エイエンノカケラ
01.感じない? 柔らかな暖かさを持つ風を
これはまだあなたに出会う前の話。
わたしの知るあなたの知らない世界の話。
世界はえいえんに囚われていた。
時は循環し、住人は想いを糧に憧憬を旅する。
優しく、暖かく、煌びやかに、幾多にも彩られながら。
動くことも無くただ悠然と漂い、辿り着けぬ世界。
わたしの世界。
夢のなかのお話。
…………
………
……
…
激しい衝撃と共に混濁した意識が戻る。
視界に広がるのは無限に広がる蒼穹の空と、水平線まで広がりなおその先が見えない群青の海。
世界は青に染め上げられていた。
わたしの身体は眼前に広がる水面に向かって自由落下を続けるが、そこに辿り着く事は永遠に訪れない。
時が存在しえないこの歪な世界は、行動の過程を全て省略して結果のみが身体に現れる。
現象だけの世界。
わたしの身体は既に四肢が無く、肉体の損傷による激痛は幾度と無くわたしを発狂させた。
憎悪に染め上げられた瞳であいてを睨み付け、口から破壊の意思を紡ぎ出す。
「…吹き……飛べっ!」
一瞬の後、辺りに炸裂音が響き渡る。
あいてのわき腹から左半身にかけてを、大砲にでも当たったかのように抉り取った。
怒りと憎悪に満ち満ちた顔でわたしを睨み付ける。
酷い表情だが生憎と人の事は言えない。
「……じ……………のか……た……………し……」
何事か呟くと、あいては空間ごと再構築し、返り血一つ残さずにまるで全て無かったかのように肉体を元に戻した。
悔しいがわたしにはもう其処までの力は残っていない。
延々と続く戦いに精神をすり減らし、魂までも削ってもなお眼前の敵には及ばなかった。
あいては侮蔑に満ちた視線で見下し、その唇をいやらしく吊り上げ、狂ったように哂い始めた。
「あははははははははははははっ! ねぇ、ほんとうにかてるとおもっていた? 女王であるこのわたしに」
……どうでもいい。
先ほど放った一閃がわたしに残った最後の力だった。
もはや枯渇した心しかないわたしには世界は色褪せはじめ、急速に遠のいていく感じがした。
「じゃあね。ばいばい」
笑顔だった。
まるでわたしの為だけに喜んでくれるかのように、穢れなく、純白のように、万遍の微笑みだった。
既に灰色と化した世界で神々しいまでの笑顔にわたしは見惚れた。
次の瞬間、わたしの身体は、轟音と共に、一片も残さず、爆砕させられた。
泡のように消える意識の中、わたしはただ一人のことを想う。
ねぇ、おにいちゃん
<また、あえるよね>
*
「うう、寒ぃ」
朝、登校途中に歩きながら口からついて出た言葉はそれだった。
「今日はまだ暖かいほうだよ」
隣で歩きながら従姉妹の名雪が眠そうな表情でそのようにおっしゃる。
雪国育ちでない俺にとって肌を刺すようなこの寒さは非常に耐えがたい。
というか名雪よ、なぜそんな眠そうな表情ができるんだ。
まさかまだ寝ているんじゃないだろうな。
「どうしたのー」
名雪のまぶたが閉じかかり、糸目のように細くなっていく。
このままだと名雪を引きずりながら登校しかねない。
いくら従姉妹とはいえそれは恥ずかしいし、朝の大音響の只中でも動じないのだから普通に起こすのは手間がかかる。
ここは現地調達品を用いてスマートなお目覚めを提供しよう。
歩きながら脇のガードレールを見て手頃に積もった雪をおもむろに掴む。
周囲に自分達以外にいないのを確認すると名雪の後ろに回りこみ襟から雪を詰め込む。
「っ……!? うにゅっ、うにゅ! うにゅおぉぉぉ!!!」
効果があったのか、奇声を上げながら背中に入り込んだブツを取り除くべく跳ね回りながら悶えている。
奇行に走っている名雪を可哀想な目で見ていると、ようやく復活したのか真っ赤な顔でこっちに迫ってきた。
「ゆ、ゆ、祐一っ 何するの!」
「なゆきっ、おはよう!」
歯が光るぐらい爽やかな笑顔で対応を試みる。
「………うー。知らないっ」
……交渉は失敗に終わった。ペナルティは2、3といった所だろうか。
ちなみに単位はイチゴサンデーだ。それ以外では認めないのだあの苺娘は。
週末は肉体労働に勤しむ事になりそうだと考えていると名雪の姿は既に見えない。
くっ、北国の女は俺の大嫌いな雪のように冷たいぜ。
などと朝っぱらから負け犬根性全開のオーラを出していると、見つけてしまった。
視界の隅、道端の影、雪の中に埋もれたそれ。
幼い少女の腕。
反射的にその腕を取り身体を引っこ抜き、抱きかかえる。
「…生きてる、よな」
その少女は真冬だというのにノースリーブのワンピースしか着ておらず、靴すら履いていない。
明らかに異常だがまさかここで放って置くわけにもいかない。
病院に連れて行こうか一瞬考えたが、距離的に水瀬家のほうが近い。
少女を背負うと奇妙な懐かしさを感じる。
そんな感傷に苦笑いを浮かべながら水瀬家へ駆け出した。
*
「困りましたね」
「申し訳ありません」
困り顔の秋子さんに平謝りの俺。
少女の身体を温めて一通りの説明をした後に出た言葉がそれだった。
結果的に学校をサボってしまったのはまあいい。
問題なのはこの少女。
身元を表すものが何一つ無い、おまけに真冬なのにこの軽装、靴すら履かずに雪に埋もれていた。
どう控えめに見ても犯罪の匂いがする。
幸い少女に外傷は無いので、目が覚めたら警察に連絡するのが妥当な判断だろう。
薄情かも知れないが、一般人である俺達に自衛できる手段は僅かしかない。
この少女はいかなる理由であの場所にいたのかは興味があるが、あまり関るものじゃない。
―――にゃぁ
ふと、そんな声が聞こえた。
「…………猫?」
「どうしました」
秋子さんには聞こえないのか首を傾げている。
鳴き声が聞こえるのは構わない、もしかしたら外で野良猫が鳴いているだけかもしれない。
だが今のは明らかにドアの向こう、廊下から聞こえた。
それが妙な違和感を生み、不安を感じる。
「秋子さん、ちょっとその子見ていてもらっていいですか」
「ええ、構いませんけど…」
――――ぎぃいいいぃ
廊下に出ても猫の姿は無い。
鳴き声も聞こえなくなった。
まるで最初から、いやそもそも姿が見えないのだからいないのかもしれないが。
―――――ぱたん
ふと、思ったのだがこの家はこんなに暗かっただろうか。
時間はまだ午前中だし、今朝の快晴っぷりを考えるともっと光があってもおかしくない。
なのに真夜中のように視界が暗く感じる。
――――――ずぶ、ぐちゃ、ぐちゃ
ぐるりと一通り回ったが猫がいる気配はしない。
やはり勘違いかと思い部屋に戻ろうして一つの疑問が浮かぶ。
何故、雪の中に埋もれていたのか?
ここ数日は雪すら降っていないというのに。
―――――――ぼだぼだぼだぼだぼだ
階段を上がって少女が寝ている部屋に戻ろうとすると、僅かにドアが開いているのが廊下から確認できる。
部屋からぺたぺたと動く音が聞こえるのでもしかしたら少女がおきたのかもしれない。
話をすれば疑問も解決するだろう。
――――――――ごりっ、ごりっ、ごりっ
「秋子さん。その子起きまし――――」
そこで意識が消えた。
*
ざぁぁぁぁ…
ざぁぁぁ…
波の音。
不規則なリズムを奏でながらその音を響かせる。
見上げる空は黒。
夜ですらない漆黒。
眼下に広がるのは白。
尋常ではない純白の砂。
聳え立つのは城。
山のように大きく、溶けかかったように崩れ続ける砂の城。
その光景は現世とは思えぬほど奇妙で、身体を包む感覚は夢とは思い難く、まるで違う世界に迷い込んだ
そんな気がした。
「不思議な光景ですね」
傍に立つ秋子さんはこの状況を楽しんでいるのか、いつもと変わらず落ち着いた面持ちに見える。
現状を纏めようと思考を張り巡らせるが明確な答えは出ない。
「女の子を拾って、家に帰って、猫の鳴き声がして、気づいたらこの光景」
「話が繋がりませんね」
「とりあえずあの城にいってみましょうか」
「そうですね、それ以外にいけそうな場所ありませんから」
城の中はまるで洞窟のように入り組んでいた。
どちらかというと城というより蟻塚のような巣に近いのかもしれない。
ただ通路や部屋は異常なほど広く、部屋の大きさはちょっとしたホール並みだ。
だが、かなりの部屋数を歩いても俺達以外に人はいなかった。
「ちょっと休憩にしましょう」
「そうですね。まさかここまで広いとは思いませんでした」
城の中とはいえ砂で構成されている城なので歩くたびに足をとられる。
その為か、妙に疲れるのが早い。
休みながらこれからどうしたものかと考えていると声が聞こえてきた。
「にゃあ」
猫だ、今の声は間違いなくあの時聞いた猫の声だった。
今度は秋子さんにも聞こえたようでお互い確認しに移動しようとして、止まる。
「にゃぁあ」
猫はそこにいた。
前触れも無く現れたそれはズシン、ズシンと響かせながらこちらに迫ってくる。
外見は普通のように見えるが、その身長はかるく俺達の3倍はあろうかというくらい大きい。
ここまで巨大になると見慣れているはずの口の牙や足の爪が恐ろしい凶器に見えてくる。
そして猫の瞳は俺たちを凝視して離さない。
――――あれは、獲物を見つけたときの目だ。
「秋子さんっ!」
呆然としている秋子さんの手を引き駆け出す。
猫は全身をしなやかに曲げて爆発的な瞬発力で跳躍する。
巨躯に似合わず猫の動きをこなすその動きに絶望的な予感が脳裏をよぎる。
寸でのところで回避しきると砂に動きをとられたのか、壁にぶつかり穴が開いた。
「……おいおい。あんなのくらったら潰れるぞ」
「外へ向かいましょう。あの猫はこの城を縄張りにしているのかもしれません」
「そうしたいところですけどっ」
急制動をかけて頭を地面にこすり付けるぐらい低くすると、その上を轟音を立てて丸太ほどもある尻尾が通り抜けた。
このままだと間違いなく捕まる。
秋子さんだけでも何とか逃がさないと、名雪を悲しませるわけにはいかない。
「二手に分かれましょう、俺が引き付けている間にさっき開いた穴から外に行って下さい」
「……っ、祐一さん!」
「大丈夫です、こうみえても毎朝名雪に鍛えられているんですから」
猫はゆっくりとした歩幅で確実に仕留めるように間合いを詰めてきている。
時間の猶予は無い。こうしている間にも殺される確率は上昇しているのは間違いない。
「いきますっ!!」
大声を上げて猫の注意を引き付けつつ間合いを詰める。
もう秋子さんの方を見る余裕は無い。
猫の股座を抜けて、尻尾をかわしつつ、通路へとそのまま駆け抜ける。
分の悪すぎる賭けだが、あいにく他の手段を考えるほど暇ではない。
猫の真下に来ると左から右へ猫の前足が超高速で駆け抜けた。
背中を掠っていくそれは地面ごと抉って行くと恐怖で足が止まりそうになるのだが、心を奮い立たせて走り抜ける。
猫は面白いといわんばかりに喉を鳴らすと、鞭のように尻尾を振るう。
「上等っ」
向かってくる尻尾は身を屈めて回避し、地面ごと払われるのを跳んで、叩きつけるように振り落としてくるのは向きを
変えて疾走する。
命がけの鬼ごっこを極限の精神状態で続ける。
息が上がり足が鉛のように重くなっていくが止まるわけにはいかない。
動きを完全に読みきり、鮮やかに回避するとその瞬間、ほんの一瞬油断した。
僅かに傾斜した砂に足を取られた。
心臓が凍りつく。
頭の中で死の警告音が鳴り響き、身体が萎縮する。
振り返ると猫が前足を振り上げているのが見える。
既にかわせる状態ではない。
死の現実から逃れる為に脳が麻痺しそうになるその瞬間、ありえない光景が広がった。
秋子さんが両手を広げて俺を庇うように立っている。
だが猫の動きは止まらない。
「……やめっ」
声を出すより速く。
猫の爪が。
秋子さんを切り裂いた。
*
…なぁ、なぜこんなことになっているんだ。
逃がしたはずの秋子さんが倒れている。
赤い、あかい、命が流れ出ている。
あの時と同じように。
《記憶を辿らないで》
何も変わっていない。7年前からなにも。
目の前で××だ××を助けられない俺は、あの時も無力な子供だった。
《想いを紐解かないで》
感情を抑えられず目の前が白くなる。
××が冷たくなっていくその身体を生暖かい××が×××している。
《あなたはそれに触れないで》
零れ落ちる涙を止める事ができない。
泣き叫び続ける俺の×××れたその××は××の××を×えて××××れた。
《もしあなたが力を望むのなら》
《担い人を遣わせましょう》
<夕闇の空に浮かぶビルを遠くから眺める>
空を砕いて幼い少女が降りてくる。
<その下を車のテールランプが現れては消えていく>
長い髪をたなびかせ、純白の服をはためかせ、瞳を深紅に染め上げて。
<それは終わることのない回転木馬>
その姿は清冽なまでに美しく。
<その光景をただ眺め続けていた>
戦人が舞う。
少女の手から無数の茜色の光輪が生み出され猫を拘束していく。
「にぎゃああああ!」
凄まじい力で締め上げるのか、木をへし折る様な音を響かせながら猫は地に伏した。
「大丈夫?」
その少女の顔は紛れも無く朝雪の中に埋もれていた少女そのもの。
寝顔しか見ていなかったが、見た目以上に快活そうな表情と言動の持ち主のようだ。
「俺は問題ない…だけど秋子さんが……」
俺の腕の中で震えているこの人はこのままじゃ助からない。
「任せてっ」
少女は秋子さんを抱きしめると小声で呟き始めと、不思議なことにその部分の言葉だけ頭に響き渡る。
まるで他人の声色で自分が喋っているみたいだ。
<感じない? 柔らかな暖かさを持つ風を>
風がどこからともなく吹くと、空気が不可視のヴェールのように二人を包み込む。
秋子さんの身体が淡い燐光を放ち始めると、まるで巻き戻っていくように血が傷口に戻っていく。
先ほどのもそうだが魔法…とかそういうものだろうか、その光景はあまりにも幻想的で美しいものだった。
<目を閉じて風に身を委ねて>
荒い呼吸だったものが徐々に静かになっていき、寝息を立てるように目を閉じる。
少女の方を見ると「大丈夫だよ」と言いたげな顔で頷くと、やさしく微笑んだ。
<ここは風の辿り着く場所だから>
風が止み、ヴェールが消えると秋子さんが少女に倒れ掛かる。
「わ、わわっ」
少女があわてて支えようとするがその身長差の為に踏ん張っても支えきれない。
「むぎゅ」
あ、潰れた。
「大丈夫か?」
「お、起こして〜」
などどにこやかに会話をしているが、その後ろのほうでは猫が血反吐を撒き散らせながらのた打ち回っている事を考えると
かなりシュールな光景かもしれない。
「さて、仕上げだね」
「おお、頼むぜ」
あの猫も年貢の納め時か、成仏しろよ。
「……」
「………」
おもわず見詰め合うが何か起こるわけでもない。
痺れを切らしたのか少女の方から話しかけてきた。
「…あの、だから仕上げを」
「……そっちの仕事じゃないのか? 一般人の俺にはそんな怪しげな技を持っていないぞ」
「………りぴーと、あふたー、みー」
「ワタシはイッパンジンです。ナニもチカラはモッテオリマセン」
「そんなっ、封印できないとここから出られないのにっ」
爆弾発言が出てきた。
ということは何か、このままこの怪しげな世界にいろという事か。
「それはマズいな、最近名雪のペナルティがキツイんだよ。何とかならないか?」
「ナユキっていうのはよくわからないけど…でもどうしよう触媒がないと」
少女よ、名雪を嘗めてはいけない。
もし時間があるのなら対処法という名のからかい方を伝授したいところだがここは割愛する。
「その触媒っていうのがあれば出れるのか?」
「でもでもそんなの都合よくあるわけ無いんだよぅ。触媒はものじゃないの、心のなかにあるカタチ」
なるほど、それは雲を掴むような話だな。
「そう、だからここから出るには不可能に近い……………って、あーーー!」
素っ頓狂な声を上げながら少女が俺を指差す。
とりあえず後ろを見てみるが、締め上げられて無力化されている猫がいるだけで、少女が驚くようなものは無い。
「もしかして……俺?」
「そう、触媒! あなたの中にあるのっ」
少女の小さなてのひらが俺の中に入ってくる。
俺の心にあるというその触媒「鍵」を求めて。
探り当てたのか、勢いよく腕が引き抜かれてそれを掲げる。
赤い鍵。
ルビーのように深紅に輝くそれは少女の身の丈にまで大きくなり、全身を使って操り始める。
<夢の残骸よ、我の前に峙つ偽りの扉よ、記憶を抱えて、想いと共に彼方へと去れ>
踊るように複雑な軌跡を描きながら、幾何学的な紋章を作り出す。
<世界は貴方を否定する、その残滓すら許さずに>
楽器を奏でるように謳いあげると、ガチリとどこかで鍵のかかる音がした。
<カケラよ、その一切を滅せよ>
閃光と共に全てが消えていく。
まるで夢から覚めるように唐突に世界が変わり、元の水瀬家に戻っていた。
時計を見ると5分も立っていない。
幻覚か妄想かと思ってしまうほど現実味がない体験だったが、目の前に少女が猫を抱えて立っている事を見ると
それが現実だと嫌でも認識させられる。
「その猫は?」
「カケラの力から解放された猫だよ。大丈夫、もう何もしないから」
「こうしてみると本当に普通の猫なんですね」
いつの間にか目を覚ましていたのか秋子さんがその猫を抱えて撫でていた。
「まぁ、色々聞きたいことがあるがまずは自己紹介といこうか、俺は相沢祐一。この水瀬家に居候だ」
「水瀬秋子です。この家の家主をしております」
「わたしはみさお。職業・魔法少女っ」
「………は?」
「知らない? ……んー。あんまりポピュラーじゃないのかなぁ。ほら、小さい頃にTVとかでやってなかった? 魔女っ子とか」
すいません。そういう有り得ないのは職業とかそれ以前の問題だとおもいます。
職業かどうかは置いておくとして、魔法というのならあの不可思議な出来事にもなんとなく納得はできる。
科学が全てとは言わないが、まさかこの目で魔法とかそういうオカルトなものに関わるとは思っても見なかったが。
「じゃあ、あのカケラっていうのは何なんだ」
「カケラは危険なもの、生き物の欲望を叶える奇跡」
「わたしはそのカケラを探して色々と旅をしているの……もう自分の名前以外覚えていないけどね」
「…記憶喪失、なのか」
「うん、でもそれでもかまわないの。名前と力と使命さえあればほかはいらない」
「それでも羽を休める場所は必要ではありませんか? 小さな旅人さん」
秋子さんの提案に少女は困り顔で首を振った。
「でも、でもまたあんな目に遭うかもしれない…」
「でしたら守ってくださいね。あなたがいれば本当に心強いから」
「まぁ、今度は俺もいるんだし。なんとかなるだろ?」
「そうか…な?」
「信用しなさいっ、それによく言うだろ『旅は道連れ、世は情け』ってな」
「うん………そうだねっ」
そういって少女…みさおは僅かに微笑んだ。
まぁ、これから忙しくなるだろうがまた退屈しない事にはなりそうだ。
「ま、よろしくな。みさお」
「うんっ、よろしくね。おにいちゃんっ!」
そう言って、抱きついてくるみさおを、あわてて受け止めて。
俺達の出会いはここから始まった。
01. 了
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