP(※ヴァンツァーのこと)なんて使うんだからな』

 『まぁ、そう言うなって。WAPは頑丈にできてるから、すっ転ばせたり、ぶつけたりしても、
  
  LEVより壊れにくいってのは、知ってるだろ?』

 『そりゃそうなんだがな――』
 
 どうやら、LEVに搭乗しているパイロット達は、ヴァンツァーに余り

 いい印象を抱いていないようだ。丸聞こえの状態のまま、好き放題に言ってくれる。

 まぁ、乗ってる自分だってそう思うんだからなぁ。そう考えつつ、ヴァンツァーの

 パイロットは、ため息をつく。







エクシードブレイブス外伝   〜bind of fear 恐怖に縛られし者〜







「―――こちらトータス5、目標地点に到達」

『ベース14よりトータス5へ、引き続き付近の索敵及び警戒を行われたし』

「トータス5、了解っ」

 分隊指揮所への通信を行ったヴァンツァーに乗る彼――マーク・フォークナー――は、

 センサー類の操作を行い、センサー範囲を拡大して付近の敵影を探る。彼の乗るヴァンツァーは、

 通信とセンサーの複合型バックパックを装備しており、索敵・通信の両方をこなすことができる。

 彼にとって、これが初めての任務、指揮所への通信の声にも力が入る。

 任務の内容は、自軍勢力範囲内での索敵であるのだが、やはり初任務と

 いうものには、力を入れてしまう。

 だが、敵影などあるわけがない。なぜなら、表立って火星軍に

 対抗できるほどの勢力は、存在していないのだから。
 
 簡単な哨戒任務であるはずだった。無事に終わった後は、

 新人の歓迎会になる予定だった。

 ――そう、敵影はあるはずがなかった。


 連続した警戒心を煽る電子音。

 「……!? レーダーに反応!?」

 マークは、慌ててその反応源の特定を行う。

 『馬鹿な! ここは、我々の勢力圏だぞ!』

 『民間のトレーラーが、迷いこんだんじゃないのか?』

 『新人! 機種はなんだ!?』

 『いや、その前に指揮所に連絡を入れるんだ!』

 LEVに乗るパイロット達の言葉に、マークは慌てて通信を行おうとする。
 
 「こちらトータス5! ベース14、応答願います!」

 『……ザッ……ちら……ザザッ……ど……た……』

 しかし、何らかの妨害が行われているらしく、上手く交信できない。

 「駄目です! 通じません!」

 『クソ! どうやら本気で敵さんらしいな』

 『機種特定は?』

 「……データバンクにありません! 識別不能……こちらに急速接近中! 後3分で接触予定!」

 『新人は通信が回復する場所まで後退し、交戦報告と救援要請を出せ! 

 トータス1から4は、ここであいつを足止め、或いは撃破する!』
 
 その言葉に思わずマークは、反論する。

 「そんな……自分も戦います!」

 『このことは、軍全体の危機に繋がるかもしれん。総司令部に一刻も早く知らせねばならん』

 「しかし……」

 『5対1で仕掛けてくる相手だ。相当の手練れだろう。遠距離通信を行えるトータス5の

 機体が損傷する危険を冒すわけにはいかん。なぁに、負けはしない。あくまで念のため、だ』
 
 隊長であるトータス1ことウィリアム・エンデュミオンは、子供を諭すような優しい口調で言う。

 マークもこれ以上は反論できるはずがなかった。

 「……分かりました。分隊指揮所との通信が回復する場所まで後退し、

 報告と救援の要請を出します……どうかご無事で」
 
 敬礼をして、機体を指揮所に近い方へと全力で移動させていく。そんなマークに向けて、

 他の隊員達からも言葉がかけられる。

 『当たり前だ、そっちこそヘマすんなよ!』

 『奴は俺達がぶっ倒すから安心しな!』

 『おいしい役を譲ってやるんだから、帰ったらビールおごれよ!』

 そんな言葉を背に機体を操る。



 ―――そして2分後。

 『は、速い! 照準に捕らえきれない!』

 『う、うわぁぁぁ!』

 『クソ! ベレッキーがやられた!』

 『ジャック! レスターと回り込んで追い込め!』

 『駄目だ! 追いつけな……』

 『レスターもやられた! クソ、隊長逃げましょう!』

 『駄目だ、まだトータス5の離脱時間が稼げていない!』

 『く、来るなぁ! た、助けてくれぇ!』

 『馬鹿な! 武装LEV4機が……たった1機にこうも……トータス5! 

 戦おうとはするな、とにかく全力で逃げ……ザザザッ』

 隊内無線から流れてくる内容は、ベテランパイロットが搭乗した武装LEV4機が、

 たった1機相手に全滅したことを示している。そして、センサーにも彼らの反応は、もはやない。

 正体不明の敵の反応のみが映っている。

 「こちらトータス5! ベース14、応答願います!」

 『……こちらベース14。トータス5、何があった?』
 
 3秒間隔で繰り返していて、ようやっと通じた通信。

 「正体不明機の襲撃を受け、トータス1から4が大破しました! 救援を!」

 『了解した! すぐに救援部隊を送る、それまで持ちこたえるんだ!』
 
 しかし、その直後に通信が途絶する。それは即ち、先の正体不明機が追いついてきたということを意味していた。

 「やるしか……ないのか?」
 センサーをフル稼働して相手の動きを探りつつ、武装を確認する。彼のヴァンツァーは、

 通信・センサーバックパックを装備しているため、両腕には、シールドと軽量のマシンガン

 のみ装備されている。もともと戦闘を想定していない装備だけに心もとない。

 だが、救援到着までは、一人で持ちこたえなければならない。
 
 ―――FCS起動。
 ―――マシンガンのセイフティを解除。
 ―――各部出力戦闘レベルに上昇。
 ―――脚部ローラーダッシュシステムチェック……グリーン。
 ―――センサー機能、戦術レベルに設定。
 ―――システム・オールグリーン。
 
 状況は絶望的だ。だが、諦めたくはない。覚悟を決めて、敵が迫る方向に機体を向ける。

 チャンスがあるとすれば、接触する一瞬。その一瞬にマシンガンを叩き込む。

 相手が身構えるよりも早く、最初の一撃を。喧嘩と同じだ、落ち着いていけ。自分に言い聞かせつつ、照準の中を睨む。

 ―――さぁ、来い!


 弱い、弱すぎる。確かに性能差はあるだろう。だが、パイロットの質が余りにもお粗末だ。

 この程度の集まりだと言うならば、連合宇宙軍など恐るるに足らない。こんなものでは、

 『この機体』の性能チェックもままならないではないか。

 正体不明機として認識された、『それ』に乗るパイロットは、ため息をつく。

 『実戦テスト』の目標として設定した連合宇宙軍の小隊は、残り1機。スピードからしてLEVよりも、

 更に旧式の機体のようだ。しかも、逃走を続けているところを見ると、索敵・通信を担当していたのだろう。

 つまらない相手だ。さっさと片付けてしまおう。
 
 「……!?」

 しかし、逃げ続けていた相手が、今までの動きからは考えられないほどの

 スピードで接近してくる。見る限り、唯一の武装であるマシンガンを連射しながら、

 砂煙を上げて突撃してくる相手に、一瞬反応が遅れ、機体全体に被弾する。

 「おのれ! 大事な試験機を……死を持って償うがいい!」

 怒りのままに、レーザーを連続で撃ち出す。


 ローラーダッシュによる突撃とともに叩き込んだマシンガンは、確かに相手に命中した。

 だが、やはり火力が足りない、致命的な損傷を与えることができなかった。

 そして、レーザーにより両腕部・脚部が貫かれ、吹き飛ばされる。もはや、攻撃どころか

 逃げることすらできない。マークの心に抗いがたい恐怖が生まれる。

 「い、嫌だ……死にたくない! クソ! 動け、動けよ!!」

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ死にたくない! なんで動かない!? 腕がないから!? 足がないから!? 

 どうしてそんなものがついてる!? どうしてこんなに脆い!? こんな脆い物になんで俺は乗ってる!? 

 嫌だ、こんなものに乗っていたくない!! 誰か……誰か助けてよ!!

 そして、レーザー砲の砲口が向けられる。

 「あ……あ……」
 
 恐怖で既に言葉も出ない。そして―――


























 ―――視界一杯に光。


























「!?」
 ガバッと身を起こす。頭が混乱している。一瞬、自分がどこにいるかが分からない。

 落ち着け、俺は、マーク・フォークナー、25歳。現在、独立自衛団アンリミテッドの

 旗艦ノアシップに偵察要員として所属している。搭乗機は、特殊作戦機R−TYPEシリーズ。

 よし、落ち着いた。

「ああ、クソ……また6年前の夢か」

 そう、今観た光景は、6年前のものだ。結局、救援部隊が到着したときには、あの『OFのような』

 機体は、既にいなかったという。そして、自分は、頭部に打撲と脇腹に大火傷を負った状態で発見された。

 どうやら、コクピットの左端を撃ちぬかれ、その際に頭を打って気絶、レーザーで焼けた機材にわき腹を焼かれたらしい。

 まだ震えが止まらない。脇腹の古い火傷痕が痛む気すらする。あのときの恐怖は、彼を人型の機体に

 乗れなくしてしまった。両腕部・脚部を破壊されて、砲口を向けられたあの状況への恐怖は、

 人型の機体に乗ることへの恐怖に置き換わってしまったのだ。

 「なっさけねぇよなぁ、戦場に初めて立った新兵みたいにいつまでも震えて……」

 いつまでも震えてんな。止まれ、止まれよ、俺の体。自分の体を抱え込むようにして
 
 自分を叱咤するが、震えは止まらない。と、そのときノックの音が聴こえる。

 『マーク! いつまでも寝てないで整備手伝いなさい!』

 声の主は、ユユ・ミナサキ。今の彼の機体を整備するメカニックにして、R−TYPEシリーズの

 開発責任者である。マークが人型に乗れなくなって、除隊をしようか迷っているときに持ち上がった、

 特殊作戦機R−TYPEシリーズの開発プロジェクト。そのコンセプトは、波動砲による攻撃力、

 戦闘機形状による機動力、フォースによる限定的絶対防御を目指すものである。彼は、このプロジェクトの

 パイロット選考にその決断をゆだねることにした。人型に乗れなければ、戦闘機に乗ればいい、それすらも

 叶わないなら、軍にいる必要もない。自分のこれからを左右するからこそ、選考基準のクリアに心血を注いだ。

 そして、彼は選ばれたのだ。

 そして、マークはユユと出逢う。ユユの奔放さに翻弄されながらも、失われかけた明るさを取り戻し、

 現在(いま)の彼があるのだ。

 「……ああ、分かってる。準備すっからもうちょっと待ってろ」

 そう、扉の向こうのユユに声をかける。自分では、いつもの声が出せていたと思う。だが―――

『……また、昔の夢でも観た?』

 ユユの声には、いつもからは考えられないような、穏やかな気遣う響きが感じられる。

 気づかれたか、どうも俺は隠し事が苦手らしい。そう苦笑しつつ、ユユに言葉を返す。

「ああ、もう少ししたらちゃんと行く。だから、向こうで待っててくれ……情けない面見せたくないからな」

『無理はしないで……でも、ちゃんと埋め合わせは考えといてよね?』
 そう言ってユユは、立ち去る。その足音を聞きながら、ユユとの会話で震えが収まってきている自分を感じ、

 改めてユユに信頼以上の『何か』を抱いていることを確認する。

「無理するな……か。初めて会ったときも言われたな」

 がむしゃらに訓練を重ね、体を壊す寸前のときに言われた言葉を思い出し、

 懐かしそうにつぶやいて、立ち上がる。既に震えは止まっていた。

「……でもな、あんな恐怖を仲間の誰にも味わわせたくないんだよ。特にここに居る奴らには、な。もちろんお前にも……」

 アンリミテッドの面々、そして彼の想い人の顔を思い浮かべつつ、準備をする。

 そして、準備を終えるころには、瞳に力が戻っていた。

 ―――ユユ、だから……無茶はしちまうかもしれん。許してくれよ。


END.



後書き

どうも、作中の登場人物とは全く別人であるところのマークです。
いやはや、駄作ですんません。しかしながら、これが私の精一杯。
どうにもならんのです。
何せ、SSなんて書く機会がほとんど無いもので……、
ヘタレですけど許してください。

ちなみに、何故ヴァンツァーなのかと言うと……私の趣味だから!(爆)
直前にフロントミッションフォースやってたんですよ〜(笑)
ああ、石を投げないで!
あのごつい人型機械が好きなんです、悪いですか!?(←開き直るなよ)

閑話休題。

ほぼ、思いつきで書いたものでして、文章も粗く短い上に、
描写が妙ちくりんなところも多々あったかと思われますが、
最後まで読んでいただけましたことに、お礼を申し上げます。
どうもありがとうございました。(←深々と頭を下げる作者)



局長の感想
というわけでオリキャラ、マークの生みの親である別のマークさん(ややこしい)に
外伝を頂きました。いやはや局長だけではカバーしきれない過去話のSSを
ありがとうございます。SSとしてのクオリティは高いと思いますよ、マジで。
エクシードの名にふさわしいだと私は思います。